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トゥーリス、ログラーツ大戦編
24.涙の師弟
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トントン。
ドアがノックされた。
エレミヤはうつむいていた顔をゆっくり上げた。
「…どうぞ。」
カチャリと開いたドアの向こうにはバラックの父であるトゥーリス王国の王、アルドバートがいた。
その後ろにはエレミヤの師匠であるジリアスも居た。
こちらを見てもなんの反応も示さないジリアスを見て少しの間、目を瞑った。
(…落ち着け。師匠はどうせ、この国の人だ。師匠は敵国であるログラーツ王国の王子である僕を監視していただけなんだ。僕にはどんな感情を抱いていないと考えたほうが良い。)
「…何か用ですか?」
エレミヤは二人を睨みつけた。
王は笑みを口元に浮かべた。
ジリアスの表情は未だに硬いままだ。
「いや、その能力封じの首輪の様子を見に来てね。この首輪は防壁能力者の力が入っているんだよ。ちょっと見せてくれ…。」
王はこちらに近寄ってきてエレミヤの首元を覗き込む。
その首輪にはヒビが入っており、エレミヤの絶大な力に耐えきれていないことが分かった。
王はふむ、と唸り、エレミヤから一歩、遠ざかる。
「ジリアス。これは駄目だ。いつか壊れる。」
「はっ。では、すぐに新しい物を用意させましょう。」
「そうか。」
(防壁能力者…。シノハナのゾフィーシャさんか?しかし、ゾフィーさんの本気の防壁でも僕の力には耐えきれないはずだけど…。)
エレミヤはそう思った。
シノハナのゾフィーシャを思ったら他の面子の顔を思い出した。
現リーダーで物体強化能力者のラニアさん。
元気にしてるかな…。男なのに名前が女っぽいって馬鹿にされてないかな…。
砂塵能力者のファナリータさん。
裏ボス的存在の人だけど、アネゴ肌で僕は好きだったな…。
水流能力者のフメイさん。
…そろそろ本名教えてくれませんかね?
フメイって"不明"でしょ?
あと、あごひげ剃ってね。
そして疾風能力者のティナ。
まだ学校で演技を続けているのかな…?
まぁ、アノ演技が悪いって言われるとそうでないけどさ…。
(…今考えると一癖も二癖もあるメンバーだな…。)
エレミヤがそう考えると同時に王はジリアスに目配せした。
ジリアスはコクリと頷き、エレミヤの近くにやって来、首輪を外した。
その時だった。
「わっ?!」
氷蓮が自分を封じこんでいた首輪が取れたことでエレミヤの意思に関係なく、エレミヤの周りに無数の氷牙を出現させたのだ。
驚きに固まるエレミヤの意思に反し、氷蓮がその牙をジリアスや王に全力で発射した。
「氷蓮?!」
ジリアスは王の前に仁王立ちすると、無言で豪炎の壁を作った。
『ちっ。』
氷蓮が舌打ちをした。
そして氷蓮はエレミヤの中からポンっと出てきた。
小さい氷蓮はジリアスを睨みつけた。
『ジリアス。エレミヤがどれだけお前と会えなくて寂しい思いをしていたのか分からないのか?』
その声には怒気が籠もっていた。
しかし、ジリアスは氷蓮の質問に淡々と応えた。
「俺はトゥーリスの人間だ。何で敵国の王子に肩入れしなきゃしけないのだ。」
エレミヤは少し目を見開いた。
確かに、とエレミヤの冷静な部分が納得してしまった。どうしても納得したくないのに。
悲しいはずなのにそれは当たり前だと考えてしまう。
(僕は、こんなことになりたいからログラーツ王国で頑張ってきたわけじゃない…。でも、師匠にとって僕はただの敵だった、という訳か…。)
氷蓮は頭にきたのか、唸りながらジリアスに食ってかかろうとした。
「やめろ、氷蓮!」
エレミヤは氷蓮を止めた。
氷蓮はブレーキが掛かったように止まった。
そしてエレミヤを見る。
『な…。』
何で、と言おうとしただろう。しかし、氷蓮はエレミヤの様子を見た途端、口を閉ざした。
その蒼い瞳から一筋の涙を流していたから。
どんなに辛くても優しく笑い続け、泣くことはなかったエレミヤが泣いていた。
エレミヤが泣くのは自分の名字に込められた意味を知ったときだけだろう。
嗚咽をこらえながらトゥーリスの王と自らの師匠に言った。
「お二人とも、出ていってください。」
王は薄ら笑いを浮かべ、踵を返す。
「また明日、来るよ。」
その言葉にエレミヤはつぶやくように言う。
「…あんまり来ないでください。」
しかし、王はその言葉に何も返さず、去っていく。
がチャリと鍵の閉まる重い音がした。
「う、あ……。あ……。」
エレミヤは嗚咽を漏らした。
〔エレミヤ…。ごめん…。ごめんな…。私のせいで…。私の、せいで……。〕
ずっと今まで黙っていたルティーエスがエレミヤに謝罪した。
エレミヤは心の中で返した。
【でも、ルティーエスが居なかったら、僕はこの世界に転生しなかったし、師匠や君、そして氷蓮と会うことはなかった。…ありがとう。】
エレミヤはグッと歯を食いしばった。
どうしても堪えきれない。
「う…あ…。う………。」
必死に堪えているが、少し漏れてしまう。
エレミヤは耐えきれなくなり、枕に顔をうずめた。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
ぐぐもった哀号を上げる。
それと同時に右手でボフボフベットを殴る。
❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅
ジリアス・ガルゴスはエレミヤの哀号をエレミヤの部屋の前で聞いていた。
ジリアスは葉を食いしばり、必死に涙をこらえていた。
「…すまん…。ごめんな…。エレミヤ……。ヒョウレン……。」
拳を握る。
その爪が手のひらに食い込む。
しかし、ジリアスはその痛みなど気にせずさらに手を握りしめる。
「…エレミヤ……。」
ジリアスは頭を軽く振る。
(エレミヤ…。いつかおまえて剣を合わせる日が来るのか……?俺は…。そうなったらどうすればいいんだ…!)
ジリアスは踵を返す。
彼の手のひらからは血がにじみ出ている。
「くっそ……。」
ジリアスは走り出す。
エレミヤから逃げるように。
❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅
「よし、こちら"プリンス"準備できたぞ。」
「こちら"アーチャー"、了解。」
「こちら"シスター"、了解したのだ!」
「こちら"バーサーカー"、了解である。」
バラック、ミイロ、ユユリア、ジュリバークはトゥーリス王国に侵入していた。
それぞれ王宮、正門前、学園前、シノハナ組織前にて待機していた。
彼らはトランシーバーでスパイっぽく通信していた…訳ではない。当たり前だが。
トランシーバーなんてものはこの世界にはない。
彼らはミイロの武器、聖弓レジュリアートの特有能力、「無線通信」で会話している。
"プリンス"、"アーチャー"、"シスター"、"バーサーカー"というのはもちろんコードネームで、
"プリンス"はバラック、
"アーチャー"はミイロ、
"シスター"はユユリア、
"バーサーカー"はジュリバークを表している。
もちろん、命名したのはミイロだ。
この中でこれらの英単語を知っていたのはミイロだけだろう。
「エレ…。」
「まっくん…。」
「お兄ちゃん…。」
「エレミヤ殿…。」
彼らはエレミヤの名前を呼んだ。そして、こう叫んだ。
「「「「待ってろよ!!」」」」
ドアがノックされた。
エレミヤはうつむいていた顔をゆっくり上げた。
「…どうぞ。」
カチャリと開いたドアの向こうにはバラックの父であるトゥーリス王国の王、アルドバートがいた。
その後ろにはエレミヤの師匠であるジリアスも居た。
こちらを見てもなんの反応も示さないジリアスを見て少しの間、目を瞑った。
(…落ち着け。師匠はどうせ、この国の人だ。師匠は敵国であるログラーツ王国の王子である僕を監視していただけなんだ。僕にはどんな感情を抱いていないと考えたほうが良い。)
「…何か用ですか?」
エレミヤは二人を睨みつけた。
王は笑みを口元に浮かべた。
ジリアスの表情は未だに硬いままだ。
「いや、その能力封じの首輪の様子を見に来てね。この首輪は防壁能力者の力が入っているんだよ。ちょっと見せてくれ…。」
王はこちらに近寄ってきてエレミヤの首元を覗き込む。
その首輪にはヒビが入っており、エレミヤの絶大な力に耐えきれていないことが分かった。
王はふむ、と唸り、エレミヤから一歩、遠ざかる。
「ジリアス。これは駄目だ。いつか壊れる。」
「はっ。では、すぐに新しい物を用意させましょう。」
「そうか。」
(防壁能力者…。シノハナのゾフィーシャさんか?しかし、ゾフィーさんの本気の防壁でも僕の力には耐えきれないはずだけど…。)
エレミヤはそう思った。
シノハナのゾフィーシャを思ったら他の面子の顔を思い出した。
現リーダーで物体強化能力者のラニアさん。
元気にしてるかな…。男なのに名前が女っぽいって馬鹿にされてないかな…。
砂塵能力者のファナリータさん。
裏ボス的存在の人だけど、アネゴ肌で僕は好きだったな…。
水流能力者のフメイさん。
…そろそろ本名教えてくれませんかね?
フメイって"不明"でしょ?
あと、あごひげ剃ってね。
そして疾風能力者のティナ。
まだ学校で演技を続けているのかな…?
まぁ、アノ演技が悪いって言われるとそうでないけどさ…。
(…今考えると一癖も二癖もあるメンバーだな…。)
エレミヤがそう考えると同時に王はジリアスに目配せした。
ジリアスはコクリと頷き、エレミヤの近くにやって来、首輪を外した。
その時だった。
「わっ?!」
氷蓮が自分を封じこんでいた首輪が取れたことでエレミヤの意思に関係なく、エレミヤの周りに無数の氷牙を出現させたのだ。
驚きに固まるエレミヤの意思に反し、氷蓮がその牙をジリアスや王に全力で発射した。
「氷蓮?!」
ジリアスは王の前に仁王立ちすると、無言で豪炎の壁を作った。
『ちっ。』
氷蓮が舌打ちをした。
そして氷蓮はエレミヤの中からポンっと出てきた。
小さい氷蓮はジリアスを睨みつけた。
『ジリアス。エレミヤがどれだけお前と会えなくて寂しい思いをしていたのか分からないのか?』
その声には怒気が籠もっていた。
しかし、ジリアスは氷蓮の質問に淡々と応えた。
「俺はトゥーリスの人間だ。何で敵国の王子に肩入れしなきゃしけないのだ。」
エレミヤは少し目を見開いた。
確かに、とエレミヤの冷静な部分が納得してしまった。どうしても納得したくないのに。
悲しいはずなのにそれは当たり前だと考えてしまう。
(僕は、こんなことになりたいからログラーツ王国で頑張ってきたわけじゃない…。でも、師匠にとって僕はただの敵だった、という訳か…。)
氷蓮は頭にきたのか、唸りながらジリアスに食ってかかろうとした。
「やめろ、氷蓮!」
エレミヤは氷蓮を止めた。
氷蓮はブレーキが掛かったように止まった。
そしてエレミヤを見る。
『な…。』
何で、と言おうとしただろう。しかし、氷蓮はエレミヤの様子を見た途端、口を閉ざした。
その蒼い瞳から一筋の涙を流していたから。
どんなに辛くても優しく笑い続け、泣くことはなかったエレミヤが泣いていた。
エレミヤが泣くのは自分の名字に込められた意味を知ったときだけだろう。
嗚咽をこらえながらトゥーリスの王と自らの師匠に言った。
「お二人とも、出ていってください。」
王は薄ら笑いを浮かべ、踵を返す。
「また明日、来るよ。」
その言葉にエレミヤはつぶやくように言う。
「…あんまり来ないでください。」
しかし、王はその言葉に何も返さず、去っていく。
がチャリと鍵の閉まる重い音がした。
「う、あ……。あ……。」
エレミヤは嗚咽を漏らした。
〔エレミヤ…。ごめん…。ごめんな…。私のせいで…。私の、せいで……。〕
ずっと今まで黙っていたルティーエスがエレミヤに謝罪した。
エレミヤは心の中で返した。
【でも、ルティーエスが居なかったら、僕はこの世界に転生しなかったし、師匠や君、そして氷蓮と会うことはなかった。…ありがとう。】
エレミヤはグッと歯を食いしばった。
どうしても堪えきれない。
「う…あ…。う………。」
必死に堪えているが、少し漏れてしまう。
エレミヤは耐えきれなくなり、枕に顔をうずめた。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
ぐぐもった哀号を上げる。
それと同時に右手でボフボフベットを殴る。
❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅❅
ジリアス・ガルゴスはエレミヤの哀号をエレミヤの部屋の前で聞いていた。
ジリアスは葉を食いしばり、必死に涙をこらえていた。
「…すまん…。ごめんな…。エレミヤ……。ヒョウレン……。」
拳を握る。
その爪が手のひらに食い込む。
しかし、ジリアスはその痛みなど気にせずさらに手を握りしめる。
「…エレミヤ……。」
ジリアスは頭を軽く振る。
(エレミヤ…。いつかおまえて剣を合わせる日が来るのか……?俺は…。そうなったらどうすればいいんだ…!)
ジリアスは踵を返す。
彼の手のひらからは血がにじみ出ている。
「くっそ……。」
ジリアスは走り出す。
エレミヤから逃げるように。
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「よし、こちら"プリンス"準備できたぞ。」
「こちら"アーチャー"、了解。」
「こちら"シスター"、了解したのだ!」
「こちら"バーサーカー"、了解である。」
バラック、ミイロ、ユユリア、ジュリバークはトゥーリス王国に侵入していた。
それぞれ王宮、正門前、学園前、シノハナ組織前にて待機していた。
彼らはトランシーバーでスパイっぽく通信していた…訳ではない。当たり前だが。
トランシーバーなんてものはこの世界にはない。
彼らはミイロの武器、聖弓レジュリアートの特有能力、「無線通信」で会話している。
"プリンス"、"アーチャー"、"シスター"、"バーサーカー"というのはもちろんコードネームで、
"プリンス"はバラック、
"アーチャー"はミイロ、
"シスター"はユユリア、
"バーサーカー"はジュリバークを表している。
もちろん、命名したのはミイロだ。
この中でこれらの英単語を知っていたのはミイロだけだろう。
「エレ…。」
「まっくん…。」
「お兄ちゃん…。」
「エレミヤ殿…。」
彼らはエレミヤの名前を呼んだ。そして、こう叫んだ。
「「「「待ってろよ!!」」」」
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