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碧のガイア
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「不格好な花火」
律が笑うと、口を開けて空を見ていたジェムがこちらを見てくる。
「不格好? 凄く綺麗です。なんという魔法でしょうか」
「花火っていうんだよ。魔法じゃないけど、きっとこの世界では龍司しか作れない」
「では、やはりサルバトラはリュウジ様で間違いないんですね」
「うん」
この花火に深い意味はなくてただの合図に過ぎないのかもしれない。律がただ一方的に思い出と感傷に浸っているだけなのかもしれない。それでも、龍司が律を求めていなくてもただ会いたい。龍司に会えればそれでいい。
「リツ!」
花火の音で目が覚めたのかイホークの声と松明の明かりが見える。ジェムが律の手を握って引っ張ったが、律は首を振ってイホークが来るのを待った。
「リツ」
イホークの顔が険しいものから安堵の表情に変わった。
「心配したぞ。どうしたんだ」
イホークはいつでもこうやって律を見守ってくれた。そんなイホークに龍司のことを言うのは辛いことだったが、言わずに去るだなんてことは絶対にしたくなくて、あえて感情を込めずに言葉にする。
「サルバトラは龍司でした」
「なに?」
「言葉のとおりです。だから俺はサルバトラのところに行きます。今までありがとうございました」
「何を言っている。何を根拠に……大丈夫か? 疲れているのか? しっかりしろ」
心配そうな顔で見てくるイホークは律がおかしくなったと思っているのだろう。そう思われても仕方ない。
「俺はしっかりしています。妄想じゃない」
「何を根拠に……それにもしそれが真実だとしても、そんなことは許可できない」
「許可は必要ないってわかっているはずです」
律の強い言葉に、イホークは口ぎゅっと結ぶ。
「龍司はミナセラに迎えに来てくれるっていうから俺はミナセラに戻ります。でも、イホークには感謝しているし、できれば一緒に来てほしい。だけどそんなのは無理だっていうのもわかっている。だからイホークがオスカーの元に行くのならここでお別れです」
「何を言っている。一体誰がそんなことを? ジェム、お前か? 一体何をリツに言った」
「さっきの店で伝言を聞きました」
イホークがジェムの顔を睨むと、棘のある声でジェムが答えた。
「さっきの…………あの給仕か。もしかしてあの給仕にリツのことを話したのか」
「いいえ、私達は奴隷だと言いましたが、向こうが一方的に話してきました。給仕はサルバトラのカラスで、リツ様を認識していました。だから信用できる話だ」
「信用? 馬鹿を言うな! 世間知らずにもほどがある。それよりもあの給仕がリツに気が付いているということは危険が増したということだとわかっているのか!」
イホークがジェムに詰め寄る。リツは慌ててイホークの腕を取っていさめた。
「やめて。ジェムは悪くない。それに俺は信じる。あんな花火誰が上げられる? この世界でそんなことができる人間はいない」
「そんなのは証拠にはならない」
「なる。俺にはわかる」
「いや、だめだ! リツは自分がどれほど危険な立場に置かれているかわかっているのか!」
イホークの反対は当然だろう。だが、どうやって説明すればいいのかわからないし、説明できたとしても納得はできないだろう。律と龍司の関係性は自分達にしかわからないことなのだ。
それにサルバトラ、つまり龍司はオスカーを捕らえたか、最悪殺したかもしれない。そんなことは考えたくなかったが、可能性はゼロではない。イホークはそれに気が付いているだろうから、余計に律をサルバトラの元にやるわけはないのだ。
――そうだ。龍司は人を殺したのかもしれない。
ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。
龍司はこの世界でどんな風に生きてきたのだろうか。誰かを殺したのだろうか。急に迫ってきた現実感に体が粟立ったが、そんなことは今考えることではないと頭を振った。
「生きているのかわからないオスカー王子を探すよりも確実ではないでしょうか」
ジェムが再度口を挟んでくる。イホークはジェムの顔を睨んだ。
「そんな確実性よりも生存率が高い方を優先するべきだ。私は万が一の賭けにリツの命をさらすことは決してしないぞ」
「何故そこまでオスカー王子のところにリツ様を連れて行こうとするのですか。サー・イホークがオスカー王子の元に行こうとするのはわかりますが、もうリツ様は関係ない。セドリック王はお亡くなりになったのですよ」
「律はセドリック王だけではなくオスカー王のまれびとでもある。責任を持って届ける義務が私にはある」
「責任? 本当にそれだけですか」
ジェムの言葉にイホークは眉を寄せる。
「何が言いたい」
「リツ様を生贄にするためじゃないですか」
ジェムの言葉に、火に照らされたイホークの顔からすっと色が失われた。律は思わずジェムの顔を見た。
「生贄? 何言ってるんだ」
「冷静なサー・イホークが動揺しているということは真実なのですね。碧のガイアは力を失ったガイアに力を与えるための存在だと給仕から聞きました。そのために呼ばれたと。つまり、リツ様は生贄として捧げられる」
「え……何言って……そんなの、嘘だよね」
律は無理矢理に笑顔を作ってイホークの目をじっと見つめると、イホークはすっと目をそらした。
律が笑うと、口を開けて空を見ていたジェムがこちらを見てくる。
「不格好? 凄く綺麗です。なんという魔法でしょうか」
「花火っていうんだよ。魔法じゃないけど、きっとこの世界では龍司しか作れない」
「では、やはりサルバトラはリュウジ様で間違いないんですね」
「うん」
この花火に深い意味はなくてただの合図に過ぎないのかもしれない。律がただ一方的に思い出と感傷に浸っているだけなのかもしれない。それでも、龍司が律を求めていなくてもただ会いたい。龍司に会えればそれでいい。
「リツ!」
花火の音で目が覚めたのかイホークの声と松明の明かりが見える。ジェムが律の手を握って引っ張ったが、律は首を振ってイホークが来るのを待った。
「リツ」
イホークの顔が険しいものから安堵の表情に変わった。
「心配したぞ。どうしたんだ」
イホークはいつでもこうやって律を見守ってくれた。そんなイホークに龍司のことを言うのは辛いことだったが、言わずに去るだなんてことは絶対にしたくなくて、あえて感情を込めずに言葉にする。
「サルバトラは龍司でした」
「なに?」
「言葉のとおりです。だから俺はサルバトラのところに行きます。今までありがとうございました」
「何を言っている。何を根拠に……大丈夫か? 疲れているのか? しっかりしろ」
心配そうな顔で見てくるイホークは律がおかしくなったと思っているのだろう。そう思われても仕方ない。
「俺はしっかりしています。妄想じゃない」
「何を根拠に……それにもしそれが真実だとしても、そんなことは許可できない」
「許可は必要ないってわかっているはずです」
律の強い言葉に、イホークは口ぎゅっと結ぶ。
「龍司はミナセラに迎えに来てくれるっていうから俺はミナセラに戻ります。でも、イホークには感謝しているし、できれば一緒に来てほしい。だけどそんなのは無理だっていうのもわかっている。だからイホークがオスカーの元に行くのならここでお別れです」
「何を言っている。一体誰がそんなことを? ジェム、お前か? 一体何をリツに言った」
「さっきの店で伝言を聞きました」
イホークがジェムの顔を睨むと、棘のある声でジェムが答えた。
「さっきの…………あの給仕か。もしかしてあの給仕にリツのことを話したのか」
「いいえ、私達は奴隷だと言いましたが、向こうが一方的に話してきました。給仕はサルバトラのカラスで、リツ様を認識していました。だから信用できる話だ」
「信用? 馬鹿を言うな! 世間知らずにもほどがある。それよりもあの給仕がリツに気が付いているということは危険が増したということだとわかっているのか!」
イホークがジェムに詰め寄る。リツは慌ててイホークの腕を取っていさめた。
「やめて。ジェムは悪くない。それに俺は信じる。あんな花火誰が上げられる? この世界でそんなことができる人間はいない」
「そんなのは証拠にはならない」
「なる。俺にはわかる」
「いや、だめだ! リツは自分がどれほど危険な立場に置かれているかわかっているのか!」
イホークの反対は当然だろう。だが、どうやって説明すればいいのかわからないし、説明できたとしても納得はできないだろう。律と龍司の関係性は自分達にしかわからないことなのだ。
それにサルバトラ、つまり龍司はオスカーを捕らえたか、最悪殺したかもしれない。そんなことは考えたくなかったが、可能性はゼロではない。イホークはそれに気が付いているだろうから、余計に律をサルバトラの元にやるわけはないのだ。
――そうだ。龍司は人を殺したのかもしれない。
ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。
龍司はこの世界でどんな風に生きてきたのだろうか。誰かを殺したのだろうか。急に迫ってきた現実感に体が粟立ったが、そんなことは今考えることではないと頭を振った。
「生きているのかわからないオスカー王子を探すよりも確実ではないでしょうか」
ジェムが再度口を挟んでくる。イホークはジェムの顔を睨んだ。
「そんな確実性よりも生存率が高い方を優先するべきだ。私は万が一の賭けにリツの命をさらすことは決してしないぞ」
「何故そこまでオスカー王子のところにリツ様を連れて行こうとするのですか。サー・イホークがオスカー王子の元に行こうとするのはわかりますが、もうリツ様は関係ない。セドリック王はお亡くなりになったのですよ」
「律はセドリック王だけではなくオスカー王のまれびとでもある。責任を持って届ける義務が私にはある」
「責任? 本当にそれだけですか」
ジェムの言葉にイホークは眉を寄せる。
「何が言いたい」
「リツ様を生贄にするためじゃないですか」
ジェムの言葉に、火に照らされたイホークの顔からすっと色が失われた。律は思わずジェムの顔を見た。
「生贄? 何言ってるんだ」
「冷静なサー・イホークが動揺しているということは真実なのですね。碧のガイアは力を失ったガイアに力を与えるための存在だと給仕から聞きました。そのために呼ばれたと。つまり、リツ様は生贄として捧げられる」
「え……何言って……そんなの、嘘だよね」
律は無理矢理に笑顔を作ってイホークの目をじっと見つめると、イホークはすっと目をそらした。
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