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「領主様が王都から戻ってくるらしい。」
そんな話が街中で広がった。
領地がどんな状態になろうとも税だけはしっかり持っていき、今まで領地に来ることもなかった領主が今更戻ってきて何をするつもりなのか…
皆の不安はそこにあった。
やっとこの街で生活していける目処が立ったのに…
「ミア!これからどうする?領主が戻って来れば、また以前の状態に戻るぞ。」
ダミアンはミアのところに慌ててやってきた。
せっかく生活するの基盤ができ始めていたのに、領主によって奪われてしまう。
「ダミアン、落ち着いて。領主が来るだけなら問題はないわ。税率は領主が決めると言っても国で決められている範囲内までしか上げられないから。」
ミルアージュはダミアンをなだめるが、内心は穏やかではなかった。
「領主が来る事よりもどうして来ることになったのかが気になるわ…」
ミルアージュはアビーナルに視線を向ける。
アビーナルは顔を横に振る。
自分は何も知らないというように。
領主が欲をかき、豊かになってきた領地視察なら問題はないけど…
この地に私がいることはもうバレている。
アビーナルが知らないのならこの件にクリスは絡んでないの?
それならばキュラミールの差し金?
領主をこの地に呼び寄せて何がしたい黒幕がいる。
ミルアージュの関心はその一点だった。
「アビーナル、お願いがあるの?」
「私にですか?」
「違うわ、アルトが近くに来てるのでしょう?それともクリスの方が近いかしら?その二人のうちのどちらかに依頼して。」
アビーナルは思いっきり嫌な顔をした。
「アルトはいるでしょうが、クリス様は王都にいます。そんな引っ掛けに乗るほど落ちぶれていません。」
アビーナルはダミアンの手前クリストファーとは呼ばなかった。
「連絡取り合っているのでしょう?さっさと白状しなさい。」
ミルアージュは確信しているようにフフッと笑った。
「…私の立場でそんな事できると思いますか?」
アビーナルはミルアージュに真顔でいうとミルアージュはわざとらしくため息をついた。
「あら、あなたはクリスではなくて私の味方じゃなかった?」
王からは王太子ではなくミルアージュに従えと言われている。
だが…それは有事の際だ。
「今は有事ではありません。」
「有事になりそうよね?」
ミルアージュはアビーナルを睨みつける。
アビーナルはゴクリと唾を飲んだ。
ミルアージュ様に嘘はつきたくない。
そう思いながらもクリストファーの殺気を思い出しブルっと震えた。
ミルアージュが王城を離れてからクリストファーが変わったのを一番近くで見ていたのはアビーナルだった。
それまでの穏やかさは全くなくなり、生き急ぐように政務に打ち込む姿を忘れられない。
常に殺気にまみれながら政務をしており、誰も近づけなかったのだから。
ミルアージュがクリストファーの政務を回す為に必要な人物だと王城の者たちが気づくのにそれほど時間はかからなかった。
賢帝の器と言われながらも自由奔放で逆らう者には容赦がなかったクリストファー。
クリストファーはミルアージュがルーマンに来てから、物事に大人しく理性的に対処していた。
王城の者たちはホッとしていたが、クリストファーが大人になった訳でも王太子の自覚が生まれた訳でもない。
ミルアージュの存在がクリストファーをそうしていたのだとやっと気づいた。
ミルアージュが王城に戻ってもらいたいのはアビーナルやアルトだけではない。
ミルアージュを悪く思っていた王城勤めの者ですらミルアージュの帰還を待ち望んだ。
「じゃあ、クリスの居場所を教えて。私が直接行くわ。」
「クリス様は王都にいます。近くにはいません。」
アビーナルは繰り返した。
「あのクリスが王都で大人しくしているわけないでしょう。」
ミルアージュが呆れ気味に言う。
あんな手紙一枚で大人しく待てるなら何度もアンロックに不法侵入などしていない。
今クリストファーがここに来てしまったら全てが水の泡になってしまう。
だからこそ、ミルアージュはクリストファーに来るなと伝えていただけだ。
まぁ、クリストファーがミルアージュと離れても国を治めていけるか見ていたのも事実。
クリストファーがミルアージュがいなくても国を治めているのなら安心してクリストファーの胸の中に飛び込めるから。
クリストファーは昔から変わらない。
本来なら王都で政務をするのが正解だが、言い訳を用意して近くにいる。
ミルアージュはそう確信していた。
私が追求できないような言い訳を考えているはず。昔からそうだった。
それが領主の来訪と何か関係がある?
ミルアージュとアビーナルの無言の攻防を打ち破ったのはダミアンだった。
「そのアルトやクリスってやつは何者だ?」
ダミアンがミルアージュに聞く。
「クリスは私の夫よ。アルトは元いたところの仲間ね。」
「ミアは既婚だったのか?」
ダミアンは目を見開き、ミルアージュを見つめた。
そんな話が街中で広がった。
領地がどんな状態になろうとも税だけはしっかり持っていき、今まで領地に来ることもなかった領主が今更戻ってきて何をするつもりなのか…
皆の不安はそこにあった。
やっとこの街で生活していける目処が立ったのに…
「ミア!これからどうする?領主が戻って来れば、また以前の状態に戻るぞ。」
ダミアンはミアのところに慌ててやってきた。
せっかく生活するの基盤ができ始めていたのに、領主によって奪われてしまう。
「ダミアン、落ち着いて。領主が来るだけなら問題はないわ。税率は領主が決めると言っても国で決められている範囲内までしか上げられないから。」
ミルアージュはダミアンをなだめるが、内心は穏やかではなかった。
「領主が来る事よりもどうして来ることになったのかが気になるわ…」
ミルアージュはアビーナルに視線を向ける。
アビーナルは顔を横に振る。
自分は何も知らないというように。
領主が欲をかき、豊かになってきた領地視察なら問題はないけど…
この地に私がいることはもうバレている。
アビーナルが知らないのならこの件にクリスは絡んでないの?
それならばキュラミールの差し金?
領主をこの地に呼び寄せて何がしたい黒幕がいる。
ミルアージュの関心はその一点だった。
「アビーナル、お願いがあるの?」
「私にですか?」
「違うわ、アルトが近くに来てるのでしょう?それともクリスの方が近いかしら?その二人のうちのどちらかに依頼して。」
アビーナルは思いっきり嫌な顔をした。
「アルトはいるでしょうが、クリス様は王都にいます。そんな引っ掛けに乗るほど落ちぶれていません。」
アビーナルはダミアンの手前クリストファーとは呼ばなかった。
「連絡取り合っているのでしょう?さっさと白状しなさい。」
ミルアージュは確信しているようにフフッと笑った。
「…私の立場でそんな事できると思いますか?」
アビーナルはミルアージュに真顔でいうとミルアージュはわざとらしくため息をついた。
「あら、あなたはクリスではなくて私の味方じゃなかった?」
王からは王太子ではなくミルアージュに従えと言われている。
だが…それは有事の際だ。
「今は有事ではありません。」
「有事になりそうよね?」
ミルアージュはアビーナルを睨みつける。
アビーナルはゴクリと唾を飲んだ。
ミルアージュ様に嘘はつきたくない。
そう思いながらもクリストファーの殺気を思い出しブルっと震えた。
ミルアージュが王城を離れてからクリストファーが変わったのを一番近くで見ていたのはアビーナルだった。
それまでの穏やかさは全くなくなり、生き急ぐように政務に打ち込む姿を忘れられない。
常に殺気にまみれながら政務をしており、誰も近づけなかったのだから。
ミルアージュがクリストファーの政務を回す為に必要な人物だと王城の者たちが気づくのにそれほど時間はかからなかった。
賢帝の器と言われながらも自由奔放で逆らう者には容赦がなかったクリストファー。
クリストファーはミルアージュがルーマンに来てから、物事に大人しく理性的に対処していた。
王城の者たちはホッとしていたが、クリストファーが大人になった訳でも王太子の自覚が生まれた訳でもない。
ミルアージュの存在がクリストファーをそうしていたのだとやっと気づいた。
ミルアージュが王城に戻ってもらいたいのはアビーナルやアルトだけではない。
ミルアージュを悪く思っていた王城勤めの者ですらミルアージュの帰還を待ち望んだ。
「じゃあ、クリスの居場所を教えて。私が直接行くわ。」
「クリス様は王都にいます。近くにはいません。」
アビーナルは繰り返した。
「あのクリスが王都で大人しくしているわけないでしょう。」
ミルアージュが呆れ気味に言う。
あんな手紙一枚で大人しく待てるなら何度もアンロックに不法侵入などしていない。
今クリストファーがここに来てしまったら全てが水の泡になってしまう。
だからこそ、ミルアージュはクリストファーに来るなと伝えていただけだ。
まぁ、クリストファーがミルアージュと離れても国を治めていけるか見ていたのも事実。
クリストファーがミルアージュがいなくても国を治めているのなら安心してクリストファーの胸の中に飛び込めるから。
クリストファーは昔から変わらない。
本来なら王都で政務をするのが正解だが、言い訳を用意して近くにいる。
ミルアージュはそう確信していた。
私が追求できないような言い訳を考えているはず。昔からそうだった。
それが領主の来訪と何か関係がある?
ミルアージュとアビーナルの無言の攻防を打ち破ったのはダミアンだった。
「そのアルトやクリスってやつは何者だ?」
ダミアンがミルアージュに聞く。
「クリスは私の夫よ。アルトは元いたところの仲間ね。」
「ミアは既婚だったのか?」
ダミアンは目を見開き、ミルアージュを見つめた。
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