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コンコン
クリストファーはミルアージュの部屋をノックした。
「私だ。入ってもいいか?」
しばらく沈黙が続いたのちにミルアージュから「どうぞ。」と返答があった。
ミルアージュが部屋に戻っていた事にクリストファーは安堵した。
また姿を消してしまうかもしれないと一抹の不安があったのだ。
「ミア、大丈夫か?」
クリストファーはそういいながらも無意味な質問をしてしまったと思った。
クリストファーの方を見たミルアージュは微笑みを浮かべているが、視線が全く合わなかった。
感情を表に出す事があまりないミルアージュが明らかに落ち込んでいる。
「大丈夫よ。思ってもみない提案だったから驚いただけ。」
クリストファーはミルアージュに大丈夫と言わせてしまった自分の馬鹿さ加減に腹が立った。
「すまない。そんな事を言わせるために声をかけた訳じゃなかった。ミアは無理しなくてもいい。」
クリストファーは椅子に座っているミルアージュに近づきギュッと抱きしめた。
「無理なんてしていないわ。提案自体、思い浮かばなかっただけで3カ国の為には良いと思うわ…でも…」
「気持ちがついてこないのか?」
「そうね…そうかもしれない。民より自分の私情を優先するなんて王族、失格ね。」
ミルアージュが悲しそうに笑ったの見てクリストファーは抱きしめる手を強めた。
「そんなのは当たり前だ。ミアはレンラグスのせいで色んなものを失い過ぎたんだから。」
「でもブランにレンドランドと話すように言ったのは私だわ。それなのに…いざとなったら私が受け入れられないなんて…」
ミルアージュは自分さえ同意すればと思っているのに頷けない自分が情けなくて仕方がなかった。
「あなたに国の事を考えろなんて偉そうな事言えないわね。」
「私はミアに怒られるのも好きだから気にするな。だが、ミアは無理して受け入れる必要なんてない。ミアはブランに一番良いと思われる道を示しただけで、3カ国同盟はレンドランド王の勝手な提案だ。」
「そんな事ない!私では思いつかないような大胆な提案だけど、最善の答えだわ。」
「最善というなら他にも選択肢はあるだろう。ミアが傷ついてまでそれを無理に選ぶ必要はない。」
「…」
ミルアージュはクリストファーに言葉を返す事ができなかった。
しばらく間がありクリストファーが口を開いた。
「ミア、一緒に国を出るか?二人で静かに暮らすというのも悪くない。」
思いもしないクリストファーの言葉にミルアージュの声は大きくなった。
「何を言っているの!そんな事できる訳ないじゃない!」
「やっとこっちを見た。」
クリストファーは優しい視線をミルアージュに向ける。
「今のままルーマンを置いておけないからアンロックの属国にして弟に継いでもらうっていうのもありだな。」
うんうんとクリストファーは頷いている。
「何をそんな簡単に…」
「簡単じゃない。だが、ミアがなんと言おうと私はミアが一番大切だ。ミアが笑う横に私がいる。それが私の幸せだから。」
「クリス…」
プッとミルアージュは吹き出した。
「今までは幸せにできてるかって聞いてたのに…自分の幸せを出してくるなんて。」
「そりゃその方がミアは真剣に考えてくれそうだろう。ミアは私を幸せにしたいだろう?」
冗談っぽくクリストファーは言った。
「今のは私からの一つの提案だ。ミアがやりたい事はやったらいいし、やりたくない事はやらなくてもいい。この件に関してミアにはその権利がある。王族云々はその後の話だ。」
「…ありがとう。あなたの冗談で少し気持ちが落ち着いてきたわ。」
ミルアージュは微笑んだ。
ミアの気持ちが穏やかになるならそれが一番いい…
クリストファーはそう自分に言い聞かせた。
提案自体は本気だった。
絶対にそうならないのはわかっている。
だが、ミアの為だけじゃない。
ミアと二人でたわいもない話をして一日を終える。
そんな夢を見てもいいじゃないか。
クリストファーは小さくため息をついた。
クリストファーはミルアージュの部屋をノックした。
「私だ。入ってもいいか?」
しばらく沈黙が続いたのちにミルアージュから「どうぞ。」と返答があった。
ミルアージュが部屋に戻っていた事にクリストファーは安堵した。
また姿を消してしまうかもしれないと一抹の不安があったのだ。
「ミア、大丈夫か?」
クリストファーはそういいながらも無意味な質問をしてしまったと思った。
クリストファーの方を見たミルアージュは微笑みを浮かべているが、視線が全く合わなかった。
感情を表に出す事があまりないミルアージュが明らかに落ち込んでいる。
「大丈夫よ。思ってもみない提案だったから驚いただけ。」
クリストファーはミルアージュに大丈夫と言わせてしまった自分の馬鹿さ加減に腹が立った。
「すまない。そんな事を言わせるために声をかけた訳じゃなかった。ミアは無理しなくてもいい。」
クリストファーは椅子に座っているミルアージュに近づきギュッと抱きしめた。
「無理なんてしていないわ。提案自体、思い浮かばなかっただけで3カ国の為には良いと思うわ…でも…」
「気持ちがついてこないのか?」
「そうね…そうかもしれない。民より自分の私情を優先するなんて王族、失格ね。」
ミルアージュが悲しそうに笑ったの見てクリストファーは抱きしめる手を強めた。
「そんなのは当たり前だ。ミアはレンラグスのせいで色んなものを失い過ぎたんだから。」
「でもブランにレンドランドと話すように言ったのは私だわ。それなのに…いざとなったら私が受け入れられないなんて…」
ミルアージュは自分さえ同意すればと思っているのに頷けない自分が情けなくて仕方がなかった。
「あなたに国の事を考えろなんて偉そうな事言えないわね。」
「私はミアに怒られるのも好きだから気にするな。だが、ミアは無理して受け入れる必要なんてない。ミアはブランに一番良いと思われる道を示しただけで、3カ国同盟はレンドランド王の勝手な提案だ。」
「そんな事ない!私では思いつかないような大胆な提案だけど、最善の答えだわ。」
「最善というなら他にも選択肢はあるだろう。ミアが傷ついてまでそれを無理に選ぶ必要はない。」
「…」
ミルアージュはクリストファーに言葉を返す事ができなかった。
しばらく間がありクリストファーが口を開いた。
「ミア、一緒に国を出るか?二人で静かに暮らすというのも悪くない。」
思いもしないクリストファーの言葉にミルアージュの声は大きくなった。
「何を言っているの!そんな事できる訳ないじゃない!」
「やっとこっちを見た。」
クリストファーは優しい視線をミルアージュに向ける。
「今のままルーマンを置いておけないからアンロックの属国にして弟に継いでもらうっていうのもありだな。」
うんうんとクリストファーは頷いている。
「何をそんな簡単に…」
「簡単じゃない。だが、ミアがなんと言おうと私はミアが一番大切だ。ミアが笑う横に私がいる。それが私の幸せだから。」
「クリス…」
プッとミルアージュは吹き出した。
「今までは幸せにできてるかって聞いてたのに…自分の幸せを出してくるなんて。」
「そりゃその方がミアは真剣に考えてくれそうだろう。ミアは私を幸せにしたいだろう?」
冗談っぽくクリストファーは言った。
「今のは私からの一つの提案だ。ミアがやりたい事はやったらいいし、やりたくない事はやらなくてもいい。この件に関してミアにはその権利がある。王族云々はその後の話だ。」
「…ありがとう。あなたの冗談で少し気持ちが落ち着いてきたわ。」
ミルアージュは微笑んだ。
ミアの気持ちが穏やかになるならそれが一番いい…
クリストファーはそう自分に言い聞かせた。
提案自体は本気だった。
絶対にそうならないのはわかっている。
だが、ミアの為だけじゃない。
ミアと二人でたわいもない話をして一日を終える。
そんな夢を見てもいいじゃないか。
クリストファーは小さくため息をついた。
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