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君と紫陽花の咲く頃に
リンリンの突発イベント
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「ねえ、ランラン。」
「何だよリンリン。」
話はまた、現代に戻って。
「ランランって本当、いい人だよねー。」
「何だよ。いきなり褒めタイムけ?」
「いんやあ。こんなにやりたい放題やっている私にですね。着いてきてくれたなと。」
「俺もさ、毎回それ、言われるけど、実は俺、そんな扱いひどかったの?」
「そういう訳じゃないよ。他の人はめんどくさがっていなくなるか来すらしなかっただけ。」
「ほう。」
「だからね、ほんとランランが来てくれてね。」
何の話かと思ったら、久しぶりのリンリンの、危うく大学時代で一人で過ごしかけた、人の来ないマイナーサークルの悲哀の話だった。
「んんー。藤、藤。」
「今度は何だよ。」
「藤が見たい。」
「だから今度の休みに行こうって言ってるだろ。」
「そうなんだけど、休みにも行くけど、近所の所に穴場があってね。」
「へー。住宅街にもそういうのあるのか。」
「うん。さっそくだから行こうぜ。」
「あーいよ。」
というわけで近所というリンリンの言葉を信じて行くことになった俺。リンリンの思い付きで突発的なイベントが起こるのも慣れたものである。
「ほらー着いた。」
「おお。」
どこに連れていかれるのかと思ったら本当に近所で、裏の坂にある岩垣の壁にはびこる藤だった。
「さすがにお花見はやれそうにないけど眺めがいいじゃない?」
「そうだな。」
「それに、そろそろ日暮れでしょ?」
「うん。」
リンリンが昇ってきて、今俺たちが見ている方と反対側を向く。
「ここから街の景色と夕暮れを見ながら、赤く染まる藤を見るのさ。」
「へー。」
さすが文系。花鳥風月は美しいから需要があるし人も美しく詠みたがる。そういう風情を楽しむ情緒を持ち合わせているのか。見た目、本能で動いている野生児みたいなのにな。
「何か言ったかねランラン。」
「へーとしか言ってませんが?」
「でも、いい景色でしょ?」
「そだな。藤も野生のなのかな。」
「いくらでもはびこるからね、藤は。」
「ああ。雑草みたいなもんだけど花はでかいし、きちんと育てればきれいだけどな。」
「あ、そろそろだよ、ランラン。」
「……お。」
あたりを夕焼けが占め始め、ちょうど俺たちの姿が夕日に反射されるようになる。
「ほら。藤が綺麗。」
「ほんとだ。」
藤まで赤紫色と深い藤色で染まり方が綺麗だった。
「夕焼けは何でも綺麗にしちゃうね。」
リンリンが俺の横で情緒的なことを言っている。
「そうだな、都会の敵、カラスまで綺麗に見せるからな。」
「うんうん。街だってさ、普段見慣れているよりずっと綺麗だよ。」
「ああ。昼間じゃ寄り付きもしない店まで綺麗だな。」
「空ももちろん、綺麗だし。」
「うんうん。空は綺麗だけど見慣れた景色は見ようとすらしなくなるからな。」
「山が赤いのも綺麗だし。」
「郵便ポストは最初から真っ赤だな。」
「ランラン。そろそろ褒めるのをしぼらないかね?」
「あん?」
「もー。私のことだって綺麗って言ってよー。」
「なんかそんな流れになりそうだから、敢えてスルーしてた。」
「ちっ。ムードを無視しやがって。」
「いや、リンリンの綺麗さは約束された綺麗さだから。
敢えて夕日というシチュエーションに頼らなくても十分、綺麗だ。」
「ぐおっ。来ないと思っていたところに強いのが来た。」
リンリンは本当に効いたのか腹を抱えてヨロヨロしていた。
「うん。リンリンの見せたかった景色って、これ?」
「そうだよ。これ。」
「ふーん。」
俺はリンリンの教えてくれた景色を見渡した。確かにいい眺めである。
「綺麗だよな。」
「でしょう?」
ちらりと横を見ると夕日に映えたリンリンの横顔を何だかずいぶん、久しぶりに眺めたような気がする。場所は短い坂だが山を登った後のような達成感もあるし。その後にこの景色だと吸う空気まで美味しくなりそうだ。
「日が落ちるまで、ここにいる?」
「うーん。危ないから暗くなる前に帰ろう。」
「おーけー。」
こうして、リンリンの突発的な思い付きイベントは終わった。
「何だよリンリン。」
話はまた、現代に戻って。
「ランランって本当、いい人だよねー。」
「何だよ。いきなり褒めタイムけ?」
「いんやあ。こんなにやりたい放題やっている私にですね。着いてきてくれたなと。」
「俺もさ、毎回それ、言われるけど、実は俺、そんな扱いひどかったの?」
「そういう訳じゃないよ。他の人はめんどくさがっていなくなるか来すらしなかっただけ。」
「ほう。」
「だからね、ほんとランランが来てくれてね。」
何の話かと思ったら、久しぶりのリンリンの、危うく大学時代で一人で過ごしかけた、人の来ないマイナーサークルの悲哀の話だった。
「んんー。藤、藤。」
「今度は何だよ。」
「藤が見たい。」
「だから今度の休みに行こうって言ってるだろ。」
「そうなんだけど、休みにも行くけど、近所の所に穴場があってね。」
「へー。住宅街にもそういうのあるのか。」
「うん。さっそくだから行こうぜ。」
「あーいよ。」
というわけで近所というリンリンの言葉を信じて行くことになった俺。リンリンの思い付きで突発的なイベントが起こるのも慣れたものである。
「ほらー着いた。」
「おお。」
どこに連れていかれるのかと思ったら本当に近所で、裏の坂にある岩垣の壁にはびこる藤だった。
「さすがにお花見はやれそうにないけど眺めがいいじゃない?」
「そうだな。」
「それに、そろそろ日暮れでしょ?」
「うん。」
リンリンが昇ってきて、今俺たちが見ている方と反対側を向く。
「ここから街の景色と夕暮れを見ながら、赤く染まる藤を見るのさ。」
「へー。」
さすが文系。花鳥風月は美しいから需要があるし人も美しく詠みたがる。そういう風情を楽しむ情緒を持ち合わせているのか。見た目、本能で動いている野生児みたいなのにな。
「何か言ったかねランラン。」
「へーとしか言ってませんが?」
「でも、いい景色でしょ?」
「そだな。藤も野生のなのかな。」
「いくらでもはびこるからね、藤は。」
「ああ。雑草みたいなもんだけど花はでかいし、きちんと育てればきれいだけどな。」
「あ、そろそろだよ、ランラン。」
「……お。」
あたりを夕焼けが占め始め、ちょうど俺たちの姿が夕日に反射されるようになる。
「ほら。藤が綺麗。」
「ほんとだ。」
藤まで赤紫色と深い藤色で染まり方が綺麗だった。
「夕焼けは何でも綺麗にしちゃうね。」
リンリンが俺の横で情緒的なことを言っている。
「そうだな、都会の敵、カラスまで綺麗に見せるからな。」
「うんうん。街だってさ、普段見慣れているよりずっと綺麗だよ。」
「ああ。昼間じゃ寄り付きもしない店まで綺麗だな。」
「空ももちろん、綺麗だし。」
「うんうん。空は綺麗だけど見慣れた景色は見ようとすらしなくなるからな。」
「山が赤いのも綺麗だし。」
「郵便ポストは最初から真っ赤だな。」
「ランラン。そろそろ褒めるのをしぼらないかね?」
「あん?」
「もー。私のことだって綺麗って言ってよー。」
「なんかそんな流れになりそうだから、敢えてスルーしてた。」
「ちっ。ムードを無視しやがって。」
「いや、リンリンの綺麗さは約束された綺麗さだから。
敢えて夕日というシチュエーションに頼らなくても十分、綺麗だ。」
「ぐおっ。来ないと思っていたところに強いのが来た。」
リンリンは本当に効いたのか腹を抱えてヨロヨロしていた。
「うん。リンリンの見せたかった景色って、これ?」
「そうだよ。これ。」
「ふーん。」
俺はリンリンの教えてくれた景色を見渡した。確かにいい眺めである。
「綺麗だよな。」
「でしょう?」
ちらりと横を見ると夕日に映えたリンリンの横顔を何だかずいぶん、久しぶりに眺めたような気がする。場所は短い坂だが山を登った後のような達成感もあるし。その後にこの景色だと吸う空気まで美味しくなりそうだ。
「日が落ちるまで、ここにいる?」
「うーん。危ないから暗くなる前に帰ろう。」
「おーけー。」
こうして、リンリンの突発的な思い付きイベントは終わった。
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