26 / 63
トゥーリス、ログラーツ大戦編
26.アーシリアと大闘祭
しおりを挟む
外では王女の誕生日だとかでたくさんの店が値引きをしていた。
その中でひときわ目立つのは武具店である。
「へい、いらっしゃいいらっしゃぁい!今ならなんと、6000ガント引きだよぉ!」
ガントとはこの世界の硬貨の名前である。
1ガントは日本円でいうと10円である。
そして普通の武器は約9000ガントである。
つまり、だ。
半額以上である!!
これはこれは物凄い特価である!
さあさあ、みんな!トゥーリス王国に寄っといでー!
今ならとってもいい武器が安く買えるチャンス!
異世界人も大歓迎!
さぁ、この機会にやばいくらいかっちょいい武器を手に入れてみては?
「まぁ、僕にはが【彼女】がいるからいいんだけどね…。」
エレミヤは誰にも聞かれずにこう呟いた。
彼の膝の上には小さい氷蓮がいて、エレミヤに撫でられている。
『くぅぅ……。』
氷蓮はあまりの気持ちよさにウトウトし始め、犬の様な声さえ漏らした。
『ねぇ、エレミヤ。エレミヤには【彼女】がいるからこんなところからサッサとおさらばできるのになんでしないのさ?ふぁぁぁあ…。』
エレミヤは、その疑問にちょっと首を傾げた。
そして
「だって…。逃げるためにここ壊したら修理代請求されるかもしれないし。」
至極真っ当な答えを言った。
「それに、師匠のこともあったからね。ここから逃げ出す気力がなくなったのさ。」
エレミヤは氷蓮を撫でる手を止めた。
『エレミヤ…。』
氷蓮は口では心配そうに言っているが、体ではもっと撫でて!と言っている様に尾でエレミヤの腕をぺしぺしと叩いている。
〔はーあ。ばーかばーか。エレミヤのばぁーーか。〕
突然ルティーエスのため息が聞こえたかと思えば、猛烈な馬鹿コールを食らったエレミヤはむすっと明らかに不機嫌になった。
「むっ。なにか言いたいことがあるなら、"馬鹿"じゃなくてもっと多くの単語を使って話してよ。」
〔なら、馬鹿。アホ。間抜け。クソ野郎。う○こ。〕
「むぅっ!王子様はそんなことを口にしちゃいけません!特に最後のは!」
〔なんでさ?クソ野郎。〕
「……もう絶交。」
〔ふふふ、エレミヤの反応は面白いなぁ!〕
エレミヤをからかいながら面白がってるルティーエス。
「…ルティーエスってさ、実は性格悪いよね?否定は許さないよ。」
〔ははは!酷ーい!〕
エレミヤは氷蓮以外誰もいないのにふん、と顔を逸らす。
周りから見たら変な子だろう。おまけに独り言ばかりつぶやいているし。
「ルティーエスの馬鹿。嫌い。」
〔私は好きだぞ?〕
「…………………………………………あそ。」
〔はははははははは!〕
大笑いのルティーエスともっと不機嫌になったエレミヤ。
その時だった。
外から大声が聞こえてきたのだ。
「セファリア王女殿下誕生日パーティーの醍醐味!大闘祭っだぁぁぁぁぁあ!」
その大声にエレミヤは飛び上がった。
「だ、大闘会?!なにそれ!」
その答えは氷蓮とルティーエスが持っていた。
『あれれ?エレミヤ知らない?大闘祭。文字通り戦う大会だよ。』
〔異世界風体育祭の様なものだ。〕
「へぇ…。」
〔『…ねぇ、出ようとしてる?』〕
エレミヤは窓から外をまじまじと眺めた。
珍しく争いに関心を持ち始めたエレミヤに氷蓮とルティーエスは聞く。
「うっ…。」
図星のようだ。
エレミヤは不貞腐れたように顔を逸した。
「だって、その方が脱出できる可能性が上がるでしょ?決してずっとここに居て退屈だとか、鬱憤を晴らしたいとかそういう事じゃないから!」
〔『……はぁ…。』〕
エレミヤは早口でそう言い、氷蓮とルティーエスはため息をつく。
二人はため息を付きつつ、小さく笑う。
『でもまぁ、いいんじゃない?』
〔うん。聞いてみたら?〕
エレミヤはうん。と頷き、
ゆっくり立ち上がり、外を見る。
「優勝者にはあの!この、祓魔剣アーシリアが贈呈されます!」
ピク、とエレミヤの眉が上がった。
エレミヤの内にあるアーシリアが反応する。
その司会者が言う祓魔剣アーシリアとはアーシリアの姉妹剣である魔剣ダリアであるのだ。
エレミヤの目が据わる。
(大丈夫だよ、アーシリア。君のダリアをあんなやつに渡さないから)
すると、アーシリアは収まった。
ふぅ、とエレミアは肩を落とし、ダリアを見る。
彼女は見るからになんの変哲もない大剣だが、エレミヤから見るにとても焦っているように見え、姉に訴えているように見えた。
(助けて、お姉ちゃん!)
と。
エレミヤはゆっくり立ち上がると、突然アーシリアを生み出した。
氷蓮は彼女を見て息を呑んだ。
〘いつ見てもアーシリアは美しいな…。〙
よそが聞いたら告白の言葉に聞こえそうなセリフを氷蓮は思った。
しかし、確かにアーシリアは美しい。
片手でしか持てないような長さの柄の先端にはサファイアのように青いリボンがたなびいており、その鍔はあまりいくつか宝石がついているだけで、あまり飾りはない。
その巨大な刃は露骨であるが、紙のように薄い。
エレミヤは窓を開けたと思ったらそんなアーシリアを突然窓に向かって放り投げた。
『はぁ?!エレミヤぁ?!』
〔ヴァカ!何やってんだ、エレミヤのBAKA!〕
二人の抗議をエレミヤはサラリと受け流す。
「馬鹿にも色んなバリエーションがあるんだな。ルティーエス。」
そして当然、同じ剣が頭上から降ってきたのを見て観客達は目をみはる。
「?なんだ?アーシリアが、二振り?」
「どっから降ってきた?」
そして、それを来賓席にいるジリアスも見た。
(エレミヤのバカ野郎、なぁに剣ぶん投げてんだ!)
ジリアスは心の中で頭を抱える。
もちろん、エレミヤは己の師匠であるジリアスのことなぞ知る由もなく。
エレミヤは窓から飛び降りた。
「ふぅ。久々の外の空気はやっぱり美味し……くもないか。ココ、汗臭いし。」
エレミヤは呟く。
そして来賓席にいる王様とジリアスを見る。
「鉄格子嵌めてでもしなきゃ僕は監禁できませんよ。だって、あの部屋から地面の距離なんて、訓練のときのより短いですからね。」
エレミヤは勝ち誇ったように笑う。
観客達はまた降ってきたものを見て目を瞬かせ、同時に上を見る。
そこには窓の開いてる様子が見えた。
それは6階。
普通の人間なら自殺に用いることもできる高さである。
「僕も参戦したいです。良いですよね?」
エレミヤは二人に確認をとった。
ふっ、と笑い、王様は呆れたように言う。
「駄目だ、と言っても強行手段に出るのが君だろ?」
エレミヤは当然のように頷いた。
「はい。鬱憤溜まってるので。」
エレミヤは自分でさっき否定した理由を今度は肯定した。
王は困った。
なぜなら、この国は温和な国として人気がある。
なので、そんな国で人質が囚われているとしたら困るからだ。
先程、エレミヤは"監禁"とはっきり言ってしまった。
なので、言い訳の種類は限られる…。
よし!
エレミヤの中に咄嗟に入った氷蓮がエレミヤの自白の言葉に笑い転げ、ルティーエスがうるさい!と言いながらエレミヤの中で氷蓮の首を絞めてるとはいざ知らず、王様は司会者にこう言った。
「彼は我が国で預かってる他の国のものでね。ちょうどいいから彼も混ぜてやってくれ。」
なるほど。つまり人質か。
可哀想に…。
どこの国だ?
あの髪の色なんて見たことないぞ。
イケメンねぇ。どっかの国の王子様なのかしら?
パパー。私、あの子と結婚したーい!
ガヤガヤと観客の中から声が漏れる。
お分かりいただけただろうか。
この国、トゥーリス王国の王は言い訳が破滅的に下手なのだ。
氷蓮が更に爆笑し始め、笑いを必死にこらえているルティーエスが氷蓮のことを責められなくなっている。
そして戸惑いながらも大闘祭が始まった。
エレミヤは遠いの国からの来客なので、来賓席で丁重に扱わなければならなくなった。
来賓席に入ると、
「エレミヤぁー!この、バカチン!」
ジリアスの叫び声と拳が降ってきた。
「わぁぁ!」
とっさに体が動き、避けるエレミヤ。
「なんですか!それ、遠い国からの人質にすることですか、師匠!」
「なぁにが来客だ!おめーが俺を師匠って呼んでる時点で来客な訳がないんだよ!」
「なんですとぉ!まずは僕を攫ったこの国が悪いんでしょう!そうしなければ、僕と師匠は出会うことはなかったのですから!」
「うおっほん。」
ギャンギャン昔のような言い合いをしていると、後ろから懐かしい咳払いが聞こえた。
「ロンガットさん!」
ロンガットは優しく笑う。
「お久しぶりです。エレミヤさま。ご無事で何よりです。」
エレミヤは嬉しそうに走りだそうとしたが、周りの警備の兵士が緊張し始めた。
エレミヤがロンガットに襲わないか模索しているのだろう。
エレミヤはその緊張を感じ取り、足を止めた。
「えっと、またお会いできて、光栄です!」
なるべくこの国の人に近づかないようにしよう。
エレミヤはそう決めた。
するとロンガットが歩き出し、彼からエレミヤに近づいてきた。
そして、優しくエレミヤを腕に包み込んだ。
「ロ、ロンガット殿!あやつはログラーツのものですぞ!そうたやすく触るなど…。」
「黙れ。」
ロンガットは例を見ないほど鋭く言い放った。
「し、しかし…。」
ロンガットは兵士に冷たい瞳を向けた。
ビクッと、震え上がった兵士を見るとエレミヤを見る。
その瞳はエレミヤを見た瞬間、優しくほころんだ。
「エレミヤさまはそんなことをしない。例え敵でも、非道でない限り情けをかけるお方だ。それに…。エレミヤさまはログラーツの王子である前にシノハナの『氷花の鬼神』であらされるお方だからな。」
エレミヤは何故か目頭が熱くなるのを感じた。
(あ…れ…?何か、目から液体が…。)
そう現実逃避してみたが、それは紛れもない涙であった。
(全く、なんて最近の僕は涙脆いんだろう…。)
エレミヤはロンガットの胸の中で啜り泣いた。
その中でひときわ目立つのは武具店である。
「へい、いらっしゃいいらっしゃぁい!今ならなんと、6000ガント引きだよぉ!」
ガントとはこの世界の硬貨の名前である。
1ガントは日本円でいうと10円である。
そして普通の武器は約9000ガントである。
つまり、だ。
半額以上である!!
これはこれは物凄い特価である!
さあさあ、みんな!トゥーリス王国に寄っといでー!
今ならとってもいい武器が安く買えるチャンス!
異世界人も大歓迎!
さぁ、この機会にやばいくらいかっちょいい武器を手に入れてみては?
「まぁ、僕にはが【彼女】がいるからいいんだけどね…。」
エレミヤは誰にも聞かれずにこう呟いた。
彼の膝の上には小さい氷蓮がいて、エレミヤに撫でられている。
『くぅぅ……。』
氷蓮はあまりの気持ちよさにウトウトし始め、犬の様な声さえ漏らした。
『ねぇ、エレミヤ。エレミヤには【彼女】がいるからこんなところからサッサとおさらばできるのになんでしないのさ?ふぁぁぁあ…。』
エレミヤは、その疑問にちょっと首を傾げた。
そして
「だって…。逃げるためにここ壊したら修理代請求されるかもしれないし。」
至極真っ当な答えを言った。
「それに、師匠のこともあったからね。ここから逃げ出す気力がなくなったのさ。」
エレミヤは氷蓮を撫でる手を止めた。
『エレミヤ…。』
氷蓮は口では心配そうに言っているが、体ではもっと撫でて!と言っている様に尾でエレミヤの腕をぺしぺしと叩いている。
〔はーあ。ばーかばーか。エレミヤのばぁーーか。〕
突然ルティーエスのため息が聞こえたかと思えば、猛烈な馬鹿コールを食らったエレミヤはむすっと明らかに不機嫌になった。
「むっ。なにか言いたいことがあるなら、"馬鹿"じゃなくてもっと多くの単語を使って話してよ。」
〔なら、馬鹿。アホ。間抜け。クソ野郎。う○こ。〕
「むぅっ!王子様はそんなことを口にしちゃいけません!特に最後のは!」
〔なんでさ?クソ野郎。〕
「……もう絶交。」
〔ふふふ、エレミヤの反応は面白いなぁ!〕
エレミヤをからかいながら面白がってるルティーエス。
「…ルティーエスってさ、実は性格悪いよね?否定は許さないよ。」
〔ははは!酷ーい!〕
エレミヤは氷蓮以外誰もいないのにふん、と顔を逸らす。
周りから見たら変な子だろう。おまけに独り言ばかりつぶやいているし。
「ルティーエスの馬鹿。嫌い。」
〔私は好きだぞ?〕
「…………………………………………あそ。」
〔はははははははは!〕
大笑いのルティーエスともっと不機嫌になったエレミヤ。
その時だった。
外から大声が聞こえてきたのだ。
「セファリア王女殿下誕生日パーティーの醍醐味!大闘祭っだぁぁぁぁぁあ!」
その大声にエレミヤは飛び上がった。
「だ、大闘会?!なにそれ!」
その答えは氷蓮とルティーエスが持っていた。
『あれれ?エレミヤ知らない?大闘祭。文字通り戦う大会だよ。』
〔異世界風体育祭の様なものだ。〕
「へぇ…。」
〔『…ねぇ、出ようとしてる?』〕
エレミヤは窓から外をまじまじと眺めた。
珍しく争いに関心を持ち始めたエレミヤに氷蓮とルティーエスは聞く。
「うっ…。」
図星のようだ。
エレミヤは不貞腐れたように顔を逸した。
「だって、その方が脱出できる可能性が上がるでしょ?決してずっとここに居て退屈だとか、鬱憤を晴らしたいとかそういう事じゃないから!」
〔『……はぁ…。』〕
エレミヤは早口でそう言い、氷蓮とルティーエスはため息をつく。
二人はため息を付きつつ、小さく笑う。
『でもまぁ、いいんじゃない?』
〔うん。聞いてみたら?〕
エレミヤはうん。と頷き、
ゆっくり立ち上がり、外を見る。
「優勝者にはあの!この、祓魔剣アーシリアが贈呈されます!」
ピク、とエレミヤの眉が上がった。
エレミヤの内にあるアーシリアが反応する。
その司会者が言う祓魔剣アーシリアとはアーシリアの姉妹剣である魔剣ダリアであるのだ。
エレミヤの目が据わる。
(大丈夫だよ、アーシリア。君のダリアをあんなやつに渡さないから)
すると、アーシリアは収まった。
ふぅ、とエレミアは肩を落とし、ダリアを見る。
彼女は見るからになんの変哲もない大剣だが、エレミヤから見るにとても焦っているように見え、姉に訴えているように見えた。
(助けて、お姉ちゃん!)
と。
エレミヤはゆっくり立ち上がると、突然アーシリアを生み出した。
氷蓮は彼女を見て息を呑んだ。
〘いつ見てもアーシリアは美しいな…。〙
よそが聞いたら告白の言葉に聞こえそうなセリフを氷蓮は思った。
しかし、確かにアーシリアは美しい。
片手でしか持てないような長さの柄の先端にはサファイアのように青いリボンがたなびいており、その鍔はあまりいくつか宝石がついているだけで、あまり飾りはない。
その巨大な刃は露骨であるが、紙のように薄い。
エレミヤは窓を開けたと思ったらそんなアーシリアを突然窓に向かって放り投げた。
『はぁ?!エレミヤぁ?!』
〔ヴァカ!何やってんだ、エレミヤのBAKA!〕
二人の抗議をエレミヤはサラリと受け流す。
「馬鹿にも色んなバリエーションがあるんだな。ルティーエス。」
そして当然、同じ剣が頭上から降ってきたのを見て観客達は目をみはる。
「?なんだ?アーシリアが、二振り?」
「どっから降ってきた?」
そして、それを来賓席にいるジリアスも見た。
(エレミヤのバカ野郎、なぁに剣ぶん投げてんだ!)
ジリアスは心の中で頭を抱える。
もちろん、エレミヤは己の師匠であるジリアスのことなぞ知る由もなく。
エレミヤは窓から飛び降りた。
「ふぅ。久々の外の空気はやっぱり美味し……くもないか。ココ、汗臭いし。」
エレミヤは呟く。
そして来賓席にいる王様とジリアスを見る。
「鉄格子嵌めてでもしなきゃ僕は監禁できませんよ。だって、あの部屋から地面の距離なんて、訓練のときのより短いですからね。」
エレミヤは勝ち誇ったように笑う。
観客達はまた降ってきたものを見て目を瞬かせ、同時に上を見る。
そこには窓の開いてる様子が見えた。
それは6階。
普通の人間なら自殺に用いることもできる高さである。
「僕も参戦したいです。良いですよね?」
エレミヤは二人に確認をとった。
ふっ、と笑い、王様は呆れたように言う。
「駄目だ、と言っても強行手段に出るのが君だろ?」
エレミヤは当然のように頷いた。
「はい。鬱憤溜まってるので。」
エレミヤは自分でさっき否定した理由を今度は肯定した。
王は困った。
なぜなら、この国は温和な国として人気がある。
なので、そんな国で人質が囚われているとしたら困るからだ。
先程、エレミヤは"監禁"とはっきり言ってしまった。
なので、言い訳の種類は限られる…。
よし!
エレミヤの中に咄嗟に入った氷蓮がエレミヤの自白の言葉に笑い転げ、ルティーエスがうるさい!と言いながらエレミヤの中で氷蓮の首を絞めてるとはいざ知らず、王様は司会者にこう言った。
「彼は我が国で預かってる他の国のものでね。ちょうどいいから彼も混ぜてやってくれ。」
なるほど。つまり人質か。
可哀想に…。
どこの国だ?
あの髪の色なんて見たことないぞ。
イケメンねぇ。どっかの国の王子様なのかしら?
パパー。私、あの子と結婚したーい!
ガヤガヤと観客の中から声が漏れる。
お分かりいただけただろうか。
この国、トゥーリス王国の王は言い訳が破滅的に下手なのだ。
氷蓮が更に爆笑し始め、笑いを必死にこらえているルティーエスが氷蓮のことを責められなくなっている。
そして戸惑いながらも大闘祭が始まった。
エレミヤは遠いの国からの来客なので、来賓席で丁重に扱わなければならなくなった。
来賓席に入ると、
「エレミヤぁー!この、バカチン!」
ジリアスの叫び声と拳が降ってきた。
「わぁぁ!」
とっさに体が動き、避けるエレミヤ。
「なんですか!それ、遠い国からの人質にすることですか、師匠!」
「なぁにが来客だ!おめーが俺を師匠って呼んでる時点で来客な訳がないんだよ!」
「なんですとぉ!まずは僕を攫ったこの国が悪いんでしょう!そうしなければ、僕と師匠は出会うことはなかったのですから!」
「うおっほん。」
ギャンギャン昔のような言い合いをしていると、後ろから懐かしい咳払いが聞こえた。
「ロンガットさん!」
ロンガットは優しく笑う。
「お久しぶりです。エレミヤさま。ご無事で何よりです。」
エレミヤは嬉しそうに走りだそうとしたが、周りの警備の兵士が緊張し始めた。
エレミヤがロンガットに襲わないか模索しているのだろう。
エレミヤはその緊張を感じ取り、足を止めた。
「えっと、またお会いできて、光栄です!」
なるべくこの国の人に近づかないようにしよう。
エレミヤはそう決めた。
するとロンガットが歩き出し、彼からエレミヤに近づいてきた。
そして、優しくエレミヤを腕に包み込んだ。
「ロ、ロンガット殿!あやつはログラーツのものですぞ!そうたやすく触るなど…。」
「黙れ。」
ロンガットは例を見ないほど鋭く言い放った。
「し、しかし…。」
ロンガットは兵士に冷たい瞳を向けた。
ビクッと、震え上がった兵士を見るとエレミヤを見る。
その瞳はエレミヤを見た瞬間、優しくほころんだ。
「エレミヤさまはそんなことをしない。例え敵でも、非道でない限り情けをかけるお方だ。それに…。エレミヤさまはログラーツの王子である前にシノハナの『氷花の鬼神』であらされるお方だからな。」
エレミヤは何故か目頭が熱くなるのを感じた。
(あ…れ…?何か、目から液体が…。)
そう現実逃避してみたが、それは紛れもない涙であった。
(全く、なんて最近の僕は涙脆いんだろう…。)
エレミヤはロンガットの胸の中で啜り泣いた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
(完)私を捨てるですって? ウィンザー候爵家を立て直したのは私ですよ?
青空一夏
恋愛
私はエリザベート・ウィンザー侯爵夫人。愛する夫の事業が失敗して意気消沈している夫を支える為に奮闘したわ。
私は実は転生者。だから、前世の実家での知識をもとに頑張ってみたの。お陰で儲かる事業に立て直すことができた。
ところが夫は私に言ったわ。
「君の役目は終わったよ」って。
私は・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風ですが、日本と同じような食材あり。調味料も日本とほぼ似ているようなものあり。コメディのゆるふわ設定。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる