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【第17話】暗殺未遂――宰相の腕の中で
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今日は宰相邸からアルフォンス王子が城へ謁見する日。
隣国との同盟をよく思わない者たちが、王子の命を狙っている――そんな情報が届いていた。
そのため警備は厳重で、屋敷のあらゆる出入り口には兵が立ち、廊下を通るたびに鋭い視線が交わされる。
宰相邸の空気は、いつもより張り詰めていた。
ジェニエットは、ようやくアルフォンス王子が邸を発つと聞き、ほっと胸を撫で下ろす。
あれから三日。王子のことは避けてはいるものの、同じ屋根の下にいるだけで落ち着かない。
(もう……やっと静かになるわ……)
──その日の朝。
グラヴィスの着替えの準備をしていると、低い声が背後から響いた。
「……ジェニエット。私に、何か話すことはありませんか?」
振り返ると、グラヴィスの琥珀の瞳がじっとこちらを見つめていた。
「……いいえ? 特には。どうかなさいましたか?」
「……いいえ。今は、まだ。夜に話しましょう。今日は早く戻るつもりです」
微かに微笑むその唇。瞳の奥には、何か探るような光が宿っていた。
(まさか……王子との一件のことを……?)
胸の奥が少しざわついたが、私は「わかりました」とだけ答えた。
──朝食の時間。
これが王子と過ごす最後の食卓になる。
ほっと息をつきながら、私はスープに口をつけた。
ふと視線を感じて顔を上げると、アルフォンス王子が意味ありげに目配せしてくる。
(見てません、私は何も見てません!)
そっと視線を逸らした、そのとき――銀のコップの反射に、不審な影が映り込んだ。
柱の影。男が腕を引く。光を弾いたのは――短剣!
「危ない!!」
咄嗟に叫び、席を立つ私。
暗殺者は手元を狂わせる。
刃が空気を裂き、私の腕をかすめる。冷たい鋭さが皮膚を撫で、思わず息を詰めた。
王子はその一瞬で身を引き、難を逃れた。
「ジェニエット様!! お前たち! 早く医師を呼べ!」
怒声が響き渡る。
振り向けば、グラヴィスが駆け寄っていた。瞳が怒りで燃え、唇がわずかに震えていた。
「暗殺者を捕らえよ! 一人も逃がすな!」
指示を飛ばす声は、氷の刃のように鋭い。
いつもの冷静さを失ったその姿に、兵たちも息を呑んだ。
「私は……大丈夫です、グラヴィス様。腕を少しかすっただけで……」
「何を仰るのです! 貴方様の尊きお体に傷が!」
その声音には焦燥と恐れが滲んでいた。
(あぁ……そんな悲しい顔、しないで……でも……推しに心配されるの、嬉しい♡)
胸が熱くなる。
王子は別室へ非難し、医師も到着。
グラヴィスは短剣に毒が塗られていないか確認させながら手当てを指示する。
医師は慌てて診断し、「短剣に毒は塗られてなかったようです」と報告した。
グラヴィスは深く息を吐き、安堵の色を見せた。
だが次の瞬間、彼は私の体を横向きに抱き上げた。
「きゃっ……!」
頬が熱くなる。
(えっ……推しに、お姫様抱っこ……!? これは夢じゃ……)
「すぐに安全な部屋へお連れします」
静かにそう言う彼の胸の鼓動が、耳元で響く。
私はその腕の中の温もりに身を委ね、心臓の高鳴りを抑えられなかった。
安全とわかっていても、心臓は暴れるように跳ね、胸の奥が甘く締めつけられる。
──その腕の中で、私は少しだけ、大人になった自分を忘れてしまった。
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隣国との同盟をよく思わない者たちが、王子の命を狙っている――そんな情報が届いていた。
そのため警備は厳重で、屋敷のあらゆる出入り口には兵が立ち、廊下を通るたびに鋭い視線が交わされる。
宰相邸の空気は、いつもより張り詰めていた。
ジェニエットは、ようやくアルフォンス王子が邸を発つと聞き、ほっと胸を撫で下ろす。
あれから三日。王子のことは避けてはいるものの、同じ屋根の下にいるだけで落ち着かない。
(もう……やっと静かになるわ……)
──その日の朝。
グラヴィスの着替えの準備をしていると、低い声が背後から響いた。
「……ジェニエット。私に、何か話すことはありませんか?」
振り返ると、グラヴィスの琥珀の瞳がじっとこちらを見つめていた。
「……いいえ? 特には。どうかなさいましたか?」
「……いいえ。今は、まだ。夜に話しましょう。今日は早く戻るつもりです」
微かに微笑むその唇。瞳の奥には、何か探るような光が宿っていた。
(まさか……王子との一件のことを……?)
胸の奥が少しざわついたが、私は「わかりました」とだけ答えた。
──朝食の時間。
これが王子と過ごす最後の食卓になる。
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ふと視線を感じて顔を上げると、アルフォンス王子が意味ありげに目配せしてくる。
(見てません、私は何も見てません!)
そっと視線を逸らした、そのとき――銀のコップの反射に、不審な影が映り込んだ。
柱の影。男が腕を引く。光を弾いたのは――短剣!
「危ない!!」
咄嗟に叫び、席を立つ私。
暗殺者は手元を狂わせる。
刃が空気を裂き、私の腕をかすめる。冷たい鋭さが皮膚を撫で、思わず息を詰めた。
王子はその一瞬で身を引き、難を逃れた。
「ジェニエット様!! お前たち! 早く医師を呼べ!」
怒声が響き渡る。
振り向けば、グラヴィスが駆け寄っていた。瞳が怒りで燃え、唇がわずかに震えていた。
「暗殺者を捕らえよ! 一人も逃がすな!」
指示を飛ばす声は、氷の刃のように鋭い。
いつもの冷静さを失ったその姿に、兵たちも息を呑んだ。
「私は……大丈夫です、グラヴィス様。腕を少しかすっただけで……」
「何を仰るのです! 貴方様の尊きお体に傷が!」
その声音には焦燥と恐れが滲んでいた。
(あぁ……そんな悲しい顔、しないで……でも……推しに心配されるの、嬉しい♡)
胸が熱くなる。
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私はその腕の中の温もりに身を委ね、心臓の高鳴りを抑えられなかった。
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