精霊の加護の科学都市

白石華

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精霊の加護の科学都市

動き出した状況

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「パパは……いない。まだ午前中だもんね。」

 学校から直々に避難勧告が出た今、荷物をまとめて避難先に向かうことにした私だが、パパがいれば避難する時の報告ぐらいはしておいた方がいいだろうと思ったが、当然のことながらいなかった。

「書き置きだけ残していくか。あとは……生活に必要な物と。」

 避難先は当然のことながら、精霊装置が作動する場所かどうかは分からない。ちょっとしたキャンプ道具と避難時でも食べられる携帯食、水をろ過する装置に……持てる範囲で持っていく事にする。

「どれだけの人が避難するかは分からないけど。この都市の精霊の卵に込められた魔力は……。
 精霊装置を作動させたまま、信仰する人が一気にいなくなれば減少もするはず。」

 精霊の卵に込められた魔力は充填式だ。しかも、ここに住んでいる人たちの信仰心によって、貯め込まれるのである。いなくなれば当然、減ってもいくわけで。この状態で家の冷蔵庫や待機魔力を用いる装置、外の街燈など、装置を用いるものを作動させていて抜いていくかすれば、微々たる量であっても減らすことは可能だ。
 つまり、向こうに何かされる前に市民を避難させて、精霊の卵の魔力を抜いてしまえば無効化も可能なのである。だから市民全員がそうだが、精霊信仰している者は特に、全て避難が勧告されるのである。

「テレビだけ点けとこう。これも魔力を用いるからね。」

 私は準備が整うまで、スイッチを点けておいて。魔力を用いる装置を作動させようとすると。

「――緊急事態です。今入ってきた団体からの声明を記録した映像によると。
 既に精霊の卵に待機・警備していた軍を一部制圧。そして精霊の卵の外殻に。
 破壊装置を仕掛けたとの情報があり。
 人質解放を求めるなら、ここから軍を撤退させろとの事実上のクーデターを要求して――」
「――え……?」

 テレビには制圧した軍の人たちの映像も映し出されていたが。そこには――

「――パパ!」

 パパの姿もいた。装備は特殊班のような格好をしているが特徴的な獣人の姿と体躯は見間違えるはずがない。

「――しかし政府の見解は未だ出ておらず、早急な対応が求められている状況です。
 新しい情報が入り次第、引き続き連絡をいたします――。」

 テレビの方でも今の状況から進む気配はなく。監視カメラからリンクして流れている精霊の卵付近の街の外観を映すのみだった。 

「ど、どうしよう……パパが、捕まっちゃった……。」

 朝、聞いていた話よりも遥かに深刻な状況になっていて。私は愕然とするのみだった。

「パパ……私……どこに行けばいいの?」

 避難勧告は出ている。みんなもそうしているように私も避難して、精霊の卵も魔力が尽きれば無効化させられるかもしれない。しかし。パパはどうなるの? こんなに早期に制圧が行われたのなら、きっと魔力が尽きる前に何らかの行為が行われるだろう。それまでパパが無事でいるという保証はない。

「どうしよう、どうしよう。どうし、よう……。」

 私は焦る一方で、避難する事すら頭から消えてしまいそうだったが。 

 リリリリッ、リリリリッ!

「え、こんな時に電話!? 誰から……。」

 突然の、私の恐怖を破るように電話が掛かってきて、慌てて取ると。

「リリーシャ、ニュースは見た!?」
「マチルダ? なんで。」
「リリーシャの家の前を通ったんだけど、明かりが点いたままだったの。
 まだ避難してないの? 早く私たちも避難しないと。」
「う、うん。それは……知っているけど。」
「何か出られない理由があるの? 聞いてあげるから話してみて。私が解決してあげる。」
「無理よ……そんなの。」

 マチルダは学園では優等生でもクーデターを解決することはいくら何でも無理だ。それにしても随分と頼もしい言い方で。ちょっと今の心境だと、助けを求めたくなってしまう。

「話してみないと分からないでしょう? そういう時は誰かに助けを求めなさい。」
「話す……だけよ? 誰にも言わないで。」
「うん。」

 こんな状況である。外部に漏れるとかそういうことを気にする状況ですらなくなっている。だからだろう。私はマチルダに話してしまってもいいかという気持ちになっていた。

「パパが……パパって、私のパパで、軍人なんだけど……。」
「うん。」

 マチルダは私の説明にも随分と冷静に聞いてくれていた。

「今ニュースに出ている通り、精霊の卵が制圧されて。
 警備か何か分からないけど精霊の卵の、破壊装置を仕掛けられたところに配備されていて。
 ……人質として捕らえられているの。」
「そう。リリーシャはどうしたいの。」

 私の告白にマチルダは随分と冷静だった。

「どうしたいのって。私。避難しないとなのに。ここを動けない!
 何をしていいのか分からない……!」
「そうじゃなくて。リリーシャは、何をしたいの?」
「何をって、何を聞いているの?」
「私なら、リリーシャの助けになってあげられる。」
「……え? 助けるって、私を?」
「ええ。だから、リリーシャが今、助けてほしいことを言って。」
「わたしの……?」
「うん。言ってくれれば、助けられるから。」
「まって、そんなの、無理よ……。」
「ううん。リリーシャは精霊魔法が扱えるでしょ。」
「扱えるだけじゃ、パパを人質に取った団体から助ける事なんて、出来ない……!」
「やっと言ったわね。パパを助けたいって。」
「え?」

 マチルダは随分と頼もしい言い方で。

「リリーシャのパパを助けたいんでしょう?」
「う、うん。そうだけど、でも、出来るの?」
「出来るわ! それにはリリーシャの魔法が必要なの。私に力を貸して。そうすれば……。」
「ほ、本当に?」
「本当よ!」

 力強い言い方に何故かその時の私はマチルダの言う事をスッカリ聞いてしまっていた。

「だからリリーシャ。私があなたを助けられるって信じて。パパを助けたいって強く思って!」
「う、うん。マチルダ……!」

 これが一体、何のおまじないになるのだろう。精霊は他にも信仰していたが、それに近い気持ちでマチルダを信じてしまっていた。

「あなたが私を信じてくれるなら、私もあなたを助けられるわ!
 だからあなたの力を私に貸して。」
「さっきから言ってるけど。力って何を……。」
「あなたが、家事をするために覚えた魔法よ!」
「……。えっ?」

 途中までは盛り上がっていたのに。私は一気にズッコケてしまった。

 ・・・・・・。

「まさか本当に特殊工作員みたいなスーツが作動するとは。」
「だから言ったでしょ。これは精霊装置を繊維にした装備服よ。」

 マチルダが私の前にやって来て見せたのが、スーツで。これを着てステルススーツとして扱うために魔法を使ってほしいとやってきたのだ。

「言われてみれば風(空気)の魔法で迷彩をするんだっけ。」

 空気を通す光の屈折もだが揺れまで消してしまうから、マチルダの光と闇の魔法で更に迷彩加工を施し、更に水の精霊のミスト魔法で匂いと音を遮断。こんなことに用いられるんだなと感心してしまった。

「まあ、これは私の趣味で作っていた服なんだけど。いい感じでよかったわ。
 こんな感じで用いられると思わなかった。」
「どんな趣味よ。」
「今、こうして威力を発揮しているんだからいいじゃない。
 さあ。あなたのパパを助けましょう? リリーシャは私の指示に従ってくれればいいから。」
「本当に、大丈夫なのね?」
「ええ。大丈夫よ。」
「人心掌握術抜きで言ってる?」
「あのね。こんな形で二人で忍び込んで。何かあったら私までなるのよ。
 二人で街を巻き込んで心中でもしたいの。」
「いや。」

 私はキッパリと答えた。

「でしょう? とにかく、こうなったら、あなたは私の指示で動いて。
 パパを助ける事だけ頭にあればいいから。」
「うん。ありがとう、マチルダ。」
「礼はいいわよ。さ、早くパパを助けましょう!」

 こうして、マチルダと私で、精霊の卵へ向かって。パパの救出作戦が始まったのであった……。
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