友人になりたかったのに

Koko

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贈り物

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公爵邸で過ごす最後の夜だから、と今夜はアレクが部屋に来ている。好きな人と共に夜をすごすということで俺の胸は高鳴っていた。
アレクの部屋で過ごさないか、とも言われたが、好きな人の、それもアルファの匂いで充満した部屋にいて正気でいられるとは思わず、断った。

「シュカ、もう怪我は治ったようだがどうだ?」

「バッチリだよ」

「シュカ、あの日ネックガードを買いに来ていたと聞いた」
「あの日のお詫びとして準備したんだ」
「受け取ってくれないか?」

「え?」

手に直接わたされた箱を恐る恐るあけて見ると、黒のリボンに彼の瞳の色と同じ緑色の刺繍が施されていた。しかも、登録したものの魔力を流し込まないと取れない優れものだった。

「う、受け取れないに決まってるじゃん、こんな高級そうなもの!」

客の中には、俺のフェロモンに当てられ無意識に項を噛もうとしてくる人もいた。そのせいでネックガードは客の唾液とか汗とかその他もろもろですぐに汚れた。安く売ってあるネックガードを予備で5本ほど用意しているが、それも半年持てばいい方だった。

「切れないように加工もされているし、常に結界がその布周りに発動されている」
「だから汚れることも切れることもない。安心してくれ」

「それ聞いたら逆に受け取れなくなってきたんだけど…」

「君が受け取ってくれないなら、これは捨てられることになるんだが…」
「これを作るのに300万はかかって…」

「う、受け取ります!!」

300万を捨てさせるわけには行かず、勢いよく受け取ると言ってしまった。

「そうか!それは良かった」
「俺がつけてもいいか?」

「アレクが?」

コーディさんに聞いたことがある。Ωに己の色を入れたネックガードを送るのには愛の告白のようなものだと。アレクは知らないのだろうか。いや、アレクが知らないわけが無い。きっと純粋にお詫びとしてくれたのだろう。
これが愛の告白だったのならどんなに良かっただろう。

「シュカ、この金具に魔力を流せるか?」

「あ、うん」

この世界の人は皆魔力を持っている。保有量は人それぞれで、魔法を使える使えないも人それぞれである。俺は使えない人だった。使うことこそ出来ないが、魔力を流し込むくらいの簡単な魔力操作位はすることが出来た。
金具に魔力を流し込むと、金具が青く光った。

「これで登録が終わった」
「後ろを向いてくれ」

つけていたネックガードをとり、アレクに項を見せる。

Ωにとって項を見せるのは求愛行動のようなもので、アレクにそう言う意思はないと知っていても、やはり恥ずかしかった。
少しだけ、項に熱がこもる。そんなことはないと思いながらも、アレクがこのまま項を噛んでくれるのを期待してしまっているのだ。

「よし」
後ろで彼の手が離れていくのがわかる、つけ終わったのだろう。

「ありがとう」

「もし壊れたら言ってくれ。また同じものを用意しよう」

「壊したくても壊れないでしょ」

「それもそうだな」
「…明日は移動魔法を使うからしっかり寝ておくといい」

「…うん」
「おやすみ、アレク」

「ああ、おやすみ」
「よい夢を」

まるで子供をあやす様に頭をぽんとして、アレクは部屋を出ていった。
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