36 / 43

【第36話】最終話 ― 紅に染まる奇跡 ―

しおりを挟む

城の向こう側では、民たちが戦争の勝利を祝って祝杯をあげ、街は歓声とパレードで溢れていた。

だが、そんな光景をよそに、私の胸は鉛のように重く、締め付けられていた。



カーティスお兄様を先陣に、軍隊がパレードの道を横切る。

その中のどこかに、グラヴィスがいる――



(グラヴィス、無事でいて……! 小説の強制力には勝てないの? どうか、どうか……!)



私は祈るように目を閉じ、軍隊の到着を待った。



やがて城門が開き、軍隊がゆっくりと進んでくる。

私はメアリーに支えられながら、膝が震むのを堪え、門の近くまで歩みを進めた。



私に気づいたカーティスお兄様は、気遣わしげに、そして申し訳なさそうに言った。



「……ジェニエット。すまない。私のためにグラヴィスは……まだ意識が戻っていない」



私は首を横に振り、涙を堪えながら答えた。

「お兄様のせいではありません……。ご無事で良かった……」



その瞬間、後方から馬車がゆっくりと近づいてきた。

中から、軍医に付き添われた担架に横たわるグラヴィスの姿が見える。



「グラヴィス様!!」



思わず駆け寄る私。体の力が抜けそうになり、膝が震えた。



顔から肩にかけて包帯が巻かれ、血が滲むその姿に、胸の奥が凍りつく。



「ジェニエット様!」

後ろでメアリーがしっかりと支えてくれる。



「とにかく中に入りましょう。あまり興奮なさらないよう。お腹のお子さまの命に関わります」



メアリーの声に頷き、私は震える手でグラヴィスの腕を支えながら、城内へと入った。



部屋のベッドに横たわるグラヴィスを見て、私は深呼吸をして涙を堪えた。



(しっかりするのよ! カナデ! 今、グラヴィスは闘っている。私もお腹の子とグラヴィスを守らなきゃ!)



軍医は深刻な表情で告げる。

「今日が山場です……。お力が足りず、申し訳ございません」



恐怖が胸をよぎったが、私はグラヴィスの手を取り、自分のお腹に重ねる。



「グラヴィス様……ここに私たちの赤ちゃんがいます。どうか、早く戻ってきてください……」



(お願い! グラヴィス、戻ってきて……!)



堪えきれない涙が、彼の頬にこぼれ落ちる。

そして、手を当てていたお腹が微かに動くのを感じた瞬間――



「グラヴィス様! 聞こえますか!? 私です!」



包帯されていない左のまぶたが、ゆっくりと、静かに開いた。



「……帰ってきました。暗闇の中で、貴方の声が確かに聞こえたのです」



私の名前を呼ぶその声に、涙が止まらなかった。



軍医はすぐに診察を始める。

「奇跡です! すぐに診察させていただきます。意識は戻りました。予断は許されませんが、あとは傷を癒すのみです」



グラヴィスは再び横たわるが、目は私をしっかりと捉えていた。



「……もう、大丈夫です……。こんな姿でも、怖くはないですか?」



私は両手で彼の顔を包み込み、涙を流す。

「そんなの、怖くないわ! どんなことがあろうと、グラヴィス様はグラヴィス様よ! 愛しています!」



琥珀色の瞳から涙を零すグラヴィスは、驚きながらも微かに笑みを返す。

「それは良かった。私も貴方を愛しています……心から……生きていて良かった」



私はお腹に手を当て、微笑む。

「ここに、新しい命がいます。貴方と私の、子です」



グラヴィスはさらに目を見開き、震える声で誓った。

「絶対に生きます! ジェニエットとその子を、ずっと守ります」



私たちは静かに手を重ね、赤ちゃんの鼓動を確かめながら、未来への希望を抱いた。

奇跡の目覚めは、静かに、しかし確かに訪れたのだった。





---



それから数ヶ月、グラヴィスは自ら歩けるほどに回復した。

右目は光を失い、腕も以前のようには動かない。

それでも、彼は私の手を握り、互いの微笑みの中で静かに日々を取り戻していった。



お腹の子も元気に育ち、家族三人の小さな命の鼓動が、部屋に優しく響いていた。



こうして、かつて“報われない”と呼ばれた悪役宰相は、今、世界で一番幸せな夫となった。





---





(あとがき)

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

これにて、『転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?』は完結です。



彼が報われ、二人が家族になれたこと――それが何よりの奇跡でした。

もし少しでも心に残ったら、感想やレビューをいただけたら嬉しいです。



これからも彼らの「その後」を番外編などで綴っていけたらと思います✨
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募しています。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。 ※小説内容にはAI不使用です。

ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。 ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。 そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。 「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。 冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。 皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。 小説家になろう、カクヨムでも連載中です。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される

高福あさひ
恋愛
リリム王国辺境伯エインズワース伯爵家の長女、ユーニス・エインズワース。伯爵令嬢であるはずなのに、生活は使用人以下で、まともに育てられたことはない。それでも心優しく強かに育った彼女は、ある日、隣国との国境である森で二人の怪我をした男性を見つけて……?※不定期更新です。2024/5/14、18話が抜けていたため追加しました。 【2024/9/25 追記】 次回34話以降は10/30より、他サイト様と同時の更新予定です。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」様にも掲載しております。 ※小説内容にはAI不使用です。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。  第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。 「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。 「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。  だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。 全43話+番外編です。

処理中です...