むらゆう―村人を目指す英雄―

瀬口恭介

文字の大きさ
16 / 125
冒険者編

15歳の少女

しおりを挟む
 交渉、というより話し合いも終わり、俺は王様から冒険者カードを受け取ることにした。

「冒険者カードってどうなったんすか?」
「ああ、忘れていたね。えーっと……これだよ」

 王様が取り出したのは黒い長方形のカード。
 みんなこんなカード持ってんのか、ブラックカードみたいな見た目だな。

「ありがとうございます」
「見たことねぇ色だぜ、ランクどうなってんだ?」
「俺のは金色だ」
「僕は銅色だね」

 ダンはおそらくSSランクだろう。
 ソウルがAランク。
 ってことはザンも金だな。
 Aが銅でSが多分鉄か銀、SSが金か。
 黒ってなんだ。

 冒険者カードのランクを見る。
 『Y』

「Yって書いてある」
「Y……? 俺のSSランクよりも上……だろうな」

 みんなワイワイ言っているがもちろんライ文字のYであってアルファベットのYではない。
 アルファベットのライ文字は八種類の記号の空きスペースに書かれている点の数で決まる。
 Yは2本の斜線に1本斜線が重なっている記号に点が3つ書かれている。
 点が2つならX、4つならZ、というふうに変化していく。
 最初は混乱したな、懐かしい。

「そう、このYというランクは僕がさっき考えたランクだ。ユウトのイニシャルだね」

 頭文字Yか。
 でも俺車乗れないんだよな、まずどの異世界にも車がなかったし。

「基本自由行動にしようと思う、本音を言うとね……この国の冒険者って肩書きが欲しいんだ」
「ま、俺が味方なら敵無しっすからね」

 自由行動じゃなかったら冒険者やめてたぞ。
 

「僕からの命令は断ってくれても構わないからね、でも意見はあるから命令とかはさせて欲しいよ」

 それは命令というのか。

「それで、ソウル君は何をしているのかな」

 見るとソウルが玉座の周りをうろうろしながら王様を探していた。

「僕に触れてごらん」
「……見えた! 触ったら見えるようになるのか……」

 王様はサイキックス少年かなにかですか。
 Ψ難にでも会うんですか。

「影の薄さが娘にも遺伝しちゃってね……本気で隠れればユウト君でも数秒かかるかもしれない」

 そんなことありえるのか。
 さすがに気づくだろ、こっちだって本気で探すぞ。

「ムーン、入ってきなさい」

 ムーンというらしい。よし、探してやる。
 どこから来る、前か……後ろか……?
 ……え、マジでどこ。

「またそこにいるのかい……」

 ……上だ!
 上から来るぞ! 気をつけろ!

「……すごい、2秒で私に気づいてくれた」

 天井に開けられた四角い穴から覗き込んでいるのは王様と同じ白髪ショートの少女。
 ここから見てもわかる、胸はない。

「む、今失礼なこと考えた」
「考えてない考えてない、てか近い」

 シュタッと着地した少女はずずいと俺に近寄ってきた。
 身長が足りてないので背伸びしても頭が目の前にくる程度だ。
 ロリ枠か、今日は周りが男ばっかりでむさくるしくて仕方なかったんだ、助かった。

「この子が僕の娘、ムーンだ。事項紹介しなさい」
「ムーン、歳は15。読書が好き。よろしく」

 遺伝とか以前に性格が暗い。
 影薄いのも相俟って隠密性に関しては最強である。
 聞く限りじゃ今のは隠れようとして隠れたのだろう。
 なにもしてないムーンなら気づける気づける、余裕余裕。

「ムーンちゃん、そこの紫髪のやつにイタズラしてきてよ」
「わかった」
「わかるな!」

 いい子だ、素直な子は好きだよ。
 ソウルはツッコミをしたはいいがやはりムーンが見えていないようだ。
 俺も隠密魔法使ってイタズラしよう。
 隠密魔法は割と最初の方の世界で手に入った魔法だ。
 影の世界に転移したときにさらに魔法が強化された。

「なんでユウトも消えるんだよ!?」

 ゆっくり近づく。
 そして目の前で魔法を解く。

「わっ!」
「ぎゃああああああ!? で、出た!?」
「出たんじゃねぇ居たんだよ」

 王様はニヤニヤしながら見ている。
 さてはSだなオメー。

 ソウルの意識は俺に集中している。
 俺はアイコンタクトでムーンに指示を出す。

『やれ』

 ムーンはコクっと小さくうなづいた。
 次の瞬間、ムーンはソウルに膝カックンをした。

「あがっ……あんたら最悪だな!?」
「そんな褒めんなよ」
「褒めてねぇよ!!」

 ソウルはいじられキャラだからな、仕方の無いことだ。

「仲良くなれたみたいでよかったよ。実はね、ムーンの婚約相手を見つけようとしているんだが婿候補がみんなムーンに気づかないんだ」

 なにそれ悲しい。
 虚しすぎるだろそれ。

「それで、出来ればユウト君が婿になってくれたらなぁと……どう?」
「なんでそうなるんすか」
「そこをどうか……ムーンはどうだい?」

 ムーンに聞くな。
 親のいいなりなんて嫌だろ? 断れ断れ。

「構わない」
「構えよ!」

 そんなに見つかったのが嬉しかったのか。

「とにかく、そんなのお断りだ。だいたいさ、俺が暴力ばっかりのDV男だったらどうすんだ?」
「やだ」
「だろ? せめて相手を知ってからにしろ、あと別の男探せ」

 ムーンはこくこくうなづく。
 王様は煮え切らないと言った表情だ。

「まだ15歳だから大丈夫だって、きっと相手見つかるさ」
「そうだといいんだけどねぇ……」

 きっとそういうのに特化した人がいるはずだ。
 こう、観察眼が鋭い人とか。

「あ、そうだ。明日西大陸か、東大陸のどちらかに行く予定なんすけど。なんかして欲しいことあります?」
「そうだね……なら西大陸の王に物資の補給を頼みたい。この間北の港で大規模な火災があってね、あそこの復旧のための資材が足りないんだ」

 火災?
 物騒だな、それは事故なのか、放火なのか。
 気になるが後回しだ。

「わかりました、なんか渡します?」
「あそこの王は石が好きだからね、中央大陸でしか取れない宝石をプレゼントするよ」

 石が好きなのか。
 鼻水とか垂れてないよね?
 春日部で防衛隊してそう。

「僕もついて行っていい?」
「どうします?」
「好きにするといいよ、ザン君も行くんだろう? 明日は休みにしておくよ」
「それはありがたいぜ、ありがとな!」

 明日、西大陸に行くことが決定した。

 その後街を見て回ったが、米は東大陸から輸入しているようだ。
 いつかこの国で作らせよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...