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村編
第9話『自業自得』
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視界が青く染まる。
ソウルやザン、周りにいた人々の驚く顔が目に入った。
これはもう、言い訳できないな……
肌に触れている空気が変わるのを感じる。
再び青い光が視界を染める。
隣にいるミントは何が何だかわからないという顔をしている。
やがて青い光は徐々に収束していく。
戻ってきた、小麦村に。
「ユウト、これは……!?」
繋いでいた手を放す。
状況の確認、今いる場所は広場。
ざっと辺りを見回す、村長、キウィさん、他の村人達も確認できる。
……カラフル三人衆がいない。
「まず村人の安全を確保だ! 村長とかキウィさんとかを避難させろ!」
「でも……」
「早く行け!」
「っ……」
ミントは言われた通りキウィさんの元へ向かった。
俺はレッドたちを探す。
転移魔法を見せたのだ、今更飛行魔法を使うのを躊躇う理由はない。
自分に風が集まり、浮遊感に包まれる。
そのまま上に飛び、勢いで加速。
汚れの目立つ靴が地面を揺るがす。
小麦村の上空に移動する、ここからなら敵の場所がひと目でわかる。
畑の方角に蛍光色の髪が集まっているのが見えた。
——見つけた。
レッドたちの近くには魔族——悪魔という方が正しいか。が立っていた。
昨日見た夢を思い出す。
あの光は村長や他の村人達。
赤青緑の光はカラフル三人衆だ。
そして紫の光。こいつはあそこにいる悪魔だろう。
紫の体に黒い二本角、羽も生えていて尻尾もついている。
いかにも悪魔という感じだ。
それじゃ、お仕置きの時間かな。
「やぁやぁ、苦戦してるねぇ」
「ユ、ユウト……さん……?」
「あ? 誰だテメェ」
ブルーの細い声が聞こえた、本気で怖がっている声だ。
レッドやグリーンも同様、涙目で悪魔相手に構えをとっている。
俺は着地して三人の前に立つ。
「レッド、もっと腰を低くしろ、ちゃんと教えたはずだが?」
「だ、だってこんなの相手じゃ無理だ……です」
「グリーンとブルーはなんで固まってんだ。お前らの方がレッドより強かっただろ」
「……すいません」
「本当に……本物のユウトさんだ……!」
うん、ブルーが安心したのはよく分かった。
悪魔がおいてけぼりで可哀想だぞ。
まあ後ろから火球飛ばしてきてるから暇じゃなさそうだけどな。
もちろん魔法壁で防いでいる。
避けるのは容易いが、この三人がいるからな。
「おう、本物のユウトさんだぞ! ……レッド」
「……なんですか」
「お前は格上が相手でも仲間を守ろうとした。それは誇れ」
「……ありがとう、ございます」
「んじゃ、あとは俺がやるからしっかり見とけよ」
周りには囲うようにして前にいる悪魔よりも一回り小さい悪魔が配置されている。
面倒だな、まずはこいつらからだ。
「な、なんだ!?」
「体が……!」
予知夢と同じように超能力の世界で手に入れた能力『念動力』
普通は物を動かして相手にぶつけたりして戦う能力なのだが、俺が使えば2m程度の悪魔なんて余裕で動かすことが出来る。
こいつで辺りに散らばっている下級悪魔を一箇所に集める。
「ほう、なかなかのやり手のようだな。どうだ? 今謝れば特別に殺さないでおいてやろう」
「やめとく。逆に聞くけど、改心する気持ちってあるか? 話し合いで解決してやってもいいぜ」
「ふん、人間風情が、調子に乗るなよ」
「あっそ、じゃあ自業自得だな。一生後悔してろ」
ようやくリーダーであろう悪魔の近くに下級悪魔を集めた俺は魔法陣を展開した。
悪魔達の足元が月の如く光り輝く。
さて……どう料理してやろうか。
「こ、これは……!?」
「解析」
悪魔達の解析を行う。
『デビル』解析完了。
『ラージデビル』解析完了。
言うまでもなく、弱い。
あいつ、ザンといい勝負といったところか。
「キ、キサマ……何をした!」
「いや別に? ちょっと動けなくしただけじゃん。焦んなよ」
ふんふふーんとなんのメロディなのかも思い出せない鼻歌を歌いながらどう壊すか考える。
一発で無効化することも出来るけど、それじゃ村を襲った代償にはならないかな。
いいことを思いついた。
「なあ、骨折って痛いよな?」
「なんだ急に、まあそうだな。だが悪魔は骨折ごときで戦うのはやめない」
「そっか……じゃ、まずは……指」
指をパチンと鳴らす。
「グァァ! な、なんだ!? 急に指が……」
「がぁぁ!!」
手と足の指の骨を折った。
解析さえ完了してしまえば肉体を支配することくらい容易い。
こんなふうに、骨を折ることだって。
「手首、足首」
「があああああああああああああ!!!」
野太い悲鳴が上がる。
指が折れているので、痛みに耐えるために拳を握ることすらできない。
全員耐えきれずに膝をついてしまう
「膝、肘、肩」
「あぁ……ぁぁぁ」
俺も何度か経験したことがある。
痛みが強すぎると声が出てこない、叫ぶ気力すら湧かない。
出てくるのは肺に溜まった空気のみ。
「次は……」
「がぁ……はぁ、はぁ、ぐぁっ」
悪魔は這いつくばりながら俺を睨みつけてくる。
俺はふっと笑い、右手を前に出す。
悪魔の体がビクッと震えた。
「わ、わがっだ……話し合おう、ずぐに、話を……」
「遅せぇよ」
構わず頭蓋骨を粉々に破壊する。
悪魔達は壊れた時計のように、1ミリも動かない。
糸が切れたあやつり人形のように、手足がだらんと絡まり合う。
だが、死んでいない、殺させない。
俺はすかさず悪魔を『結晶化』させる。
悪魔達の足元の魔法陣がさらに光り始める。
悪魔の身体が、ぐにゃぐにゃと変形し、どんどん小さくなっていく。
光が収まり、辺りに静寂が訪れる。
俺は地面に落ちた魂結晶を広い、普通の皮袋に入れる。
「ユウトさん……さっきのは?」
「あの悪魔を結晶に変えた、とりあえず村に戻るぞ」
「ユウトさんって何者なんだ……」
「あとで話すさ」
レッドの質問には村人全員がいる時に答えることに決めている。
話すことだらけだ。
三人が入るように範囲を調節し、転移魔法を使う。
転移魔法は範囲として使うと範囲に入った人全員を転移させてしまう。
だからミントと転移した時は手を繋いで転移した。
あの時もし範囲で転移していたら、ソウルやザンも小麦村まで飛ばされていたことだろう。
今回の転移は距離が近いので、転移までの時間が早い。
例えるなら、ゲームのロードのような感じだ。
遠すぎるとプ○ステ2のような長さになったりする。
言いすぎた、もっと短い。
テイ○ズのロード時間どうなってんのあれ。
「ユウト!」
「ミント、もう終わったから村のみんなを集めてくれないか」
「わ、わかった」
ミントがキウィさんや村長と一緒に村人を広場に集めてくれた。
以前の村人達とは違い、皆疑いの目を向けてくる。
「みんな、まず俺の本名を聞いてくれ」
辺りがざわつく。
「俺の名前はユウト=カンザキだ」
「それって……」
「大英雄ユウト、やっぱりそうだったのね」
キウィさんは薄々気づいていたようで、ミントの呟きを補足した。
相変わらず鋭い人だ。
「大英雄だって!?」
「名前が同じだと思ってたけどまさか本人なんて……」
村の年配者はユウトという名前に反応していた、大英雄の話を知っていたのだろう。
逆にミントは先程まで全くといっていいほど知らなかった。
このような小さな村にはあまり布教されていないのだろうか。
「俺はみんなから距離を置かれるような気がして、記憶喪失と偽って騙してきた。本当に、本当にごめん」
「ユウトくん……」
村人達から疑いの感情がなくなり始める。
まったく、この村は……
「許して欲しいなんて思ってない、でも償いとして、この村から出ていく」
これはもう決めたことだ。
村に住む前に、この世界で自由に過ごせるようにしたい。
ある程度平和に近づいたら、また村に戻ってくる。
「そんな……そのくらいみんな気にしないよ! 初めて……初めて仲のいい友達が出来たのに……そんな……」
「ミント……」
そっか……ミントはそう思ってくれてたのか……
それに俺は、答えられないのか……
「じぶんでもわがままだと思うけど聞きたい。いつか戻ってきたら、またこの村に住んでもいい……か?」
「もちろんだとも」
「当たり前だろ!」
「いつ帰ってきていいぞ、ワシらはいつでも歓迎じゃよ」
畑仕事のおばさん、道案内のおじさん、村長。
みんながみんな、自分を受け入れてくれている。
こんなに嬉しいことがあるのだろうか。
いや、ない。
「私も、待ってるから、たまに村によってね……」
「一緒にくるか?」
「え!?」
「ははっ冗談だよ。転移魔法があるからな、そのうち遊びに来るさ」
「そ、そうなんだ……残念」
何が残念なんだ。
「どした~我が娘、寂しそうな顔して」
「ユウトとか、お父さんとか、大切な人が周りから居なくなっていくの、もう嫌だから……って今のなし!」
「ミントのお父さんの話か? 魔大陸行ったら探してきてやるよ」
「嬉しいけど! 嬉しいけど違う!」
広場が笑い声に包まれる。
一刻も早くこの村に帰ってこれるよう、精一杯努力しよう。
そう思えた。
* * *
湿っぽい空気はどこえやら、村全体がユウトさよならパーティータイムだ。
レッツパーリィ!!
刀を指のあいだに挟んで振り回そうぜ。
まあパーティーってよりか見送りみたいな感じなんだけど。
「レッド、俺が何者かわかったな?」
「だいえーゆうって奴ですよね、知ってます」
こりゃ知らねぇな。
「わかりやすく言うとな、その昔魔王を倒した勇者がいた。で、その勇者が俺だ」
「え、マジで!? すげー!」
アホの子でしたか。
そのトサカみたいな髪の毛はアホの印ですか。
「おう、そのすげぇ奴に剣術習ったのがお前だ」
「お、おお……! なら強くならなきゃですね!」
「そうだな、よし。ブルー、なんか質問あるか」
突然名指しされ、驚いたブルーはビクッと背中を震わせた。
「わ、私たちを助けた時の……空を飛んでいたのは?」
「飛行魔法、風で空を飛ぶ魔法だ。はい次グリーン」
「畑道から一瞬で広場に移動したのはなんですか?」
「転移魔法、行ったことがある場所なら一瞬で移動ができる魔法だ。他には?」
レッドたちが気になっていることはこの辺りだろう。
あと気になることと言ったら……
「えっと、悪魔達が小さくなって石になったのは……」
「ブルー、それは聞かない方が幸せな魔法だ」
「そ、そうなんですか」
完全なチート魔法だからな。
使えば相手を結晶に変えることができる。
魔物だろうが、人だろうがだ。
もちろん自分より圧倒的に弱い相手、例えば虫や動物などにしか使えないのだが、俺の場合はある程度の魔物までなら結晶化させられる。
それこそあの悪魔のような強さならだ。
「はい! 質問!!」
「ミントは別にいいか」
「いーじゃん! それで質問はねー、えーっと。ユウトはなんでこの村に住もうと思ったの?」
この村に住もうと思った理由か……
簡単だ。
「ゆっくり過ごしたいから」
「え?」
「もう魔王を倒すために剣を抜きたくないから、頭痛の起きない体で全力で楽しみたいから。……ま、こんなところかな」
「ユウト……色々、あったんだね」
ま、そうだな。
色々、本当に色々あった。
「じゃ、そのうち帰ってくるから」
「もう行っちゃうの?」
「あんまここに留まりたくないんだよ、住むところもあの酒場あたりにするだろうし」
「ちゃんと起きれる?」
「……努力はする」
確かに起きれるか不安である。
ソウルあたりに起こしてもらおうか……?
いや、寝起きであいつの顔があるとか最悪すぎる。
「またな」
「私も……」
「……え?」
「なんでもない、頑張ってね」
「おう、任せろ」
俺は村から城下町まで転移をした。
青い光に包まれながら、数日滞在しただけの村を名残惜しそうに見つめてしまった。
村に来るのは……当分先になりそうだな……
第一章 完
ソウルやザン、周りにいた人々の驚く顔が目に入った。
これはもう、言い訳できないな……
肌に触れている空気が変わるのを感じる。
再び青い光が視界を染める。
隣にいるミントは何が何だかわからないという顔をしている。
やがて青い光は徐々に収束していく。
戻ってきた、小麦村に。
「ユウト、これは……!?」
繋いでいた手を放す。
状況の確認、今いる場所は広場。
ざっと辺りを見回す、村長、キウィさん、他の村人達も確認できる。
……カラフル三人衆がいない。
「まず村人の安全を確保だ! 村長とかキウィさんとかを避難させろ!」
「でも……」
「早く行け!」
「っ……」
ミントは言われた通りキウィさんの元へ向かった。
俺はレッドたちを探す。
転移魔法を見せたのだ、今更飛行魔法を使うのを躊躇う理由はない。
自分に風が集まり、浮遊感に包まれる。
そのまま上に飛び、勢いで加速。
汚れの目立つ靴が地面を揺るがす。
小麦村の上空に移動する、ここからなら敵の場所がひと目でわかる。
畑の方角に蛍光色の髪が集まっているのが見えた。
——見つけた。
レッドたちの近くには魔族——悪魔という方が正しいか。が立っていた。
昨日見た夢を思い出す。
あの光は村長や他の村人達。
赤青緑の光はカラフル三人衆だ。
そして紫の光。こいつはあそこにいる悪魔だろう。
紫の体に黒い二本角、羽も生えていて尻尾もついている。
いかにも悪魔という感じだ。
それじゃ、お仕置きの時間かな。
「やぁやぁ、苦戦してるねぇ」
「ユ、ユウト……さん……?」
「あ? 誰だテメェ」
ブルーの細い声が聞こえた、本気で怖がっている声だ。
レッドやグリーンも同様、涙目で悪魔相手に構えをとっている。
俺は着地して三人の前に立つ。
「レッド、もっと腰を低くしろ、ちゃんと教えたはずだが?」
「だ、だってこんなの相手じゃ無理だ……です」
「グリーンとブルーはなんで固まってんだ。お前らの方がレッドより強かっただろ」
「……すいません」
「本当に……本物のユウトさんだ……!」
うん、ブルーが安心したのはよく分かった。
悪魔がおいてけぼりで可哀想だぞ。
まあ後ろから火球飛ばしてきてるから暇じゃなさそうだけどな。
もちろん魔法壁で防いでいる。
避けるのは容易いが、この三人がいるからな。
「おう、本物のユウトさんだぞ! ……レッド」
「……なんですか」
「お前は格上が相手でも仲間を守ろうとした。それは誇れ」
「……ありがとう、ございます」
「んじゃ、あとは俺がやるからしっかり見とけよ」
周りには囲うようにして前にいる悪魔よりも一回り小さい悪魔が配置されている。
面倒だな、まずはこいつらからだ。
「な、なんだ!?」
「体が……!」
予知夢と同じように超能力の世界で手に入れた能力『念動力』
普通は物を動かして相手にぶつけたりして戦う能力なのだが、俺が使えば2m程度の悪魔なんて余裕で動かすことが出来る。
こいつで辺りに散らばっている下級悪魔を一箇所に集める。
「ほう、なかなかのやり手のようだな。どうだ? 今謝れば特別に殺さないでおいてやろう」
「やめとく。逆に聞くけど、改心する気持ちってあるか? 話し合いで解決してやってもいいぜ」
「ふん、人間風情が、調子に乗るなよ」
「あっそ、じゃあ自業自得だな。一生後悔してろ」
ようやくリーダーであろう悪魔の近くに下級悪魔を集めた俺は魔法陣を展開した。
悪魔達の足元が月の如く光り輝く。
さて……どう料理してやろうか。
「こ、これは……!?」
「解析」
悪魔達の解析を行う。
『デビル』解析完了。
『ラージデビル』解析完了。
言うまでもなく、弱い。
あいつ、ザンといい勝負といったところか。
「キ、キサマ……何をした!」
「いや別に? ちょっと動けなくしただけじゃん。焦んなよ」
ふんふふーんとなんのメロディなのかも思い出せない鼻歌を歌いながらどう壊すか考える。
一発で無効化することも出来るけど、それじゃ村を襲った代償にはならないかな。
いいことを思いついた。
「なあ、骨折って痛いよな?」
「なんだ急に、まあそうだな。だが悪魔は骨折ごときで戦うのはやめない」
「そっか……じゃ、まずは……指」
指をパチンと鳴らす。
「グァァ! な、なんだ!? 急に指が……」
「がぁぁ!!」
手と足の指の骨を折った。
解析さえ完了してしまえば肉体を支配することくらい容易い。
こんなふうに、骨を折ることだって。
「手首、足首」
「があああああああああああああ!!!」
野太い悲鳴が上がる。
指が折れているので、痛みに耐えるために拳を握ることすらできない。
全員耐えきれずに膝をついてしまう
「膝、肘、肩」
「あぁ……ぁぁぁ」
俺も何度か経験したことがある。
痛みが強すぎると声が出てこない、叫ぶ気力すら湧かない。
出てくるのは肺に溜まった空気のみ。
「次は……」
「がぁ……はぁ、はぁ、ぐぁっ」
悪魔は這いつくばりながら俺を睨みつけてくる。
俺はふっと笑い、右手を前に出す。
悪魔の体がビクッと震えた。
「わ、わがっだ……話し合おう、ずぐに、話を……」
「遅せぇよ」
構わず頭蓋骨を粉々に破壊する。
悪魔達は壊れた時計のように、1ミリも動かない。
糸が切れたあやつり人形のように、手足がだらんと絡まり合う。
だが、死んでいない、殺させない。
俺はすかさず悪魔を『結晶化』させる。
悪魔達の足元の魔法陣がさらに光り始める。
悪魔の身体が、ぐにゃぐにゃと変形し、どんどん小さくなっていく。
光が収まり、辺りに静寂が訪れる。
俺は地面に落ちた魂結晶を広い、普通の皮袋に入れる。
「ユウトさん……さっきのは?」
「あの悪魔を結晶に変えた、とりあえず村に戻るぞ」
「ユウトさんって何者なんだ……」
「あとで話すさ」
レッドの質問には村人全員がいる時に答えることに決めている。
話すことだらけだ。
三人が入るように範囲を調節し、転移魔法を使う。
転移魔法は範囲として使うと範囲に入った人全員を転移させてしまう。
だからミントと転移した時は手を繋いで転移した。
あの時もし範囲で転移していたら、ソウルやザンも小麦村まで飛ばされていたことだろう。
今回の転移は距離が近いので、転移までの時間が早い。
例えるなら、ゲームのロードのような感じだ。
遠すぎるとプ○ステ2のような長さになったりする。
言いすぎた、もっと短い。
テイ○ズのロード時間どうなってんのあれ。
「ユウト!」
「ミント、もう終わったから村のみんなを集めてくれないか」
「わ、わかった」
ミントがキウィさんや村長と一緒に村人を広場に集めてくれた。
以前の村人達とは違い、皆疑いの目を向けてくる。
「みんな、まず俺の本名を聞いてくれ」
辺りがざわつく。
「俺の名前はユウト=カンザキだ」
「それって……」
「大英雄ユウト、やっぱりそうだったのね」
キウィさんは薄々気づいていたようで、ミントの呟きを補足した。
相変わらず鋭い人だ。
「大英雄だって!?」
「名前が同じだと思ってたけどまさか本人なんて……」
村の年配者はユウトという名前に反応していた、大英雄の話を知っていたのだろう。
逆にミントは先程まで全くといっていいほど知らなかった。
このような小さな村にはあまり布教されていないのだろうか。
「俺はみんなから距離を置かれるような気がして、記憶喪失と偽って騙してきた。本当に、本当にごめん」
「ユウトくん……」
村人達から疑いの感情がなくなり始める。
まったく、この村は……
「許して欲しいなんて思ってない、でも償いとして、この村から出ていく」
これはもう決めたことだ。
村に住む前に、この世界で自由に過ごせるようにしたい。
ある程度平和に近づいたら、また村に戻ってくる。
「そんな……そのくらいみんな気にしないよ! 初めて……初めて仲のいい友達が出来たのに……そんな……」
「ミント……」
そっか……ミントはそう思ってくれてたのか……
それに俺は、答えられないのか……
「じぶんでもわがままだと思うけど聞きたい。いつか戻ってきたら、またこの村に住んでもいい……か?」
「もちろんだとも」
「当たり前だろ!」
「いつ帰ってきていいぞ、ワシらはいつでも歓迎じゃよ」
畑仕事のおばさん、道案内のおじさん、村長。
みんながみんな、自分を受け入れてくれている。
こんなに嬉しいことがあるのだろうか。
いや、ない。
「私も、待ってるから、たまに村によってね……」
「一緒にくるか?」
「え!?」
「ははっ冗談だよ。転移魔法があるからな、そのうち遊びに来るさ」
「そ、そうなんだ……残念」
何が残念なんだ。
「どした~我が娘、寂しそうな顔して」
「ユウトとか、お父さんとか、大切な人が周りから居なくなっていくの、もう嫌だから……って今のなし!」
「ミントのお父さんの話か? 魔大陸行ったら探してきてやるよ」
「嬉しいけど! 嬉しいけど違う!」
広場が笑い声に包まれる。
一刻も早くこの村に帰ってこれるよう、精一杯努力しよう。
そう思えた。
* * *
湿っぽい空気はどこえやら、村全体がユウトさよならパーティータイムだ。
レッツパーリィ!!
刀を指のあいだに挟んで振り回そうぜ。
まあパーティーってよりか見送りみたいな感じなんだけど。
「レッド、俺が何者かわかったな?」
「だいえーゆうって奴ですよね、知ってます」
こりゃ知らねぇな。
「わかりやすく言うとな、その昔魔王を倒した勇者がいた。で、その勇者が俺だ」
「え、マジで!? すげー!」
アホの子でしたか。
そのトサカみたいな髪の毛はアホの印ですか。
「おう、そのすげぇ奴に剣術習ったのがお前だ」
「お、おお……! なら強くならなきゃですね!」
「そうだな、よし。ブルー、なんか質問あるか」
突然名指しされ、驚いたブルーはビクッと背中を震わせた。
「わ、私たちを助けた時の……空を飛んでいたのは?」
「飛行魔法、風で空を飛ぶ魔法だ。はい次グリーン」
「畑道から一瞬で広場に移動したのはなんですか?」
「転移魔法、行ったことがある場所なら一瞬で移動ができる魔法だ。他には?」
レッドたちが気になっていることはこの辺りだろう。
あと気になることと言ったら……
「えっと、悪魔達が小さくなって石になったのは……」
「ブルー、それは聞かない方が幸せな魔法だ」
「そ、そうなんですか」
完全なチート魔法だからな。
使えば相手を結晶に変えることができる。
魔物だろうが、人だろうがだ。
もちろん自分より圧倒的に弱い相手、例えば虫や動物などにしか使えないのだが、俺の場合はある程度の魔物までなら結晶化させられる。
それこそあの悪魔のような強さならだ。
「はい! 質問!!」
「ミントは別にいいか」
「いーじゃん! それで質問はねー、えーっと。ユウトはなんでこの村に住もうと思ったの?」
この村に住もうと思った理由か……
簡単だ。
「ゆっくり過ごしたいから」
「え?」
「もう魔王を倒すために剣を抜きたくないから、頭痛の起きない体で全力で楽しみたいから。……ま、こんなところかな」
「ユウト……色々、あったんだね」
ま、そうだな。
色々、本当に色々あった。
「じゃ、そのうち帰ってくるから」
「もう行っちゃうの?」
「あんまここに留まりたくないんだよ、住むところもあの酒場あたりにするだろうし」
「ちゃんと起きれる?」
「……努力はする」
確かに起きれるか不安である。
ソウルあたりに起こしてもらおうか……?
いや、寝起きであいつの顔があるとか最悪すぎる。
「またな」
「私も……」
「……え?」
「なんでもない、頑張ってね」
「おう、任せろ」
俺は村から城下町まで転移をした。
青い光に包まれながら、数日滞在しただけの村を名残惜しそうに見つめてしまった。
村に来るのは……当分先になりそうだな……
第一章 完
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