18 / 33
青葉の茂る頃に
青葉の茂る頃に
しおりを挟む
「ふう、ふう……。」
「社まで、もう少しですよ茂樹さん。」
今は真夏。青葉の茂る季節になった。ホノカちゃんもスッカリ深緑になっていて髪飾りは青葉の付いた桜の枝とサクランボが付いている。横に並んで歩くだけで桜の匂いがしていた。
今日はホノカちゃんの案内で山道を歩き、山の神様と藤の妖精さんに会いに来ていたのだった。向こうからの申し出だしホノカちゃんの育ての親とは一度、会ってみたいと思っていたのだった。それに、お礼の温泉だって気になる。
「持ち物、自体はヘッチャラなんだけどな。瓶入りの焼酎ぐらい別に。
堅焼き煎餅ももっと別に。リュックで背負っているし。
でも暑くてさあ。」
「夏の盛りですからね。」
木陰で直射日光は遮られている。しかし日本の夏、特有の蒸し暑さで俺は息が上がっていた。
「まあ、山に登る事、自体が好きだから別にいいんだけど。」
吐く息の疲れが見えるのが早いだけで、特に不満はなかった。春や秋の新緑や紅葉が見られる、歩きやすい気温になる季節が行楽シーズンと呼ばれているのを歩きながら深く実感する。
「茂樹さん、山登りがお好きなんですよね。」
「そうそう、ソレがキッカケでホノカちゃんにも会えて。
今日もビスケットとミルクを持ってきたから、みんなで食べよう。」
「はいっ。」
毎度の如く、気合いの入った返事をする。ホノカちゃんは山育ちの妖精だが、ビスケット欲しさに山を下りて、ビスケットを貰える存在である俺の所と山を行ったり来たりしていたのだった。
因みに俺の説明には一文字も嘘はない。現に冒頭でも告げた通り、ホノカちゃんの身体の色は深緑である。桜の匂いもする。
「あっ。社が見えてきましたよ。」
「おー。ようやくか。」
ゴールデンウイークの頃よりも遙かに暑い季節に蒸し焼きにされたが、ようやく一休みできそうである。
「山の神様と藤の妖精さんがいるところって、このまま歩いていけばいいの?」
「はい。社に近づいたら、私が声を掛けますから、後ろに下がってください。」
「分かった。ここら辺でいいかな。」
「ですね。」
鳥居の見えるところまで山道を登ってきた俺たちは、
神様になど会ったことがないため、後はホノカちゃんの案内に任せることにした。
先にホノカちゃんがフワフワと飛んで、中へ向かうと。
「神様、藤さん。ただいま帰りました。茂樹さんもいらっしゃいます。」
「はーい。チョット待っててね。」
随分と軽い口調で女の人の声が聞こえてくる。
「茂樹さーん。もういいですよ。」
ホノカちゃんが俺を呼んだ。
「はいはい……っと。」
リュックの背負うベルトを掴んで登っていくと。
「よっ。ホノカにそちらが……茂樹さんかな。」
「よくいらしてくれました。」
鳥居をくぐって社の前に到着すると、山の神様と藤の妖精さんらしき二人組の女性が俺たちを出迎えてくれた。
「どうもはじめまして。茂樹です。
ホノカちゃんとは仲良くさせて貰っています。」
俺はリュックの背負う部分のベルトをずれないように持つと、お辞儀をした。
「ああ、これはこれはどうも。私は山の神(やまのかみ)です。」
片方の女性が自己紹介する。緑色の癖のある髪を伸ばし放題にし、着物も浴衣のような薄手の衣を長し着に、帯びもぞんざいに留めるのみ。
「どうも、滝藤(たきふじ)です。
藤の妖精をやっています。藤さんと呼んでください」
もう片方の女性は緑色の巻き毛をポニーテールに結い、結わえた部分にツタで巻いたような髪飾り。衣装はホノカちゃんに似た、ノースリーブの裾がフワフワした衣装でキャミソールワンピースを着て背中に羽が生えている。手袋は手首の所で裾は終わっているが日本の妖精さんって、よく分からないけど西洋のと似ているんだろうか。
とにかく、山の神様と藤の妖精さんも挨拶を兼ねた自己紹介をした。
「ときに茂樹さん。」
山の神様が俺に声を掛ける。
「はい?」
「暑い中、よく来てくれたんだ。社の中で休んでいかないかい?」
握った手に親指を立て社の方を示す。
「社って、入れるんですか?」
見た限り小さな社で、とても四人(神様が一柱と……妖精さんってどう数えるのだろう。二体?)が入れるスペースではない。俺一人でも狭いぐらいだろう。
「ああ。大丈夫。神様の世界と繋がっているから。」
「へっ。」
山の神様にいきなりワンダーな事を言われる。
「下界では人間が神のために社を造ってくれるけど、
日本の神々はもう天皇陛下の家系によって平定されているから、
あくまで神同士は人間たちに不干渉というルールができているんだ。
だから普段は社の中と繋がった神の世界にいる。」
「は~。」
深く聞くのが怖くなる説明をされる。
「妖精たちは家が無くて植物や動物に宿るから、人間にも見えるんだ。」
「ほ、ほう~。」
また相づちに力が入らない。
「とにかく、暑い中で立ち話も何だし、中にどうだい?」
「人間が入っても大丈夫なんですか?」
さっき不干渉と聞いたばかりで。
「お供え物は持ってきたんだろう?」
「はい。」
「なら大丈夫。神にお供え物をするために入れる。
食べるところだけだから、チョット手狭だけど入りなよ。」
話を聞くと庶民的なんだか神聖なんだか分からなくなってきた。
「社まで、もう少しですよ茂樹さん。」
今は真夏。青葉の茂る季節になった。ホノカちゃんもスッカリ深緑になっていて髪飾りは青葉の付いた桜の枝とサクランボが付いている。横に並んで歩くだけで桜の匂いがしていた。
今日はホノカちゃんの案内で山道を歩き、山の神様と藤の妖精さんに会いに来ていたのだった。向こうからの申し出だしホノカちゃんの育ての親とは一度、会ってみたいと思っていたのだった。それに、お礼の温泉だって気になる。
「持ち物、自体はヘッチャラなんだけどな。瓶入りの焼酎ぐらい別に。
堅焼き煎餅ももっと別に。リュックで背負っているし。
でも暑くてさあ。」
「夏の盛りですからね。」
木陰で直射日光は遮られている。しかし日本の夏、特有の蒸し暑さで俺は息が上がっていた。
「まあ、山に登る事、自体が好きだから別にいいんだけど。」
吐く息の疲れが見えるのが早いだけで、特に不満はなかった。春や秋の新緑や紅葉が見られる、歩きやすい気温になる季節が行楽シーズンと呼ばれているのを歩きながら深く実感する。
「茂樹さん、山登りがお好きなんですよね。」
「そうそう、ソレがキッカケでホノカちゃんにも会えて。
今日もビスケットとミルクを持ってきたから、みんなで食べよう。」
「はいっ。」
毎度の如く、気合いの入った返事をする。ホノカちゃんは山育ちの妖精だが、ビスケット欲しさに山を下りて、ビスケットを貰える存在である俺の所と山を行ったり来たりしていたのだった。
因みに俺の説明には一文字も嘘はない。現に冒頭でも告げた通り、ホノカちゃんの身体の色は深緑である。桜の匂いもする。
「あっ。社が見えてきましたよ。」
「おー。ようやくか。」
ゴールデンウイークの頃よりも遙かに暑い季節に蒸し焼きにされたが、ようやく一休みできそうである。
「山の神様と藤の妖精さんがいるところって、このまま歩いていけばいいの?」
「はい。社に近づいたら、私が声を掛けますから、後ろに下がってください。」
「分かった。ここら辺でいいかな。」
「ですね。」
鳥居の見えるところまで山道を登ってきた俺たちは、
神様になど会ったことがないため、後はホノカちゃんの案内に任せることにした。
先にホノカちゃんがフワフワと飛んで、中へ向かうと。
「神様、藤さん。ただいま帰りました。茂樹さんもいらっしゃいます。」
「はーい。チョット待っててね。」
随分と軽い口調で女の人の声が聞こえてくる。
「茂樹さーん。もういいですよ。」
ホノカちゃんが俺を呼んだ。
「はいはい……っと。」
リュックの背負うベルトを掴んで登っていくと。
「よっ。ホノカにそちらが……茂樹さんかな。」
「よくいらしてくれました。」
鳥居をくぐって社の前に到着すると、山の神様と藤の妖精さんらしき二人組の女性が俺たちを出迎えてくれた。
「どうもはじめまして。茂樹です。
ホノカちゃんとは仲良くさせて貰っています。」
俺はリュックの背負う部分のベルトをずれないように持つと、お辞儀をした。
「ああ、これはこれはどうも。私は山の神(やまのかみ)です。」
片方の女性が自己紹介する。緑色の癖のある髪を伸ばし放題にし、着物も浴衣のような薄手の衣を長し着に、帯びもぞんざいに留めるのみ。
「どうも、滝藤(たきふじ)です。
藤の妖精をやっています。藤さんと呼んでください」
もう片方の女性は緑色の巻き毛をポニーテールに結い、結わえた部分にツタで巻いたような髪飾り。衣装はホノカちゃんに似た、ノースリーブの裾がフワフワした衣装でキャミソールワンピースを着て背中に羽が生えている。手袋は手首の所で裾は終わっているが日本の妖精さんって、よく分からないけど西洋のと似ているんだろうか。
とにかく、山の神様と藤の妖精さんも挨拶を兼ねた自己紹介をした。
「ときに茂樹さん。」
山の神様が俺に声を掛ける。
「はい?」
「暑い中、よく来てくれたんだ。社の中で休んでいかないかい?」
握った手に親指を立て社の方を示す。
「社って、入れるんですか?」
見た限り小さな社で、とても四人(神様が一柱と……妖精さんってどう数えるのだろう。二体?)が入れるスペースではない。俺一人でも狭いぐらいだろう。
「ああ。大丈夫。神様の世界と繋がっているから。」
「へっ。」
山の神様にいきなりワンダーな事を言われる。
「下界では人間が神のために社を造ってくれるけど、
日本の神々はもう天皇陛下の家系によって平定されているから、
あくまで神同士は人間たちに不干渉というルールができているんだ。
だから普段は社の中と繋がった神の世界にいる。」
「は~。」
深く聞くのが怖くなる説明をされる。
「妖精たちは家が無くて植物や動物に宿るから、人間にも見えるんだ。」
「ほ、ほう~。」
また相づちに力が入らない。
「とにかく、暑い中で立ち話も何だし、中にどうだい?」
「人間が入っても大丈夫なんですか?」
さっき不干渉と聞いたばかりで。
「お供え物は持ってきたんだろう?」
「はい。」
「なら大丈夫。神にお供え物をするために入れる。
食べるところだけだから、チョット手狭だけど入りなよ。」
話を聞くと庶民的なんだか神聖なんだか分からなくなってきた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
