むらゆう―村人を目指す英雄―

瀬口恭介

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クラス転移編

戦力集め

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 とてつもない反応速度により頬を数センチ斬られていたらしく、ミントに言われて血が出ていることに気がついた。
 あの転移のスピードについてくるとは、大したものだ。さすが英雄の子孫。

「ソウル、起きろ」
「んん……ユウト? なんでみんな……ていうかなんで僕寝てたんだ……?」

 必死に考えているが、全く思いつかないようだ。記憶が少し飛んでるな。

「変な夢見てさ……ユウトが、その……みんなを殺す夢」
「嫌な夢だったろ?」
「ああ。でも、なんだかやる気が出てくる……なんでだろ」

 お前の祖先も同じことを言ってたよ。あの時、ゼーレは俺を殺そうとしていた。俺たちを裏切って、殺そうとして、覚醒した。
 俺とマフォとアルテの三人でギリギリだったな、今となっては懐かしい思い出だ。

「きっと覚醒したんだよ、お前の努力が実ったんだ」
「本当か!? ちょ、ちょっと魔物狩ってくる!」

 立ち上がり、外に出ようとしたソウルの襟をつかむ。

「落ち着け、魔物は逃げ……るけど沢山いるんだ、どうせ探索するんだからその時に確かめればいい」
「そ、そうだな。悪い。っていうかなんだよその髪の毛!?」

 今更気づきやがった。みんな気づいてて触れないようにしてたのに。
 ここは簡潔にわかりやすく説明してやろう。

「鏡に入って白い髪の自分を倒したらメッシュが入ったみたいな髪になった」
「意味がわからない、あとメッシュってなんだ」
「俺もわかってない、あとメッシュは知らなくていい」

 メッシュ、中学二年の頃は少し憧れたな。学校に付けていこうとしたけど親が許してくれなかった。ありがとうママン、梨剥いてくれよ。

「色々協力とかしましたけど、ユウトはイアたちに会いに来ただけなんですか?」
「あー、いや、まだ大事な話がある」

 協力という言葉にソウルが首を傾げたが、ここは無視が安全。
 穏やかな性格? のソウルがあそこまで荒れたのは、ちょっと意外だったな。それだけみんなのことが大切なんだろう。

「二日後に、一気に魔大陸を攻めて大魔王を見つける。各国の王様とも話をして協力してもらえることになった。もちろん、マールボロは拠点にいる兵士全員で出撃だ」
「二日後? 急すぎるぜ。なんでもっと早く教えてくれなかったんだぜ?」
「そんなこと言われてもなぁ、二日前に聞かされたから、早く知らせても昨日だぞ。昨日はセブンスタとピースに行ってて忙しかったしよ」

 そして今日の夜は南魔大陸のボヘームに行く予定だ。そこでイアとザンの師匠に会って、協力を求める。あわよくば強い戦士を出してもらおう。

「とにかく、二日後に俺たちは魔大陸を一気に攻める。協力してくれる人も集まってきた。だから、二日後、力を貸してほしい」
「ここまで来たんだぜ? 当然協力するぜ」
「イアもです」

 他のみんなからも同意の声が上がる。
 セブンスタ、ピース、マールボロ、メビウスの四ヶ国が協力するという、壮大なスケールになってしまった。しかもそこに魔王も参戦するのだから、歴史的な出来事になるのは間違いない。
 きっと倒せる。そのために準備は念入りに行わなくては。

「それとな、『デビルホーンの塔』っていう場所に大魔王が居るらしいんだ。そこを目指してくれ」
「デビルホーンですかぁ、確か魔大陸の中心にあるんですよね」

 魔大陸の魔力は全てデビルホーンに繋がるといっても過言ではない。そのくらいの魔力を秘めているのだ、あの結晶は。

「そうだ、その周辺で他の国の軍と合流するから、兵士にも伝えといてくれ」
「でも、なんでそこに大魔王が居るってわかったんだ? 教えてくれないか」
「魔王が教えてくれたんだ」
「魔王だと!? それは大丈夫なのか!?」

 ダンが指をさしながら言った。

「大丈夫だよ、魔王は良い奴だ」
「確か魔王って女の子だったよね……? 私が寝てる間に……」

 隣でミントがわなわなしてるが気にしない。ミントも連れて行きたかったけど魔王城まで転移できないから仕方なかったんだ。

「魔王とも『デビルホーンの塔』付近で合流する予定だ。魔族をみつけても無闇に攻撃しないように、いいね?」
「襲ってきたらですね」
「おう、仲間かもしれないからな」

 でもその魔族ってお前達三人を襲ったあの悪魔なんだぜ? その時はちゃんと仲直りしろよ?

「ユウト、そろそろ帰らなきゃ怪しまれちゃう」
「そうだな、よし、頼むぜお前ら!」

 その場にいた全員が親指を立てた。俺とミントも親指を立てる。そのままのポーズで、俺たちはメビウス城に転移した。

* * *

 午後の訓練内容は……実技か、めんどくさいな。
 実技訓練は外にいる魔物を相手に、訓練場ではできないような大きな技を使い、慣れる練習をしている。
 俺も最初の数日は多すぎる魔力を抑えるのが大変だったが、今はなんとか扱えるようになっている。
 全く、白ユウトからはとんでもないプレゼントを貰ってしまった。

『いらなかったか?』
「いや別にそういうわけじゃ……ん?」

 なんか声が聞こえたんだけど。聞き覚えのあるというか、俺の声だよな。脳に響くみたいに聞こえてきたぞ。

『俺だよ、俺』

 オレオレ詐欺かよ。って、まさか白ユウト!?

『その白ユウトっていうのやめろ、俺からしたらお前は黒ユウトだ』

 あ、確かになんかやだ。黒ユウトって変な感じする。黒雲母みたい。薄く剥がれそう。

「お前喋れたのか、というか居たのか」
『ようやく魔力が馴染んできてな、喋れるようにはなった』
「ふーん」

 今更だけどこれわざわざ声に出さなくてもよくない? 俺も念じたら会話できるかな。というかこいつ勝手に心読んでるよな。これも聞かれてるよな。

『俺ってこんな性格だったか……?』
『こうか? お、できた』
『成功しちゃうのかよ』

 思ったより性格似てるじゃないか、ツッコミとか。
 と、漫才はこのくらいにしておいて、まさかシロが俺の中に入ってるとは。

『シロってなんだ』
『お前の名前だよ、なに? ユウトって呼んでほしいの? 俺もユウトなんですけど?』
『知るか。じゃあお前はクロだ』

 いや黒は地毛だからね。
 でもシロは地毛が白になったのか。それなら仕方ないな。それで手を打とう。

『状況は理解してるのか?』
『話せなくても、声は聞こえてたからな。それに、クロに乗り移って視界を共有することもできる』

 なにそれこわい。え、これも見えてるのか。
 乗り移るってなんだか怖いな、しかも気づかないうちになんて。

「ユウトー! もう始まるよ!」
「今行く!」
『愛しの彼女が呼んでるぜ?』
『うるせぇ、あとそもそも付き合ってないし』

 ミントには俺なんかよりいい相手がいるはずだから、世界を平和にしたら俺は小麦村で一人静かに余生を過ごしたい。

『寿命で、死にたいのか?』
『当然だろ、一番初めの、この世界だぞ? 俺もお前も思い入れがある場所だろうし。俺はここで死にたい』
『……まあ、それもいいかもな』

 大魔王を倒した後のことを考えながら、俺は魔物に向かって走った。
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