74 / 160
第二章『黄金の羊毛編』
074 コレクター、チョーカーを手に入れる
しおりを挟むチョーカーを付けた獣人は、鋭い爪を向けながら襲いかかってくる。
それに対しマスターが槍で牽制するが、それを瞬時に見切って避けた。あれを避けるのか。
しかしマスターもただでは負けない、蹴りで相手を飛ばし、一度仕切りなおすことに成功する。
「だ、大丈夫なのかよ」
「……キツそうだね」
こそこそと陰に隠れながらマスターの戦闘を見守っているが、槍を簡単に避けていたことにより不安が残る。
このままだと一気に突破されてしまう。マスターには悪いが、こちらから手助けさせてもらおう。
立ち上がると、狐の獣人にローブを掴まれた。何さ。
「ちょっと、危ないよ?」
「大丈夫大丈夫」
さて、職業が【魔術師】の状態で来ちゃったから『ツムカリ』が使えないんだよね。
久々に魔術師として戦ってみてもいいかもしれない。
「ぐああっ!」
「マスター、交代だよ」
「なっ、下がっていろ!」
面白いことを言われてしまった。
マスターは知らないのだから当然なのだが、心配を掛けさせてしまって申し訳なくなってしまう。
そもそも、目の前の獣人の目的は俺なのだ。俺がどうにかするべきだろう。
「それ、こっちのセリフ……!」
俺はマスターの横を通り過ぎ、そのままカウンターの上に立った。
当然、相手の視線は俺に向いている。おそらく操られているので、気絶させて一旦戦闘を終わらせよう。
「〈雷光〉」
「ガ、グガガガガ!?」
俺の手から白い電撃が放たれ、相手に直撃する。
ビリビリと痺れ、相手の身体からプスプスと黒い煙が出てくる。
これで気絶するだろう。普通の獣人っぽいし、むしろオーバーキルだったかもしれない。
「グ、ウウ……! レクト、ツカマエル……!」
と思ったのだが、相手はなおも意識を保ちながらこちらを睨みつけてきた。
操られて、さらにパワーアップもしているのか。
「まだ立てるんだ……ん?」
ふと、相手の首元のチョーカーが目に入る。紫色の宝石が付けられたチョーカーだ。
紫色……そういえば、目の色も紫色になっている。これが関係あるとしたら……
俺は短剣をアイテムストレージから取り出し、構える。
カウンターから飛び降りながら、刃先をチョーカーに向ける。
「ちょいと失礼!」
「ヤメロォ! ウ、アア……」
すれ違いざまにチョーカーの皮の部分を切断した。するりとチョーカーが外れ、床に落ちる。
操られていた獣人は、そのまま気を失って倒れてしまった。
チョーカーを拾おうとした時、首元から血がたらーっと垂れているのが見えた。しまった、薄皮一枚斬ってしまったか。
短剣の扱いもまだまだである。『ツムカリ』だけでなく短剣の修行もしなくては。
「おお……魔術師ローブを着てたからもしやと思ったけど、ここまで戦えるとは。すごいね、マスター」
「ああ、とんでもないな……何かお礼をした方がいいのか?」
「元々目的はこっちだったみたいだし、逆にこっちが迷惑掛けたようなもんだから気にしないで」
そう、この操られていた獣人は最初から俺が目的だったのだ。俺がここに来てさえいなければ店が襲われることはなかった。
特に被害が出たわけではないのでそこまで罪悪感は無いが、それでも原因は俺なのだ。礼を言われる筋合いはない。
「調べたいこともあるし、この人連れて行くね。あ、お酒の料金払うよ」
俺は残っていたカクテルを一気に呷った。
甘ったるい味が口いっぱいに広がる。くぅ、やっぱりちびちび飲むべきだったか。
「いやいいよ。可愛い女の子に払わせるわけにはいかないからね」
「げほっ! ごほっ!」
「だ、大丈夫?」
驚くと同時にカクテルが気管に入ってしまい、盛大にむせてしまった。
そうだった、女と勘違いされていたんだった。
申し訳ないが、衝撃の事実をカミングアウトさせてもらおう。
「いや、俺男なんだけど……」
「え」
しかし可愛いのには変わりないということで、結局カクテル代は奢ってもらうことになった。
それはそれで複雑である。
* * *
店を出た俺は気絶した獣人を路地に寝かせ、チョーカーの観察をする。
見た目だけなら綺麗な宝石だが、これが外れただけで気絶していたのでこの宝石がパワーアップアイテムと見て間違いないだろう。
しかしこれ以上調べることもできない。やはり起きてもらわなければ。
「おーい、起きてー。朝……じゃないけど、もう昼ですよーい」
「ん、んん……?」
「おっ」
俺が声を掛けると、獣人は小さく唸った後に眉間にしわを寄せた。
起きそうだ。よかった、しばらく起きなかったら最悪だからね。
さあ、起きて話を聞かせてくれ。
「んん……」
「寝るなァ!」
再び寝ようとする獣人に大声で怒鳴りつける。
ああ、頭がガンガンする。あのカクテルのアルコールは相当強いようだ。
頭を押さえていると、獣人が目を覚ました。くそ、ビビらせやがってぇ……
「え、だ、誰ですか貴方」
「貴方を保護した人だよ。とりあえず聞きたいことがあるから答えて」
「え、ええ……」
上手く働かない頭を働かせて質問したいことを脳内で組み立てていく。
最初の質問は……これだろう。俺は獣人にチョーカーを見せる。
「まず、これに見覚えは?」
「……いえ、ありません」
見覚えはない、か。
自分から装着したわけではないってことか。ということは、誰かがこの人にチョーカーを付けたと。
「じゃあ、意識を失う前の記憶は?」
「ええと、今日は朝起きて、それから……」
「それから?」
「あれ? ダメだ、思い出せない……」
獣人は記憶を辿りながら頭を抱えた。俺も頭痛いから抱えていいかな。
んー、操られる直前の記憶がないのか。そうなると手に入る情報が少なすぎる。
今わかることは今日操られたということと、犯人がまだ近くにいるかもしれないということの二つ。
うん、ヒントが少なすぎる。
「操られる直前の記憶がない、か。困ったな……」
「え、操られてたんですか?」
「うん。目が紫色になってね」
そういえば、今の目は紫色ではない。茶色だ。
とりあえず、手に入った情報をみんなに知らせて……そもそもみんなは今どこにいるんだ。
ああもう、頭の中がごちゃごちゃしていてまともに考えられない。水でも飲んで休憩するか。
「あの、もう質問はない感じですか? 帰ってもいいですか?」
「え、ああ。いいよ。気を付けてね」
その、お礼とか……ないんすか。
まあこの人からしたら気が付いたら操られていて、その記憶もないという状況なのだ。実感もないだろう。
というか、そもそも俺が助けたってことも伝えてないか。言っていたらお礼を言われていたかもしれない。
なんてことを考えている間に獣人は大通りに出て行ってしまった。
とりあえず水飲んで休もう……
0
あなたにおすすめの小説
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる