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【第三章】追 跡
居酒屋『赤・村さ木』
しおりを挟む「マジかよ……」
俺と玲子は大きく開(あ)いていた店の入り口で、こっちも同じように口をあんぐりと開けていた。
「ついこのあいだユイの歓迎会に使った居酒屋じゃないか」
「いらっしゃいまし~~」
店内から俺たちに向けて黄色い声が掛けられた。聞き覚えのある声で、ちょっとぽっちゃりさんで丸顔の女子のはずだ。
「おい……アカネ。マジでこの中か?」
戸惑いと驚きが渦を巻く店内を覗き込み、一巡させてから訊いた。
「はい、そうーでーす。この先25メートルほど奥ですねぇ」
茜の視線は店内ではなく、探知器の上で動いていた。
「いらっしゃいまし~~。何名様ですかぁ?」
うるさいな。この子。
よく見るいつもの女子店員だが、その子の2年前の姿になる。そう思うと幾分やせて見えるのは……気のせいだろうな。
さてどう切り出すかだ。馴染みの店でもあるので無視して入るのもまずいだろうし。
かと言って──、
今日は飲みに来たのではない。450年後に銀河を揺るがす大事件が起きる。我々はそのファクターを追って来た特殊危険課の者だ。ただちに店を明け渡せ。
とか、ストレートに言えないし……、こいうときは何て言うべきなんだろう。
そこをどけ、奥を見せろ。
では、さっきのヤクザ者だし。
害虫調査に来ました。奥を見せてくれますか。
だと保健所になっちまう。
ちょっと人を探しに来てんだけど……。
そうだな。この場合はこれぐらい軽いのが適切だろな。
「あのね。オネェさん。ちょっと人を……って! こ、こらお前ら!」
俺を無視してコトを進めるんじゃない。
「いらっしゃいまし~~。3名様ですか。どーぞ。奥のボックス席が空いておりまーす」
3本の指を突っ立てた茜を引き連れて女子店員が先頭を進み、その後ろに、
「こ、こら玲子、飲みに来たんじゃ……、あっ!」
二人を引き留めようとした俺の視界の端に、黒っぽいものが動いた。
ギクシャクした動作とダルマっぽい丸いボディ。絶対に忘れることは無い。まぎれもなくネブラのプロトタイプとなるドロイドだ。
「いたぞ! プロトタイプだ!」
一歩進んで縫い付けられた。
「ぬぁんだ、これ!」
歩こうとした動きを束縛される光景。
目に飛び込んで来たのは、店内の壁に貼られたポスターだった。
「こ……、これはドロイドのポスターじゃないか!」
ダルマ野郎の等身大に匹敵する大型のポスターが壁に貼ってある。
よく見渡すと店内いたるところに貼られており、それは店のマスコットキャラクターがビールジョッキを掲げた、純然たる販促用のポスターなのだが、目を疑いたくなる気分に苛まれる。どう見たってそこに描かれたキャラクターは、俺たちが追うプロトタイプとそっくりのダルマロボなのだ。
「もしかして……ネブラの時空修正?」
この居酒屋『赤・村さ木』のマスコットキャラクターが偶然ドロイドと似たのではなく、ネブラのコンパイラが仕組んだモノだとしたら。薄ら寒いまでの恐怖を感じる。だって考えてもみろ。全国に数百店舗を構える大型チェーン店だ。そこを転々とすれば、四次元(4D)転送が可能になるまで隠れることが可能なのだ。
なぜプロトタイプが惑星アルトオーネのこの街を逃走先として選んだのか。
重複存在を懸念して俺たちが近寄れないことを想定しただけではない気がする。胸騒ぎがして手の先が痺れる感触を得た。
店内に居る人たちは何も違和感を覚えていないし、それどころかダルマロボはえらい人気だ。プロトタイプをゆるキャラのヌイグルミだと勘違いした客が、一緒に記念写真を撮ろうと横に立つほどで、完璧に溶け込んだ存在だ。
こんな細かい部分まで考慮して時空修正を企てる連中の小賢しさには驚愕するのだが、俺にはまだしこりが残っていて、いつまで経っても胸騒ぎが収まらない。杞憂であることを祈りたいのだが、今この状況を見て新たに憂慮(ゆうりょ)すべき事案がまた一つ増えた。
それは記憶の齟齬(そご)だ。
ここに張られていたポスターは、これまでずっと有名な女優がビールジョッキを掲げるありきたりの写真だった。週三は訪れる常連の俺が言うんだから間違いない。
ところが二年間の遭難騒ぎの後、ポスターは女優でもなく、ましてやダルマロボでもなかった。貼ってあったのはペアーの若い少女だった。
このあいだ玲子んちから優衣の家財を運んだ晩に来た時も貼ってあったろ。食い込みそうなほどのショートパンツ姿が眩しいダイナマイトボディの萌え系美少女二人が、互いに背中合わせになって大型の銃を撃つポーズをしたヤツさ。
二年のあいだにダルマロボの人気が廃(すた)れたのだと思いたいが、話にはまだ続きがあって、ポスターの少女たちの絵があまりにセクシーだったので、田吾が一枚欲しいと店に交渉したんだ。そしたら店長曰く、『二年前にこの子たちにキャラ変更したところ、欲しがる人が続出。枚数に限りがあるので、今は進呈できない』と丁寧に断られていた。
もしネブラがこのような時空修正を決行したとしたら、俺の記憶からダイナマイトボディのおネエちゃんは消えて、ダルマロボになるはずなのに、いまだに記憶は書き換えられておらず、少女たちの白い美脚が鮮明に焼き付いている。
答えは一つ。俺の記憶が変化しないということは、ネブラの時空修正を誰かがさらに変えたのだ。店が路線変更せざる何かが二年前に起きたということだ。つまり今日だ。
喉がごくりと鳴った。
「何が起きるんだ……」
ゆっくりと視線を店内に這わせる。店の雰囲気は何も変わっていない。同じ衣装を着た店員が料理を持って右往左往する、お馴染みの光景だった。
異なるとしたら、厨房へと続く通路にプロトタイプが立ち、それを玲子と茜が睨むという部分ぐらいだろう。
「なっ!」
もしここで、玲子が珍しく酔ってはしゃいだのなら、大いに目を細めていただだろう。だが実際に俺は意表を突かれた。まさかそんな物をここで突きつけるとは。
「ここで会ったが運の尽き! 未来からのヒロイン、正義の名のもとにあなたを破壊します!!」
「しまーす」
二人のでっかい声が渡った。
「ぬぁ──っ!」
我が目を疑う。あろうことか毛皮のコートからハンドキャノンを抜き出し、両手でグリップを構える玲子の姿。
「このバカヤロウが……そんな口上まで考えていやがったのか!」
頭の奥底でモヤモヤとしていた暗雲が閃光と共に晴れ渡った。晴れて欲しくなかったのに晴々したぜ。
あの時のポスターの女の子は玲子と茜だ。
ショートパンツ姿ではないが、こいつらダイナマイトボディちゃあ、ダイナマイトだ。しかも大型の銃器を互いに持ち。
「や、やめろっ! ここで撃つな!」
目の前で竹刀ケースのジッパーに手をかけた茜を見つけて叫んだが、止める間もなく二人は動き、俺は驚愕の光景を目の当たりにして凝固する──もう死にたい。
サラリーマン風のグループがワイワイと楽しげにやっている前に立った茜。カーディガンを翻(ひるがえ)して、テーブルに並んだグラスやら料理やらを一気に片手で払いのけた。
何が起きたのかと総立ちになる中、それらは大きな音を出して床にぶちまかれ、すっきり片づけられたテーブルの上に寝転ぶと、茜は竹刀ケースから抜き出した粒子加速銃を軽々と構えて、起動ボタンを押した。
重みに耐えられなかったテーブルの足が折れて、爆音と共に崩れる直前に、片膝立ちで体勢を整える姿が妙に様になっており、誰の瞼にも焼き付いた。
粒子加速銃のパワーレベルがどこに設定されているのかは、茫然と立ち尽くすサラリーマン客の陰になってよく見えないが、最大パワーならこのビルを突き抜けて、シードはそのまま成層圏を貫き、衛星イクト周辺までは飛んで行ってしまうだろう。そんな武器はこの星には無い。ひとことで言って、「やばい」に尽きる。
「あがががが……」
俺の頭の中では《予期しないエラーが発生しました》というメッセージが出ていた。
この衝撃的な出来事がきっかけとなって、不細工なダルマロボから萌え系の少女スナイパーに販促用のキャラを切り替えたんだ。
未来を変えたのは俺たちじゃないか!
粒子加速銃が温まり、徐々に高まっていく起動音を聞いてようやく我に返る。
「ま、待てアカネ!」
という言葉を発する前に今度は玲子が走り出した。
片手で銃を握ったまま通路を駆け抜けようとしており、二人が見据える先には厨房があって、その手前にプロトタイプがいる。
こいつら好き勝手に銃をぶっ放し過ぎてマヒしたんだ。ここは現実の居酒屋、『赤・村さ木』で、コケの惑星や砂だらけの惑星でもなければ、メッセンジャーの作った娯楽施設の中でもない。
「う……撃ってはいかん」
どちらから止めたらいいのか。逡巡(しゅんじゅん)する間に店が騒然となった。
女性客の甲高い悲鳴が響き、続いて、
「銃撃戦だ!」
「抗争事件か? 乱闘か?」
「誰だこの子、めっちゃ可愛いぞ」
「こっちの女性はカッコいいし、すげぇボディ……。ゴクリ、」
そこで息を飲むかな?
「……すげえ色っぺぇ~」
「なんか店のショーが始まったぞ」
「違う、ゲリラライブだぜ!」
「おい、カメラ出せ。社に送るぞ! 新しいアイドルだ」
やっべ。芸能誌の記者が飲んでいたんだ。
「おぉ。ファンになろ。店長、次のイベントいつ?」
「サイン貰っていい?」
悲鳴交じりというか、一部マニアの声のほうが大きい。俺の思いとは少し違うけど店内は大騒ぎとなった。
硬直して動かなくなった足を床から無理やり引き剥がし、茜に飛びつき銃口を下げさせ、女子グループのテーブルを蹴り倒し、それを盾にしてプロトタイプへ首を捻る玲子からハンドキャノンを取り上げた。
「なにするのよ、裕輔、あー、プロトタイプが逃げるわ!」
ブワンと頬を揺るがす強い波動がして、客室と厨房を繋ぐ薄暗い壁から筋肉質で黒い腕の先っぽがすり抜けてきた。次に肩、そして顔が出現。まるで波一つ立たない湖面から腕を伸ばしたまま浮上するかのようだ。
驚愕の光景に一歩も動けないでいると、壁から滲み出てきたデバッガーは抱き寄せたプロトタイプと共に再び壁の中に沈んで消えた。
騒然とした店内で今の光景を見た者はおそらく俺たちだけだろう。それぐらい一瞬の事だった。
「あいつら壁から生えて来たぞ!」
声を出さずにいられなかった。あんなことができるんだ。俺たちから見たら魔法だ。
「………………」
俺は言葉を失い、魂を抜き取られたみたいになっちまった。
慌てて頭を振る。
「そうだ。驚いている場合ではない!」
もっともマズイのはこいつらの存在だ。急いで茜の粒子加速銃に竹刀ケースを被せると、二人の腕を引っ張って店の外に飛び出した。
いつの間にか外もてんやわんやの大騒ぎになっていた。誰かが通報したのだろう。普段平和な都市なので警官もこういう時は動きが機敏だし、好奇心旺盛な住民がとても多い街だから何か騒ぎが起きると、ものすごい数の野次馬が押し寄せて来る。それを制圧するために警察官の出動も大規模になる。
ひとたび騒ぎが広まるとすぐに尾ひれが付いて、てんでデタラメな情報となって飛び交う。
抗争事件が起きてバズーカを打ち込まれたという過激なものから、ゲリラはゲリラでも内密にされたアイドルのライブが店内で始まった、なんて言うデマが飛ぶもんだから、
「誰が来たんだ?」て、なるだろ。
そしたら、誰かが、国民的超スーパーアイドルが7人も来たって叫んでいた。
お前見たのかよ。なんで人数が増えてんだ、と言いたくもなるが、もう一度言おう。この街の人々は何にでも首を突っ込む人ばかりなので、『なんだ、なんだ』ってな調子で、デマにノセられた群衆がビルを取り囲んでしまった。
なんと俗人たちの多い街なんだろ。同じ住民としてちょっち恥ずかしいぞ。
二人を引き連れた俺は、路地裏の角でようやく足を止めた。
どこをどう走ったのか、まったく憶えていない。それよりも息が切れて心臓が口から出そうになっていたが、むしろ今の状況を考えたら、口から臓器が飛び出たほうがまだ気が楽だった。
(な、何を考えてるんだっ、お前らは!)
二人に向かって叫んだが声が出なかった。喉がカラカラに渇き、声帯が3日間天日干ししたスルメみたいになっていた。
「痛いって。裕輔ぇ」
玲子がようやく小さな声を漏らし、俺は握っていた手の力を緩めて暗闇の隅に二人をしゃがませた。
ともかくだ。
辺りを見渡して誰もいないのを確認し、ひとまず息を吐(つ)く。
ポケット探ると小銭があったので、近くにあった自動販売機からスポーツ飲料を3本買うと、1本は玲子に渡し、茜にやろうとして、こいつはロボットだったことを思い出し、ポケットにねじ込んでから残りの1本を急いで開けた。
俺が一気に飲み干す間、玲子もちびちびやっていたが、そのうち言い訳でもするかのように、
「特殊危険課は何をやっても許されるのよ」
バカなことを言い出すので、俺も少しムキになって言い返す。
「それは宇宙での話だ! あんなとこで銃器を出しやがって、どうすんだ大騒ぎになっちまったじゃないか」
「大丈夫よ。けっこう喜んでいた人もいたじゃない。変装してんだしバレないって」
気楽な返事をするもんだから、俺は憤怒にたぎる。
「お前の行動が未来を変えたんだぞ!」
「なんのことよ?」
「いいかよく聞け。ネブラはプロトタイプをあの店のマスコットキャラに仕立てて、俺たちから隠そうとしたんだ。それをお前らは阻止したんだ!」
「何を怒ってるのよ。それなら正しいことをしたんじゃない」
面と向かってそう言われて気付いた。確かに間違っちゃいない。だが、
「まだ分からんぞ。この先、尾ひれが付いてさらに未来が変化するかもしれんだろ。素人が手を出したらダメな案件なんだ、時空修正ちゅうのはな!」
「あなたは臆病すぎるわ。いったい未来がどう変わったのよ?」
「あ……?」
そう言えばポスターの件は別として、それ以外は何も変化がない。
かと言って。
二年後、あの店にお前らのポスターが貼られる、と、もしここでゲロったらどうなる?
調子にのるだろうな。そしたらこいつのことだ。面白がってもっと派手に何かをやらかすかもしれない。
深呼吸をして興奮した素振りを隠す。
「ま……まぁ。大したことじゃないから……それよりこれからどうすんだよ」
俺の反転する態度に戸惑いながらも、玲子はスポーツ飲料の缶を傾けてから言う。
「転送されるまで時間潰しするしか無いんじゃない?」
「まだまだ長ぇぞ……それっ」
飲んだ後の空き缶をゴミ箱に投げ入れたつもりだが、外れて道路の上に落ちて甲高い金属音が闇の中に響き渡った。
「ゴみゅは……ゴみゅぱこに、しゅへまひょう」と言ったのは茜。
「「えっ!」」
玲子とそろって、そっちへ視線を飛ばす。
「よ、酔ったのか、アカネ!」
「よぉぉって、なんれすかぁ?」
優衣の時とまったく同じだ。管理者製のアンドロイドがアルコールに弱いことをすっかり忘れていた。居酒屋の空気を吸っただけでへべれけだ。俺なんて臭いすら感じ取れなかったのに。
酔ってのことなのか騒ぎで失くしたのか、茜はカーディガンを着ておらず、粒子加速銃を隠す竹刀ケースも失くしていて、丸裸の銃を地面に立てて座り込み、頭をふらふらと揺らしていた。
「ま、まずいぞ。カーディガンもケースも持っていない」
「いいわよ安い物だし」
そう言いながら玲子も茜の隣に膝を抱いて座り込むと、夜空を見上げた。
そういう問題じゃないのだが──それより高級な毛皮のコートを尻に引いてもいいのだろうか。
貧乏暮らしを続ける俺からは信じられないことをするヤツだ。
まぁそんなことはどうでもいい。
「まったく、どいつもこいつも……」
意味の無い言葉を吐きつつ俺も茜の隣に体育座りをして、ふらつく体を支えることに専念し、かつ今後の対策を考えることに。
「プロトタイプは逃げたから追いかける必要は無くなったが、残り10時間ほどをどうやって潰すかだな」
「朝までここに隠れてる?」
疑問を混ぜた玲子の問いかけはどこか楽しそうだ。
「こんな薄暗い汚い路地で、この寒空だ。ここで10時間はきついぞ」
どこかの店に入るにしても、銃がむき出しっていうのがマズい。それにこいつ寝ちゃったし。
「アンドロイドが酔って寝るって、どういうことだ?」
なんとも言えない無力感に苛まれていた時だ、眠入った茜が立てていた銃の重みがこっちに伝わってきた。どうやら力が緩み出したようで、それは立て掛けていた大型バイクが圧しかかって来るのと同じ重圧をギシギシと肩に食い込ませてくる。
「あがががが、骨が折れる。何とかしろアカネ!」
聴力だけは麻痺していないのか、無意識に俺の声を聞いたみたいで、
「りょうはいひました、こまんらー……むにゃ」
寝言のような独り言みたいな、聞き取りにくい言葉を口にすると、自分の方へ銃を引き戻した。
粒子加速銃の下敷きになることだけは逃(のが)れることができたが、改めて今の状況を見つめ直す。
「はあーぁ」
出てくるのは溜め息ばかり。
「こんな騒動起こしちまって、どうすんだよ。プロトタイプじゃなく、俺たちがお尋ね者になっちまったよ」
「だ……ね」
「だね、じゃねえ!」
極楽トンボの玲子に振り返る反動で、茜の手が緩み粒子加速銃が再び大きく俺に圧し掛かって来た。
「うががががが。アガネェー、また倒れてきたぞ!」
銃が引き戻され重圧から解放され、ほっとひと安心。再び文句を垂れる。
「この騒動を社長になんて報告するんだ。ウソ吐いたってもとの時代に帰ったらすぐばれる。俺たちを探して警察が動き回ってんだからな」
「大丈夫よ。二年後のあたしたちの記憶に何も残っていないじゃない。ということはちょっと騒動になっただけで収まったのよ」
玲子の返事は相も変わらず軽いが、俺の記憶も変化はなく。かつ繁華街で銃撃戦があったなどという報道も聞いたことが無い。居酒屋のポスターがこいつらに代わったことを除いてな。
「気楽な野郎は羨ましいな」
「まぁまぁ。何とかなるって。ねっ」
金髪ウイッグをバサバサと外して、玲子は丸めてそれを懐に突っ込むと頭を振って黒髪を解いた。重そうにたゆみ、肩へとなだれ落ちていく。
それを首の後ろでひとまとめに束ねると、ポケットから出したミニスカートと同じミルク色のリボンで結い上げた。慣れた手つきと、白いうなじがちらつく悩ましい仕草に見惚れる。
さらに玲子は毛皮のコートをばさっと脱ぐと、大きく広げて茜と自分を包みこみ、その中にしゃがんで黒く煌めく瞳で再び夜空を見上げた。
「このまま、ここで朝を待とうよ」
何か言い返してやろうと思ったが、言葉が無かった。堂々とした態度。オンナのくせに度胸がある。
さて、玲子は本気でこのまま時間を過ごす気だ。
どーすっかな。マジで。
やっぱ茜の酔いを醒まさせるのが先決だろうな。
応援ありがとうございます!
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