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最終章『黄昏の約束編』
145 大魔術師、経緯を語る
しおりを挟む廊下を走ってはいけませんという教えをガン無視しながら、大魔術師が監禁されている場所まで走る。
研究室をいくつも通り過ぎ、より奥へ奥へと進むと魔術師が使うエリアに入る。
白衣を着た人間が減り、俺と同じように黒い服を着た人が増え始める。
中には黒くない服を着ている魔術師もいた。しかし皆ピシッとした服なのでそれぞれの魔術師の正装があるのだろう。
しばらく走ると、さらに地下に続く階段が現れる。エレベーターでは行けない深さまで降りる必要があるのか。
階段を降りてすぐに、先ほどまでの扉とは雰囲気の違う黒い扉があった。
この先に大魔術師がいるのだ。一応、心の準備はしておく。
「ここだ。当然監視カメラはあるし、音声も録音されている。不用意な発言は避けるのだぞ」
「それ無理じゃない? どうやって逃がすのさ」
「強行突破すればいい。時空魔術があればどうにかなるだろう」
「そういうものなのかなぁ」
時空魔術ってすごいなぁと思いつつマスターキーを通すと、ゆっくりと扉が開く。中は薄暗く、雰囲気が……いや、空気と言えばいいのだろうか。とにかく何かが違う。
部屋の奥には目隠しをされており、柱に縛り付けられている黒髪の男がいた。
監視の人間はいない。機械に任せているのか。
「……誰か来たのか? 悪いがそちらに協力するつもりはないぞ」
協力……異世界を破壊しようとする組織に協力などするはずがない。拒否して、そして力が強大であるから監禁されたのだろう。
音声が聞かれている以上、逃がそうとしていると悟られる発言は避けたい。話だけでも聞こうか。
「少し話がしたいんですけど、いいですかね」
「男女でこんなところに来て話がしたい、か。恋愛相談か?」
茶化すように言う大魔術師。一発で俺のことを男と認識してくれるとは。目が見えていないのもあるかもしれないが、これは好感度爆上がりだ。
「それは後で頼みたい。彼はここに来たばかりの新人の魔術師でな。是非とも異世界での話などを聞かせてほしいのだそうだ」
「そういうわけか。敵意はなさそうだし、構わない。詳しい話をしたらそれこそ日が暮れるから簡単に話すが、いいよな?」
「それで構いません」
「分かった、じゃあ始まりの話をしよう」
そうして、大魔術師は語り始めた。
「まず、俺が死に、異世界に飛ばされたことから始まった。そんで神から命令されるんだ。神が送り出した使者として、魔物が蔓延り停滞している異世界を成長させろと。神としては、世界の均衡を保つために強大になりすぎた魔物を排除させようってのが最初の目的だ。文明を成長させたのはまあついでだな」
淡々と語るその内容は、想像もできないことだった。
異世界を救うその内容が、まさかそこまで偉大なことだとは。
そして、目の前にいるこの大魔術師が……異世界転生を経験しているとは思わなかった。
「異世界転生ってこと!?」
「生き返って異世界に行ったから異世界転移が正しいんじゃないか? というか、そういうの読むんだな。魔術師のくせに」
「あんまり他の魔術師について詳しくないんですけど、そういうもんなんですか?」
「魔術の大変さを知らないくせにって嫌ってる奴が大半だよ。面白いのに」
案外この大魔術師は俺たちと近い生き物なのかもしれない。
「と、話がズレたな。そんでまあ凶悪な魔物倒したり初代魔王倒したりしてパワーバランスを安定させて、文明を発展させてついでに自分の魔術も鍛えて、自力で天界……まあ神様がいるところだな。そこに行った。その時に作ったカギを四つに分けて世界中にバラまいたりもした。これは簡単に天界へのゲートを開けなくするためだ。んで神と再会し、無事こっちに戻ってきた。ってのが俺が異世界でやったことだな」
再び淡々と語られたが、どれも偉大な功績だ。当然のように魔王倒してるけど、この人本当にただの魔術師だったの?
「すげぇ……本当に世界救ったんですね」
「まあな。それで終わればよかったんだが、その話をつい知り合いの魔術師に言っちまってな。そこからトントン拍子に騙されて利用されて捕まっちまった。それでこのざまだ。笑えないだろ」
「魔術師こっわ……」
騙されて捕まっているのは知っていたが、まさかその流れで騙されていたとは。
「何百年もあっちの世界で生きてきたからなぁ。こっちとあっちじゃ時間軸が違うみたいでな、再会できた嬉しさでつい口が滑っちまった。生粋の魔術師は知り合いでも信用しちゃいけないなんて当たり前なのに」
「え、何百年?」
「おう、神に送り出されたときに不老にされた。死にはするけどな。異世界転移って言っても最初は本当に何もできなくてなぁ。ひたすら魔術を研究することから始まった。少ない人間や他種族と生きて、やっと魔物を倒して。懐かしいなぁ」
これが本物の異世界転移経験者の言葉か。
狂っているとしか思えない。何百年も異世界で戦い続けてきたのだ。チート……不老と自前の時空魔術だけで異世界を救ったのだから。
まあ、狂っているからこそ英雄になれたのかもしれない。
「ま、そんなとこだ。悪いけど正直参考にならない話だよな」
「いえ、聞けて良かったです」
「そか。質問は何かあるか?」
質問、正直何を聞けばいいのか分からない。
というかこれ以上長引いたら監視カメラを見ている人に疑われてしまう。
なので、勝負に出る。
「……仮に、そう、仮にその拘束具から抜け出せたら。貴方はどうしますか?」
「決まってるだろ。あの世界を利用しようとしてる馬鹿どもを止める」
「なるほど、では口を開けてください」
「え? 何怖い」
俺はポケットから取り出した宝石のようなものを、大魔術師の口元に投げた。
「そぉい!!!」
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