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「ルビア、そろそろ結婚しよう」

 

「へっ!?」

 

書類整理中に急にトラウト様から振られたこの発言に私は驚き、ドサドサッと持っていた書類と落としてしまった。

 

「トラウト様、いいいきなり何を!?結婚する約束なんてそもそもしてませんし私達恋人でもありませんよ!」

 

「もう僕は限界なんだ。研究結果が1個評価されただけで色々な令嬢に声を掛けられてしまうようになったし…」

 

「おモテになってよろしいじゃないですか。他の殿方が聞いたら怒るんじゃないですか?」

 

「でも僕は静かに研究していたいんだ!あんなキャピキャピして今まで見向きもしなかった令嬢になんて興味無い!」

 

職場である研究所に所属するトラウト様は、研究者として先日「光の魔力による痩せた土地の土壌改善」についての研究を発表した。

 

痩せて荒れた土地に純度の高い光の魔力を溶け込ませた水を撒く事で少し日数はかかるが、土壌改善に繋がりまた、緑が実るという研究結果である。

 

これは今後、国の経済や食料事情をかなり改善させる事が出来るであろう研究結果であり、その功績によりトラウト様は一躍有名人となった。

 

今までは光と水といった珍しい2属性の魔力を持ちながらも土弄りしか才能の無い男と言われていたトラウト様であったが、今は陛下からの覚えもめでたく、これからの事を見込んで次から次に縁談が来ているらしい。

 

私はこの研究所で働いておりますが、やっている事は研究ではなく事務職みたいなもので数年前よりトラウト様の秘書的な扱いとして書類整理や研究結果のデータのまとめ、後はサンプル用の植物のお世話をしています。

 

トラウト様の事は尊敬しているが、私は裕福な家の出身でも無ければ魔力もほとんど無いぐらい少ないので釣り合う訳も無い。というか今まで恋愛感情を持った事は無かった。

 

「あの、やっぱり私と結婚はおかしいですよ。トラウト様のご実家より爵位の高い家からも縁談も来ているんですしやはり魔力の高いご令嬢と結婚された方が良いと思いますが…」

 

貴族は爵位が高い方が一般的に持ち得る魔力が多い傾向にありますが、トラウト様は伯爵家のご出身でありながらも魔力が公爵家に匹敵するほど多く、更には2属性持ちでいらっしゃいます。

 

流石に高位貴族様とご結婚された方が国のためにもなります。

 

「いや、僕はルビアと結婚する」

 

「なんでですか!だからおかしいですって!」

 

「ルビアぐらいだよ。僕の所に来て嫌がらずに仕事してくれたのは」

 

「えっ…」

 

「僕の研究には大量のデータ取りやサンプルが必要だけど今まで来てくれた人はこんな事はやってられないってすぐ来なくなったし、時にはサンプルで育てていた植物すらも枯れさせてしまっていたし」

 

「それは非道いですね」

 

「ルビアは嫌がらずに仕事してくれるし植物の世話も間違えないから所長もルビアを僕の専属にしたんだ。そしてそもそもこの間発表した研究結果はルビアの実家の領地のために行った研究だし」

 

「えっ、そうだったんですか!?」

 

「ルビアの実家の周りは荒れているって言っていたじゃないか。だからどうにかできないかなと思ってね」

 

確かに我が家の領地は土地が痩せていてイモ以外の農地がほぼありません。近くに鉱山があるので資源としてはまだある方ではありますが、領内での食料自給率は国の中でも低いほうだと思われます。

「それは…ありがとうございます」

 

「そしてこの研究結果でルビアのご両親には結婚の承諾は得られている」

 

「いつの間に!?」

 

「というわけで結婚しよう、ルビア。愛している。僕を公私共々支えてくれないか?」

 

モサ男のトラウト様のくせにちょっとカッコいいのはズルい!

領地の事まで気にかけてくれた上でそんな事言われたら断れないじゃない!

 

 

「えーと、本気なんですか?」

 

「勿論」

 

 

 

 

 

一年後

トラウトとルビアは結婚した。

何故か研究所を退職したトラウトの婿入りにより。

ルビアの実家である士爵領は伯爵家出身のトラウトが次期当主となり、領地の土壌改善、農地運営に精力的に努める事になる。

 

トラウトとルビアの子供が成人する頃には領地は荒れ果てた大地では無く、
緑溢れる豊かな国有数の農業生産地となっていた。

 
トラウトは土壌改善だけではなく品種改良や品質管理、農薬についても次々に研究を行い国の富国化につながる事になる。

後年、研究家や発明家として歴史に載るトラウト。

その原動力の切っ掛けは1人の事務職への一目惚れであった。
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