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「そんなにかしこまらないで大丈夫よ。」

ミルアージュはアビーナルの妻アイシスに優しく微笑んだ。

お茶会という名の夫の上司から…しかも王族からの突然の呼び出しに緊張するなというのは無理な話だが…

隣でアビーナルはお茶を啜っている。
ミルアージュが助けなさいよと冷たい視線を向ける。

ミルアージュはお茶会をまともにした事がなかったため、令嬢や婦人とどう会話をして良いのかわからず、マリア王女を呼んでいたのが余計にアイシスをガチガチにしていた。

「ミルアージュ様はずっと王族で気づかないかもしれませんが、王族を前にしてこれが通常の反応ですよ。」

命令でむりやり呼び出したミルアージュにアビーナルは容赦がなかった。
夫アビーナルの棘のある言い方に驚いたアイシスは慌てて首を横に振った。

「その様な事はありません。私がこの様な場になれていないだけで…申し訳ありません。」

「謝らなくても大丈夫ですよ。ミルアージュ様はとてもお優しい方ですから。」

フンワリと微笑むマリア王女の雰囲気につられてアイシスの表情は少し緩んだ。

マリア王女を連れてきてよかった。
今まで交渉か対立しかした事がなかったミルアージュは場を和ませる事がどれほど難しいか痛感した。

「急に呼び出してごめんなさいね。アビーナルの奥様と一度会って話をしてみたかったの。」

そうミルアージュが切り出すとアイシスの顔が一気にこわばった。
何がいけなかったのかミルアージュにはわからない。
オロオロしてアビーナルを見るとため息をつきながら声を出した。

「ミルアージュ様、それでは気に入った臣下の本妻に宣戦布告する為に呼び出したように聞こえますよ。」

「えぇ?」
何でそんな風に聞こえるの?
ミルアージュはまだ意味がわかっていない。

「ミルアージュ様は男を手玉に取ると有名ですから。」
アビーナルの表情は変わらない。

「アビーナル様!そんな事は申しておりません。」
アイシスは大きめの声でアビーナルを止めた。

王族に対して不敬すぎる夫の発言に倒れるかと思うくらい顔面蒼白になっていた。

「アイシス夫人、いいのよ。そう言われているのは事実だわ。アビーナル、あなたのいう通りよ。短慮すぎたわ。」

ミルアージュはお茶会一つでアビーナルがこんなに警戒しているとは思わなかった。
確かに気を抜いていられる時期ではない。

「ありがとう。」

ミルアージュの言葉にアビーナルは表情を少し緩めた。

「わかれば良いのです。どこで足を引っ張られるかわかりませんから、どうかお気をつけください。本題に入りましょうか、妻と話したい事があったのでしょう?」

「ええ、今のうちに話しておきたかったの。」
ミルアージュとアビーナルのやり取りを黙って見ていたアイシスをミルアージュは見つめる。

アビーナルとは全く違うタイプ。
嘘が下手で感情が豊か…可愛らしい奥様だわ。

「私は仕事の確認があるので少し離れます。すぐに戻ります。」
アビーナルが席を立った。
自分がいてはミルアージュのしたい話はできないのがわかっているのだろう。

アビーナルが立ち去ったのを確認してミルアージュは苦笑いした。

「本当に読まれてるわね。」
そんなミルアージュの様子をアイシスはジッと見つめている。
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