眷属神の花嫁〜四当主の花嫁争奪譚〜神縁の行方

雨香

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第二章  お見合い編

央柱 淡雪 

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「姫様あの…………母を見てもびっくりなさらないで下さい、その…………なるべく否定しないで頂けたら…………」

「うん?どういうこと?そんな失礼な事しないよ?」

 人化してドアの前で立ち止まる類君が言う。
いつもの元気いっぱい武士が鳴りを潜めてる。

 可愛らしい淡い珊瑚色のお家。
シンプルだけれどメルヘンな外観が異質に映る。
レンガの屋根にアーチの窓、本当に絵本から抜け出たみたいに可愛らしい二階建てのお家。

「おわ!私手土産も何も無かった!ご挨拶なのに!!」

「必要ありません、どうせ……母にはわかりませんから」

その時ガチャっと中からドアが開いて、夜臣さんが顔を出した。

————「類、結衣ちゃんが冷えちゃうだろ、早く入ってもらえ」

 金髪ツーブロックのピアスゴテゴテ不良が仕立ての良いスーツを着てる。今日は耳と口のピアスが細いチェーンで繋がっちゃってる。

「兄様!お会いできて嬉しいです!!」

「いい子にしてたか?」

「はい!!!」

類君が嬉しそう。
年の離れた兄弟だからお兄さんが大好きなんだな。

「結衣ちゃんいらっしゃい。類をよろしくね?挨拶に来てくれたのかな?さぁ入って」

 中は暖炉に火が入っていて暖かく、メルヘンな外観に違わず可愛らしい内装でまとめられていた。

 アーチ型の出窓の前に丸テーブルがあり、揺り椅子にすわるご婦人がぼんやりと窓の外を見ている。

「奥様!お変わりなくお過ごしのよし、何よりに存じます!」

類くんが大きな声で挨拶をし、夜臣さんがメイドにお茶の用意を頼む。

——それでもご婦人は窓の外をぼんやりと向いたまま。

とても綺麗な人だ。
27歳と言っていた夜臣さんのお母様ということは年頃は若くとも四十代のはずだけれど三十代に見える。

「お客様……?」

ゆっくりとこちらを向いたご婦人が言う。
所作が美しく、洗礼されている。
中世ヨーロッパ風のドレスを着ているけれど、和服を着慣れた感じがする。

「おじゃましております!こちらは花柳院かりゅういん結衣様と涼風すずかぜ様です!わたくしはメイドの子です!」

「あらあら、ルーラの子かしら、可愛いわね。お嬢様達も、いらっしゃい」

「はい奥様、わたくしの子です」

 ルーラさんらしいメイドさんが紅茶を乗せたトレイを持って入ってきた。ルーラさんめちゃくちゃ若いけど…………15歳ぐらいだよ?

私達を見る彼女のぼんやりとした目はうつろで、何も写していないように見える。

ここでハッと気付いた。
————彼女は心を病んでいる。

「ルーラの子、こちらへ」

「はい奥様!!」

 綺麗な飴玉が数個入った袋を類君に渡して頭を撫でる。
ぐっっと泣くのを我慢した顔をする類君の元に涼風がかけて行き手を繋いだ。

「あらあら、今日は小さなお客様が多いのね?あなたにも、これを」

 白く細い手から涼風すずかぜに渡された飴の袋。
なんだか絵本の1ページを眺めているようで、胸が詰まる。

小さな手に乗せられた飴の袋は、そのまま小さなポシェットに。
ぺこりとお辞儀をしてまた類くんと手を繋ぐ。

「この蜜蜂さんは、あなたの子?」

涼風すずかぜを見て、私にゆっくりと問う。

「はい。私の子です、奥様」

否定をしないで欲しいと類君は言っていた。
涼風すずかぜがじっと私を見る。

「ありがとう」
ボソッと横で夜臣さんが囁いた。良かった、そういうことか。きっと否定をするとパニックになってしまうのだろう。

「じゃあ俺は鍛錬があるから行くよ。母上」

「頑張ってね、夜臣」

「ええ」

————「会議の合間に来ててね、結衣ちゃんに会ったなんて知れたら月宗にどやされるな」

笑いながら小声で私に言い、移転の妖術で消えて行った。




◇◆◇



淡雪あわゆきに会ったのか」

 夕方私の部屋に来てくれた月宗様の膝の上。
彼が庭の木に頼んで作り出したつるでできたブランコで遊ぶ涼風すずかぜ達を、羽根の隙間から見ながらお話しをする。

「淡雪さん、っていうの……類君のお母様」
自己紹介すらままならない危うい感じだった。
儚く、今にも消えてしまいそうな。

「俺が宗主の座についたのは五年前だ」

「うん?」
急になんだろう。

「その少し前に親父が死んで、耀ようが後目をついだ」

「う、うん……」

どういう意味だろう。耀さんは幼い時に一度会ったから覚えてるけど……

「その頃の俺は、またお前に会う為に躍起になって鍛錬して毎日ズタボロだった。俺の方が強くなっても、耀よう左柱さばしら出身の母を持つ。後ろ盾がありすぎて少しの差では敵わなかった」

「耀さんには、そういえばお会いしてないね?」

「俺がしいした」

しいした?しいしたって?殺したって事?
なぜ?急な話に頭がついていかない。

「俺と耀ようの仲が悪かったわけじゃない。むしろ腹違いの俺に気を使う優しい兄だった」

よく分からない。
淡雪さんの話をしていたはずなのに。

月宗様は私の髪を優しく撫で、また話す。

「耀が後目を継いだ年、類が生まれた。卵で生まれて大問題になったけど、対応を考えている間に孵化ふかし、類が出てきた。出てきた類はあの通り完全な人型ではなく俺達も驚いている間に————」

ここで月宗様は止まり、私をじっと見る。
言ってもいいのか考えている風で、私の顔色を見てるんだとわかる。

スリと胸元に擦り寄って、大丈夫だよと意思表示する。貴方がいれば、私は大丈夫。

「………………その後もどんどん卵で出産する者が増えたんだよ。耀は…………その全てを割って殺した。168の八咫烏やたがらすの卵が耀によって潰され、殺された」

少しずつパズルのピースがはまっていく。

「耀は………………自分の代で起こった事を無かった事にしたかったんだと思う。既に孵化ふかした類にまで手を下そうとしたんだ」

ヒュッと喉から声にならない声が出て、彼が私を抱く腕に力が入る。

「俺と、当時俺の育て役だった夜臣が止めた。キレた夜臣が単身で乗り込んで耀の四つ守を殲滅してる間に俺が耀を捉えた。その戦いで夜臣は片翼を失ったんだ」

 落ち着かなくて、怖くて、ぎゅうと月宗様のシャツを掴むと、背中を撫でてくれた。

「瀕死の類はすんでのところで助かったけど…………淡雪は央柱おうばしら家から類のような子を出してしまったこと、百人を超える八咫烏やたがらすの子の犠牲者を出した事に心が追いつかなかった。夜臣と真ん中の妹だけだった頃で心が止まっている。上2人のことは覚えていても、類の事は産んだことすら覚えていない」

「る、類君はそれからずっと1人?」

「夜臣が面倒を見た。1人ではないが、毎日今日の様にメイドの子と偽って母に会いに行ってる」

 涙があとからあとから出てきて止まらない。
頭を撫でられて、ぐっっと泣くのを我慢していた類君の顔が頭からはなれない。



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