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氷室

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 ウーノが最新の商品が書き込まれたボードを持ってくる。今までそんな事は一度も無かったがこの自分が担当した人物は気に入らなければすぐにでも品物を見せもせずに帰ってしまいそうなので、少しでも不手際を無くさなければと最早少し脅迫的に思い込んでいた。

 通されたスペースのソファーに座りコウをスペースの出入り口に立たせている。これくらいのことは大きく売買する者達なら当たり前にするのだがなぜかデジレが目で指示しコウがその通りに動くと周りがざわついた。

「マオ」と名前を呼び言葉を続けようとする前にマオが甲高い声で「駄目ですよ!押さえて下さい!」と腕に縋ってきた。
 別に周りの奴らが五月蠅いから殺して来いと言う筈が無いだろうとチラッと目をマオに向けると一生懸命に首を横に振るマオが可愛くて「勘違いをするな」と怒るのをやめた。

 しかし、周りはマオの発した言葉で息を呑んで凍り付く物が続出していた。この人物の正体と運んできた物が何かをいち早く知り自分達の主人に伝えなければならない。
 経験のある商人ほどこのデジレの存在を今後のキーマンと読みなんとかお近づきになれないものかと画策し始めた。……静かに、そーっと、絹連れの音さえたてないように、デジレ達の商談スペースの横に座り息を殺してメモを握り締めて。

 この異様な光景は居たたまれず交易所から抜け出した者達により周りに伝えられ、後々まで語られる事になる。



「此方の商品は織物だ。」

 マオが抱えてきたバッグから見本となる物を取り出して見せる。織物を作ったときにでる端切れをほつれないように処理して本のように纏めた物だ。端切れの後ろにはそれぞれの大きさと用途が書かれた紙が縫いつけられており見やすくなっている。
 この見本も商品を持ってきたどこかの領主が作った物で今までこんな見本を見たことは無かった。
 心にモヤッとしたものがうかぶ。

「これらは一部の物で総て模様が異なる。色使いや形、大きさ総てが一点物だ。」

 デジレの言葉に続き見せられた見本に目を張る。
一冊の本のようになったそれはこれだけでもコレクターの心を掴むだろう。

 ウーノが目を丸くしながら見本を捲る。商人の端くれならばポーカーフェイスで自分の考えを読みとらせる様なまねはしないのだが、ウーノはあまりの驚きでそれができなかった。
 ウーノはこれらが貴族や富豪に人気が出るだろうとわかった。模様の精密さ、繊細な色使い、大胆な模様、凝った房飾り、極彩色豊かな物。一点一点が全く違う物で二度と同じ物は手には入らないとくれば飛びつく商人は山ほどいるだろう。

 何としてでもこの交易所から出さなければいけない。他へ持って行かれればその交易場所が今後は主流となりかねない。しかも確か積み荷の船はキャラック3艘分だとか……。どうしたら全部引き受けさせて貰える?
 デジレはそのウーノの様子を見て、あの領主にまたもや苦い気持ちを覚えた。
 
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