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序章『始まりの領地』

040 コレクター、決闘を受ける

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「なんと愚かな……ルディオよ、正気か?」

 一国の王子がただの貴族と決闘しようとしているのだ。正気ではない。
 流石の王様もこれには動揺が隠せないようだ。

「これは俺個人の侮辱に対しての決闘だ。外の人間が決められることじゃない。さあ拾えよ弱小領主」
「俺が選んでいいんだよね? 決闘を申し込まれたのは俺なんだから」
「レクト、無視だ。絶対その手袋を拾うなよ」

 ルディオが挑発してくるが、カリウスが止めてくれる。
 が、これはチャンスではないだろうか。王族であるルディオに勝てば一気に名を広めることができる。
 どの道ルディオは反省するためにそれなりの処罰を受けるのだ。利用しても構わないだろう。
 とりあえず決闘についてある程度聞いておいた方がいいだろう。

「時間と場所、あと条件は?」
「今日の夜、場所はアリーナ。勝利条件は相手を戦闘不能にすること。魔法は禁止。武器はお互いに同じものを使用。まあ、これは普通の剣になる。どうだ?」
「剣は二本使ってもいいの?」
「無駄な足掻きだろうが、まあいいだろう」

 剣が二本使えるのなら大丈夫、俺の戦闘スタイルをそのまま使える。

「……よし、やろう」
「レクト!?」
「な、何言ってるのよレクト! 王族と決闘とか、正気!?」

 白い手袋を拾い上げながらそう言うと、カリウスとエリィがすごい顔で叫んできた。
 王様も兵士も驚いている。まあとにかく負けなきゃいいんだ。何とかなるでしょ。
 それに、ここで負けたらそれまでだ。

「勝てばいいんでしょ? 王様、そういうわけですので決闘の準備をお願いできますか」
「……ああ、下の者に指示しよう。私はもう疲れた」

 息子に失望し、しかもその息子が他の貴族に決闘を申し込んだのだ。
 当然疲れる。精神的疲労は計り知れない。

 こうして、俺は申し込まれた決闘を受けた。
 ルディオは他の貴族にこの決闘の話を言って回ったらしく、少しの間で国中に知れ渡ってしまった。
 そしてアリーナの場所も確認した俺は、カリウスとエリィと共にアリーナの待機所に向かうのだった。

* * *

「ばっっっっっっっかじゃないの!?」
「今更気付いちゃった?」
「開き直るなっ!!!」

 アリーナの待機所でエリィに叱られながら、俺は条件を同じにするために支給された物を確認した。
 ランク1の『アイアンソード』か。せめてランク2は欲しかったな。
 そして防具はただの金属の胸当て。ごつごつした鎧ではない。

「まあ冷静に考えてみればライトと同じ実力だからなぁ、それほど心配しなくていいだろ」
「それでも王族と決闘とか、怖すぎるわよ……」

 ライトと同じ実力とは言われても、剣の実力には自信がない。
 今までは魔法だったので何とかなったが、剣となると話が違ってくる。
 俺は数年ゲーム内で剣を振るっていただけの人間だが、相手はファンタジーの世界で幼い頃から剣を握ってきた人間だ。技術は相手の方が上だろう。

「そうそう。参考までに聞きたいんだけどさ、武技ってどこまで使っていいのかな?」

 『トワイライト』には武技というスキルが存在する。
 ただ剣を振るうわけではなく、指定のモーションで動いてくれるスキルだ。
 言うなれば、魔法の武器版か。

「武技? 使えばいいだろ」
「いやそうじゃなくて、魔法の武器版みたいなの。あるでしょ?」
「そんなのがあるのか?」
「えーっと、ちょっと待って」

 俺は『職業の書』をストレージから取り出し、【剣士ソードマン】を選択する。
 それにより職業とステータスが【剣士ソードマン】の物になる。当然、【魔術師ウィザード】では発動させることのできない武技も発動するようになる。
 『アイアンソード』に力を入れ、魔法と同じように口に出して詠唱する。

「〔スラッシュ〕」

 〔スラッシュ〕を発動させると、剣の刀身が青く光る。そのまま空中を裂くように斬ると、自分で動かすよりも速く剣が動いてくれる。
 よかった、武技は使えるのか。いやよくないだけど。
 俺の武技を見たカリウスは、目を丸くして驚いていた。

「なんだそれ……すごいな」
「相変わらず規格外ね……」

 はい、確定。衝撃の事実。この世界に武技は存在しません。

 まずい!!!

 本格的にまずい。武技無しで勝ってっていうのか。確かにステータスは高いのである程度有利は取れるが、それでも技術は向こうの方が上なのだ。
 常に自分が上にいるので安心していたが、これでは安心できない。気を引き締めて戦わなくては。

「お、おいどうした急に頭抱えて」
「俺は剣の腕にあまり自信が無いんだ……ずっと魔術師だったし。今回は勝てると思うけど、本当に強い相手には勝てないと思う」

 ルディオも決闘を申し込んだからにはそれなりに実力があるはずだ。
 しかしそれでも魔法の技術がレベル3の国。剣の腕にも限界はあるだろう。他国と比べて剣の腕が飛び抜けているという話も聞かない。
 俺の言葉を聞いて、カリウスは深刻そうな表情になる。

「そうだったのか……」
「そういうわけだからさカリウス、村に帰ったら剣を教えてよ」
「分かった」

 考えていても仕方がない。今回は全力で戦えばステータスの差で普通に勝てる相手だ。
 なので、俺は今後のことを考える。トワ村に帰ったらカリウスに細かい動きを教わりながら特訓だ。
 俺は残された少しの時間を使って武技を自力で再現する練習をすることにした。
 そして、日は沈み月が輝きを放つ。今日は満月だ。
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