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◆最終章 残響 終わらない日常 理解された苦痛
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痛みそのものは、いつか慣れる。
それを被害者は、もう知ってしまっていた。
身体のどこが傷ついているのか、どれほど壊れているのか。
そんなことは、もうどうでもよかった。
問題は――見られていることだった。
誰かが、こちらを理解している。
苦しみの質も、逃げ場のなさも、何をしても無駄だという事実も。
それをすべて、正確に把握したうえで、なお続けている。
「まだ生きてるね」
声は近い。
距離感が、異常だった。
耳元で囁かれるそれは、確認でも忠告でもなく、報告だった。
生きていること自体が、状況の継続条件であると告げる、淡々とした事務連絡。
被害者は、声を出そうとしてやめた。
何を言っても意味がないことを、もう知っていたからだ。
謝罪も、懇願も、怒りも、沈黙も。
すべてが同じ結果にしか繋がらない。
「君ね、勘違いしてる」
加害者は、楽しそうだった。
声に混じる、わずかな弾み。
それが何よりも耐えがたかった。
「これは衝動じゃないし、事故でもない。
ちゃんと選んでるんだよ。今も」
その言葉が、被害者の中で、ゆっくりと沈んでいく。
選ばれた。
偶然じゃない。
間違いでもない。
自分である必要があったのだ。
「苦しいでしょ。でもさ――」
一瞬、間があった。
その間に、被害者は期待してしまった。
何か、救いにつながる言葉が続くのではないかと。
「それ、ちゃんと伝わってるよ。全部」
その瞬間、何かが完全に壊れた。
理解されている。
苦しみが、正確に届いている。
それなのに、止まらない。
むしろ――それを理由に続いている。
被害者は、ここで初めて悟った。
これは復讐でも、怒りの発散でもない。
ましてや目的のある行為でもない。
ただ、快なのだ。
自分が壊れていく過程を、理解したうえで見続けることが。
その反応を、微調整しながら引き出すことが。
「まだ終わらせないよ」
優しい口調だった。
それが、最悪だった。
希望は、もうない。
終わりさえも、許可制なのだ。
被害者は、祈ることすらやめた。
誰に届くわけでもないと、はっきり分かってしまったから。
その様子を見て、加害者は満足そうに息を吐いた。
「ああ……今の顔、いいね」
その言葉が、最後の楔だった。
ここには救いがない。
物語としてのカタルシスも、正義も、意味もない。
あるのはただ、
苦しみが理解されたまま、消費されていく時間だけ。
そして――
この時間は、まだ終わらない。
続くかもしれない。
それが、最悪である理由だった。
それを被害者は、もう知ってしまっていた。
身体のどこが傷ついているのか、どれほど壊れているのか。
そんなことは、もうどうでもよかった。
問題は――見られていることだった。
誰かが、こちらを理解している。
苦しみの質も、逃げ場のなさも、何をしても無駄だという事実も。
それをすべて、正確に把握したうえで、なお続けている。
「まだ生きてるね」
声は近い。
距離感が、異常だった。
耳元で囁かれるそれは、確認でも忠告でもなく、報告だった。
生きていること自体が、状況の継続条件であると告げる、淡々とした事務連絡。
被害者は、声を出そうとしてやめた。
何を言っても意味がないことを、もう知っていたからだ。
謝罪も、懇願も、怒りも、沈黙も。
すべてが同じ結果にしか繋がらない。
「君ね、勘違いしてる」
加害者は、楽しそうだった。
声に混じる、わずかな弾み。
それが何よりも耐えがたかった。
「これは衝動じゃないし、事故でもない。
ちゃんと選んでるんだよ。今も」
その言葉が、被害者の中で、ゆっくりと沈んでいく。
選ばれた。
偶然じゃない。
間違いでもない。
自分である必要があったのだ。
「苦しいでしょ。でもさ――」
一瞬、間があった。
その間に、被害者は期待してしまった。
何か、救いにつながる言葉が続くのではないかと。
「それ、ちゃんと伝わってるよ。全部」
その瞬間、何かが完全に壊れた。
理解されている。
苦しみが、正確に届いている。
それなのに、止まらない。
むしろ――それを理由に続いている。
被害者は、ここで初めて悟った。
これは復讐でも、怒りの発散でもない。
ましてや目的のある行為でもない。
ただ、快なのだ。
自分が壊れていく過程を、理解したうえで見続けることが。
その反応を、微調整しながら引き出すことが。
「まだ終わらせないよ」
優しい口調だった。
それが、最悪だった。
希望は、もうない。
終わりさえも、許可制なのだ。
被害者は、祈ることすらやめた。
誰に届くわけでもないと、はっきり分かってしまったから。
その様子を見て、加害者は満足そうに息を吐いた。
「ああ……今の顔、いいね」
その言葉が、最後の楔だった。
ここには救いがない。
物語としてのカタルシスも、正義も、意味もない。
あるのはただ、
苦しみが理解されたまま、消費されていく時間だけ。
そして――
この時間は、まだ終わらない。
続くかもしれない。
それが、最悪である理由だった。
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