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「ムランドは私と似ているからかしら。」
ミルアージュは少し考えてから答えた。
「ムランドがミルアージュ様と似ていますか?剣の強さがですか?」
マリア王女は首を傾げた。
そう、外見も性格も似ていない。
何が似ているのか…
「ムランドはきっと人の最期の顔を忘れられない。敵味方は関係なく。」
「……」
「必ず守りますと言って笑った者達、死ぬ前に家族に会いたかったという者達…」
ミルアージュは自分の両手を広げて見つめた。
「人を殺める感触…多くの人を私が実際に手をかけた。強いからこそ、多くの者を殺めてしまう。そして、指示を出し死なせた数も入れると数万もの人の命に関わっているわ。それを忘れられないの。」
今だって夢に見る。
死なせたくなかった。だが、みんな死んでしまった…
「敵味方に関係なく、死んだ者には家族や仲間がいる。悲しみが憎しみに変わった時どんどんと死者は増えていく。その根本に自分がいるのよ。」
ミルアージュはマリア王女の護衛についていたムランドを見た。
「あなたはそうまでして手に入れても幸せになれるとは思わないわ。」
そんなタイプの人間じゃない。
誰も口を開かず、沈黙が続く。
「お茶会が白けたわね。マリア王女、アイシス夫人ごめんなさいね。こんな場でする話ではなかったわ。」
ミルアージュはその場を仕切りなおそうとして笑った。
「ミルアージュ様は幸せではないのですか?」
マリア王女は聞いた。
マリア王女はミルアージュとクリストファーの結婚に夢を見ていた。
好きな人と結ばれて幸せになりたいと。
ミルアージュは笑ってマリア王女を見るのみだった。
幸せだとも不幸せだとも言わず…
「どうしてミルアージュ様が自分を追い込むのか、今の話を聞いてわかりました。」
アビーナルが戻ってきていた。
「アビーナル、もう少しゆっくりしてきてよかったのに。」
ミルアージュは余計な事は言うなとアビーナルを睨む。
そんなミルアージュを無視してアビーナルは話を続けた。
「補佐をしていて初めて知りましたが、ミルアージュ様の案はアンロック独自のもの、文献などもないのにあなたは詳細を知っていました。アンロックで医療、教育、公共工事、農業…全てに絡んでいたのですよね?」
「アビーナル…今その話はいいわ。」
ミルアージュが遮るが、アビーナルは話を止めるつもりはなかった。
ミルアージュの仕事の仕方がどうしても気になっていたのだ。
命を削ってまで尽くそうとするやり方が…
「いくらあなたが優秀でも簡単にはできなかったはずです。試行錯誤や失敗も多かったでしょう?自分の時間どころか寝食の時間も削ってまですすめたのでしょう?どうしてそこまでできるのか不思議だったのです。」
アビーナルはアンロックのミルアージュを想像した。
それが全て贖罪のためなら…自分を許せていないのなら…
「あなたにとっては国の民だけではない、敵国の民の命も大切だった。アンロックを豊かにし、民の幸せを望むだけではなく、大国となれば戦争がなくなる。敵兵が死ぬのも防げますよね?時間がなかったのですね。」
「……」
ミルアージュは返答しなかった。
肯定とアビーナルはとった。
「そもそもアンロックが関係して何万もの死者を出した争いはあなたが十代くらいまでのはずです。指揮をして責任を感じる立場にあった…未成人であるあなたが全軍を指揮していたのですね。」
「アビーナル、記憶力が良すぎるわよ。」
ミルアージュは顔を歪めた。
アンロックの秘密をこうも簡単に推測されるなんて。自分も迂闊な発言をしたが、ここまで結び付けられるとは思っていなかった。
「これからも罪を償うつもりですか?あなたが悪いわけではないのに。」
クリストファーがミルアージュに過保護になるのがわかる。
自分という存在を認められず、他者のためだけに生きているのだ。
「皆そういうわ。私も頭ではわかっているのよ。だけど…」
青ざめたムランドとマリア王女を見る。
二人にとって思っていたより重い話だったのだろう。
「感情は別物なの。皆を幸せにする…そう思わなければ、息をすることもできない。自分のことに必死なのにクリスにまで構えない。私なんか妃にしなければクリスはもっと幸せになったわ…」
ミルアージュは自虐的に笑った。
ハァとアビーナルはため息をついた。
「クリストファー様は全て知った上でミルアージュ様を望んでいます。他の妃をすすめるなど以ての外です。」
アビーナルは、ミルアージュに妃をすすめられたクリストファーの様子を思い出していた。
本当に怖かった。
視界にいれるのも嫌なほど…皆も怯えまくっていたが、その原因がミルアージュ様の一言にあるなど誰も思わなかった。
国の一大事と思わせるくらいの迫力があったのだから。
「その後のクリストファー様の機嫌が悪くてどれだけ周りが迷惑したか。素直に愛されてご自身の幸せを考えればいいのです。そうすればクリストファー様は勝手に幸せになりますから。」
ミルアージュもクリストファーの様子が想像できた。
ミルアージュの事で他国であるアンロックに怒鳴り込めるのだから、自国で遠慮などないだろう。
「善処します…」
どれだけ迷惑をかけたのかを知り、ミルアージュも素直に頭を下げた。
ミルアージュは少し考えてから答えた。
「ムランドがミルアージュ様と似ていますか?剣の強さがですか?」
マリア王女は首を傾げた。
そう、外見も性格も似ていない。
何が似ているのか…
「ムランドはきっと人の最期の顔を忘れられない。敵味方は関係なく。」
「……」
「必ず守りますと言って笑った者達、死ぬ前に家族に会いたかったという者達…」
ミルアージュは自分の両手を広げて見つめた。
「人を殺める感触…多くの人を私が実際に手をかけた。強いからこそ、多くの者を殺めてしまう。そして、指示を出し死なせた数も入れると数万もの人の命に関わっているわ。それを忘れられないの。」
今だって夢に見る。
死なせたくなかった。だが、みんな死んでしまった…
「敵味方に関係なく、死んだ者には家族や仲間がいる。悲しみが憎しみに変わった時どんどんと死者は増えていく。その根本に自分がいるのよ。」
ミルアージュはマリア王女の護衛についていたムランドを見た。
「あなたはそうまでして手に入れても幸せになれるとは思わないわ。」
そんなタイプの人間じゃない。
誰も口を開かず、沈黙が続く。
「お茶会が白けたわね。マリア王女、アイシス夫人ごめんなさいね。こんな場でする話ではなかったわ。」
ミルアージュはその場を仕切りなおそうとして笑った。
「ミルアージュ様は幸せではないのですか?」
マリア王女は聞いた。
マリア王女はミルアージュとクリストファーの結婚に夢を見ていた。
好きな人と結ばれて幸せになりたいと。
ミルアージュは笑ってマリア王女を見るのみだった。
幸せだとも不幸せだとも言わず…
「どうしてミルアージュ様が自分を追い込むのか、今の話を聞いてわかりました。」
アビーナルが戻ってきていた。
「アビーナル、もう少しゆっくりしてきてよかったのに。」
ミルアージュは余計な事は言うなとアビーナルを睨む。
そんなミルアージュを無視してアビーナルは話を続けた。
「補佐をしていて初めて知りましたが、ミルアージュ様の案はアンロック独自のもの、文献などもないのにあなたは詳細を知っていました。アンロックで医療、教育、公共工事、農業…全てに絡んでいたのですよね?」
「アビーナル…今その話はいいわ。」
ミルアージュが遮るが、アビーナルは話を止めるつもりはなかった。
ミルアージュの仕事の仕方がどうしても気になっていたのだ。
命を削ってまで尽くそうとするやり方が…
「いくらあなたが優秀でも簡単にはできなかったはずです。試行錯誤や失敗も多かったでしょう?自分の時間どころか寝食の時間も削ってまですすめたのでしょう?どうしてそこまでできるのか不思議だったのです。」
アビーナルはアンロックのミルアージュを想像した。
それが全て贖罪のためなら…自分を許せていないのなら…
「あなたにとっては国の民だけではない、敵国の民の命も大切だった。アンロックを豊かにし、民の幸せを望むだけではなく、大国となれば戦争がなくなる。敵兵が死ぬのも防げますよね?時間がなかったのですね。」
「……」
ミルアージュは返答しなかった。
肯定とアビーナルはとった。
「そもそもアンロックが関係して何万もの死者を出した争いはあなたが十代くらいまでのはずです。指揮をして責任を感じる立場にあった…未成人であるあなたが全軍を指揮していたのですね。」
「アビーナル、記憶力が良すぎるわよ。」
ミルアージュは顔を歪めた。
アンロックの秘密をこうも簡単に推測されるなんて。自分も迂闊な発言をしたが、ここまで結び付けられるとは思っていなかった。
「これからも罪を償うつもりですか?あなたが悪いわけではないのに。」
クリストファーがミルアージュに過保護になるのがわかる。
自分という存在を認められず、他者のためだけに生きているのだ。
「皆そういうわ。私も頭ではわかっているのよ。だけど…」
青ざめたムランドとマリア王女を見る。
二人にとって思っていたより重い話だったのだろう。
「感情は別物なの。皆を幸せにする…そう思わなければ、息をすることもできない。自分のことに必死なのにクリスにまで構えない。私なんか妃にしなければクリスはもっと幸せになったわ…」
ミルアージュは自虐的に笑った。
ハァとアビーナルはため息をついた。
「クリストファー様は全て知った上でミルアージュ様を望んでいます。他の妃をすすめるなど以ての外です。」
アビーナルは、ミルアージュに妃をすすめられたクリストファーの様子を思い出していた。
本当に怖かった。
視界にいれるのも嫌なほど…皆も怯えまくっていたが、その原因がミルアージュ様の一言にあるなど誰も思わなかった。
国の一大事と思わせるくらいの迫力があったのだから。
「その後のクリストファー様の機嫌が悪くてどれだけ周りが迷惑したか。素直に愛されてご自身の幸せを考えればいいのです。そうすればクリストファー様は勝手に幸せになりますから。」
ミルアージュもクリストファーの様子が想像できた。
ミルアージュの事で他国であるアンロックに怒鳴り込めるのだから、自国で遠慮などないだろう。
「善処します…」
どれだけ迷惑をかけたのかを知り、ミルアージュも素直に頭を下げた。
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