17 / 22
君と紫陽花の咲く頃に
藤の化身
しおりを挟む
「という訳でランラン、藤の花見をしよう!」
「おう。約束だからな。」
話は今に戻って。こないだリンリンと青姦をした……というとリンリンに怒られそうだが桜の花見をした自然公園に向かうことにした。
・・・・・・。
「イヤー新緑が綺麗だね、ランラン。」
「そうだな。お、藤棚があった。」
自然公園の中を歩いていくと、リンリンと同じ髪の色をした藤の蔓が棚に絡まって屋根になっているベンチを見つけた。
「見ていくのか?」
「そうだね。屋根の下から見る藤も綺麗だけど一番の見どころは公園広場だからね。
チラ見で行こう。」
「うーい。」
という訳で通りがかりに藤を見ていくが、まだ規模としては序の口でも十分綺麗だったし、マメ科の花が房になってたくさん垂れる姿は見事だった。こんなに綺麗なしだれた花がたくさん見られるんなら、そりゃ桜の季節が終わってもまだ花の季節だなと思ったのだった。
「お、公園まで来たな。」
自然公園の奥まで歩いていくと。大きな広場の半分を囲むようにぐるりと藤棚があってベンチも用意されていた。
「おおお……これは確かに見事。」
「だよねー。」
ベンチの所には結構な人がいて。写真を撮っている人だっていた。無料で入れるうえに藤も見事だもんな。
「今回は、ベンチで座るのは最初から期待していなかったため。
ピクニックシートを用意してきました!」
「おおー、準備がいい。」
リンリンがバッグからピクニックシートを取り出し、藤近くの芝生に敷いてお弁当を広げていった。
「弁当は買えばいいから楽だね。」
「そうだな。食べるのが偏らないように気を遣えば別に……お。」
リンリンが持ってきたのはサラダと野菜スティックとおつまみハム、レンチンしないで冷めたままでも美味しそうな主菜が挟まれたサンドイッチだった。サンドイッチも具が豪華になったよな。
「別に、こんなもんでいいかなと。」
「うん。作らなくても俺は別にいいし。」
「いつもすまないねえ、ランラン。
ご飯は作れないことはないんだけど朝早く起きるのがね。」
「いいのよおとっつあん、俺も朝早く起きたくないからね。」
「あと単純に、買ったやつの方が見た目も綺麗だし美味しそうだからね。あと衛生。」
「コンビニ弁当の商品開発はすごいよな。」
「うん。あとはウーロン茶に。紙コップに。」
リンリンは後で洗う手間もないものばかり持ってきていた。手間は捨てるだけだし、お弁当にそこまで張り切るのは、張り切りたい人がすればいいだろう。手間暇をかけた料理じゃないと母や妻として失格、という風潮はやれる人はいいだろうが。やれない人や負担が多い人には楽な手段がないと主婦って続けられないだろうし。
ましてや片親や父子家庭、一人暮らしを早くから余儀なくされた人だったりすると、便利に越したことはないだろう。調理する機会がなかったまま、そうなった人だっているだろうからな。
「ウーロン茶なら言ってくれれば俺、しょってきたぞ。」
「買ったのは自然公園近くのコンビニだから大丈夫。」
「うん。でも次は言えよな。」
「はーい。あとはー、これ!」
「おお。」
リンリンが持ってきたのは、小さな藤の花の形をした練りきりだった。
「お花見ですからね。ここはやはり和菓子は持って来ようと思いました。」
「よし、いいぞリンリン。」
「甘いもの食うから、後でしっかり歩くように。」
「オッケー。」
甘党には甘いものはどうしたって食いたくなるものだから、ウオーキングの習慣はセットで付いてくるものだった。朗読会をしていた頃も甘いものを食べた後は、リンリンに街を連れまわされたしな。
「という訳で、いただきます。」
「いただきまーす。」
むしゃむしゃとリンリンが用意してくれたお弁当を平らげていくと。
「藤が綺麗だねえ。」
リンリンはウーロン茶を飲みながら藤を眺めていた。
「そうだな。房になって、蔓に垂れるようにたくさん咲くと綺麗だよな。」
「私の部屋の入り口も、ああいうのにしようかな。」
「ああ。ジャラジャラしている暖簾みたいなやつな。アレなんて言うんだっけ。」
「んん……?」
リンリンが首を傾げた。
「アレ……なんて言うんだろう、アレ……。」
「俺もちょっと記憶があやふやで。」
「しかも藤だと綺麗だけど、そういうのはないだろうから自作を余儀なくされ。」
「いいじゃん。作りたいなら作ってみろよ。どうやって作るのか知らないけど。」
「花にはしないよ。そういう色の球を羊毛フェルト細工かなんかで作ってだね。」
結局、スマホで調べたら、たまのれんと出てきた。そのまんまだった。ジャラジャラしたのれんで調べたら出てきたから、みんなこれで検索しているのだろう。名前をいきなり聞かれても知らないよな。
「そういえばランランも、藤の花を題材にした詩の朗読はしたんだよね。」
「ああ。桜よりもずっと簡単だったな。」
「今でも詠める?」
「うーん……見ないと細部は思い出せないけど、どんな話だったかは覚えている。
藤の大木が滝みたいになっているやつだろ?」
「そうそう。藤自身が太い蔓になって大木になったので。大きく生えそびえているって。」
「懐かしいなー。またリンリンとフィールドワークに行かされるのかと思ったら。
学校に生えてて楽だった。こんなイメージかってイメージ帳も付けられて。」
「うん。やっぱり自分の目で確認したものって想像から自分のイメージで上書きするからね。
それは読んで、イメージを付けるなら自分でも見た方がいいよ。」
「やる習慣は付いたけど、ホント桜よりも簡単だった。」
「ごめんよー。でもその後でもランランが着いてきてくれてよかったよ。」
「うん。あのさ、リンリン。」
「何?」
「もうリンリンって朗読やらないのか?」
「やる場所と機会がないからね。そういう経験もしたって思い出には残っているよ。」
「まあ、カルチャースクールとかでやるにも俺たちがしたのって小規模少人数だしな。」
「そうそう。詩だって、あっという間に終わっちゃうでしょ?」
「うん……せっかく、あんなにかっこよく読んでいたのにもったいないってさ。」
「今やっていること、それとはあんまり関係ないけど、趣味で本は読んでいるし。
ランランと遊ぶことは続けているでしょ?
ランランがいるから、今までしてきたことは全く無くなったわけじゃないし。」
「あ……うん。」
そっか。俺たちが朗読研究会でしてきたことで何が残ったかって思う事とかもあったけど。俺とリンリンがこうしているのは確かにあの時の証ではある。
「そんなに私の声が聞きたいならマンションで読んであげるよ。」
「ああ、うん……近所迷惑にならないようにな。」
リンリンは人前で本を読めるんだから、そういう事とかを職業にするのかと思ったら、趣味で終わっちゃったもんな。だからどうだっていう事はないけど。リンリンはあんなに本読んでいたり俺に読み方を教えてくれていたりしていたから大学卒業とサークル廃部と同時に綺麗さっぱりやらなくなったことが俺には区切りが良すぎるなと思っただけなんだろうけど。趣味とかサークル活動って自分の人生にそこまで関わりなければそんなもんなんだろうか。
「まだ腑に落ちてないようだねランラン。」
「いいや。俺の人生で朗読がどこまで関係あるかを思ったけど。
そういうので生計立てられなかったら、そんなもんなんだろうなと思ってもいた。」
「いいんだよランラン。
サークルでやっていたことをランランがこうして覚えていてくれているだけで。」
「うん……。ん?」
「どしたのランラン。」
リンリンが藤をバックにしていたら一瞬、リンリンが髪の毛の色が藤色だったからなんだろうけど、また藤の花の化身に見えてしまった。ちょうど、藤棚から伸びた蔓が後ろに生えている大木にも絡まってそこだけ滝みたいに見えていたからなんだけど。
「いや、バックにあるのも滝藤だなって。」
「あ、そういえばそうね。しかも結構でかい。」
「滝藤ってこんな感じだったのかもしれないな。」
「すくすくと伸びて、すくすくと広がる。」
「あ。」
リンリンがサークル時代に読んでいた藤の詩を読み始めていた。
「絡まり、太くなり、またすくすくと。伸びては絡まり、また伸びる。」
「伸びる、伸びるよどこまでも。」
俺もリンリンに追って詩を読んでいた。
「伸びていったその先は。枝を広げ、葉を広げ。桜の季節が終わる頃。」
「桜が咲いて散った頃。」
「桜の散る頃、咲き乱れ。その姿は滝のよう。」
「飛沫を残す滝のよう。」
「静かに咲きたる、大きな房。それをいくつも集めて垂らす。」
「流れゆく滝藤。」
最後まで読んでしまった。
「うん。結構覚えているもんだね、ランラン。」
「ああ。読んでくれたんだ。」
「たまにはね。ランランにも、桜の声、聞こえるかどうか前にも私、聞いたし。
確かにね、サークル活動は楽しかったから。」
「うん。そうだな。あんなに甘いものを教えてもらえるとは思わなかった。」
「お茶だって飲んだし、本屋とかフィールドワークとかで遊びまわったし。
やらなくなったのは朗読関係だけで、それ以外のことは続いているけど。
ときどきふと、あの頃は思い出したくなるんだよね。」
「そうだな。俺も、そうだったからリンリンにも確認したかったのかもな。」
「そりゃ覚えているし思い出したりもするわよ。ランランとの馴れ初めだし。」
「……うん。」
それからはまたのんびりと、リンリンと藤を眺めていた。なりを潜めたと思っていたけど。俺も創作に打ち込んでいるときは女性を創作のキャラとして飛び出てきたように見えたり、花の化身に見たりしてしまう癖は相変わらず残っていたらしい。それだけハマっていたっていう事なんだろうけど、リンリンはそう見えてしまう人なんだろうか。
「ふえーい。帰ったよい!」
「おかえりんさい。」
俺たちはリンリンの予告通り、今回は裸族にならずに来たままの格好でマンションに戻ってきた。
「あー藤いっぱい見られた。藤充ですね。」
「俺も見たわー藤。桜の後に藤だもんな。
こんだけ花見をしても六月にはまだ紫陽花もあるんだぜ。」
「そうだねえ、ランラン。紫陽花も自然公園にはあったよ。ウオーキングコース周りかな。」
「どんだけ季節の花を揃えているんだろうな。」
リビングのソファに座って、リンリンがお茶を持ってきてくれて。二人でゴクゴクと飲みながら話をしていた。
「お、お茶うまいな。ちょうど今、暑かったし。」
「ねー。水とお茶を冷やして飲むだけだからね。そんなに日持ちしないから飲んで飲んで。」
「おう。」
水は割と飲んでしまう方だから、暑い中を歩き回ったのもあって二杯くらい飲んでしまった。
「ふー。一息ついたな。」
「うん。お茶美味しい。来月は紫陽花で、再来月は花はなくても七夕はあるね。」
「そしたら、笹とかひまわりとかを見て回るのか?」
「笹ってさ、竹と見分けがつかなくてさ。」
「竹の茂っている葉っぱ部分を折って、笹って言えば信じてしまう自信はあるな。」
「違いって何だろうね。」
「幹に相当する部分の太さと伸び方じゃないのか。」
「うん。あとで調べよう。」
結構騙されることとかもあるしインターネット知識ってどこまで信じていいのかだが、笹と竹の違いで騙そうとする人はいないだろうと思い、調べてみることに。
「へー。もとは同じで大きさとか、茎にある皮とかそういうのの違いらしい。」
「ああ。それじゃあ細い笹っぽいのでいいのかな。」
「よく分からんけど。笹っぽい植物を挿しておけばいいんじゃないか。」
「うん。せっかくだから笹飾りとか付けとこうよ。」
「あー。一人じゃ絶対、やらないやつな。」
「そうそう。お部屋に挿しとくと気分いいじゃない?」
リンリンはこういうの好きそうだと思ったが思った通りだった。
「ああ。また風呂にでも入るかな。暑かったし。」
「そだね。」
こうしてまた、リンリンと風呂に入ったのだった。
「おう。約束だからな。」
話は今に戻って。こないだリンリンと青姦をした……というとリンリンに怒られそうだが桜の花見をした自然公園に向かうことにした。
・・・・・・。
「イヤー新緑が綺麗だね、ランラン。」
「そうだな。お、藤棚があった。」
自然公園の中を歩いていくと、リンリンと同じ髪の色をした藤の蔓が棚に絡まって屋根になっているベンチを見つけた。
「見ていくのか?」
「そうだね。屋根の下から見る藤も綺麗だけど一番の見どころは公園広場だからね。
チラ見で行こう。」
「うーい。」
という訳で通りがかりに藤を見ていくが、まだ規模としては序の口でも十分綺麗だったし、マメ科の花が房になってたくさん垂れる姿は見事だった。こんなに綺麗なしだれた花がたくさん見られるんなら、そりゃ桜の季節が終わってもまだ花の季節だなと思ったのだった。
「お、公園まで来たな。」
自然公園の奥まで歩いていくと。大きな広場の半分を囲むようにぐるりと藤棚があってベンチも用意されていた。
「おおお……これは確かに見事。」
「だよねー。」
ベンチの所には結構な人がいて。写真を撮っている人だっていた。無料で入れるうえに藤も見事だもんな。
「今回は、ベンチで座るのは最初から期待していなかったため。
ピクニックシートを用意してきました!」
「おおー、準備がいい。」
リンリンがバッグからピクニックシートを取り出し、藤近くの芝生に敷いてお弁当を広げていった。
「弁当は買えばいいから楽だね。」
「そうだな。食べるのが偏らないように気を遣えば別に……お。」
リンリンが持ってきたのはサラダと野菜スティックとおつまみハム、レンチンしないで冷めたままでも美味しそうな主菜が挟まれたサンドイッチだった。サンドイッチも具が豪華になったよな。
「別に、こんなもんでいいかなと。」
「うん。作らなくても俺は別にいいし。」
「いつもすまないねえ、ランラン。
ご飯は作れないことはないんだけど朝早く起きるのがね。」
「いいのよおとっつあん、俺も朝早く起きたくないからね。」
「あと単純に、買ったやつの方が見た目も綺麗だし美味しそうだからね。あと衛生。」
「コンビニ弁当の商品開発はすごいよな。」
「うん。あとはウーロン茶に。紙コップに。」
リンリンは後で洗う手間もないものばかり持ってきていた。手間は捨てるだけだし、お弁当にそこまで張り切るのは、張り切りたい人がすればいいだろう。手間暇をかけた料理じゃないと母や妻として失格、という風潮はやれる人はいいだろうが。やれない人や負担が多い人には楽な手段がないと主婦って続けられないだろうし。
ましてや片親や父子家庭、一人暮らしを早くから余儀なくされた人だったりすると、便利に越したことはないだろう。調理する機会がなかったまま、そうなった人だっているだろうからな。
「ウーロン茶なら言ってくれれば俺、しょってきたぞ。」
「買ったのは自然公園近くのコンビニだから大丈夫。」
「うん。でも次は言えよな。」
「はーい。あとはー、これ!」
「おお。」
リンリンが持ってきたのは、小さな藤の花の形をした練りきりだった。
「お花見ですからね。ここはやはり和菓子は持って来ようと思いました。」
「よし、いいぞリンリン。」
「甘いもの食うから、後でしっかり歩くように。」
「オッケー。」
甘党には甘いものはどうしたって食いたくなるものだから、ウオーキングの習慣はセットで付いてくるものだった。朗読会をしていた頃も甘いものを食べた後は、リンリンに街を連れまわされたしな。
「という訳で、いただきます。」
「いただきまーす。」
むしゃむしゃとリンリンが用意してくれたお弁当を平らげていくと。
「藤が綺麗だねえ。」
リンリンはウーロン茶を飲みながら藤を眺めていた。
「そうだな。房になって、蔓に垂れるようにたくさん咲くと綺麗だよな。」
「私の部屋の入り口も、ああいうのにしようかな。」
「ああ。ジャラジャラしている暖簾みたいなやつな。アレなんて言うんだっけ。」
「んん……?」
リンリンが首を傾げた。
「アレ……なんて言うんだろう、アレ……。」
「俺もちょっと記憶があやふやで。」
「しかも藤だと綺麗だけど、そういうのはないだろうから自作を余儀なくされ。」
「いいじゃん。作りたいなら作ってみろよ。どうやって作るのか知らないけど。」
「花にはしないよ。そういう色の球を羊毛フェルト細工かなんかで作ってだね。」
結局、スマホで調べたら、たまのれんと出てきた。そのまんまだった。ジャラジャラしたのれんで調べたら出てきたから、みんなこれで検索しているのだろう。名前をいきなり聞かれても知らないよな。
「そういえばランランも、藤の花を題材にした詩の朗読はしたんだよね。」
「ああ。桜よりもずっと簡単だったな。」
「今でも詠める?」
「うーん……見ないと細部は思い出せないけど、どんな話だったかは覚えている。
藤の大木が滝みたいになっているやつだろ?」
「そうそう。藤自身が太い蔓になって大木になったので。大きく生えそびえているって。」
「懐かしいなー。またリンリンとフィールドワークに行かされるのかと思ったら。
学校に生えてて楽だった。こんなイメージかってイメージ帳も付けられて。」
「うん。やっぱり自分の目で確認したものって想像から自分のイメージで上書きするからね。
それは読んで、イメージを付けるなら自分でも見た方がいいよ。」
「やる習慣は付いたけど、ホント桜よりも簡単だった。」
「ごめんよー。でもその後でもランランが着いてきてくれてよかったよ。」
「うん。あのさ、リンリン。」
「何?」
「もうリンリンって朗読やらないのか?」
「やる場所と機会がないからね。そういう経験もしたって思い出には残っているよ。」
「まあ、カルチャースクールとかでやるにも俺たちがしたのって小規模少人数だしな。」
「そうそう。詩だって、あっという間に終わっちゃうでしょ?」
「うん……せっかく、あんなにかっこよく読んでいたのにもったいないってさ。」
「今やっていること、それとはあんまり関係ないけど、趣味で本は読んでいるし。
ランランと遊ぶことは続けているでしょ?
ランランがいるから、今までしてきたことは全く無くなったわけじゃないし。」
「あ……うん。」
そっか。俺たちが朗読研究会でしてきたことで何が残ったかって思う事とかもあったけど。俺とリンリンがこうしているのは確かにあの時の証ではある。
「そんなに私の声が聞きたいならマンションで読んであげるよ。」
「ああ、うん……近所迷惑にならないようにな。」
リンリンは人前で本を読めるんだから、そういう事とかを職業にするのかと思ったら、趣味で終わっちゃったもんな。だからどうだっていう事はないけど。リンリンはあんなに本読んでいたり俺に読み方を教えてくれていたりしていたから大学卒業とサークル廃部と同時に綺麗さっぱりやらなくなったことが俺には区切りが良すぎるなと思っただけなんだろうけど。趣味とかサークル活動って自分の人生にそこまで関わりなければそんなもんなんだろうか。
「まだ腑に落ちてないようだねランラン。」
「いいや。俺の人生で朗読がどこまで関係あるかを思ったけど。
そういうので生計立てられなかったら、そんなもんなんだろうなと思ってもいた。」
「いいんだよランラン。
サークルでやっていたことをランランがこうして覚えていてくれているだけで。」
「うん……。ん?」
「どしたのランラン。」
リンリンが藤をバックにしていたら一瞬、リンリンが髪の毛の色が藤色だったからなんだろうけど、また藤の花の化身に見えてしまった。ちょうど、藤棚から伸びた蔓が後ろに生えている大木にも絡まってそこだけ滝みたいに見えていたからなんだけど。
「いや、バックにあるのも滝藤だなって。」
「あ、そういえばそうね。しかも結構でかい。」
「滝藤ってこんな感じだったのかもしれないな。」
「すくすくと伸びて、すくすくと広がる。」
「あ。」
リンリンがサークル時代に読んでいた藤の詩を読み始めていた。
「絡まり、太くなり、またすくすくと。伸びては絡まり、また伸びる。」
「伸びる、伸びるよどこまでも。」
俺もリンリンに追って詩を読んでいた。
「伸びていったその先は。枝を広げ、葉を広げ。桜の季節が終わる頃。」
「桜が咲いて散った頃。」
「桜の散る頃、咲き乱れ。その姿は滝のよう。」
「飛沫を残す滝のよう。」
「静かに咲きたる、大きな房。それをいくつも集めて垂らす。」
「流れゆく滝藤。」
最後まで読んでしまった。
「うん。結構覚えているもんだね、ランラン。」
「ああ。読んでくれたんだ。」
「たまにはね。ランランにも、桜の声、聞こえるかどうか前にも私、聞いたし。
確かにね、サークル活動は楽しかったから。」
「うん。そうだな。あんなに甘いものを教えてもらえるとは思わなかった。」
「お茶だって飲んだし、本屋とかフィールドワークとかで遊びまわったし。
やらなくなったのは朗読関係だけで、それ以外のことは続いているけど。
ときどきふと、あの頃は思い出したくなるんだよね。」
「そうだな。俺も、そうだったからリンリンにも確認したかったのかもな。」
「そりゃ覚えているし思い出したりもするわよ。ランランとの馴れ初めだし。」
「……うん。」
それからはまたのんびりと、リンリンと藤を眺めていた。なりを潜めたと思っていたけど。俺も創作に打ち込んでいるときは女性を創作のキャラとして飛び出てきたように見えたり、花の化身に見たりしてしまう癖は相変わらず残っていたらしい。それだけハマっていたっていう事なんだろうけど、リンリンはそう見えてしまう人なんだろうか。
「ふえーい。帰ったよい!」
「おかえりんさい。」
俺たちはリンリンの予告通り、今回は裸族にならずに来たままの格好でマンションに戻ってきた。
「あー藤いっぱい見られた。藤充ですね。」
「俺も見たわー藤。桜の後に藤だもんな。
こんだけ花見をしても六月にはまだ紫陽花もあるんだぜ。」
「そうだねえ、ランラン。紫陽花も自然公園にはあったよ。ウオーキングコース周りかな。」
「どんだけ季節の花を揃えているんだろうな。」
リビングのソファに座って、リンリンがお茶を持ってきてくれて。二人でゴクゴクと飲みながら話をしていた。
「お、お茶うまいな。ちょうど今、暑かったし。」
「ねー。水とお茶を冷やして飲むだけだからね。そんなに日持ちしないから飲んで飲んで。」
「おう。」
水は割と飲んでしまう方だから、暑い中を歩き回ったのもあって二杯くらい飲んでしまった。
「ふー。一息ついたな。」
「うん。お茶美味しい。来月は紫陽花で、再来月は花はなくても七夕はあるね。」
「そしたら、笹とかひまわりとかを見て回るのか?」
「笹ってさ、竹と見分けがつかなくてさ。」
「竹の茂っている葉っぱ部分を折って、笹って言えば信じてしまう自信はあるな。」
「違いって何だろうね。」
「幹に相当する部分の太さと伸び方じゃないのか。」
「うん。あとで調べよう。」
結構騙されることとかもあるしインターネット知識ってどこまで信じていいのかだが、笹と竹の違いで騙そうとする人はいないだろうと思い、調べてみることに。
「へー。もとは同じで大きさとか、茎にある皮とかそういうのの違いらしい。」
「ああ。それじゃあ細い笹っぽいのでいいのかな。」
「よく分からんけど。笹っぽい植物を挿しておけばいいんじゃないか。」
「うん。せっかくだから笹飾りとか付けとこうよ。」
「あー。一人じゃ絶対、やらないやつな。」
「そうそう。お部屋に挿しとくと気分いいじゃない?」
リンリンはこういうの好きそうだと思ったが思った通りだった。
「ああ。また風呂にでも入るかな。暑かったし。」
「そだね。」
こうしてまた、リンリンと風呂に入ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
