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真実(ルイード視点)
しおりを挟む「あっ、だけどルイードのお兄さんの王太子さんも一緒にね。」
アイーダは、ニッコリ笑う。
「いや、それは‥先に俺ではダメか?」
兄上にそのまま話が伝われば、どうにも誤魔化しようがない。
アイーダの有利に話を進められなくなる‥
見張りから話は伝わるが、時間を稼ぎ、その間に対応を考える事ができる。
俺にできる事はそのくらいだ。
ジーと俺を見るアイーダ。
俺の考えている事を見通しているように微笑む。
「ダメだよ。王太子さんも一緒じゃないと‥。」
俺が解決できることならするのに。
俺の力の限り、助けるのに。
どうして頼らない?
どうして自分で動こうとする?
揺れていた俺のこと気持ちは、アイーダに会って固まった。
俺はアイーダの味方でいよう。
兄上と対立しようと、アイーダを助ける。
「わかった‥兄上を呼んでくる。」
渋々立ち上がり、兄上に使いを出そうとする。
「いやいや、そんな偉い人呼ぶなんて!私が行く。」
アイーダは首を横にブンブン振る。
「今はまだ、アイーダの方が立場は上だ。体調は戻っていないだろう。待っていろ。」
「えー、大丈夫なのに‥」
その声を無視して兄上を呼び出した。
コンコン
アイーダの部屋のドアがノックされた。
「聖女様、失礼致します。」
ベット上でアイーダは兄上を迎える。
「あっ、こんな格好でごめんなさい。着替えもせず‥王太子さんの所に行くと言ったんですけど‥」
申し訳なさげにアイーダは謝っている。
「ここにいろ。さっき大変な事があったばかりだ。」
兄上が来ればよいと俺の態度はありありと出ていた。
俺が敵に回りうるのを感じ取ったのだろう。
兄上は苦笑いを浮かべた。
「聖女様からお話があると聞いておりますが、何でしょう?」
兄上は冷静だった。
冷たい視線をアイーダに向けている。
実際にアイーダに会って確信したのだろう。
元々のアイーダとは違うと。
「聞きたい事があるのは王太子さんの方ですよね?私が何者なのか。」
微笑みながらアイーダは返答する。
いきなりアイーダの方から切り込んだ。
一瞬止まった兄上はアイーダを見つめて声を出して笑った。
「そういう返しをしますか。本当に前の聖女様とは違う。」
「そうですね。アイーダとは違いますね。」
チラッと俺を見てアイーダは悲しそうな顔をした。
「あなた達の思っている通りだよ、ルイード。私はアイーダじゃない。」
‥‥聞きたくなかった言葉。
アイーダじゃない。
ギュと拳を握りしめる。
ショックを受けている場合では無い。
これからの話次第で状況は更にまずくなる。
話を聞き逃すな。
この状況を切り抜けるにはどうしたらいいか考えろ。
俺の様子を見てアイーダは苦しそうな顔をした。
「ごめんね。騙してて。言えなかったんだ。私は、アイーダと魂で繋がった同一の存在で別世界の人間だよ。」
別世界?
魂で繋がった同一の存在?
アイーダの話は我々の想像の枠を超えていた。
話し終えるとアイーダは
「やっと話せた‥ずっと苦しかったんだ。」
と大きく息を吐いた。
肩の荷がおりたんだろう。
ホッとした顔をした。
「では、身体は聖女様なのですか?」
兄上は早々にアイーダに馴染んだ。
俺は全くアイーダの話について行けていず、頭の中はパニックだ。
「そうですね、さっきの事件があって、なんでか印が濃くなりました。さっきの護衛さん斬られて息止まってたんですけど、ひょっとしたら聖女の力が使えたんですかね?」
アイーダは服を引っ張って印を兄上に見せようとする。
「アイーダ!やめろ。俺が見る!兄上にそんな所見せるな!」
その一言でアイーダと兄上の冷たい視線を感じる。
「ルイードの変態‥何やらしいこと考えているの?」
「はぁ?そんな事考えてない!だが、アイーダの身体を見ていいのは俺だけだろ。」
言えば言うだけドツボにはまる。
二人の視線が更に冷たいものになった。
「大丈夫、そんなに下じゃないから」
ヒラヒラと手を振り、笑いながら胸元を開ける。
左胸の鎖骨の下辺りに聖女の印がくっきりとある。
あぁ、アイーダが聖女なんだ。
間違いない。
兄上もガン見している。
絶対別の事を考えているに違いない。
アイーダが聖女と証明され安心した俺はアイーダが肌を兄上に見せた事に苛立ちを感じていた。
確かに俺が兄上に印があると言ったところで信じないだろう。
だからって‥
兄上だって男だ。
アイーダに欲望を持たないとは限らない。
アイーダには後でちゃんと教えておかないといけない。
胸元を男に見せることはないって事を。
怪しみながら兄上の方を見ていると
「聖女様で間違いなさそうですね。」
兄上が微笑んで胸元から視線を外した。
「そうですね。確かにアイーダの身体です。っかこの体怠けすぎでしょ。歩くだけで疲れるっておかしいでしょう。こっちの世界のお姫様ヤバすぎです。」
「まぁ、宮の奥で過ごされていた聖女様に筋力や体力を求めるのは無理でしょう。」
「それはそうですけど。」
アイーダと兄上は テンポよく話をしている。
俺も入れてくれ。
二人の世界は作らないでくれ。
俺の睨みが二人に通じた。
「ルイードも聞きたいことある?」
アイーダは顔を覗き込んで聞いてきた。
あまりの顔の近さにカァと顔が赤くなるのがわかる。
俺はアイーダが聖女でありさえすればそれで良かった。
聞きたい事?
ウーンとちょっと考えて聞いた。
「なんて呼べばいい?アイーダでは無いのだろう?」
アイーダは目をパチパチさせて、急に笑い出した。
「聞きたいのはそこ?あははっ!嬉しい。ルイードにとってそこ、重要なとこなんだ。」
お腹を抱えて笑う。
そんなにおかしな事聞いたか?
「私は琴美というの。上原琴美、それが元々の私の名前。」
ニッコリ笑う。
「コトミ‥」
つぶやくように俺は繰り返す。
「ありがとう、本当の名前を呼んでくれて。」
コトミは目に涙を浮かべた。
「ごめんね、ルイードの婚約者のアイーダはもう戻ってこられないの。死んじゃったから‥」
コトミは俺を見て泣いたまま頭を下げる。
あぁ、そうか。
アイーダは死んだんだ。
下げているコトミの頭を撫でた。
アイーダの死は悲しい。
聖女の死は国を揺るがす大問題だ。
だが、何よりアイーダに感謝している。
この世界にコトミを連れてきてくれた事を。
俺にコトミという唯一の存在を会わせてくれた事を。
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