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姫の夜月
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主君を見送り、自室に戻る。
それまでに部下へ命令を出す。
妓楼に通う客の接触、物乞いや流れ者の協力、秋家の見張り。
主君からの命令には忠実にこなす。
それが我ら夜月である。
暫くして、探りを入れてきた部下が戻り、報告を受けた。
「悪事は全くもって働いていないと?」
「はい。秋男爵の交友関係に、疑わしい者はおりません。真面目で二心を持たぬ忠臣です。主君の婚約者、深児様に関連することといえば、男爵は深児様の母君をとても愛していたそうで、懐妊が分かった時も大層喜んでいたとか」
「……だが、深児様を産んだことで亡くなったと」
「…はい。愛する妻を子のせいで亡くしてしまったということでしょう。ですが、それで深児様を蔑むなど、おかしいことでは?」
「……いや、真面目で二心を持たぬほどの忠臣なのであれば、そのようなことをせぬはず。何か理由があるのではなかろうか」
「ま、まさか…ただ、愛する妻を殺されたようなものです。産んだ子を憎むのは当然では?」
「………お前には分からぬか。まぁよい、引き続き、秋男爵家を見張れ。何かあればすぐに報告を」
「…御意」
愛する妻を、子のせいで失うとは。
それだけ憎んでいるのならば、殺すなり、他人の養子にするなり、何かあったはず。
……主君の婚約者にするとは。
「師匠!」
「……どうした」
「師匠は主君のことを知っているのでしょう?私に教えてくださいよぉ」
「……前に言っただろう?お前にはまだ早いと」
「…そんなこと言わないでくださいよ。私、師匠のために武術の鍛錬頑張ってるんですから!」
……この者は私の弟子であり、私の後継者でもある。
女子ではあるが私の目に適った者で、育て甲斐があると判断して、私自ら武術を教えている。
後継者というのは、夜月の楼主のことだ。
現在の楼主は私、珒卿である。
私たちの使命が果たされた暁には、夜月の人数は減り、楼主が変わる。
そして、私の弟子であるこの者が、次の楼主になり、新しい夜月の人材を探す。
使命が果たされれば、私たちは身体を不自由にし、死を待つ生活を送らねばならない。
主君の事情を知る者が誰かに他言せぬよう、夜月を創った先祖の者たちがルールとして周知させたのだ。
「鍛錬は必須だ、私が居なくなれば次の楼主はお前なのだからな。鍛錬を怠けたら許さないぞ」
「分かってますよ、師匠」
「……お前は、主君を慕っているのか?」
「えっ?急に何ですか、師匠!」
「聞いている。答えろ」
「……はい」
「…そうか。その想いは胸の奥に仕舞え。主君には婚約者が出来た。そもそもお前と主君では身分が違いすぎる」
「分かっています。主君には深児様と幸せになって頂きたい」
「……主君が、幸せ…、か」
「…?師匠?」
「何も無い。……戻って鍛錬の続きをしろ」
「…はぁい」
……主君の事情を知らぬうちは、それで良いのだろう。
だが、この事情を知れば、お前はどうするだろうか。
主君と共に死ぬのだろうか。
主君の事情。
それは主君の母君の先祖に関係する。
母君の先祖は、人には視えないモノが視えると言われ、物珍しい目で周りから見られていた。
だが、その噂を聞き付けた奸臣が悪事に利用したせいで、都を追われていた。その者は子が居たため、信頼出来る者に預け、逃げ隠れていた。
そして、ある女に出会い、術を掛けられ、消滅の運命を受け入れた。その者は自ら消滅の呪術をかけてほしいと、その女に願った。
それからその家系の者たちは、死ぬとその者の全てが消滅するという運命を引き継いできたのだ。
「消滅する」ことで、悪事に利用された自身と悪事に利用した奸臣を断罪し、後世の者たちが悪事に利用されないようにしたのだろう。
家族や後世の者たちにまで類が及ぶことを案じた先祖が、全ての苦難を請け負ったのだ。
後世の者が消滅し、周りの者を悲しませたとしても、その悲しみは一時の感情であり、時が経って存在すら忘れさせるようにという配慮、と言うべきだろうか。
「……さて、主君に伝書鳩を」
……部下からの報告をまとめ、鳩の足に紙を挟んで、屋敷の主君の部屋に飛ばせた。
「………その日が来るまで、主君を必ずお守りするのだ。…………何があっても」
それまでに部下へ命令を出す。
妓楼に通う客の接触、物乞いや流れ者の協力、秋家の見張り。
主君からの命令には忠実にこなす。
それが我ら夜月である。
暫くして、探りを入れてきた部下が戻り、報告を受けた。
「悪事は全くもって働いていないと?」
「はい。秋男爵の交友関係に、疑わしい者はおりません。真面目で二心を持たぬ忠臣です。主君の婚約者、深児様に関連することといえば、男爵は深児様の母君をとても愛していたそうで、懐妊が分かった時も大層喜んでいたとか」
「……だが、深児様を産んだことで亡くなったと」
「…はい。愛する妻を子のせいで亡くしてしまったということでしょう。ですが、それで深児様を蔑むなど、おかしいことでは?」
「……いや、真面目で二心を持たぬほどの忠臣なのであれば、そのようなことをせぬはず。何か理由があるのではなかろうか」
「ま、まさか…ただ、愛する妻を殺されたようなものです。産んだ子を憎むのは当然では?」
「………お前には分からぬか。まぁよい、引き続き、秋男爵家を見張れ。何かあればすぐに報告を」
「…御意」
愛する妻を、子のせいで失うとは。
それだけ憎んでいるのならば、殺すなり、他人の養子にするなり、何かあったはず。
……主君の婚約者にするとは。
「師匠!」
「……どうした」
「師匠は主君のことを知っているのでしょう?私に教えてくださいよぉ」
「……前に言っただろう?お前にはまだ早いと」
「…そんなこと言わないでくださいよ。私、師匠のために武術の鍛錬頑張ってるんですから!」
……この者は私の弟子であり、私の後継者でもある。
女子ではあるが私の目に適った者で、育て甲斐があると判断して、私自ら武術を教えている。
後継者というのは、夜月の楼主のことだ。
現在の楼主は私、珒卿である。
私たちの使命が果たされた暁には、夜月の人数は減り、楼主が変わる。
そして、私の弟子であるこの者が、次の楼主になり、新しい夜月の人材を探す。
使命が果たされれば、私たちは身体を不自由にし、死を待つ生活を送らねばならない。
主君の事情を知る者が誰かに他言せぬよう、夜月を創った先祖の者たちがルールとして周知させたのだ。
「鍛錬は必須だ、私が居なくなれば次の楼主はお前なのだからな。鍛錬を怠けたら許さないぞ」
「分かってますよ、師匠」
「……お前は、主君を慕っているのか?」
「えっ?急に何ですか、師匠!」
「聞いている。答えろ」
「……はい」
「…そうか。その想いは胸の奥に仕舞え。主君には婚約者が出来た。そもそもお前と主君では身分が違いすぎる」
「分かっています。主君には深児様と幸せになって頂きたい」
「……主君が、幸せ…、か」
「…?師匠?」
「何も無い。……戻って鍛錬の続きをしろ」
「…はぁい」
……主君の事情を知らぬうちは、それで良いのだろう。
だが、この事情を知れば、お前はどうするだろうか。
主君と共に死ぬのだろうか。
主君の事情。
それは主君の母君の先祖に関係する。
母君の先祖は、人には視えないモノが視えると言われ、物珍しい目で周りから見られていた。
だが、その噂を聞き付けた奸臣が悪事に利用したせいで、都を追われていた。その者は子が居たため、信頼出来る者に預け、逃げ隠れていた。
そして、ある女に出会い、術を掛けられ、消滅の運命を受け入れた。その者は自ら消滅の呪術をかけてほしいと、その女に願った。
それからその家系の者たちは、死ぬとその者の全てが消滅するという運命を引き継いできたのだ。
「消滅する」ことで、悪事に利用された自身と悪事に利用した奸臣を断罪し、後世の者たちが悪事に利用されないようにしたのだろう。
家族や後世の者たちにまで類が及ぶことを案じた先祖が、全ての苦難を請け負ったのだ。
後世の者が消滅し、周りの者を悲しませたとしても、その悲しみは一時の感情であり、時が経って存在すら忘れさせるようにという配慮、と言うべきだろうか。
「……さて、主君に伝書鳩を」
……部下からの報告をまとめ、鳩の足に紙を挟んで、屋敷の主君の部屋に飛ばせた。
「………その日が来るまで、主君を必ずお守りするのだ。…………何があっても」
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