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ある時ソレは目覚めを得る。暗く深い水の底であった。
底に散らばる糧を喰い、貪り、成長を続けた。
底に糧が無くなると見上げた先にある及び回る餌を食い、そして眠る。
長い長い時を経て、巨大で長大な姿となったソレは底から出て、上を目指した。
海面から顔を出したソレは海上の人間達にその大きさで持って恐怖、畏怖、そして神聖性を感じさせる事となった。
ソレは自分の住む世界の上には更に広い空がある事を確認するとまた底に戻ってしまったが。
自分がいくら巨躯を誇るとはいえ、まだ空には届かない。
ソレが顔を出した場所は海の顎と呼ばれるようになり、漁師達は漁に出る際には供物を捧げ、祈りを捧げるようになった。最初は、自分達が万が一喰われる事の無いようにという安心を得るための自分達本位の恐れが理由であった。
ソレが供物を得る際に少しではあるが海が動き、下からの圧を恐れる臆病者たちは漁師の網や銛に突かれる事となる。
それは大層漁師を喜ばせ、豊漁の神として崇められる事となる。
ソレは神でも何でもないただの生き物ではあったが、豊漁の神という信仰を経て神へと至る。
ソレは空へ至る事が出来るまでに成長する事を望み、その格の上昇と供物を受け入れた。
身を揺する。もしくは供物を口に入れるだけで更なる信仰という糧を手に入れる事が出来るからだ。
漁師達の豊漁と安全を願う純粋な気持ち。
ソレの空へと昇る力を願う純粋な気持ち。
ソレが空へと昇るまでだったとはいえ、良好な関係性であったと言えるだろう。
しかし
ソレは汚される事となった。
人間の悪意に。
漁師達の住む町には非合法組織も多い、荒くれ者の町でもあった。
漁師達は腕っぷしが強いためそこらのチンピラやグレた者なぞ相手にしない。
むしろ新人漁師として生活を保障し、更生させる事すらある。
まぁ勿論海から落ちて死ぬ事はある訳だが。
しかしその事を良く思わない者達も多かった。
荒くれ者たちの長である。
彼らは漁師の顔が広く幅を利かせているのはソレ、つまりは神による物だと理解するとその神を排除してしまおうと思った。不敬ではあるがそもそも荒くれ者達に信仰という言葉は無かった。
良いやり方は知らない。わからない。しかし神を侮辱するという事は本能的に理解している荒くれ者達は、その海の顎に対立勢力の死体や生きている人間をまとめて落とした。その日のうちに何度も何度も。
ソレは勿論供物として受け入れ口に入れる。人間を。
甘露。
考え、怯え、祈る存在の肉は甘露であった。
物言わぬ糧とは命の輝きが違う。
そうしてソレは神から邪神へと成った。
肉のみでこれほど美味いのであれば、信仰心のある肉はどれほど美味いのだろうか。
数日後、漁師が漁に出るたびに。帰ってこなくなるという現象が起きるようになる。
それは蟻地獄にわざわざやってくる餌のように、漁師達がわざわざソレに喰われるためにやってきたからであった。
漁師達は船にのって漁に出ることが出来なくなり、漁師という職業が消え、荒くれ者の治める町になった。
そして、餌の来なくなった邪神が残された。
邪神は腹を空かせていた。
供物が来ないからである。当たり前だ。自分で喰ったからだ。
しかし餌がこないのであれば獲りにいけばいいだけだ。
ソレはその巨躯を動かし、移動を始めた。
港町へ。
夕方。日が沈みかけ海を橙色に彩る日常の終わりは。
海を深紅に染め、非日常の始まりとなった。
海から現れうるはソレ。邪神「海の顎」
その大海蛇のような、それか四肢と翼の無い竜ともいえる巨躯と体から生える触手によって町は壊滅し、ほぼ全ての人間・家畜・食料・作物は一夜にして消える事となった。
這う這うの体で逃げた民の証言により事態を重く見た領主は討伐を冒険者ギルドへと依頼した。
しかし邪神とはいえ強大なる神。それも竜の類でありしかも戦場が海ともなれば戦える冒険者などほぼいない。
戦いになるかどうかも怪しければ、そもそも神討ちを行えるほどの精神の強度を誇る冒険者なぞほぼいない。
彼らも生活のためにやっているので。
冒険者の選定は難航した。とは言わなかった。ただ呼び寄せるのに時間がかかった。
しかし第二の被害が起きる前に事を納めねばならない。
余り動かない性分ではありそうだが海から外へ移動する可能性もあるからだ。
かくして神討ちに選ばれたのは一人の冒険者。
「渡り歩く者」エド。B級冒険者であった。
被害にあった住民やその家族は何故A級や特級の冒険者では無いかと憤りを見せるが「海の顎」を対処するにおいてエドは間違いない。そう言われてしまっては民も矛を収める他無かった。
邪神は信仰によって生まれた。そして既に存在を確立化し、神として顕現している。
基本的にはこうなってしまえば神である以上、特別な武具を使う以外に倒す事はできない。
その特別な武具とは神殺しの剣や槍などそういう、国宝になっているようなものだ。
通常の武具や魔術では人と神の境界を越えられない故にその命を削ることが出来ないのだ。
しかしエドは渡り歩く者の名が示す通り、その境界を易々と飛び超える事が出来る。
エドは冒険者では無い。B級冒険者という肩書を持ってはいるが。
彼は生きている神殺し。人類側の抑止力ともいえる。
エドは被害にあった港町へ赴くと、そのまま彼らが供物を捧げていた場所。
つまりは社としての海の顎の上に立つ。
彼は渡り歩く者。海の上を歩く事など地を歩く事に等しい。
そして下から久々の供物を受け取りに邪神「海の顎」がその口を開けて一気に海面へと踊りでる。
しかしそれで終わり。
エドが何をするでも無く、邪神の口に飲み込まれたかと思えばそのまま邪神は動かなくなり風化して消えていったのであった。
「渡り歩く者」「神討ち」エド
渡り歩く者であり、死を振りまく者。
エドとは神に対する毒であり、病であり、呪いであり、癌である。
ただいるだけで神を殺す狂人。
彼は元々熱心な教徒であったが、救われる事無く絶望する過去があった。
結果としてその信仰は血に濡れ神への復讐鬼となる。
彼が存在する場所に神は存在出来ないし社は腐敗し朽ちていくだろう。
港町は邪神によって幽霊町となってしまったが、いつの日か緑によって浄化される。
エドは各地を渡り歩く。全ての神を消すために。
底に散らばる糧を喰い、貪り、成長を続けた。
底に糧が無くなると見上げた先にある及び回る餌を食い、そして眠る。
長い長い時を経て、巨大で長大な姿となったソレは底から出て、上を目指した。
海面から顔を出したソレは海上の人間達にその大きさで持って恐怖、畏怖、そして神聖性を感じさせる事となった。
ソレは自分の住む世界の上には更に広い空がある事を確認するとまた底に戻ってしまったが。
自分がいくら巨躯を誇るとはいえ、まだ空には届かない。
ソレが顔を出した場所は海の顎と呼ばれるようになり、漁師達は漁に出る際には供物を捧げ、祈りを捧げるようになった。最初は、自分達が万が一喰われる事の無いようにという安心を得るための自分達本位の恐れが理由であった。
ソレが供物を得る際に少しではあるが海が動き、下からの圧を恐れる臆病者たちは漁師の網や銛に突かれる事となる。
それは大層漁師を喜ばせ、豊漁の神として崇められる事となる。
ソレは神でも何でもないただの生き物ではあったが、豊漁の神という信仰を経て神へと至る。
ソレは空へ至る事が出来るまでに成長する事を望み、その格の上昇と供物を受け入れた。
身を揺する。もしくは供物を口に入れるだけで更なる信仰という糧を手に入れる事が出来るからだ。
漁師達の豊漁と安全を願う純粋な気持ち。
ソレの空へと昇る力を願う純粋な気持ち。
ソレが空へと昇るまでだったとはいえ、良好な関係性であったと言えるだろう。
しかし
ソレは汚される事となった。
人間の悪意に。
漁師達の住む町には非合法組織も多い、荒くれ者の町でもあった。
漁師達は腕っぷしが強いためそこらのチンピラやグレた者なぞ相手にしない。
むしろ新人漁師として生活を保障し、更生させる事すらある。
まぁ勿論海から落ちて死ぬ事はある訳だが。
しかしその事を良く思わない者達も多かった。
荒くれ者たちの長である。
彼らは漁師の顔が広く幅を利かせているのはソレ、つまりは神による物だと理解するとその神を排除してしまおうと思った。不敬ではあるがそもそも荒くれ者達に信仰という言葉は無かった。
良いやり方は知らない。わからない。しかし神を侮辱するという事は本能的に理解している荒くれ者達は、その海の顎に対立勢力の死体や生きている人間をまとめて落とした。その日のうちに何度も何度も。
ソレは勿論供物として受け入れ口に入れる。人間を。
甘露。
考え、怯え、祈る存在の肉は甘露であった。
物言わぬ糧とは命の輝きが違う。
そうしてソレは神から邪神へと成った。
肉のみでこれほど美味いのであれば、信仰心のある肉はどれほど美味いのだろうか。
数日後、漁師が漁に出るたびに。帰ってこなくなるという現象が起きるようになる。
それは蟻地獄にわざわざやってくる餌のように、漁師達がわざわざソレに喰われるためにやってきたからであった。
漁師達は船にのって漁に出ることが出来なくなり、漁師という職業が消え、荒くれ者の治める町になった。
そして、餌の来なくなった邪神が残された。
邪神は腹を空かせていた。
供物が来ないからである。当たり前だ。自分で喰ったからだ。
しかし餌がこないのであれば獲りにいけばいいだけだ。
ソレはその巨躯を動かし、移動を始めた。
港町へ。
夕方。日が沈みかけ海を橙色に彩る日常の終わりは。
海を深紅に染め、非日常の始まりとなった。
海から現れうるはソレ。邪神「海の顎」
その大海蛇のような、それか四肢と翼の無い竜ともいえる巨躯と体から生える触手によって町は壊滅し、ほぼ全ての人間・家畜・食料・作物は一夜にして消える事となった。
這う這うの体で逃げた民の証言により事態を重く見た領主は討伐を冒険者ギルドへと依頼した。
しかし邪神とはいえ強大なる神。それも竜の類でありしかも戦場が海ともなれば戦える冒険者などほぼいない。
戦いになるかどうかも怪しければ、そもそも神討ちを行えるほどの精神の強度を誇る冒険者なぞほぼいない。
彼らも生活のためにやっているので。
冒険者の選定は難航した。とは言わなかった。ただ呼び寄せるのに時間がかかった。
しかし第二の被害が起きる前に事を納めねばならない。
余り動かない性分ではありそうだが海から外へ移動する可能性もあるからだ。
かくして神討ちに選ばれたのは一人の冒険者。
「渡り歩く者」エド。B級冒険者であった。
被害にあった住民やその家族は何故A級や特級の冒険者では無いかと憤りを見せるが「海の顎」を対処するにおいてエドは間違いない。そう言われてしまっては民も矛を収める他無かった。
邪神は信仰によって生まれた。そして既に存在を確立化し、神として顕現している。
基本的にはこうなってしまえば神である以上、特別な武具を使う以外に倒す事はできない。
その特別な武具とは神殺しの剣や槍などそういう、国宝になっているようなものだ。
通常の武具や魔術では人と神の境界を越えられない故にその命を削ることが出来ないのだ。
しかしエドは渡り歩く者の名が示す通り、その境界を易々と飛び超える事が出来る。
エドは冒険者では無い。B級冒険者という肩書を持ってはいるが。
彼は生きている神殺し。人類側の抑止力ともいえる。
エドは被害にあった港町へ赴くと、そのまま彼らが供物を捧げていた場所。
つまりは社としての海の顎の上に立つ。
彼は渡り歩く者。海の上を歩く事など地を歩く事に等しい。
そして下から久々の供物を受け取りに邪神「海の顎」がその口を開けて一気に海面へと踊りでる。
しかしそれで終わり。
エドが何をするでも無く、邪神の口に飲み込まれたかと思えばそのまま邪神は動かなくなり風化して消えていったのであった。
「渡り歩く者」「神討ち」エド
渡り歩く者であり、死を振りまく者。
エドとは神に対する毒であり、病であり、呪いであり、癌である。
ただいるだけで神を殺す狂人。
彼は元々熱心な教徒であったが、救われる事無く絶望する過去があった。
結果としてその信仰は血に濡れ神への復讐鬼となる。
彼が存在する場所に神は存在出来ないし社は腐敗し朽ちていくだろう。
港町は邪神によって幽霊町となってしまったが、いつの日か緑によって浄化される。
エドは各地を渡り歩く。全ての神を消すために。
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