むらゆう―村人を目指す英雄―

瀬口恭介

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クラス転移編

英雄ユウト

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 今も尚魔法が弾幕となって襲いかかってくる。魔力弾は火の玉に変わり、防御に必要なシールドが多くなっている。
 時々くる大きめの火球は、アイアスがガードしてくれる。
 空中で高速飛行しながら魔法を撃ち合い、剣を地面から飛ばし攻撃する。お互い避けきれない攻撃を受けながら、斬り合う。

「チッ、いいのかよ! それ、長く持たねぇんだろ?」
「そうだよ、早くやられてくれ」
「嫌だねッ!」

 キィン、キィンという音が屍の丘に響き渡る。
 時間が無い、しかし、魔法を避けながらのため飛行が危なっかしい。体制を崩してしまう。

「そこだァ!」
「させるか!」

 白ユウトがエクスカリバーを突きの構えにした。俺の腹に向けて飛び込んでくる白ユウトに、俺は氷柱を翼めがけて発射する。

「ぐっ……らぁ!」

 シュッと横腹に剣がかする。翼を攻撃された白ユウトが俺の横を通り過ぎて、地面に落下した。翼には小さな穴が空いている。
 俺は魔法を止め、攻撃に専念した。
 体制を立て直そうとしている白ユウトに向けて、剣を構えながら急降下する。

「まだだ!」

 剣でガードされた。エクスカリバーと銀の剣のクロスガードだ。銀の剣は、俺のノワールの突きに耐えきれず、ぐにゃりと曲がった。
 俺は飛び退き、骨の欠片を念動力で中に浮かせる。
 エクスカリバーは、今までの光り方とは違っていた。金の光から一転、白い光に変わっている。
 まずい、エクスカリバーの能力が使えるようになってしまった。

「我が剣は世界を制す聖剣。円卓の騎士よ、王の聖剣に集え!」

 エクスカリバーの色が紅く変わる。あれはもうエクスカリバーではない、伝説の円卓の騎士たちの魂が入った別物の剣だ。
 俺はあんなに強い剣を手放したのか。勿体無い。

「懐かしいな、出来れば使われる前に倒したかったけど……」

 紅い聖剣から、十二の光が出て、白ユウトを囲む。
 円になった光は、それぞれ武器に変わり、こちらを睨んだ。
 総勢十二人の円卓の騎士。その一人一人の武器が、白ユウトの背後に円状に並んでいる。

「お前ら! ぶっ潰せェ!」

 おお! という幻聴が聞こえるほど人間じみた動きをする伝説の武器たち。
 その中には、当然アロンダイトやガラティーンも混ざっている。
 そして、エクスカリバーも。

「卑怯だぞ! 十三人相手にしろってのか!」
「お前だってその盾使ってんだろ! 嫌ならここで死ねェッ!」

 くそっ、なら、俺にだって考えがある。

「アイアス、悪いけど、みんなに呼ぶって言ってくれ」
「任せて! 時間、稼いでよ?」
「……ああ、早めに頼むぜ」

 アイアスに連絡を任せ、俺は中に浮かせた骨からノワールの分身を何本も飛ばす。
 飛び出すだけの剣を弾くのは円卓の騎士には朝飯前だった。何発も剣を撃つが、簡単に弾かれてしまう。

 白ユウトに攻撃を集中させようと思い、見ると、大きな盾が白ユウトを守っていた。

「ガラハットの……白い盾!」

 白ユウトを守る白い盾には、血で描かれた十字架が見える。
 あの盾が相手だと攻撃が通らない。

 どうするか考えている間に、剣が俺めがけて襲ってくる。

「くそっ! やってやろうじゃねぇか!!」

 剣に力を入れ、斬撃を避けることを最優先にして戦う。空に逃げるか? ダメだ、逃げてもあの剣は飛ぶ。数が多いため、空中戦は不利だ。いや地上でも不利だけど。

 四方八方から攻撃してくる剣、さすがに同時に攻撃されると避けきれない。
 なら、防御すればいい。
 魔法で水を大量に出し、自分を覆うように固定する。そして、その水を剣が通る瞬間に凍らせる。

「……アイスシールド」

 凍ってしまった剣は、抜くのに時間がかかる。
 それでも力のあるこいつらなら、数秒で抜け出してしまうだろう。
 そうなる前に、こちらが弾き飛ばす。

「焼き尽くせ! ファイナルフレイム!」

 剣を地面に突き刺し、魔法を使う。俺が扱える最大の炎魔法を使った攻撃だ。
 俺を中心とした爆発が、地面を抉る。半球のような炎の爆発は、氷の塊を溶かすよりも早く、爆風で遠くへ飛ばした。

「なんだと!?」

 散らばった剣が戻ってくるまでに、アイアスの連絡は終わるだろうか。

「みんな来れるみたいよ!」
「よし!」

 準備が整ったので、早速俺はアイアスに魔力を入れて能力を発動させる。
 赤いマジックシールドがアイアスの盾から広がった。そのマジックシールドは盾らしからぬ曲がり方をして、俺の周りを囲んだ。

 魔袋に手を入れ、大量の結晶を取り出す。
 盾を攻撃する剣を横目に、俺は地面に置いた結晶に魔力を注いだ。

「来てくれ! みんな!」

 ピカっと光り、結晶が人間に変わる。
 召喚成功、反撃開始だ。

「久しぶりだな、旦那」
「久しぶり、ユウト」
「グラム、イージス、みんな、久しぶりだな。とにかく今はあいつを倒さなきゃならん。力を貸してくれ」

 白ユウトを指さす。

「おうよ……って! あれ旦那じゃねぇかぁ? なんか違うけど」
「剣が、浮いてる」
「いやお前らも浮くだろ」

 浮くとは言っても、向こうの浮遊とこちらの浮遊では大きく違う。
 向こうは見えない、触れない円卓の騎士が剣を持って戦う。こちらは、武器の意思で自在に動ける。
 どちらも強いが、やはり操る人間がいるかいないかだと強さも変わってくる。
 弱い剣でも、達人が使えば強い剣を持っている人間に勝てるのだから。

「見たところ、魔力を解放してるみたいだね。僕たちが頑張らないと、ユウトの魔力がもたないよ」
「ああ、だから早めに決着をつけたい。格の違いを見せてやろうぜ」

 みんな、と言ったがあの世界の武器全員ではない。当然だ、全員が突然呼ばれる可能性がある契約を結ぶはずがない。
 それでも武器は十人いる。人間が持てないような大きな武器もあるのだ、十二の武器なら、きっと抑えてくれる。

「俺の人生最大の戦だ。野郎ども! 俺に続け!!」

 アイアスの盾からマジックシールドが消え、自由に動けるようになる。赤い盾が消えた瞬間に、皆光りながら武器に変わる。
 取り囲んでいた剣が襲いかかってくる。巨人の盾と巨人の剣が半分の武器を薙ぎ払い、半分の武器を受け止めた。

「また会ったな」
「ユウト……ッ!」

 お前もユウトだろ? それとも、ユウトの名を捨てたか?

「決着をつけよう、ユウト!」

 叫びながら斬り掛かる。
 白い盾は、アイアスの盾とイージスの盾と押し合い、白ユウトの手を離れている。

「この……偽物がァ!!」

 上、下、左。そして右。相手の動きを読みながら剣を重ねる。

「今、何つった」
「偽物って言ったんだよ、この贋作」
「……そうか……お前がそういう考えなら、改めさせてやる! うらああああああああ!!!」

 相手は常に冷静な顔を保っているが、額に汗が見えた。隠しきれてないぜ、焦っていることに。

「くそっ、くそぉ!!」
「らぁ! はああァ!!」

 白ユウトの剣が追いついてない、いける、速さなら今の俺が勝っている。

 俺は白ユウトの腹に剣を突き刺した。

 白ユウトの口角が……上がった。

「ユウト!! 危ない!」
「……え」

 ドスっと身体に鈍い音が響く。
 なんだ? と、下を見ると、腹を剣が貫通していた。
 この剣は……アロンダイト? マジかよ……一本だけ、止められなかった、の、か……よ。

 視界が眩む、痛みはない。
 俺よりも先に、腹を突かれた白ユウトが膝をついた。剣を抜くと、力なく、地面に倒れた。
 同時に、腹に刺さっているアロンダイトが、消えた。

「終わった……のか」

 俺も膝をつく。
 倒れながらも必死に骨の欠片を掴む白ユウトを見ながら、俺は自らが殺した敵の骨に向けて、口に溜まった血を吐いた。

 長いようで短い戦は、お互いの腹を抉り、終わりを迎えた。
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