17 / 43

【第17話】暗殺未遂――宰相の腕の中で

しおりを挟む
今日は宰相邸からアルフォンス王子が城へ謁見する日。



隣国との同盟をよく思わない者たちが、王子の命を狙っている――そんな情報が届いていた。



そのため警備は厳重で、屋敷のあらゆる出入り口には兵が立ち、廊下を通るたびに鋭い視線が交わされる。

宰相邸の空気は、いつもより張り詰めていた。



ジェニエットは、ようやくアルフォンス王子が邸を発つと聞き、ほっと胸を撫で下ろす。



あれから三日。王子のことは避けてはいるものの、同じ屋根の下にいるだけで落ち着かない。



(もう……やっと静かになるわ……)



──その日の朝。



グラヴィスの着替えの準備をしていると、低い声が背後から響いた。



「……ジェニエット。私に、何か話すことはありませんか?」



振り返ると、グラヴィスの琥珀の瞳がじっとこちらを見つめていた。



「……いいえ? 特には。どうかなさいましたか?」



「……いいえ。今は、まだ。夜に話しましょう。今日は早く戻るつもりです」



微かに微笑むその唇。瞳の奥には、何か探るような光が宿っていた。



(まさか……王子との一件のことを……?)



胸の奥が少しざわついたが、私は「わかりました」とだけ答えた。



──朝食の時間。



これが王子と過ごす最後の食卓になる。



ほっと息をつきながら、私はスープに口をつけた。

ふと視線を感じて顔を上げると、アルフォンス王子が意味ありげに目配せしてくる。



(見てません、私は何も見てません!)



そっと視線を逸らした、そのとき――銀のコップの反射に、不審な影が映り込んだ。



柱の影。男が腕を引く。光を弾いたのは――短剣!



「危ない!!」



咄嗟に叫び、席を立つ私。



暗殺者は手元を狂わせる。

刃が空気を裂き、私の腕をかすめる。冷たい鋭さが皮膚を撫で、思わず息を詰めた。

王子はその一瞬で身を引き、難を逃れた。



「ジェニエット様!! お前たち! 早く医師を呼べ!」



怒声が響き渡る。

振り向けば、グラヴィスが駆け寄っていた。瞳が怒りで燃え、唇がわずかに震えていた。



「暗殺者を捕らえよ! 一人も逃がすな!」



指示を飛ばす声は、氷の刃のように鋭い。

いつもの冷静さを失ったその姿に、兵たちも息を呑んだ。



「私は……大丈夫です、グラヴィス様。腕を少しかすっただけで……」



「何を仰るのです! 貴方様の尊きお体に傷が!」



その声音には焦燥と恐れが滲んでいた。



(あぁ……そんな悲しい顔、しないで……でも……推しに心配されるの、嬉しい♡)



胸が熱くなる。



王子は別室へ非難し、医師も到着。

グラヴィスは短剣に毒が塗られていないか確認させながら手当てを指示する。



医師は慌てて診断し、「短剣に毒は塗られてなかったようです」と報告した。



グラヴィスは深く息を吐き、安堵の色を見せた。

だが次の瞬間、彼は私の体を横向きに抱き上げた。



「きゃっ……!」



頬が熱くなる。

(えっ……推しに、お姫様抱っこ……!? これは夢じゃ……)



「すぐに安全な部屋へお連れします」



静かにそう言う彼の胸の鼓動が、耳元で響く。

私はその腕の中の温もりに身を委ね、心臓の高鳴りを抑えられなかった。



安全とわかっていても、心臓は暴れるように跳ね、胸の奥が甘く締めつけられる。

──その腕の中で、私は少しだけ、大人になった自分を忘れてしまった。





---
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募しています。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。 ※小説内容にはAI不使用です。

ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。 ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。 そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。 「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。 冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。 皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。 小説家になろう、カクヨムでも連載中です。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ
恋愛
リリム王国辺境伯エインズワース伯爵家の長女、ユーニス・エインズワース。伯爵令嬢であるはずなのに、生活は使用人以下で、まともに育てられたことはない。それでも心優しく強かに育った彼女は、ある日、隣国との国境である森で二人の怪我をした男性を見つけて……?※不定期更新です。2024/5/14、18話が抜けていたため追加しました。 【2024/9/25 追記】 次回34話以降は10/30より、他サイト様と同時の更新予定です。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」様にも掲載しております。 ※小説内容にはAI不使用です。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。  第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。 「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。 「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。  だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。 全43話+番外編です。

処理中です...