183 / 252
183
しおりを挟む
「本当にいいのかしら」
ミルアージュは新婚旅行へ向かう馬車の中でポツリと独り言を呟いた。
「当たり前だ。ミアはどれだけ父上にこき使われてたと思っているんだ?当然の権利だ。」
クリストファーは呆れ顔で言う。
小さくつぶやいのにも関わらず、クリストファーは聞き逃さない。
クリストファーの上機嫌さの横でミルアージュはずっと不安だった。
新婚旅行に行っている場合ではないのでは?
そう思ってしまうのは仕方がない。
今までミルアージュはプライベートで旅行など行った事がなかったのだから。
遠出するのは視察か領主の冠婚葬祭など公務のみ。
だから、新婚旅行と名のつく旅に罪悪感を感じていた。
「ミア、これはルーマン国王の命令だ。そんなつまらない事ばかり考えるな。ほら、外を見てみろ。」
クリストファーはとびっきりの笑顔を見せて外を指す。
馬車の窓から晴天の中、一面に紅色の花畑が広がっている。
「ここはルーマンでも有名な観光地なんだ。どこまでも広がる青い空、一面の紅い花、死ぬまでに一度は見たいと言われている。綺麗だな。」
クリストファーは目を細めて楽しそうに話す。
「そうね、この花は染物にも使えるわ。特産のネーラン織が有名ね。収益にも大きいし、観光と特産と両方兼ねるなんていい案だわ。」
それまで楽しそうに話していたクリストファーが呆れるようにルアージュを見つめている。
「ん?」
何でそんな目で見るの?
ミルアージュはそんなクリストファーを見て首を傾げた。
「ミア、ここは執務室じゃない。私はミアと一緒にこの景色を楽しみたいんだ。そんな収益とかの話はやめよう。」
クリストファーにそう言われてミルアージュは初めて気づいた。
ミルアージュは花を見ても綺麗と思う事がない。
花や宝石を見てもどうしたら人の生活に役立てる事ができるのか…
そればかり考えて生きてきた。
花を見て楽しむ?
どうやって?
ミルアージュの眉間に皺がよった。
その様子をクリストファーも見逃さない。
慌ててミルアージュに声をかける。
「私が悪かった。ミア、難しく考えなくていい。2人で過ごすこの時間に意味があるんだから。」
ミルアージュの正面に座っていたクリストファーはミルアージュの横に移動し手を握った。
「クリス、私ね。何かを見て美しいとか楽しいって思う事ができないのかもしれない。」
「うん。それならこれから私と探さないか?ミアが美しいって思ったり、楽しいと笑える事をな。」
クリストファーはミルアージュの手を握った手を引っ張って抱きしめた。
「クリスはそれでいいの?」
「ああ、私はミアがそばにいたら何でも嬉しいし、楽しいからな。何より…」
ミアを幸せにするというのが私の一番の夢だから。
クリストファーはミアの頬を撫でた。
ミアとの間には壁があった。
ミアが育ってきた環境を見れば、そうなっても不思議はない。
だが、最近のミアは少しずつだが、私との間の壁が薄くなっている気がする。
本音を話してくれるし、甘えてくれる。
それがどれほど嬉しいものだなんてミアにはわからないだろう。
いつか私と一緒でよかった、幸せだと言わせたい。
いや、その希望はきっと叶う。
クリストファーはミルアージュの変化に浮かれていた。
だから、油断していたのだ。
2人の間にはまだ分厚い壁がある事をクリストファーはまだ知らなかった。
ミルアージュは新婚旅行へ向かう馬車の中でポツリと独り言を呟いた。
「当たり前だ。ミアはどれだけ父上にこき使われてたと思っているんだ?当然の権利だ。」
クリストファーは呆れ顔で言う。
小さくつぶやいのにも関わらず、クリストファーは聞き逃さない。
クリストファーの上機嫌さの横でミルアージュはずっと不安だった。
新婚旅行に行っている場合ではないのでは?
そう思ってしまうのは仕方がない。
今までミルアージュはプライベートで旅行など行った事がなかったのだから。
遠出するのは視察か領主の冠婚葬祭など公務のみ。
だから、新婚旅行と名のつく旅に罪悪感を感じていた。
「ミア、これはルーマン国王の命令だ。そんなつまらない事ばかり考えるな。ほら、外を見てみろ。」
クリストファーはとびっきりの笑顔を見せて外を指す。
馬車の窓から晴天の中、一面に紅色の花畑が広がっている。
「ここはルーマンでも有名な観光地なんだ。どこまでも広がる青い空、一面の紅い花、死ぬまでに一度は見たいと言われている。綺麗だな。」
クリストファーは目を細めて楽しそうに話す。
「そうね、この花は染物にも使えるわ。特産のネーラン織が有名ね。収益にも大きいし、観光と特産と両方兼ねるなんていい案だわ。」
それまで楽しそうに話していたクリストファーが呆れるようにルアージュを見つめている。
「ん?」
何でそんな目で見るの?
ミルアージュはそんなクリストファーを見て首を傾げた。
「ミア、ここは執務室じゃない。私はミアと一緒にこの景色を楽しみたいんだ。そんな収益とかの話はやめよう。」
クリストファーにそう言われてミルアージュは初めて気づいた。
ミルアージュは花を見ても綺麗と思う事がない。
花や宝石を見てもどうしたら人の生活に役立てる事ができるのか…
そればかり考えて生きてきた。
花を見て楽しむ?
どうやって?
ミルアージュの眉間に皺がよった。
その様子をクリストファーも見逃さない。
慌ててミルアージュに声をかける。
「私が悪かった。ミア、難しく考えなくていい。2人で過ごすこの時間に意味があるんだから。」
ミルアージュの正面に座っていたクリストファーはミルアージュの横に移動し手を握った。
「クリス、私ね。何かを見て美しいとか楽しいって思う事ができないのかもしれない。」
「うん。それならこれから私と探さないか?ミアが美しいって思ったり、楽しいと笑える事をな。」
クリストファーはミルアージュの手を握った手を引っ張って抱きしめた。
「クリスはそれでいいの?」
「ああ、私はミアがそばにいたら何でも嬉しいし、楽しいからな。何より…」
ミアを幸せにするというのが私の一番の夢だから。
クリストファーはミアの頬を撫でた。
ミアとの間には壁があった。
ミアが育ってきた環境を見れば、そうなっても不思議はない。
だが、最近のミアは少しずつだが、私との間の壁が薄くなっている気がする。
本音を話してくれるし、甘えてくれる。
それがどれほど嬉しいものだなんてミアにはわからないだろう。
いつか私と一緒でよかった、幸せだと言わせたい。
いや、その希望はきっと叶う。
クリストファーはミルアージュの変化に浮かれていた。
だから、油断していたのだ。
2人の間にはまだ分厚い壁がある事をクリストファーはまだ知らなかった。
1
あなたにおすすめの小説
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
嘘はあなたから教わりました
菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる