グランドダンジョンマスターは、ダンジョンを作らず、異世界をぶらり旅

小佐古明宏

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1章

22話 エルフの里

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 時は遡り、大和たちがルイズ町へ訪れる前、エルジーナ大森林の奥地で、大きな戦いが起きていた。世界樹の結界に守られたエルフの里、エルフッド。ここに、ゴブリンの大軍が押し寄せていた。

 結界に守られているとはいえ、物量の前に、綻びが生じていた。その綻びからゴブリンが侵入し、里に被害を出している。

「侵入、10匹。早く倒せ!」

「くそ! 矢、矢は無いのか!!!」

 現場は混乱し、エルフの男たちの声が響く。

「不味い状況ですねエレナさん」

 エレナと声を掛けられた、金色の長い髪を後ろに束ねた長身のエルフの女性は、大きく溜息を吐く。20歳前後に見えるエレナは、青い瞳を見開くと、迫りくるゴブリンの群れを睨んだ。

 若草色の軽鎧をまとい、腰に下げた短剣に手を触れながら、歯を食いしばる。

「壁があるとはいえ…」

 結界から侵入されても、里の周囲には壁がある。この壁は、ルイズ町で使われている石板だった。里にも奈々が訪れており、リーシャの指示の元、石板で壁を建築した。

 ダンジョンのオブジェクトであり、破壊が不可能の石壁は、石板を5重に重ねて作られている。高さは5メートルあり、内部には櫓を建て、エルフたちはその上から、矢を放ち、魔法を撃っていた。

 安全で、安心の石壁だが、ゴブリンの大軍の前に、里全体が恐怖と絶望に覆われていた。倒しても倒しても、何処からともなく湧いてくる。

「矢の本数が残り僅かです」

「マナポーションが不足で、魔法が使えない者も…」

 エレナの元に報告がいくつも入って来る。エルフの戦士を纏める立場のエレナは、彼らに指示を出し、ゴブリンの対応をしている。しかし、どう考えても、乗り切る術が思い浮かばない。

「エレナさん、北の結界が破られました。ゴブリンが100匹、侵入してます!」

「人員を10名向かわせて、魔法を使える者は、矢に魔法を付与して威力を上げて対処!」

 弓を使う者と魔法を使う者がそれぞれ5人ずつ、北へと向かう。

(不味い…このままでは、こちらが負ける)

 エレナは焦りを感じていた。石壁は壊されることは無い。乗り越えて侵入する事も、不可能。石壁を越えて中へ攻撃する事も不可能。鉄壁の守りだが、籠城をするには物資が不足していた。

 食料が里に住む者、全員へと渡らない可能性がある。人口は1万人程。食料の確保も、完全ではない。この時期、エルフたちは森へと狩りに行く。野生動物を狩り、食肉にしていた。

 里の中には畑もある。自給自足の生活がエルフたちの日常だ。その日常を壊され、対応が遅れた。このまま、ゴブリンが去らなければ、食料の備蓄が6日で途切れる。

 実際、ゴブリンの襲撃を受けて、既に3日が過ぎており、実質の起源は半分だ。このままでは、エルフたちは飢え死にする。

 エルフの中には、弱い者を切り捨てるという意見も出ていた。年老いたエルフをゴブリンの大軍に差し出すという考えだ。勿論、反対の意見もある。年老いたエルフも、自分が犠牲になればと、生贄を名乗る者もいた。

 里は混乱しており、暴動が起きてもおかしくない程、緊張した空気が流れていた。

「エレナさん!」

 櫓の上で並んで矢を放っていた若い女性のエルフが声を上げる。エレナの視線の先で、ゴブリンたちが次々と倒れていた。ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンナイト、ゴブリンマジシャン等、上位種が混ざる大群が、目の前で…全滅した。

「どういう事だ?」

「分かりません。北のゴブリンも倒れたと報告が…」

 困惑の中、倒れたゴブリンの死体が、地面に沈むようにして消えていく。覆いつくされていた死体が無くなり、荒れた大地が覗く。エレナは周囲を景観する様に指示を出すと、偵察に何人かのエルフを外へと出した。

「脅威は去ったと判断します。しかし、警戒は続けるように、交代しながら休みましょう」

 疲労が大きい者を先に休ませ、警戒をする。エレナ自身も疲れているが、休んではいられない。偵察へ出したエルフたちの報告を待つ。

 ―――――脅威は去った。

 偵察から帰ってきたエルフたちの報告を聞くと、里から離れた5キロ圏内には何もいないと言う事だ。

「何もいないだと?」

「はい、ゴブリン以外のモンスターが確認されていません」

「違うよ、スライムはいるよ」

 偵察から帰ってきたエルフたちの報告を受け、エレナは首を傾げる。

「つまり、スライム以外のモンスターが確認されていないのか?」

「はい、スライム以外、野生動物も確認されていません」

 報告を聞き、エレナは部下を呼ぶ。ゴブリンを含め、モンスターや野生動物が消えた原因を探るべく、信頼できるメンバーを集める。

「獲物が確認出来ないと、お肉が…」

 食料は3日分ある。しかし、補充しなければ尽きてしまう。

「畑の被害を確認後、収穫できる物を集めなさい。後、川があったと思うが、魚はどうだ?」

 里の西に川が流れている。川の幅は小さいが、水が綺麗で、モンスターや野生動物の水飲み場となっていた。

「魚は確認出来てます」

「なら、当面は釣を行い、魚の確保をするように」

「はい!」

 エレナはそれぞれ指示を出し、里の復興に着手する。石壁の外に畑があり、ゴブリンにより荒らされて場所もある。それでも、無事な野菜を収穫し、食料を確保する。

「エステはいるか?」

「はい」

 エレナより少し背が低い、エルフの女性が歩いて来る。

「獣人たちの村へ行き、食料の調達が可能か、聞いて来てほしい」

「畏まりました」

 エステは、3人のエルフの女性を連れて里を出ていく。獣人の村へは、早くて夕方には到着する。エステたちは、エルフの中でレベルが高く、身体能力もある。危険はないとエレナは思っていた。

 ―――――人間がやってきた。

 エルフにとって、人間は敵である。

 しかし、エステが連れてきた人間は少し違う気がした。

(不思議な感じだ)

 敵意も感じられない。里のエルフたちは警戒しているが、エステたちは普通に会話をしていた。

「エレナさん、支援をしてくださる方をお連れしました」

 エステの隣に立つ人間の青年を凄く…平凡だった。その周りを、彼の仲間と思われる少女たちが取り囲む。

「初めまして、エステさん。俺は、大和といいます。里が食糧不足と言う話を聞き、支援をしに来ました」

 嘘を言っているようではなく、真っ直ぐと見つめた瞳に、エレナは笑みを浮かべる。

「ようこそ、エルフッドへ」

 この大和と出会った事で、エルフッドが大きく成長する。誰も予想していない事が目の前で起き、エレナは彼に忠誠を誓うのだった。
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