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第1章
聖主3
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「敵ながらあっぱれでした。完敗でございましたねぇ。お嬢様をよく見ておられる。経験値が違いますねぇ」
「あ゛?」
「素晴らしい手腕でしたね。プレゼントの内容、出すタイミング、フォローまで。勉強になりました」
「ニ人とも、誰の部下なのか思いださせてやろうか」
「団長、あれは戦っちゃダメなやつです。シレッとご自分の瞳の色の万年筆を使わせるあたり、策士としかいいようがありません」
バキッ、持っていた万年筆が折れる。
「坊ちゃま、三本目にございます。石でもお持ちになっていてください」
「元より張り合うつもりはねえよ。彼女にも迷惑だろうが」
「坊ちゃま、そろそろ素直におなりになるべきかと」
「ほざけ。そんな欲はとっくの昔に捨ててるよ」
「リリ嬢が猊下とデート」
バキッ 四本目の万年筆が割れる
呆れた視線が四つ。
「はぁ…………彼女はもう寝たか?」
「はい。先程ご就寝されたと報告が入っております」
「分かった。ちょっと出てくる」
髪をかきあげながら執務室を出る。
距離なんて無いも等しい数分の距離に移転魔法を出す。
何もかもがもどかしい。
顔が見たい。
彼女の部屋の中に移転する。
睡眠薬を使って眠る彼女の眠りは深い。
額にかかった髪をスルスルとかきあげてやる。
妖精の様な容姿、美しい絹の様な長い銀髪。
規則的に上下する呼吸にホッとする。
家族以外が健やかな事を神に感謝する日が来ようとは思わなかった。
「俺がそばにいられたら……」
黒持ちの俺が彼女のそばにいられるはずはない。今は懐いてくれていても、今日の様な事が重なれば、どんどん自分を忘れて行くのだろう。
わかっているのに剥き出しの好意をぶつけられると気持ちが揺らぐ。
「どうかしてるな……」
◇◆◇
「ねぇこれ毎日やるのかな」
聖主さんからの花束とカード。
「昨日と同じ時間なのに」
「お嬢様、貴族とはそういうものでございます」
花束をばあやに渡しながらじいやがピシャリと言う。う゛ぅ…………。
「わぁ!今日は霞草だ!私このお花、大好き!!沢山束になってると、綺麗だねぇ!」
小さな小さな白い花が満開にさいて、とても可愛い。
「お好きなのでしたら、お部屋にかざりましょうか」
「うん!あぁニ日目にしてネタがない!ん?あ、そうだ。昨日貰ったプレゼントの袋に付いてたリボン、あれを使おう!!」
小さなリボンを作ってカードに付ける。
公爵家の紋章だと大きくてリボンが潰れちゃうから、小さな百合の模様の蜜蝋スタンプを選んだ。
「承知しました、お待ちしております。昨日はプレゼントをありがとうございました……っと、これでどうかな?」
「あらあら、お可愛らしいですねぇ。お嬢様らしくて良いのではないでしょうか」
ばあやもそう言ってくれたし、失礼では無いはず!
じいやとクリストフさんが後ろでアイコンタクトをとっていたなんて私が気づくはずも無かった。
◇◆◇
今日も図書館の同じ場所で勉強会がはじまる。
「昨日の続きから、お話しましょうか」
ティーカップを傾けながら話す聖主さんはどこまでも優雅だ。
「はい、お願いします」
ノートと万年筆の準備も万全だ。
「はは、お可愛らしいですねぇ」
「え?」
「いぇ、こちらの話です。どこまで話したでしょうか……あぁ、第三の御子の聖魔力のお話でしたね……あなたにも確実に聖魔力の流れがありますよ」
「それは猊下にもあるんですか?」
「いえ私にあるのは普通の生活魔法ができる程度の魔力です。分かるといったのは、聖都の教会本部にある聖典と同じ魔力の気配がするからです」
「私には何もわかりません」
「それでいいのですよ。あなたがこの国にいることが重要なのです。それによって、魔は退けられる」
「でも、私が落ちた時、魔獣はいました。襲われて、押し倒されて…………」
「お怪我はありましたか?」
「え?いいえ?シェイド様が助けてくださいました」
「先程、魔獣に押したおされたと」
「あ、そうですね、左肩を押されて背中を打ち付けて……左肩には魔獣の手が乗っていて…………あれ?」
「その左肩に傷は?」
「傷は、何も…………」
「それがそもそもおかしいのですよ。黒虎に襲われたとお聞きしましたが……黒虎の腕で押し倒されて生きている人間を私は見たことがありません」
「…………」
「そもそもがあなたの力で瀕死状態だったということです。グラセン公に聞けば何か分かるかも知れません。いつもより簡単に仕留められたはずです」
「団長はいつも簡単に仕留めますので違いが分かってないと思いますが」
クリストフさんが話に入ってくる。
何それ、シェイド様、カッコいい!!
「そうですか」
聖主さん、全然興味なさそう!!
「あ、あの……私の前の落ち人さん達の事をききたいです!」
氷点下の空気を誤魔化すために話題を変える。
「元の世界に戻った方はいらっしゃいますか?」
え?何?全員が私の方を凝視したまま固まっていた。
「あ゛?」
「素晴らしい手腕でしたね。プレゼントの内容、出すタイミング、フォローまで。勉強になりました」
「ニ人とも、誰の部下なのか思いださせてやろうか」
「団長、あれは戦っちゃダメなやつです。シレッとご自分の瞳の色の万年筆を使わせるあたり、策士としかいいようがありません」
バキッ、持っていた万年筆が折れる。
「坊ちゃま、三本目にございます。石でもお持ちになっていてください」
「元より張り合うつもりはねえよ。彼女にも迷惑だろうが」
「坊ちゃま、そろそろ素直におなりになるべきかと」
「ほざけ。そんな欲はとっくの昔に捨ててるよ」
「リリ嬢が猊下とデート」
バキッ 四本目の万年筆が割れる
呆れた視線が四つ。
「はぁ…………彼女はもう寝たか?」
「はい。先程ご就寝されたと報告が入っております」
「分かった。ちょっと出てくる」
髪をかきあげながら執務室を出る。
距離なんて無いも等しい数分の距離に移転魔法を出す。
何もかもがもどかしい。
顔が見たい。
彼女の部屋の中に移転する。
睡眠薬を使って眠る彼女の眠りは深い。
額にかかった髪をスルスルとかきあげてやる。
妖精の様な容姿、美しい絹の様な長い銀髪。
規則的に上下する呼吸にホッとする。
家族以外が健やかな事を神に感謝する日が来ようとは思わなかった。
「俺がそばにいられたら……」
黒持ちの俺が彼女のそばにいられるはずはない。今は懐いてくれていても、今日の様な事が重なれば、どんどん自分を忘れて行くのだろう。
わかっているのに剥き出しの好意をぶつけられると気持ちが揺らぐ。
「どうかしてるな……」
◇◆◇
「ねぇこれ毎日やるのかな」
聖主さんからの花束とカード。
「昨日と同じ時間なのに」
「お嬢様、貴族とはそういうものでございます」
花束をばあやに渡しながらじいやがピシャリと言う。う゛ぅ…………。
「わぁ!今日は霞草だ!私このお花、大好き!!沢山束になってると、綺麗だねぇ!」
小さな小さな白い花が満開にさいて、とても可愛い。
「お好きなのでしたら、お部屋にかざりましょうか」
「うん!あぁニ日目にしてネタがない!ん?あ、そうだ。昨日貰ったプレゼントの袋に付いてたリボン、あれを使おう!!」
小さなリボンを作ってカードに付ける。
公爵家の紋章だと大きくてリボンが潰れちゃうから、小さな百合の模様の蜜蝋スタンプを選んだ。
「承知しました、お待ちしております。昨日はプレゼントをありがとうございました……っと、これでどうかな?」
「あらあら、お可愛らしいですねぇ。お嬢様らしくて良いのではないでしょうか」
ばあやもそう言ってくれたし、失礼では無いはず!
じいやとクリストフさんが後ろでアイコンタクトをとっていたなんて私が気づくはずも無かった。
◇◆◇
今日も図書館の同じ場所で勉強会がはじまる。
「昨日の続きから、お話しましょうか」
ティーカップを傾けながら話す聖主さんはどこまでも優雅だ。
「はい、お願いします」
ノートと万年筆の準備も万全だ。
「はは、お可愛らしいですねぇ」
「え?」
「いぇ、こちらの話です。どこまで話したでしょうか……あぁ、第三の御子の聖魔力のお話でしたね……あなたにも確実に聖魔力の流れがありますよ」
「それは猊下にもあるんですか?」
「いえ私にあるのは普通の生活魔法ができる程度の魔力です。分かるといったのは、聖都の教会本部にある聖典と同じ魔力の気配がするからです」
「私には何もわかりません」
「それでいいのですよ。あなたがこの国にいることが重要なのです。それによって、魔は退けられる」
「でも、私が落ちた時、魔獣はいました。襲われて、押し倒されて…………」
「お怪我はありましたか?」
「え?いいえ?シェイド様が助けてくださいました」
「先程、魔獣に押したおされたと」
「あ、そうですね、左肩を押されて背中を打ち付けて……左肩には魔獣の手が乗っていて…………あれ?」
「その左肩に傷は?」
「傷は、何も…………」
「それがそもそもおかしいのですよ。黒虎に襲われたとお聞きしましたが……黒虎の腕で押し倒されて生きている人間を私は見たことがありません」
「…………」
「そもそもがあなたの力で瀕死状態だったということです。グラセン公に聞けば何か分かるかも知れません。いつもより簡単に仕留められたはずです」
「団長はいつも簡単に仕留めますので違いが分かってないと思いますが」
クリストフさんが話に入ってくる。
何それ、シェイド様、カッコいい!!
「そうですか」
聖主さん、全然興味なさそう!!
「あ、あの……私の前の落ち人さん達の事をききたいです!」
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え?何?全員が私の方を凝視したまま固まっていた。
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