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10話
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金貨を受けとると受付の女性は淡々と業務をこなす。獣人に対する怒りとは別で仕事は仕事と割りきれているらしい。
一通り書類を書き終えると、私に一本の首輪を渡す。その首輪には私のペンダントの五回りくらい大きな認識表が付けられており、そこには私の名前と獣人の名前が書かれていた。
獣人の名前はホォスと言い、狐人でまだ10歳の子供だった。
檻に案内されると、彼女は扉を開け、どうぞと手のひらを檻に向ける。
檻を前にすると今でも足がすくむ。未だにあの檻での生活がトラウマなのだ。
ホォスを抱えあげようとすると突然目を見開き私の手に牙を立てた。
「ツッ!」
「あ、言い忘れましたが、病気の獣人は自己防衛のため狂暴になりますので注意してくださいね」
私の背後から彼女は遅い忠告をする、すでに噛みつかれているのが分かっているだろうに、嫌がらせだろうか?
それとも私が嫌になってホォスの権利を返上するとでも思っているのかもしれない。
噛みつくホォスを見ていると、うちで飼っていたジョンを思い出す。ジョンも虐待されていた家から引き取った時は噛みついてきたのだ。
「ぐるっぅぅぅ!」
最後の力を振り絞って噛みついているのか、その目には絶対に死なないという気持ちが気迫となって伝わってくる。
「大丈夫よ、私はあなたの味方。こんな冷たくて寒い場所じゃなくて暖かい場所に行きましょ?」
私は歯を見せないようにホォスに微笑んだ。
それが正解なのかはわからないけど、敵意がないと言うのだけは分かって欲しかった。
数分の沈黙の後、噛みついている力が弱くなり、ホォスは私の手から牙を離すと二度傷を舐め意識を失った。
最後の力を振り絞って噛みついていたのね。
「スティア、手から血が……」
噛みつかれた場所がくっきりと歯形の傷が出来て、犬歯の傷跡からポタリポタリと血が滴り落ちた。
リリーが魔法で水を作り私の傷を洗うと、自分の服を切り裂き布を私の手に巻いてくれた。
「魔法使えるんだ?」
「簡単なものしか使えないわよ」
「だいじょうぶ~ですか~」
受付の女性がニヤニヤしながら私の負傷した手を覗き込む。
私は彼女の頬を力任せに叩いた。
私の力では吹き飛ばすようなことは出来なかったけど彼女は目をパチクリさせている。
「復讐したいなら、こんなところで嫌がらせなどしてないで今すぐ獣人の国に行きなさい!」
「な、なにも知らないくせに!」
私を睨み付ける彼女の目には涙が溢れる。
「当然じゃない、今日会ったあなたの事情なんて知らないわよ。でも、この子や私があなたの両親を殺したんじゃないことだけは確かだわ」
「それでも、それでもそいつは獣人よ!」
ホォスを指差すその瞳には憎悪が渦巻いている。だけどそんな憎悪はまやかしだ。
それは憎悪じゃなくただの嫌悪感だ。
獣人は全員死ぬべきなのよと彼女は唾を飛ばし捲し立てる。
「そう、なら皆殺しにしなさいよ。こんなところに居ても復讐なんか出来ないわよ」
「そ、そんなこと出来るわけ無いでしょ!」
「だったらあなたのは復讐じゃなくて八つ当たりね、そんなみっともないことはやめなさい」
図星を突かれた彼女は身体を震わせ私から目をそらし「あなたには関係ないでしょ!」と怒鳴るが先程の気迫すらもう無くなっている。
「そうよ関係ないわよ。そんな関係ない私にあなたは嫌がらせしてるのよ」
「……」
「別に復讐心を無くせなんて言わないし言いたくもないわ。でも関係ない人まであなたの憤りに巻き込まないで」
彼女のは復讐じゃない、何も出来ない自分の憤りを他者にぶつけてうさを晴らしているだけだわ。
黙り込む受付の女性を無視して私はホォスを背負うと、リリーと一緒に回収屋ギルドを後にした。
一通り書類を書き終えると、私に一本の首輪を渡す。その首輪には私のペンダントの五回りくらい大きな認識表が付けられており、そこには私の名前と獣人の名前が書かれていた。
獣人の名前はホォスと言い、狐人でまだ10歳の子供だった。
檻に案内されると、彼女は扉を開け、どうぞと手のひらを檻に向ける。
檻を前にすると今でも足がすくむ。未だにあの檻での生活がトラウマなのだ。
ホォスを抱えあげようとすると突然目を見開き私の手に牙を立てた。
「ツッ!」
「あ、言い忘れましたが、病気の獣人は自己防衛のため狂暴になりますので注意してくださいね」
私の背後から彼女は遅い忠告をする、すでに噛みつかれているのが分かっているだろうに、嫌がらせだろうか?
それとも私が嫌になってホォスの権利を返上するとでも思っているのかもしれない。
噛みつくホォスを見ていると、うちで飼っていたジョンを思い出す。ジョンも虐待されていた家から引き取った時は噛みついてきたのだ。
「ぐるっぅぅぅ!」
最後の力を振り絞って噛みついているのか、その目には絶対に死なないという気持ちが気迫となって伝わってくる。
「大丈夫よ、私はあなたの味方。こんな冷たくて寒い場所じゃなくて暖かい場所に行きましょ?」
私は歯を見せないようにホォスに微笑んだ。
それが正解なのかはわからないけど、敵意がないと言うのだけは分かって欲しかった。
数分の沈黙の後、噛みついている力が弱くなり、ホォスは私の手から牙を離すと二度傷を舐め意識を失った。
最後の力を振り絞って噛みついていたのね。
「スティア、手から血が……」
噛みつかれた場所がくっきりと歯形の傷が出来て、犬歯の傷跡からポタリポタリと血が滴り落ちた。
リリーが魔法で水を作り私の傷を洗うと、自分の服を切り裂き布を私の手に巻いてくれた。
「魔法使えるんだ?」
「簡単なものしか使えないわよ」
「だいじょうぶ~ですか~」
受付の女性がニヤニヤしながら私の負傷した手を覗き込む。
私は彼女の頬を力任せに叩いた。
私の力では吹き飛ばすようなことは出来なかったけど彼女は目をパチクリさせている。
「復讐したいなら、こんなところで嫌がらせなどしてないで今すぐ獣人の国に行きなさい!」
「な、なにも知らないくせに!」
私を睨み付ける彼女の目には涙が溢れる。
「当然じゃない、今日会ったあなたの事情なんて知らないわよ。でも、この子や私があなたの両親を殺したんじゃないことだけは確かだわ」
「それでも、それでもそいつは獣人よ!」
ホォスを指差すその瞳には憎悪が渦巻いている。だけどそんな憎悪はまやかしだ。
それは憎悪じゃなくただの嫌悪感だ。
獣人は全員死ぬべきなのよと彼女は唾を飛ばし捲し立てる。
「そう、なら皆殺しにしなさいよ。こんなところに居ても復讐なんか出来ないわよ」
「そ、そんなこと出来るわけ無いでしょ!」
「だったらあなたのは復讐じゃなくて八つ当たりね、そんなみっともないことはやめなさい」
図星を突かれた彼女は身体を震わせ私から目をそらし「あなたには関係ないでしょ!」と怒鳴るが先程の気迫すらもう無くなっている。
「そうよ関係ないわよ。そんな関係ない私にあなたは嫌がらせしてるのよ」
「……」
「別に復讐心を無くせなんて言わないし言いたくもないわ。でも関係ない人まであなたの憤りに巻き込まないで」
彼女のは復讐じゃない、何も出来ない自分の憤りを他者にぶつけてうさを晴らしているだけだわ。
黙り込む受付の女性を無視して私はホォスを背負うと、リリーと一緒に回収屋ギルドを後にした。
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