46 / 160
第一章『黄金の果実編』
046 天使、舞い降りる
しおりを挟む俺が王子代理になり、エリィが錬金術師になったあの日から数日後のことだ。
今日は曇りだった。いつもは外で陽の光を浴びているドレイクも屋敷の中に籠ってしまっている。いや火山に帰れよ。
「レクト、そろそろ雨が降りそうだ。今日はここまでにしよう」
「だね」
シャムロットに外交に行く前に、俺は剣術をある程度学ぶことにした。
カリウスから立ち回りなどを教えてもらいながら、武技を再現できるまで修行をしている。
〔スラッシュ〕は魔力を込めながら斬れば似たような動きになった。しかし〔ブラスト〕と〔アスタリスク〕が難しい。
〔ブラスト〕は剣先に魔力を纏わせ衝撃波を発生させながら突きをする武技だ。
〔アスタリスク〕は敵を中心とした五連撃で、武技として発動させると星のような軌道を残す。
特に〔アスタリスク〕が難しいのだ。まず左上から右下に向けて斜めに斬り、続けて右上から左下に向けて斜めに斬る。同じように左下から右上に向けて斬り、右下から左上に向けて斬る。最後に、縦に振り下ろして終わり。これを一瞬で行う。
ステータス補正があるとはいえ、人力で武技を再現するのは難しい。
後半の武技は魔法に近いため人力で再現する必要はない。とにかく、光らない剣の最終段階。〔アスタリスク〕をマスターしたい。
「エリィは?」
「今日もポーション作りだろ。あいつもよくやるよなぁ」
カリウスから見てもエリィは頑張っているように見えるのだ。いや、あれは頑張りすぎている。
「頑張ってるよね。水持って行ってあげよう」
「どうせだしオレも行くか」
雨が降っては室内でしか行動ができない。傘を使えば外で行動もできるのだが、そこまでして外に出るメリットがない。
今日は家の中でゆっくりしよう。最近ずっとゆっくりしてるな。
そのうちシャムロットに行くさ。そのうちね。明日から本気出す。
俺は汲んできた井戸水を片手に、錬金室の扉を開けた。
「おーい、エリィ……っ!?」
俺の目に飛び込んできたのは、ぐったりと倒れるエリィの姿だった。
カリウスもその姿に驚いたのか、俺に続いて急いで部屋に飛び込む。
「大丈夫か、エリィ!」
「エリィ!」
「う、うぅ……」
肩を抱いて体調を確認する。身体は熱く、息も荒い。
「無理しすぎてたんだよ、休まないと……」
「か、らだ……痛い……」
「風邪かな? とりあえずベッドに運ぼう」
熱があり、身体が痛いと。ならそれはもう風邪だろう。
カリウスが通路を確保し、俺がエリィを背負って隣の空き部屋に運ぶ。
「桶に井戸水をお願い。おでこに乗せる用の布もね」
「了解した、すぐ持ってくる」
ひとまず必要な物を揃えるため、カリウスに指示を飛ばす。
これで看病すれば大事にはならないはずだ。『トワイライト』に風邪薬があればいいんだけどな、今効果を期待できるのは『薬草』と……『グリーンクローバー』か。
「う、あぁぁ……! 頭が、あたま、いたい……」
「大丈夫だ、大丈夫だから。……ん?」
前々から言っていた頭痛が限界を迎えてしまったのか、と思いつつもあることに気が付く。
目の色が違う。それも見間違いなんかじゃない、今までアメジストのような紫色の瞳だったのに、今はトパーズのような金色の瞳になってしまっている。
エリィの体調に影響が出て色が変わっているのなら、これは風邪ではない。
「私が、私じゃなくなっちゃ……ぁ――――」
「!?」
エリィは涙を流しながら、突然意識を失った。
「ちょっと、エリィ! なんで急に……」
息はある、むしろ先程よりも苦しんでいないように見える。
すぅすぅと寝息を立てていて、今まで苦しんでいたのが嘘のようだ。
そして、エリィはゆっくりと眼を開いた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは?」
急に挨拶をしてきたので挨拶を返す。挨拶大事。でもなんで今?
「貴方は……レクトさん、ですよね」
「そ、そうだけど。どうしたのエリィ、怖いよ」
言葉遣いもエリィらしくない。いや領主に対しての反応としてはこれが正しいのだが。突然敬語を使われるとむず痒い。
「わたしはエリィさん本人ではありません」
「え、じゃあ誰なの?」
「とりあえず天使と、そう呼んでください」
「えぇ……」
天使ねぇ。でもなんだか様になっているというか、金色の目とぽわぽわした雰囲気からエリィとは別人に見える。
大掛かりなイタズラとは考えにくい。だとすると、この天使は本物なのだろうか。
「それで、その天使さんはどうしてエリィの身体を使ってるの?」
「それがどうにも覚えていなくて……天界から落ちて、気が付いたらこの身体の中に閉じ込められていたのです。どうにか出ようと足掻いて、今ようやく外に出てこれました」
「なるほど、分からん!」
天界から落ちた、それは分かるがエリィの身体の中にいる意味が分からない。
天使と言うのなら、天使の姿を見せてほしいものだ。
「というか、どうして俺のこと知ってるのさ」
「わたしはエリィさんの身体の中に居ましたから。視界をそのまま見ることもできました。おそらくエリィさんはこの視界を見ていますよ」
「え、ほんと? エリィ、見てる? イェーイ! ピースピース!」
どうせ手出ししてこないので、全力で遊んでみる。両手でダブルピースを作り、笑顔で煽り倒す。
すると、天使の目の色が紫色に変わった。
「ウザいわねやめなさいよ!」
「えっ!?」
え、今の天使が言ったの?
「んんんっ! すごいですねエリィさん。このわたしから身体を一瞬でも取り戻すとは」
「あ、今のエリィなんだ」
確かに一瞬だが目の色が紫色に変わっていた。変わっていたというか、戻っていたと言うべきか。
今の様子から、エリィが消えたわけではないと分かり安心する。
「んでさ、これからどうするつもり? 流石にこのままエリィの身体が戻ってこないのはこちらとしても困るんだけど」
「それについては安心してください。話が終わったらすぐに返しますので」
「ならいっか」
別に俺たちに害を及ぼそうとして来たわけではないのだ。敵ではないのなら、焦る必要もない。
「話をする前に、カリウスさん、ドレイクさん。お二人も来てください」
「なんで気付いたんじゃ!?」
「ははは、すごいな。物音を立てたつもりはないんだが」
カリウスとドレイクが扉を開けて部屋に入ってくる。なんだ、盗み聞きしていたのか。
入ってきた二人に状況を説明し、簡単に自己紹介をした。そしてついに、天使が口を開く。
「それでは、語らせていただきますね――――」
1
あなたにおすすめの小説
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる