眷属神の花嫁〜四当主の花嫁争奪譚〜神縁の行方

雨香

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第二章  お見合い編

再会1

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 どことなく覚えのある古い洋館を執事のお爺さんに連れられて歩く。

 義妹の桜子は翠の地に流れるようなスズランの柄が美しい振袖姿。
対して私は紺地にシンプルな牡丹の柄の訪問着で、華やかな場にはあまり合っていないのかもしれない。

 母の遺した着物箪笥の中からなるべく華やかな物を選んだつもりではあったけれど、煌びやかな洋館と、隣を歩く義妹の華やぎに身が縮こまる。

 幼い時に一度だけ顔合わせのあった眷属神の方達と、二十歳はたちになった私達のお見合いの場。

 キツネ狛犬こまいぬ、龍、カラス、神様の眷属一族の当主とのお見合い。

 神託のあった子が選ばれ、花嫁を得た当主は大きな力を得るという。本当かどうかは知らないけれど。

 何とも現実離れしているけれど、日本の神事に関わる人達なら周知の事実らしい。
二十歳はたちになった花嫁が混乱して拒否しない様、幼少期に一度だけ顔合わせがある。
記憶はおぼろげだけれど、覚えていることもちゃんとあるし、あれがなければ今頃私も妹も大混乱だっただろうから意味はあるのだろう。

 何となく覚えのある薔薇の咲き誇る庭の小道を案内されて歩いていくと可愛らしいガゼボの前に、スーツの男の人が立っていた。

 執事のお爺さんが立ち止まり、深々と一礼する。

八咫烏やたがらす族の当主、青幽せいゆう 月宗つきむね様でございます」

 私達をここまで案内してくれたこの館の執事のお爺さんが紹介する。

「カラス…………」

 怖いくらいの三白眼の切れ長の目。誰もが振り向くような美しく整った容姿に高い身長。細身の黒いスーツが恐ろしく似合っていてモデルみたい。

 けれど記憶の中の男の子の面影がちゃんとある。優しかった、男の子。

 黒髪で、瞳が金色にキラキラしていて忘れようもない。

 眷属神ってスーツ着るんだ、とぼんやりしてしまう。

「へぇ、なかなかカッコ言い!悪くない!自慢できそう!!」

 桜子が私にだけ聞こえるように囁いてくる言葉が頭に入ってこない。
優しく細められた瞳から目が離せない。

「次!次は?」
はしゃぐ桜子には目もくれず、相変わらず私を優しく見つめる。

「妖狐一族が当主、霧森きりもり 笹音ささねでございます。妖狐一族は花嫁を歓迎致します」

 ガゼボの中から私達の前まで歩いてきたのは狐一族の人だ。この人の事も何となく覚えている

 上等なシルバーの狩衣かりぎぬ姿。
いつか地元の神社のお祭りで神主さんが着ていた物に形は似ているけれど、彼の着ているものの方が明らかに上等な生地で、絹糸の艶めく刺繍が凛とした彼の姿によく似合う。

八咫烏やたがらすはカラスで妖狐はキツネよね?カラスやキツネの姿になれるの?」

クネクネと上目遣い(彼らの身長が高いのでこれは仕方ないけれど)の桜子が二人に問う。

「いえ、我ら神の眷属は人型ですよ。しかし私達妖狐一族はこの耳と、尻尾が人とは違う所でしょうか。青幽せいゆう殿の八咫烏やたがらす一族は黒い羽が」

 笹音ささねと名乗った妖狐の当主の頭を見ると銀糸の様なサラサラとした長い髪が揺れ、そのてっぺんに三角の狐のお耳がついている。
背後には何本もある尻尾。1、2、3、4本ある。ふわっふわで艶々。

 落ち着いた雰囲気のイケメンで、すごく優しそう。銀糸のようなサラサラの髪でお話の中の王子様のよう。

 またカラスさんを見るけれど、チラと笹音ささねさんを一瞥しただけで何も言わない。

「黒い羽、ないじゃん?」

 桜子の疑問に彼が初めて彼女の方を向き、

「自由に出せる」
とだけ言った。

 「ふぅん?」とつまらなそうな、小悪魔の様な流し目で対応した桜子は執事に引かれたガーデンチェアに座り、私も座れと目線で促してくる。

 慌てて座ろうと動くとカラスさんが椅子を引いてくれてドギマギしてしまう。

 メイド達がどれから手をつけていいのかわからない豪華なアフタヌーンティーの準備を終えたところで妖狐の笹音ささねさんが「下がれ」と一言いい、執事とメイド達はお庭から下がって行った。

「幼少の頃に一度お会いしておりますが、顔ぶれが変わったご当主がいらっしゃるので、改めて自己紹介致しますね。華柳院かりゅういん桜子と申します。こちらは姉の結衣ゆい。といっても血は繋がっておりませんが。父が、保護しましたの」

「花嫁は往々おうおうにして時の権力者の保護下に入ることは我々も承知しておりますよ」

笹音ささねさんがにっこりと笑う。

 保護とはていのいい口実で、実際は嫁ぎ先から花嫁の実家に送られる多額の寄付金や援助が目的だ。

 神々の選ぶ花嫁を手に入れた一族には力と繁栄が約束されると言われている。毎回トップシークレット扱いの様で、たくさんの情報があるわけではないけれど。

 今回私と妹の桜子が選ばれた。
妹と言っても血は繋がっていないし、数ヶ月差で私が姉というだけだ。
同じ家で育ったけれど、桜子は華柳院かりゅういん家の御息女で、私はただの貰われっ子でしかない。

 3歳の時に母と住む小さなアパートに神官がぞろぞろとやってきて花嫁にきまったと告げられた。

 同じく桜子の華柳院かりゅういん家にも同じ知らせが届き、花嫁の実家としての栄華を夢見た母の知り合いだった華柳院当主が私を金で買ったのだ。

 父が亡くなった後、体が弱い母は働き詰めで心を病んでいた。そこに生活全ての面倒と、私の大学までの進学費を工面してくれるという話は母にとっては魅力的に映ったのだろう。

 私が中学に入学した歳に、今までの心労がたたったのか、ほっとしたからなのか母はあっけなく亡くなってしまった。

 華柳院家では桜子よりも出しゃばらず、空気に徹している。使用人の娘、くらいの認識でいる。華道の家元なんて職業は今時流行らず、衰退の一途をたどっている。そんな華柳院家にとって、花嫁は金のなる木だ。

 けれど学費の心配をしなくて良いのはありがたい。
花嫁になれば贅沢三昧と言われているけれど、私には今の学費の方が重要だ。







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