わがまま妃はもう止まらない

みやちゃん

文字の大きさ
125 / 252

125

しおりを挟む
「領主様が王都から戻ってくるらしい。」
そんな話が街中で広がった。

領地がどんな状態になろうとも税だけはしっかり持っていき、今まで領地に来ることもなかった領主が今更戻ってきて何をするつもりなのか…

皆の不安はそこにあった。

やっとこの街で生活していける目処が立ったのに…

「ミア!これからどうする?領主が戻って来れば、また以前の状態に戻るぞ。」
ダミアンはミアのところに慌ててやってきた。

せっかく生活するの基盤ができ始めていたのに、領主によって奪われてしまう。

「ダミアン、落ち着いて。領主が来るだけなら問題はないわ。税率は領主が決めると言っても国で決められている範囲内までしか上げられないから。」

ミルアージュはダミアンをなだめるが、内心は穏やかではなかった。

「領主が来る事よりもどうして来ることになったのかが気になるわ…」
ミルアージュはアビーナルに視線を向ける。

アビーナルは顔を横に振る。
自分は何も知らないというように。

領主が欲をかき、豊かになってきた領地視察なら問題はないけど…

この地に私がいることはもうバレている。
アビーナルが知らないのならこの件にクリスは絡んでないの?
それならばキュラミールの差し金?

領主をこの地に呼び寄せて何がしたい黒幕がいる。

ミルアージュの関心はその一点だった。

「アビーナル、お願いがあるの?」

「私にですか?」

「違うわ、アルトが近くに来てるのでしょう?それともクリスの方が近いかしら?その二人のうちのどちらかに依頼して。」

アビーナルは思いっきり嫌な顔をした。
「アルトはいるでしょうが、クリス様は王都にいます。そんな引っ掛けに乗るほど落ちぶれていません。」

アビーナルはダミアンの手前クリストファーとは呼ばなかった。

「連絡取り合っているのでしょう?さっさと白状しなさい。」
ミルアージュは確信しているようにフフッと笑った。

「…私の立場でそんな事できると思いますか?」
アビーナルはミルアージュに真顔でいうとミルアージュはわざとらしくため息をついた。

「あら、あなたはクリスではなくて私の味方じゃなかった?」

王からは王太子ではなくミルアージュに従えと言われている。
だが…それは有事の際だ。

「今は有事ではありません。」

「有事になりそうよね?」
ミルアージュはアビーナルを睨みつける。
アビーナルはゴクリと唾を飲んだ。

ミルアージュ様に嘘はつきたくない。
そう思いながらもクリストファーの殺気を思い出しブルっと震えた。

ミルアージュが王城を離れてからクリストファーが変わったのを一番近くで見ていたのはアビーナルだった。

それまでの穏やかさは全くなくなり、生き急ぐように政務に打ち込む姿を忘れられない。
常に殺気にまみれながら政務をしており、誰も近づけなかったのだから。

ミルアージュがクリストファーの政務を回す為に必要な人物だと王城の者たちが気づくのにそれほど時間はかからなかった。

賢帝の器と言われながらも自由奔放で逆らう者には容赦がなかったクリストファー。

クリストファーはミルアージュがルーマンに来てから、物事に大人しく理性的に対処していた。

王城の者たちはホッとしていたが、クリストファーが大人になった訳でも王太子の自覚が生まれた訳でもない。

ミルアージュの存在がクリストファーをそうしていたのだとやっと気づいた。

ミルアージュが王城に戻ってもらいたいのはアビーナルやアルトだけではない。
ミルアージュを悪く思っていた王城勤めの者ですらミルアージュの帰還を待ち望んだ。

「じゃあ、クリスの居場所を教えて。私が直接行くわ。」

「クリス様は王都にいます。近くにはいません。」
アビーナルは繰り返した。

「あのクリスが王都で大人しくしているわけないでしょう。」
ミルアージュが呆れ気味に言う。

あんな手紙一枚で大人しく待てるなら何度もアンロックに不法侵入などしていない。
今クリストファーがここに来てしまったら全てが水の泡になってしまう。
だからこそ、ミルアージュはクリストファーに来るなと伝えていただけだ。

まぁ、クリストファーがミルアージュと離れても国を治めていけるか見ていたのも事実。

クリストファーがミルアージュがいなくても国を治めているのなら安心してクリストファーの胸の中に飛び込めるから。

クリストファーは昔から変わらない。
本来なら王都で政務をするのが正解だが、言い訳を用意して近くにいる。

ミルアージュはそう確信していた。
私が追求できないような言い訳を考えているはず。昔からそうだった。

それが領主の来訪と何か関係がある?

ミルアージュとアビーナルの無言の攻防を打ち破ったのはダミアンだった。

「そのアルトやクリスってやつは何者だ?」
ダミアンがミルアージュに聞く。

「クリスは私の夫よ。アルトは元いたところの仲間ね。」

「ミアは既婚だったのか?」
ダミアンは目を見開き、ミルアージュを見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

嘘はあなたから教わりました

菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

処理中です...