魔導兵器マギアーム

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岩塩都市ブロッサムミスト・後日談

(エッチシーンあり)ライカとライコの一日、その2

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「賑やかだねー、ライカ君。」
「そうだな。」

 ライカとライコは王都内のバザーの中心地区に行くと。そこには日用品や生活雑貨、食べ物にアクセサリーに用途のよく分からない置物のような何か、安っぽいお守りや部屋のインテリアのようなものだが民族性をあらわしているとなぜか特徴的で引き付けられてしまうものの他にもシーフが集めてきた遺跡からの発掘品、サボテンやモンスターの体の一部から細工した装備品やアクセサリーなど様々なものを置いてある露天商と。ここでは珍しくない香辛料や香料の香りも漂ってきて、まさにピンキリな胡散臭さも含めてこの都市と国の活気をあらわしていた。

「ねえ、ライカ君、遺跡から発見された豆の種だって!」
「それどうすんだよ。」

 ライコが見つけた店は、野菜や豆をズタ袋いっぱいに入れて量り売りをする店だった。

「うーん。植物は育てられないか。」
「食えるかどうかも怪しいが。こういう店だと、食えるのか?」
「食べられるよー、いっぱい見てってよ。見るなら無料!」

 お店の人がカタコトっぽいのは海外に出た日本人がこういう店で日本語を話せる店員に話しているイメージと思っていただきたい。

「あとコレ。うちの国では紐で繋いでネックレスにするよ! 縁起いいよ!
 だからいっぱい買って! 長いの作ろう!」
「へー。」
「いきなり吹っ掛けられてるじゃねーか。」

 ちなみにこの豆、直径一センチぐらいの紫と黒のトラ柄の豆である。

「あとコレ、沢山増えるね! 育てると増える! いっぱい食べられる!」
「へー。」
「自分たちで管理している庭園があるんだったら持って帰ったら怒られないか?
 雑草とかひたすらはびこる外来種に近いんじゃねーの?
 そういうのは農家にやらせろよ。」
「うーん、じゃあ、ネックレスが作れるぐらいちょうだい!」
「まかせて! 穴は自分で開けるね!」
「うん。針ならあるし。」
「買うのかよ!」

 ・・・・・・。

「次はお守りにもなる武器や防具の店か。」

 小刀やちょっとしたサバイバルキャンプ用の携帯道具、腕当てや脛当て。丸い円盤のようなバックラーなど、海外の別の大陸の国からも仕入れていそうな品揃えだが。ここの加工なのか補助機能がブーストされたマジックアイテムが付いている。

「こういうの見ていると揃えたくなるよな。」
「腕当ては私も欲しいかな。鎖帷子みたいなので。」
「ああ。なるべく軽くて守りもやれるやつな。」
「あと、小刀も気になる。」
「お前のナイフって魔法で出せるのと軍用製だろ。あっちのがいいんじゃねーのか。」
「軍用製のしかないから、それ以外の用途の時やもしものために他のも欲しいの。」
「なるほど。」

 今度は実用的になりそうな店でライカも見入る気になっている。ライカが見たかった店だからなのもあるが。ライコも見ているようだ。ライコが用いたいのは戦闘以外の。わざわざそれと出すまでもない時に軍用製のを消費しなくても済むように別の物も買っておきたいということだろう。説明されれば全くその通りで。

「俺は……サバイバルキットに、俺もナイフを買っておくか。」

 こういったものも買っておけば便利だろう。物としては値段相応だが消耗品の用途としては十分なところだった。

「あとは……指輪。」
 
 ライコが手に取ったのは指輪だった。これもお守りの一種なのかこの国の文字であるヒエログリフが彫ってある。絵のような文字だから読めなくても、見た目は細工が施されているようにも見える。

「お前もそういうの、欲しがるんだな。」
「えへへ。ライカ君が買ってくれてもいいよ?」
「へ? あ、ああ。いいけどよ。」

 そういう流れだったのか。こういうのもやっておいた方がいいかもなと思い、ライカが買うと。

「嵌めてみて、貰ってもいい?」
「っとに、どこでそういうの覚えてくるんだよ。」
「こういうの、してみたいじゃない。」
「はいはい。」

 こういうことをさせたがるのは、真似事でもそういう話を聞くなり読むなりして、ませた年頃の女の子だとやりたくなるんだろう。ライカはライコの左手を取り、薬指に嵌める。手に触れたとき、どきりとしたが、ライコも手がピクリと動いたから同じ気持ちなのかなと薄っすら思いつつ。

「ホイどうだ。」
「うん! ありがとう。」

 ライコはとても嬉しそうだった。ライコのその姿を見ていると。

(一瞬、何しに来たか忘れそうになったから、買うもの、チェックし直そう。)

 突発的なイベントに頭が吹っ飛びそうになったライカだった。

 ・・・・・・。

「ボードゲーム?」
「ああ。一応、ここでも遊ぶものはあるみたいだからな。」

 ライカが次に寄ったのは。この国ではポピュラーなイベントパネルの付いたすごろくのようなマスの少ない引き出しの付いた箱だった。これにコマを収納して、引き出しの底にあるパネルをすごろくのようにしてコマを置いて遊び。さいころのようなダイスはどこかで調達するか備え付けのがあればそれで遊ぶらしい。

「そっか。遊ぶもの自体はあるんだ。」
「ああ、すごろくと言っても簡単に遊べそうだし、すぐ終わるだろ。」

 ライカとライコで他にも何かないか、見てみると。

「ああ、また君たちか。」
「こんにちは。」
「ん……って、ああ。こんちは。」
「こんにちは。」

 同じくバザーを見て回るつもりだったように見える二人組……ステラとコリス……俺たちだった。

「あっ、あのっ。せっかく先生をお願いしたのに、すぐ終わっちゃってすみません!」

 会うなりライコは俺たちに頭を下げる。

「それはいいよ。そうか、君たちはそういう関係になったのか。」

 コリスさんはライコの様子を見てニヤニヤしているようだが。俺も様子を見ると。ライコ……女の子の方は指輪を嵌めていた。左手の薬指に。なるほどこういうのを気が付くのが早いのが女の人なのかと妙に感心した。

「あ、あ、あの……。」
 
 女の子は説明しようかどうしようか男の子の方……ライカの方を見てアワアワしているようだが。

「ああ。付き合っているぜ。」
「えええっ!?」

 ライカがきっぱりと答えて女の子が動揺している。

「別に変でもなんでもねーだろ。俺たちがそういう関係でも。」
「う、うん……。」
「お前も、そういうの言われたぐらいでビビんなよ。」
「ら、ライカ君。」

 相変わらず、少年の方は保護者のように面倒も見つつシッカリしていた。

「ああ。すまないね。変な聞き方をしてしまった。おめでとうと言えばよかったかな?」
「別に。こっちがビビんなきゃいいだけの話だからな。」
「ふむ。私が話したいのは他にもあって。」
「俺にはねえよ。」
「いや。魔軍を退けただろう。それに、どうやら仕返しも成功したのかなと。」
「あ……。」

 ライコが思い出したようにコリスさんを見る。この子の戦いは魔軍と戦うだけじゃなかったのだ。

「まだ、本当には解決していないけど。それはやれました。」
「うん。あれっきり、別れちゃったからね。
 済ませたし、君たちも青春を謳歌しているみたいで実にいい。」
「あ……。」

 再びライコの顔が赤くなっていく。この子ってこんなに表情クルクル変わる子だったっけと思ったが。俺たちが会ったのは、魔軍と戦う前だったもんな。そんな気分になれなかったか。問題が解決するというのは大きいな。

「私も短い間だけど、君たちがそうなってくれて嬉しいよ!」

 コリスさんは完全に、弟子の成長を見守る師匠ポジションになっていた。

「俺も。あとは二人で、やりたいことが見つかるといいね。」

 俺もコリスさんのご相伴に預かることにした。

「あっ……はい……。」

 女の子が顔を赤らめたまま嬉しそうにしている。この子は喜ぶときも可愛いんだな。と思ってみていたら少年……ライカの方に俺だけ睨まれたが。それはヤキモチだと思うとかわいいもんだった。と思ったらもっと睨まれた。

「そーいや俺たち、元いた世界に戻ったら何するか全然、決めてなかったな。」
「そうだね、今は魔軍と戦うことしか頭にないけど。」
「どーすんだお前、忍者にでもなるのか?」
「そんな職業はないと思うけど……武術の先生とか! 資格とかあるのかな。」
「ああ、護身術とかそういう。俺も仲間に入れろよ!」

 二人で随分とキャッキャしながら話しているが、話し方からして夢を持っていそうでキラキラしていた。ちょっと前までハードボイルドを気取っていた俺には眩しすぎた。

「そういえば君たち、お茶とかはまだかな?」

 コリスさんが訪ねているが露天ではお菓子とお茶も出している。香辛料と脂と穀物を練って薄くパイにしてナッツ類をたっぷり入れた、最後に蜂蜜の飴を砕いて掛ける結構ヘビーなお菓子だがお茶と飲むのがここの習慣だった。

「お茶? お茶って何だよ。」
「お茶と言えばお茶だよ。ティータイムの文化はここにはないのかな?」
「無いこたねーけど。付き合えって言われてもな。ライコはどうだ?」
「せっかくだから行こうよ、ライカ君。」
「……ああ。ここでこれ、買ってからな。」

 ライカ、少年の方はここで何かボードゲームみたいなのを買うらしい。

「はは、まいどー。」

 スッカリ店の前で立ち話をしてしまっていたが、お店の人は陽気に対応してくれた。

「ここの茶もいい香りだ。」

 屋台の前に行くと簡易式の他の人がお店で飲み食いした分までそこで食べられる長いテーブルと椅子のスペースに座ると。コリスさんはお茶がすっかり気に入ったのか、上機嫌で飲んでいる。

「君たちに乾杯だね。」

 コリスさんはライカ達にカップを掲げる。本当に上機嫌だ。

「ありがとうございます。」
「ああ、ありがとうな。」

 二人もお礼を言っているが、付き合いがいいな。女の子の方がまた、コリスさんを見て目をキラキラさせているな。今度は何だろう。

「やっぱりコリスさんって、かっこいいですね。」
「ありがとう。君に言われると悪い気はしないね。」
「やだー。」

 どうやら羨望のまなざしだったようだ。この子、そういえばコリスさんに勇気をくださいって言ったんだっけ。コリスさんも普段より鼻を高くしてかっこよく振舞っているようだ。分かりやすい人だな。

「……。」

 少年の方は何と言うか、どうして俺の言うことは全然聞かねーくせにそうなんだよ、と言いたげな表情でいるが。きっとこういう年頃の女の子が、大人の女性を見てこういう風になっちゃうのは、それはそれ、これはこれなんだよと伝えたかったが、コンタクトのしようがなかった。保護者ポジションってたまに相手にされないって言うかそういうところあるよな。

「ん……そういやあんたたちって、まだこの国にいるのか?」
「あ、そう言えば。」
「ようやく避難した人たちも戻ってきたみたいだからね。観光をしてから帰るのさ。」
「ふーん。じゃあ次の場所に向かうのか。確かあんたら、ギルド所属だっけか。」
「とは言え、ここの国とはこれでお別れって訳でもなさそうだから。理由は聞かないでくれ。」
「別に。俺たちは気にしたってしょうがないからな。」
「じゃあ、またここに戻ってくるんですか?」

 サラッと流すつもりだった少年だったが、女の子の方は食いついたようだった。

「呼ばれれば来るけど、君たちにはもう、心構えは必要ないだろう。」
「そうだね。もう、戦い方を覚えたら、後は自分たちでやれた方が実践になるよ。」

 コリスさんと俺で二人に言うと頷いているようだ。

「それに、鍛錬は君たちでやれるだろう?」
「ああ。それについてはその通りだな。」
「うん。」

 この子たちはキラキラしていて。勇者という与えられた境遇でも勇気を持って強くなろうとしている。コリスさんはそんな二人の様子を眺めているようだ。

「私たちも……君たちの未来に幸多からんと思っているよ。」
「ん……? ああ、ありがとうな。」
「ありがとうございます。」

 多分コリスさんの言いたいことは、この子たちの未来を守るためなら、依頼を受けるのも悪くないと、そう思っているんだろう。俺にとっても切実な問題はあるが。こういう理由はいくらあってもやる気に繋がるからな。

「そうですね。俺もそう思ってるよ。」

 俺も二人に言うと何だか照れ臭そうにしていた。

「そうだ。ステラ。あーん。」

 コリスさんが俺に向かってお菓子の切り端をナイフ形の楊枝で刺して向けてくる。

「なっ、何ですかいきなり。」
 
 俺はいきなりコリスさんにされてしまって慌てていると。ああ、アンタもそうなのかと言いたげな目で少年が俺を見ていた。女の子は羨ましそうに少年を見ていたが少年は人前でそうしたくないのかスルーを決め込むようだ。

「ほら、食べさせてあげよう。ほらほら。」
「むぐっ。」

 口に押し込まれたお菓子は……とても味が濃かった。養分の高そうなうまさだ。

「こくこく……。」

 俺はちびちびとお茶で口を洗っていくと。

「ライカ君。あーん。」
「や、やめろっての!」

 女の子が実力行使に来ているようだ。微笑ましく見守ってしまう。コリスさんは親指立てるのを俺にしか見えないテーブルの陰で送った。俺も返した。

「う……しょうがねえな。んぐ。」

 少年は眉間をデコボコさせて随分険しい表情で甘いお菓子を食べている。

「んぐんぐ……。」

 口に入れば不本意でも食べてしまっているようだ。気分と合わせてお茶で流すと。

「……それで、アンタらは何しに俺たちをお茶に誘ったんだ?」

 さっきの行為はスッカリ忘れたように俺たちに尋ねてくる。

「あ、そう言えば、乾杯して貰えたのかとばかり。」

 女の子の方は呑気だった。

「うーん。目的は達せられたから、一応の確認かな。」
「だからそれは何だよ。」

 コリスさんの言葉に少年が畳みかける。

「ああ。欲しいものは手に入ったし、その後の布石も敷いてある。
 私が気になるのは、女の子の持ち物で、石があっただろう?
 私たちはちょっと変わったアイテムを探していてね。
 もしそれが、条件に一致するものだったら譲ってほしい。そういう話さ。」
「ふーん。ライコはどうすんだ。」
「えっ? 石ですか?」
「ああ。別に譲りたくないなら無理には言わない。見てみたいだけなんだ。
 君たちは異世界から来たのだろう? 君たちの世界ではありふれたものでも。
 こちらでは貴重品にだってなるかもしれないのさ。」
「ええと、これのことですか?」

 女の子はバックから何の変哲もない石を出す。

「……ふむ。」

 コリスさんは鑑定士のように手に取って眺めている。俺のクリスタルが月の石だったように、アイテムだったりする可能性はあるからな。

「この石からは……月の気配がするけど、力を貯めておけないようだね。
 探している物とは違うけど、これはこれで参考になるってところかな。」
「月? 月って、月の事ですか?」

 コリスさんの言葉に女の子も月を知っているのか答えたようだ。

「ああ。君たちの世界には月はあるのかい?」
「ありますよ。こっちにはないなって思いましたけど。」
「そういやそうだな。星もあっちほどは見えないし。」

 こっちではどうしてかは言えないけど月はないし、星の数も少ないのか。

「月のある世界か……まさか向こうにまで行かせる気じゃないだろうな。」

 コリスさんは険しい表情でいるが。今度は俺たちが異界の人になるからな。月がある世界なら、もっと俺たちが求めるアイテムが見つかる可能性もあるし、何だったら月の石を取ってきてもいい。前に言っていた隕石だって月から降ってきたものならそれで月の石になるからな。行けと言われたら行くというのはそういうことだろう。

「月に何かあるんですか?」
「そういや月のアイテムには目がないって言ってたな。」
「ああ。詳しくは言えないが、私達にも冒険をする理由があってね。
 それで月にまつわるアイテムを探している。」
「ふーん。そう言えば随分欲しがっていたな。」
「ああ。その目的はここでは達成されたから、別の所で見つけるのさ。」

 俺が口を滑らせるわけにもいかないから、コリスさんに任せて会話を見守る俺。知られたら抹消対象になるとかプレッシャーもいいところだ。

「異世界の石なら何かマジックアイテムになるかもと思ったが。
 そこまでいい話じゃなかった。それだけの事だよ。
 石は返すね。君にとっても故郷の石だろうからね。」
「あ……はい。」

 コリスさんが女の子に石を返すと、両手で受け取って、またカバンにしまっている。

「お前、なんであの石、いつまでも持っているんだよ。」
「だって、ライカ君と子供の頃、遊んだ時に、水辺に投げて遊んでいた石だよ。」
「ああ。お前が一回も跳ねさせられなかったからって、悔しそうにして探して。
 ようやく見つけた石な。」
「うん。自分で探して、見つけて。
 跳ねさせられた石だから縁起もよさそうだしお守りにしていたの。」

 何だか随分、女の子にとっては思い出も籠った物のようだったが。

「話を聞いていると、その石は君が持っていた方がいい石みたいだね。」

 コリスさんもそう思ったようだ。

「つったってなあ。今のお前なら石を川に跳ねさせるぐらい余裕だろ。」
「うん。でも、持っている内にいつの間にか、捨てられなくなっちゃって。」
「ふーん……。」

 少年は何かを思っているようだが。故郷の思い出の石だと取っておきたい気持ちもあるだろう。

「ああ、でも自分で何かをやれた物って、そりゃあ大事だよね。」

 俺もつい、月とは関係なくなったところで会話に参加してしまった。

「ええと、そうですね。私……子供のころ遊んだものって捨てられなくて。」
「別に、持ってりゃいいんじゃねーのか。」
「うっ、うん。そうだね。持ってる……。」

 女の子は再びカバンをポンポンと叩く。それにしても、女の子の方は随分明るくなったし、喋るようになったんだな。それが元々のこの子だったのかもしれないけど。

「それじゃあ、こちらとしては用件も済んだし。
 またこっちはこっちでアイテムの物色をしようか。」
「そうですね、コリスさん。」
「もう帰っちゃうんですか?」
「あと数日はここにいるよ。こっちで作るアイテムもあるからね。
 でも、君たちとまた会えるかは分からないけど。」
「はっ……はい。あのっ、ありがとうございました。」

 女の子が再び頭を下げている。

「うん。さっきも言ったけど。君たちに幸あらんと思っているよ。」
「ああ。」

 男の子は挨拶こそそっけなかったが感慨深そうにしていた。

「ライコの目的が……絞れたのはあんたらのお陰だと思っているよ。
 今までよく分かんねー理由で戦わされたり文句言われたりしていたからな。」
「ふふん。持てない荷物は持てる荷物に変えるのさ。」
「ああ、そうだな。俺たちは変えていいのかすら分からなかった。」
「でもその使命をそれまで投げずに持てたのは。
 まぎれもなく、君が勇者だったってことだよ。」
「ああ、そうだな。俺とライコがな。」

 俺たちはライコが勇者だって知っているけど。ライカは知られない限り二人が勇者だと言い張るようだが。

「勇者は二人でも……ライコ君にとっての勇者は君だろうね。」
「ああ。言われるまでもねえ。」
「はははっ。君は随分と勇者だね。じゃ、ステラ、行こうか。」
「はい。」

 俺とコリスさんは、再びアイテム探しに戻っていった。
 再びライカとライコの二人になると。

「行っちゃったね、ライカ君。」
「ああ。行ったけど、なーんかあの二人とは、これっきりって気がしねーな。
 多分印象が強烈すぎて、忘れるとかそういう気持ちもないんだろうな。
 特に女の方。」
「もう一人のお兄さんの方も、優しそうな人だったけど。」
「あっちは何というかこう……お前みたいだったな。」
「えっ、そうなの?」
「ああ。俺とポジションを逆にした感じというかこう……まあそういうのはどうでもいい。」
「うん。」
「あの人たちの目的って何だろうな。」
「教えて貰えなかったから、言えないことなんだろうね。」
「まあ、目的は大体、済ませたし、帰るか。」
「そうだね。」

 ライカ達も帰ることにした。

 ・・・・・・。

「……ぐうう。お前、手数で押してくんなよ。はえーんだよ。」
「だって、手なんて抜けないよ。」
「ああ。言ってみただけだから気にすんな。抜いたら怒るからな。」
「でしょう?」

 夜になって、アサシンには有利な日の明るさになると。朝の時よりも死角からの攻撃が増え、鍔迫り合いになっても体術でも押してくるライコにあっという間に負けてしまう。足技でバランスを崩し、刃物を持った相手と戦う体術のカウンターのように投げ飛ばされた後、ライカは床に大の字で倒れたままだった。

「よっと。」

 ライカが気合を入れるようにがばっと起きると。

「俺も体術、覚えるかな。どーも剣だけだとお前にやられちまう。」
「でも、片手剣と盾でしょ? 体術も覚えるの?」
「こういうのは実戦でどうなるか分かんねーんだ。
 最悪、お前みたいにナイフと謎の体術で戦うかもしれねーだろ。
 何でも覚えておくんだよ。というかお前の戦いがトリッキーなんだよ。」
「アサシンだからね。」
「ああ。だからそっちも、習うなら強いやつと手合わせをだな。」
「うん。いいよ。やってみよう。」

 という訳で、お互い武器を置いて、体術でやることにしたのだが。

「覚えることは一つや二つじゃねーし、更に手の組手だけじゃなくて脚の体術もあるのか。
 ナイフ捌きは……後ででいいか。」

 とりあえず一人でも覚えられる素振りを教えて貰ったが。勇者のスキルで身体で覚えるのは早いが、体術の組み合わせは複数あって、一つ一つ覚えていくと頭がこんがらかりそうだった。しかもライコはこれを実戦で行うのだ。

「お前、改めて思ったけど、すごいな。」
「ライカ君の専門職(ジョブ)じゃないからだよ。ライカ君は剣士寄りの戦士だもん。」

 この国の剣を扱う戦士は、剣と盾と、ブーメランのように投げる投擲用の剣と。そういったものを振るって戦うが。飛び道具がある時点で、これはこれでトリッキーと言えよう。ライカはさらに魔法も扱うし。これに慣れてきたところでライコとの戦いで自分の手数としてまだ弱い、体術や身体捌きまで覚えようとしている。

「私も、ショートソード(短いがナイフよりも長い剣)扱ってみようかな。」
「大ぶりのナイフの方がいいんじゃねーのか。」
「うん。やれることは増やしていこう!」

 お互い、特徴が違う者同士での鍛錬をこなしていくと。いつの間にか肉弾戦でも刀を扱った戦いでも戦えるようになっていく、手数も広い戦士として育っていきそうだった。

「うん、じゃあ、よ。」
「なに? ライカ君。」
「また……風呂、入るか?」

 ・・・・・・。

「また俺が先か。」

 大浴場に入ると、侍女に声を掛けたら香りのする香草や花、ここの岩塩などが混ざった入浴剤を渡された。風呂に浮かべる用の香水のような匂いのする野の花も持たされた。匂いもよかったからライコに見せようと思っていたのに来るのがまた遅かった。

「まあ、女の準備にゴチャゴチャ言っても仕方ねー。何かあるんだろ、知らねーけど。」

 ライカは再び、身体のチェックをしつつ洗っていくと。

 ぎいい……。

 自分が泡まみれになったところで戸が開きライコが入ってきた。

「あ、ライカ君。先に来ていたんだ。」
「お、おお。しばらく訓練が続きそうだし、入浴剤と花、貰ったぜ。
 お前、訓練だけだったら痕跡がこのくらいだったら残ってもいいだろ?」
「う、うん……。塩湖の方は、塞いじゃったんだっけ。」
「ああ。大変だったらしいぜ。頭と終わりを埋めるのが届かないところは。
 掘って埋めたんだってよ。」

 お互いが裸のため、視線が定まらずに会話をしてしまう。ぺたぺたとライコがライカの横に来て、座って体を洗おうとすると。

「おい、ライコ。」

 ライコの後ろで声がする。

「えっ?」
「俺も洗ってやるの、手伝うよ。」

 ライコの持っていた布と石鹸を手に取ると手を滑らせライコの肌をなぞっていく。

(泡まみれだと……滑らかさとか、つるつるする感じとか、泡のフワフワ感とかあるんだな。) 

 泡に塗れたライコの身体はつるんとしていて、泡でどこまでも滑ってしまいそうだった。泡の奥にある体の部位を探り当ててしまうと、つまんだり撫でるようにしていてもつるつると滑ってしまう。

「あっ、あっ。ら……ライカ君。変な洗い方は……しないで。」
「変って。どう変なんだよ。」
「へ、変なのは、変……く、くすぐったい。」

 ライカはライコの乳房を手のひらで回すように、滑りがいいからいつもより速く回して撫でている。

「俺がくすぐるように泡で洗うときは……こうだ!」

 ライカが指先でライコの脇をなぞると。こちょこちょとそこから脇腹まで往復していく。

「うっ、ああっ。やっ、やあっ、やだあっ!」

 ライコはいつもより跳ねて逃げるように反応している。

「なあ、ライコ。立ってみろよ。」
「はーっ、はーっ……う、うう……っ。」

 息が荒くなった状態でライカに抱きしめられながら、ライコが立つと。既に屹立した肉棒がライコのお尻に当てられる。体勢が固まるとライコはライカにお腹を抱いて抱きしめられた。

「……。」
「どうしたの?」
「あ、いや。結構気持ちいいんだなと。」

 ライカはライコを抱いた感触で一瞬、それで頭がいっぱいになっていたらしい。フワフワの泡に包まれた体になるとこんなに気持ちいいのかと思っていたようだ。

「うん。いいよ。このままでいる?」
「ああ。ちょっとだけな。」

 そうして、お互いの身体の感触を堪能していると。ライカがときどき、ライコのお腹を撫でている。

(ライカ君……肩、大きいな……細く見えるのに、私より大きいんだ。)

 しなやかで、まだがっちりはしていない体つきでも、それでも自分よりもつくりはシッカリしているように見えるし、実際、こうされてみると自分を抱いている腕の肉の付きとか細いのにしっかりした手つきとか……は油断するとどこを触ってくるか分からないから、たまにはそういうことを無しでしてくれればいいのになと思いながら……いつの間にか手を重ねて撫でていたようだ。

「う……っ?」

 ライカが撫でられただけで体を震わせている。

「な、何だよいきなり。」
「あ、あのね、ライカ君。」
「おう。」
「こういうこととかも、したいな。」
「何だよこうって、何すればいいんだよ。」
「だからこう……ふざけないで体をくっつけているとか。」
「……ああ。悪かったな。
 今になってそういうこととか自分からやる気になれなかったんだよ。」
「うん。ライカ君、いつも私の前じゃそうだったもんね。」
「あ、ああ……。こうしているのも結構気持ちいいよな。」

 本当は未知の感覚に目覚めてしまいそうなところまで来ていたがライコには言えないライカ。それでも今までのことを思えば十分素直にライコに打ち明けているだろう。性行為をさせてくれる相手に対しては素直にもなるのだろうかという穿った見方もあるがライコはそこまで思っていないようだ。

「うん……。」

 大したことはしなくても、裸でくっつくようにしていると。お互いの顔は見えないがそれだけでも満たされるんだとライコは思っていたがライカはどうなんだろうと思っていると。

「……。」

 そろそろ動きたいのか落ち着かないようにソワソワしてる。

「な、なあ、ライコ、そろそろ……。」
「うん、いいよ。……あっ。」

 ライカの片方の手が乳房を撫で、もう片方は太腿の付け根を開かせるように内側からなぞっていく。手つきは今までよりも速く、撫でまわすようだった。

「あんまり、変な事はしないようにするけど、俺のことだ。期待はすんな。」
「う、うん……。んっ。」

 何で変なところで男らしいんだろうと思ったがそういうところもライカだ。自分の身体をぷに、と押すようにして、つうっと撫でていく。乳房も頂きを探ると指先で押し、くるくると撫でていく。

「んん……んっ、ああっ、あんっ、んんっ。」

 ライコが声を出すとライカがそこをさらに重点的になぞってくる。いつものことで、最初からそうだったが。ライカの行為はとても長く、探られるところを見つかっても長く、深みに嵌っても逃がして貰えないような捕らえられてしまったような愛撫だった。

「はあっ、ああっ、あうっ、あっ、あっ。やあああんっ。」

 乳房と同時に長く愛撫されていくと。いつの間にか太腿の内側まで性感帯になってしまったような気分になってくる。変な事をしないで、と頼めば、こういう愛撫がずっと続くのだ。

「あっ、ああっ。ら、ライカ君……あっ。」

 ライカの方にライコが寄りかかってしまうと、ライカが腰をもぞもぞさせ。肉棒を挟まっているところから出すと花弁に擦り付けてくる。

 ぬちゅっ、ぬちゅっ、にちゅうっ。

 花弁を撫でられていく内に。粘度と蜜の量を感じるような音が立ってもライコはどんどん意識が切ないものに塗り替えられていく。

「はあっ、はあっ。あ……っ。」

 ライコの息が荒くなっていくと、突然、角度が変わり、ライコの中に入ってくる。

「あ……っ、ああっ?」
「う……っ。きついな、お前の中。」
「あっ、ああっ。ら、ライカ君……っ?」
「ああ。ずっと擦るだけだったからな。そろそろいいだろ?」
「う、うん。入っちゃう……んだ。」
「何だよ、したくなかったのかよ。」
「う、ううんっ、そんなことはないけど、この格好なんだなって。」

 ライコは後ろから立ったままライカに貫かれる体勢だ。しかも場所は浴室で。最初はベッドでしていたから、するときはもう、所構わずになってしまったような気もする。

「あ……そうか。いやだったか?」
「そういう訳じゃ……ないけど。あっ?」

 ライカがまた、ライコの中を押し広げるようにぐりぐりと回していく。

「うううっ、ああっ!?」

 少しずつ、少しずつ、ゆっくりとライカの肉棒が自分の中に入っていく……。

「な、なあ、ライコ。ゆっくり息してみろ。」

 少しずつ入れようとしていたが。ライコの中が前よりも入りやすくなって、ときどき息を吐くとぽっかりと口を開けるように緩んでくるため。ライコにそれを促そうとするライカ。

「う、うん。すー……っ、はー……っ。んん……っ?」

 息をしている内ににゅるりと自分の中に入ってくる感触。

「その方が痛くないから、だから……。」
「そうなんだ。すー……。あっ。」

 ゆっくりと中に入ってくるのを感じている内にいつの間にか自分の腰とお腹を押さえていたライカの手が、腰の方から滑り、恥丘を撫でると指先で割るようにして花弁を触れて指全体で包むように撫でまわしてくる。

「あっ、ああっ!? あ……っ!」

 ビクン、ビクンとライコは痙攣していき。

(す、すげえっ。つ、つるつるして……ぷにってして。フワフワしてる……。)
(それに、滅茶苦茶小さい……。)

 泡越しから振れる底の滑らかな感触に、触れた途端、ライカも夢中になっていた。コリッとした突起に触れるとライコの身体がビクンと跳ね、さらに追いたくなってしまう。

「あっ、あっ、あっ、あああっ!?」
「ぐううっ。」

 ライコの身体が跳ねてくるうちにギュウウウッと中も締まり、きついところを更に締め付けてくる。

(ま、まだ俺は、入ってもいないんだ……出すわけには。)

 いつもライコとしているときは意地が入り込んでしまう。

「ら、ライコ……。」

 泡を立てるようにかき混ぜる動きだった手がさする手に変わる。

「うっ、ううっ。」

 それでも肉芽で感じるところまで仕上げられてしまったからか、撫でられるだけでもピクリと反応するライコ。それでも刺激は弱まったからか。ぐちゅりと蜜で中が溢れ、入りやすくなってくる。ぬちゅうっっと、粘膜の中を進むようにライカがライコの中に入ってしまうと。ようやくライカはライコの中に入れた。

「はあっ。ようやくか……。」

 一息付けたのか安堵するライカだが。ライコに触れている手を乳房と花弁の入り口に宛がい、今度はプニプニと押すように揉んでいく。

「んん……っ、あっ、あんっ、あうっ。」

 クチュクチュと腰を回されながら頂と花弁、肉芽を愛撫され、ライコの身体がまた、あっという間にびくびくと痙攣してしまう。

 じゅるっ……ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。

 僅かに腰を引くようになり、小刻みにだが腰を揺すっていくライカ。

「あっ……あっ! あっあっあっ、あっああっ、あうっ、あううっ、んん……っ。」

 最後はその体勢で、刺激でのけぞるようになると、ライカに頂と肉芽を直接こね回されるようになる。

「はああっ、あっ、ああ……っ。」
「きっ……きついっ、きついぃっ。」
「あっ、ああっ! いっちゃう、いっちゃうぅっ!」
「う……っ。」

 そういった類の声はよく聴いたものだったが。ライコの口からもそうなるとは思わなかった衝撃で、頭がおかしくなってしまいそうになるライカ。

 どくん、びゅぶぶっ、ずびゅぶぶっ!

「あ……っ。」

 長い愛撫と抽送からようやく解放され、まだ疼くような気持ちが残ったままぐったりとなるライコ。

「う……っ、ううっ、う……っ。」

 吐き出している間、ライカは心臓の鼓動が収まりそうになかった。

 ・・・・・・。

「うわあ。本当だ。いい匂い。」
「そうだな。」

 体を洗いなおして、手作りの入浴剤と花を浮かべると(ここではサボテンの花でもいい匂いの物があるらしい。)。ライコは風呂に浮く花を眺めていた。

「凄い贅沢だなー。」
「ああ。侍女が持ってきたときは何だと思ったが。そういうことなんだろうな。」

 二人で入ってロマンチックな気分でも演出してきたらという計らいなのだろう。どうして自分とライコが風呂に入るのを知っているのかと思ったがそう言えば護衛が中には入ってこないが付いているのを思い出した。もうティティも知っているだろうし中に入ってこないならいいかと思い流すライカ。

「今日は楽しかったね、ライカ君!」
「訓練もしたけどな、朝晩と。」
「うん。ライカ君もどんどんやること増えて行っているから、どんな形になるか楽しみ。」
「ああ。お前がナイフだの体術だの出してくるし、まだマヒ針だっけか? あれもあるし。
 接近戦と遠距離で無茶苦茶やってくるからだろ。しかもナイフ二本とは言え剣に勝つな。」
「ああ、あれは危ないから短剣か、レイピアで本当はやるんだけど。
 別の国の指南書に剣で戦う人相手に相手の力をいなしてカウンターを入れられる体術があって。
 ナイフ二本だと鍔迫り合いになるでしょ? そこで足払いをして組み伏せるか。
 がっちり挟んで投げ技になるって見つけて。」
「ありえねえ……。」

 自分がやってきたことを簡単にのしてしまうライコにやはり勇者のステータス以外でもこいつ本当は無茶苦茶才能あるんじゃないかと思ってしまう。
 
「とにかくだ。俺はアサシンにはなれねーが。やられっぱなしじゃいられないからな。
 俺も剣と合わせられる体術覚えるぜ。」
「うん。ライカ君の場合は剣と剣だったらリーチの差で脚は出せないと思うけど。
 鍔迫り合いになったときに相手の隙は突けるかも。そこで踏み込めば。
 その代わり手はケガしないようにして。ここは真剣でするからね。
 ガンドレットとかもあればいいかな。」
「お、おう。いつのまにかお前が師匠になっているな。」
「もともとそういう話だったじゃない。」

 花のような匂いに囲まれて随分と色気のない話をしているなと思ったがライカはとても真剣に聞いていた。

「武術って何でもやっとくといいんだな。」
「うん。相手がそれだけしか鍛錬していないなら不意を突けるからね。」
「そうだな。」

 いつの間にかライカがライコにじりじりと寄ってくる。

「このお湯、ちょっとトロっとしているな。」
「う、うん。」
「ヌルッとしているし。触ってみたいと思わないか?」
「な、何を? きゃあ!」
「こんな感じに……こう。お前だって正面からしたいって言ってただろ?」
「お、お風呂の中は……いやあー!」

 ライカに抱きしめられるように捕まって、今度は対面座位で行為をすることになった。
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