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1)オレが県立北山高校剣道部主将、柳生剣豪だ!
新春というより、初夏と言ってもいいような強い陽が射し込む五月間際のある日曜日。
「ねぇ。ケンゴちゃん。きょうはどこまでおデートします?」
「あのな。ミコト。こういうのはデートって言わなくてな、散歩って言うんだぜ」
「てれびではそういってましたよ。おとこのかたとごいっしゅするのれすから」
短いツインテをぷるるんとさせて、小首を傾けて見せる可愛らしい幼児は、神主(かんぬし)ミコト。この春、幼稚園の年長組に進級したばかり。オレの幼馴染み、神主マコトの年の離れた妹だ。
舌足らず、言葉足らずは許容範囲内さ。オレには兄妹(きょうだい)がいないため、この子が可愛くて仕方が無い。
「アニキはどこ行ったんだよ? こんな良い天気なのに、また家に閉じ籠ってんのか?」
ミコトは頭を小刻みに、かつ左右に振って、
「ううん。デンキやさんにおかいものれす」
「また部品の買い出しか。しょうがねえな」
オレの手に絡みついてくる小さな指を握り締め、
「じゃあ、いつもの公園でも行こう。いいだろ?」
「けっこうですね。ミコトもおともいたしましゅ」
「オマエの口調はいつも馬鹿丁寧だけど、どこで覚えてくるんだ? やっぱ家柄が違うんだろうな」
そう。マコトとミコトの家は、母子家庭のオレんちとは異なる。名前が『神主』って言うぐらいに由緒正しき社家の子さ。
「シャケ?」
晩御飯のオカズを思い浮かべたのか、丸い目がオレを見上げていた。
「神社のお仕事をする人のことさ」
「ふーん」
解ったのかどうだか。ひとまずミコトはうなずいた。そして遠くを指差し、
「ケンゴちゃん。あすこであそんでるのは兄ウエですよね?」
ついでにオレはケンゴではない。ケンゴウだ。
柳生剣豪(やぎゅう・けんごう)17才、県立北山高校、新三年生、剣道部主将だ。どうだ名前に負けてないだろ?
「あれは遊んでんじゃないな。不良にたかられてんだ」
本当にろくなことが無いヤツだ。気の毒にさえ思える。
このあいだもサッカー部の試合中、たまたま近くを通りかかっただけなのに、ゴールを逸れた球が後頭部に直撃。二週間のむち打ちが完治したばかりだ。その前は自転車のブレーキが故障しているのに気付かず坂道を疾走。そのまま田んぼに突っ込み、前歯を二本折った。電車に乗れば誰かに押されて捻挫をするし、ベンチに座れば画鋲(がびょう)が上向いて置いてある………。画鋲を持ってうろつくヤツがいるのか?
子供の頃からの話を加えたら切りが無いが、ひどいのになると、幼稚園からの帰り道、誰かに連れ去られたこともある。警察が出て大事になったが、犯人は捕まらず、マコトは隣町の雑木林の中で発見された。それでもケロッとして帰ってきたのだから、やっぱり神社の子さ。おおらかなんだろうけど、世間は違う。皆からはキツネの祟りだと恐れられて友達もできない。オレはそういうことに関しては気にしないたちだから、唯一残された友人と言うわけさ。
その半面、マコトの頭脳はすげえんだ。物理に関してはパーフェクトさ。科学の先生が舌を巻くぐらいだから、たぶん校内一、いや県下一かもな。最も嫌いな科目でありながら、なんとか赤点を逃れているのは、マコトがオレのよき教師であるからだ。
そんなマコトに絡むとは、あいつらよそ者か?
オレはミコトの手を引いて集団に近寄ると、ひとこと言ってやった。
「オマエらその男をいじめるとキツネの崇りに遭うぜ」
「ぬぁんだぁ、テメエ?」
マコトの襟首を鷲掴みにしていた眉毛の薄い男が、鼻先でも舐めるのかと思うほど汚い顔を近づけてきたので、少し仰け反りながら、
「祟られてもいいのなら続けてくれ。それともオレが相手してやろうか?」
さらに食らいつこうとした男の肩を別の背の高いヤツがぐいっと引いた。
「まずいぞ、柳生だ………」
眉毛野郎の顔色がさっと変わり、身を引いた。
「マジか。北山の柳生か?」
ほぉ。だいぶ知られてんだな……。
「ああ。そうだぜ。剣道ではちったあ有名だろ?」
男はマコトの襟首から手を離し、半歩後ろに下がって改めて見遣る。
「じゃあ、この軟弱な男はマコトか?」
オレは紹介も兼ねて、
「そうさ。神主マコトさ。そしてこの子がミコトだ」
「みなちゃま。はじめまして。ミコトれす」
さすが、神社の子だな。膝に両手を当てて丁寧に頭を下げた。
奴らは三人。こっちは幼児連れ。だが目じゃないね。オレの強さは校内外共に知れ渡っている。
「お、おい。行こうぜ! コイツらと関わり合わないほうがいい」
連中は舌を打ちつつ背を向けた。
「ちょっと待ってよ! これから面白くなるところなのに。あんたたちもう行っちゃうの?」
全然気が付かなかったが、横から手を伸ばしたのは、スリムなくせに、やけにボリュームのあるボディを銀色の目の細かい網(あみ)で織られたような衣服で包んだ変な女子。
腰まである長い黒髪を首の後ろで無造作にひっつめ、下半身がピンク色の短パンと網タイツ、という一見して目が離せない、いや痛そうな少女だった。
でもその迫力ボディに、つい生唾を飲み込んだ。
「上に何も羽織ってねえから下着が透けてんぜ。何ちゅう服を着てんだ?」
銀色の網を服に仕立てたとしか思えない上半身から、はち切れんばかりに盛り上がった丸い物を包んだアンダーウエアが目に眩しい。
「珍しいの? これはね。メンタルサージから身を守る……ま、あんたらには関係ないわ。それよりさっきからジロジロあたしを見てんだけど………変態?」
「ば、ばか!」
慌てて目を逸らし、他人事みたいにぼんやり突っ立ったマコトに訊く。
「オマエ、やっぱ一度おじさんにお払いとかしてもらったほうがいいんじゃね?」
「なんで……?」
これだもんな──ま、本人が気にしていないのなら、いいんだけどさ。で?
「この子は誰だよ?」
「あいつらにからまれていたら、助けに入ってくれたんだよ、剣豪くん」
「何度も言ってんだろ。『くん』は付けるなって。他人行儀なんだよ」
オレは、心地よさそうに黒髪を風になびかせた見知らぬ変な女子に向き直り、
「助っ人、ありがとうな、怪我は無いか?」
「あー。あたしのことは気にしなくていいわ。あんな子供、相手にもならないからさ」
「オマエだって、あの連中とあんまり年は変わらないじゃないか」
ボディはダイナマイトだが、面立ちは幼げで、かなり整っている。
「え? あたしってそんなに若いの?」
「はぁ?」
なんか変なヤツだな。回れ右をするか。
「さ。ミコト、帰ろうぜ」
「どうしてれしゅ? おデートはこれかられすよ?」
「あのさ。ボクはこれからパーツ屋さんに行くんだ。剣豪くんとミコトちゃんも来ない? それとキミも………」
神社っちの子は二人ともどこかのんびり気分だ。ミコトは自分の兄貴がカツアゲにあっていたというのにケロッとしているし、マコトも網の服を着た女を電気屋に誘うって…………アタマ痛ぇヤツらだな。
女子は道のすみに丸められていたピンク色のビニールシートを拾い上げ、バサッと広げると腕を通した。
それはピンク色のレインコート。色も色だが、空は晴れ渡っている。
「それ何の衣装なんだ?」
と訊くしかない代物だ。
そんでその子は、ポツリと言う。
「次元シールドよ」
「…………………」
それが何だか知らないが、アミの服を着てピンク色のレインコートを羽織るヤツはあまり連れ回したくないけど、見た目がゴージャスなので、ここでバイバイするのは少し勿体ない。
「あんた、名前は?」
「あたしは花園花梨(はなぞの・カリン)十八才。へぇ、十八才かぁ。ほんとだ。まだ若いじゃん」
「は?」
やっぱ痛い女なんだ。バイバイしたほうがいいな。
「あたしさ。巫女の修行をするためにこの街に来たの。七海(ななみ)神社って知らない? ぜんぜん海と関係ないのに七海神社。変な神社でしょ」
マコトと揃って顔を見合わせ、ミコトが舌足らずな説明をする。
「ななみじゃんじゃは、ミコトのおうちなの」
「え─────っ!」
少女は澄み渡った青空を映し込んだ目を見開き、じっと幼女のあどけない面持ちを見つめた。
「そっか。あなたがミコトちゃんか──」
それからゆっくりとマコトの顔に視線を移して、安堵にも似た吐息を吐いて笑った。
「あはははは。さぞかし立派な神社なんでしょうね」
「おせーよ………」
「べつにいいよ。僕だって変だと思ってんだ。山の中にあるくせに七つの海の神様を奉っているんだもんね。それに僕には関係ないし……それよりパーツ屋行こうよ。今日中にアンテナを立てたいんだ」
神社という広大な土地を利用してコイツは毎日裏山にアンテナを立てている。ちょっと前まではパソコンに懲り、すげえことをしていたと思ったら、最近は受信設備に凝りだしたようだ。
それにしたって進んで電材屋さんへ行こう、なんて言いだすヤツは誰もいない。マコトは痺れを切らしたらしく、
「しょうがないな。じゃあ僕はパーツ屋さんへ行くから、あとは剣豪くんにまかせるよ」
「え? おい、マコトぉ……おいって……」
行っちまいやがった。
「しょうがねえヤツだな。オマエの兄ちゃん」
尋ねたミコトは明るい声で応える。
「はいぃ──」
☆ ☆ ☆
七海(ななみ)神社──。
ピンク色の変な女子にとっ捕まった路地から山手を仰ぐと小高い丘陵が見える。大きなビルも無い小さな街なのでどこからでも見える。そこが七海神社のある山すそだ。海の神様を奉っているのに、山にある神社。昔はここまで海があった、って言い伝えも無いし。海近くから引っ越して来たなんて話も聞かない。先祖代々ここにあると氏子の人たちが口々に言う。
そう言えば──。
七海寺(しっかいじ)てのもあるのな。
神社仏閣が共に『七海』って、おかしいだろ。
もしここが七海町とでも言うのなら納得いくのだが、そんなことは無い。ただの北山町さ。海なんか遥か彼方、電車乗り継いで数時間向こうだぜ。となると、大昔ここで何かあったんだろな。よく知らんけど。
中学の頃、マコトのお父さんに聞いたとことがあるが、先代からそう教え込まれただけなので知らん、なんてことをけろりと言った。
マコトとよく似た、おおらかなおじさんで、たぶんこの代で七海神社は廃れるな。跡取り息子が物理工学系の大学へ行くようだし。ミコトはいいとこ巫女さんだろう。この子が跡を継ぐなんて…………あれ? 女の子が神社を継ぐってことはできるのか?
ま…………。
それはこの子が小学校を卒業するまでに考えればいいことで。それよりえらく気にってミコトが抱きついているピンク色のネエチャンをどうすっかのほうが先決さ………。やっぱ連れて行くしかないか。
100メートル先からでも目立つぜ、その恰好………………。
寒かった朝の気温もいつの間にかゆるみだす五月すこし手前。ようやく木々の頂上から朝陽が顔を出す頃。
「ほら! モタモタすんなよ。朝練は時間が短いんだ。素振りからすっぞ。こらー、山本! 身体動かせ、怪我すっぞ」
いつものように七海神社の境内で早朝訓練を始めた北山高校剣道部、つまりオレが主将(大将)を務める剣道部の面々だ。
男子十人、女子五人のこじんまりしたクラブだが、オレと副将のおかげで二年連続県大会トップさ。しかも副将の中村くんは超イケメン。それ目当てに女子部員が増えて増えて………。いい傾向さ。ほっときゃ男臭いクラブになるところが、結構華やかになる。
部員は適当に境内に散らばり素振りを始めた。そこへ箒を持って現れたのはカリンだ。
赤い袴に白の衣装。文句のつけようも無い巫女衣装が眩しい。まじで巫女さんそのものだった。
「かっけぇ。本物の巫女さんだぁ」
「綺麗だ…………」
大口あんぐりの山本。ひと言ポツリともらして下を向くのは副将の中村くん。
山本はどうでもいいが、副将の中村くんはイケメンのクセして超ストイック。といえば聞こえがいい。実は病的なほどに女性恐怖症だ。県大会でオレの次に強いのにだ。中村くんが歩くだけで数人の女子が後をつけてくるというのにだ。
オレ?
オレは……。
どういうわけか女子に恐れられて誰も近づいてこない。言っとくが、オレが怖いんじゃない……ボディガードが付くからだ。
誰かって?
ま、おいおい解ると思うぜ。
それより山本がソワソワしちまって練習なんか上の空だった。
「主将……誰なんすか?」
「ああ花園カリンって言うらしいぜ。十八才だ」
「何で詳しいんすか?」ともう一人の部員が飛びつき、
「しょ、紹介してくださいよー」
「オマエには似合わねえよ。広川」
「山本、てめえにいわれたくねえぞ!」
ワサワサしだす男子部員に、女子連中は怪訝な雰囲気を滲ませる。
「先輩ぃ。はかま姿の女子ならこっちにもいるじゃないですかぁ」
ほっぺたを膨らませるのは、綾羽恭子。二年生。女子の中ではずば抜けて剣のセンスがある。
「ばあか。そんな汗臭い袴など興味ねえワ。あっちを見ろ真っ赤な袴で白がまた純白ときてる。神々しいぞ」
と言い返すのは先鋒の月島。
「そうっすね。でもこれだけの美人だ。こりゃーマコトん家の氏子さんが増えるぜ。あー。初詣が楽しみっすよ。うひょー。オレ、七海神社のファンになろうかな」
マコトのおじさんは、そういうゲスな目的でこの子を修行させているのではないと思うが、少々興奮気味の月島と山本のバカには、もうすこし踏み込んだことが言える。
「巫女衣装はそうかもしれないけど、中身はだいぶ変だぜ。近寄らないほうがいい。さぁ。時間がねえぞ。遅刻厳禁だからな。いつものノルマをこなすぞ!」
「へ、へいっ!」
海賊の手下みたいな声を上げて、再び部員たちは境内に散り、素振りを始めた。
それを見届けていると、肩口から、
「なぁんだ。ケンゴは剣道部なのかぁ」
「うぉっ!」
いつ歩み寄ったのか、物音ひとつ立てないで背後にカリンが立っていた。
「忍者か、オマエは!」
身体が反射的に逃げ腰になるのは仕方がない。煌めく朝陽に紅白の衣装が眩しかった。
それにしても──。
部員たちが言うように巫女装束が見事にマッチしている。神職の修行をしに来たと言うが、何とも言えない色気も漂っていた。
「近寄るあたしに気付かないケンゴが主将とは、この剣道部もたいしたこと無さそうね」
「オレは剣豪って言うんだ。ケンゴで切るな。切っていいのはミコトだけ。それとな、これでもオレたちは県大会で連勝してんだ」
「あはは、どうだかね」
そう言うとカリンは背中を曝して砂利を掃きだした。
「このやろう。ぶった斬ってやる」
本気じゃないぜ。ジャレ事さ。背中を竹刀で突っついてやるつもりだった。
でも現実は目を疑う結果に──。
オレの竹刀がカリンの背中に触れることは無かった。不自然さはまったく感じられず、舞うような仕草で半身を捻らせたカリンは箒の先で竹刀をかわした。
羽綿に丸められ静かに下ろされた、そんな不思議な感触を持って竹刀が左に傾いたと思った時には、地面を打っていた。
ついでに──。
「なあんだ。箒もいらないじゃない」
と言い捨てやがった。
今、竹刀を避けられたのか?
あまりに見事で何が起きたのかも分からなかった。
「マジか? 偶然じゃないのかよ」
カリンは無言で笑っていた。無性に可愛いのだが、オレのハラワタは煮えくり返ってきた。
「オマエ、経験者だな!」
「なに熱くなってんのよ。あたしにかわされると思ってなかったんでしょ」
嘲笑うかのような口の利き方をされたら、こっちは余計に熱くなる。
「うるさい。おいちょっと手合わせさせてくれ」
中段の構えを取り、竹刀をカリンの喉元に向けた途端、巫女衣装がふわりと舞い上がり、その先が叩き落された。
今どうやって叩き落としたんだろ。赤い袴の動きに気を取られていた。
「あはは。スケベ心を前面に出した竹刀では、あたしに触れることはできないわよ」
「なんだとっ! おい誰かコイツに竹刀を貸してやれ!」
オレとカリンの動きがあまりにも殺気立っていたのだろう。いつの間にか部員たちが遠巻きにして囲んでいた。
「主将。巫女さん相手に熱くなるなんておかしいですよ」
女子部員の忠告が耳に入るが、言われなくたって解っているさ。オレが一般女子相手に竹刀を向けるなんてこと絶対に無い。だがコイツは別だ。全身からほとばしる存在感が尋常ではないんだ。
どうすればこんな風格が醸し出されるのだろう?
澄明な瞳の奥から鋭く突き刺してくる煌きは何なのか。
触れると身が切られそうで背筋が粟立つ、今までに味わったことのない気配を強烈に感じた。
「黒瀬。オマエの竹刀貸してやれ。北山の剣道部が箒を相手するなんて許されるか!」
焦燥めいた言葉が自然とこぼれ落ちた。
カリンは一人の女子部員が差し出した竹刀へ目も合わせず、
「大丈夫よ」
これでじゅうぶんだ、というジェスチャーめいた動きと笑みを浮かべて箒の先をオレに見せた。
「ば、バカにしてやがる!」
竹刀を絞るように持ち直し、今度はゆっくりと上段に構えて、突き刺す勢いでカリンの額を睨み付ける。こっちは準備万端さ。どこから打ち込まれても避けてやる自信はあるし、いつだって打てる。
カリンは右手で持った箒をゆっくりと体の前に回して、腰より高い位置で縦にして構えると、半歩オレに近寄り対峙した。
「ぬぉう……何だコイツ」
まったくスキが無かった。打ち込むタイミングが見当たらない。あの構えは何だ。八相か?
実戦の構えとか言われ、高校生レベルでは滅多に使うことの無い構えだ。しかもどこから打ち込んでもかわす気配がヒシヒシと伝わってくる。
初めて焦りを覚えた。こんなに切羽詰まったことは試合でも無い。それほど身体が硬直していた。
「主将。巫女さん相手に本気っすか?」
そう言って近寄ろうとした下っ端部員の足を止めたのは中村くんだ。コイツも副将になるだけの実力者。カリンからほとばしる剣呑な空気をちゃんと見抜いていた。
「この人は有段者だ」
オレは喉の中がカラカラに渇いていて上手く言えず、代わりに短い言葉で忠告したのは中村くんだった。
ふさりと黒髪が揺れてカリンの赤い唇がオレの頬に触れる距離に近寄った。なのにオレの体はピクリとも動けない。
「勝負は今夜十時に延期しよう。でないとあんたは部員の前で無様な恰好を見せることになるよ」
その条件を飲むしかなかった。何しろ奴の気迫で完全に負けていた。カリン。オマエ何者なんだ。
黙ってうなずくオレを見届けると。
「さっすがねぇ。北山高校の主将は迫力が違うわ。あたしも昔ちょっと剣道やってたんだよ。でも強い人は目が違うね。降参。ゴメンね。さぁみんな朝練続けてよ」
部員たちには、煌めく朝陽に負けないほどの爽やかな笑みを振りまき、
「今夜、負けたらあたしのシモベになるんだよ………」と、脅しにも近い囁き声をオレにだけ残して、カリンは境内の裏手へと消えた。
果たして次の日。オレはカリンのシモベとなっていた。額にある痛々しい絆創膏がその証だ。
おー痛ぇぇ。
心が………な。
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