上 下
116 / 125
クラス転移編

別行動

しおりを挟む

 仲間の元へ戻ると、笹谷とミント達が会話をしていた。ザンたちは先に行ってしまったようだ。
 ミントは俺に気づくと、会話をやめ、真っ直ぐこちらを見てくる。

「何の話をしてたの?」
「後で話そう、じゃあな笹谷、邪魔したな」
「あ、ああ。気をつけて」

 笹谷の肩をぽんと叩き、湖を沿って進む。
 数分歩いた先で、集団から外れて行動するということを打ち明けるため、口を開いた。

「みんな、実は——」

 俺は全員に班ごと別行動をすること、リビアルと話した内容などを話した。もちろん俺の正体については話していないが、怪しまれるのも時間の問題だろう。
 いっそ、話してしまってもいいのだが、タイミングは今ではない。

「神裂くん、私は反対です。確かにリビアルさんは酷いことをする人だと思いますが、輪を外れて行動するなんて……」

 ああ、そうか。俺がこの人の事を信頼したのは、師匠に似ているからか。
 相手のことを考えて、考えて、情を抱く。

「先生、あのまま進むより、別行動をした方が進みやすい。近くにはザンやイアがいる、どうせコバンザメみたいにくっついて移動しているだけじゃ何も得られない。なら、そっちに行った方が断然やりやすい」
「でも!」
「いいですか、ついて行ったら確かに安全かもしれません。だけど、いずれガタがくる。食糧が足りなくなります。ま、別行動をする我々も食糧難になりますがね」

 その時はその時、食糧係の運んでいる量を見るに、あと数日持つかどうか。食糧がなくなるのが、早いか遅いか、それだけだ。
 普通の班なら別行動をして食糧を確保するのは難しいだろうが、こっちには優秀な人材が揃っている、食糧問題なんて、簡単に解決できる。

「私は……」

 胸のあたりの布をぎゅっと掴み、俯く先生。その先生にだけ聞こえる声で、囁いた。

「先生、忘れましたか? 俺、この世界の人間ですよ」
「……ッ!」

 少なくともクラスメイトより、知り尽くしている。
 知らないことも多いが、知っていることも多い。メビウスの軍がデビルホーンの塔に辿り着く前に大魔王と戦闘をするには、それしか方法は無い。

「いいじゃん別行動、どうせすること同じっしょ? 毎日走って、集まってご飯食べてまた走って、そんなの飽きちゃうし、別行動できるだけそっちの方がいいし」
「だろ?」

 井ノ原の意見に、先生や相良も納得した様子で頷いた。

「わかりました、でも危険なことはしないでくださいよ?」
「わかってますって、さ、行きましょう。どうせなんで先に行ったザンたちを追いかけましょうか」
「ザンさんと一緒に行動すれば、安心だね!」

 やけに相良のテンションが高い。なんだ、ザンに憧れたのか。やめてくれ、お前の筋肉ダルマ姿なんて見たくない。

 俺たちはそこから遠くに見えるザンたちを追いかけ、合流した。
 お互いに走る速度を緩め、ジョギングのような速さで進む。

「このあとどうするんだ?」
「イア捕まえに行くぜ」

 捕まえにって、いや確かに逮捕的な意味で捕まえないといけないやつだが。
 魔族の街で痴態を晒してなければいいが。

「そうか、じゃあ魔族の街に行くんだな。そういえばさ、師匠とクダミさんって、どこにいるんだ?」
「もうそろそろ森を抜けた頃だと思う、あの人たち、時間をかけてでも馬車で森を抜ける予定だから」
「まぁ草原に出れば馬車は楽だわな」

 移動が楽になるのは確かだ。そういえば、マールボロの軍には鎧職人が作った馬鎧があったな、あれがあれば魔物に襲われても安心なのかもしれない。

「それにしても神裂雰囲気変わったし」
「お、おう。まあな」
「指揮をとるためなのはわかるけど、なんか変わりすぎだし」

 少しは演技をしておくべきだったか。いつからか、ほとんど演技なしで生活していた。

「……こっちが本当の俺なんだよ。学校にいた頃は、みんなに合わせてたし」
「そっちの方がいいし、帰ってもそのままの喋り方にして欲しいし」
「帰る、か」

 帰るって、どこにだ?
 そもそも俺はあの世界では死んでるんだ、帰っても、パニックになるだけだ。
 それに、今更あんな世界に帰ろうとは思わない。基礎である十七年が元の世界だとしても、その後の何百年は異世界で過ごしてきたんだ。俺は異世界の人間だ。

「……」

 考えていると、ミントが俺の顔をじっと見つめていた。なんだよ、なんか付いてるのか?
 ……あ。

「帰らねぇから安心しろ」
「あ、え? な、なんでわかったの」
「バレバレだろ」

 他の仲間は気づいていない。変ないじられ方されたら大変だからな。

「お、見えてきたぜ!」
「あれか」

 丘を越えた先に見えたのは、黒々とした街だった。
 建物はすべて黒で統一されている。あれは、木材か?

「本当に、魔族の街に行くんですか!?」
「ええ、食糧も確保しなければならないので」

 魔獣倒して食えば食糧問題は解決するが、無理な話だ。毎日肉ばっかで健康にいいわけがない。それで元気に動き回れるのはグルメの世界の人間か麦わら帽子を被った海賊だけだ。

「普通に入れるのか?」
「無理だな。ソウル、お前先にいけ」
「なんでだよ!?」

 ソウルが両手をわちゃわちゃさせながらツッコミを入れる。久しぶりのツッコミいただきました。さすがソウルさんだぜ。そこにシビれない。

「ペンギンってな……海が安全かどうかを確認するために仲間を海に落として確認するんだぜ……」
「いや何の話だよ!? ってかペンギンってなんだよ!? ってか犠牲になれってのか!?」
「え、そうだよ?」
「そうなのかよ!? って言いたいこと多すぎるわ!」

 面白いやつだなお前。
 よかったな、このやりとりで女の子が笑顔になったぞ。良くいえば笑わせてる。悪くいえば笑われてる。

「ソウル、笑われてるぞ」
「お前もだろ!」

 馬鹿な話をしつつ、俺たちは魔族の街に向かった。
しおりを挟む

処理中です...