段級位反転 ~最強の魔導士は最弱に成り下がる~

アルキオネ

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段級位反転 ~最強の魔導士は最弱に成り下がる~

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魔導士十段。それはこの世界の誰もが追い求める最高位の称号。
取得するには各地で開催される魔術大会で優勝を重ね、世界大会において5年以上連続で50位以内の成績を収め続けるという条件を満たすことが求められる。
一度獲得してしまえば罪を犯さない限り剥奪されることはないが、その難易度ゆえにこの段位を受けたものは2000年余りの歴史上で300人ほどしか存在しない。

魔術は年代と共にインフレを重ね、魔法業を生業とする者も増え、魔法学校も一般的となった現代において、この段位に到達する者は着実に減少しており、より一層人々の憧れの存在となっていた。

そんな魔導士十段という地位に、齢23歳という若さで登りつめた青年がいた。
レイ・チャベル。それが今回の主人公の名だ。


レイは元々、田舎に住む心優しい少年であった。
3人兄妹の長男で、妹たちとは10歳以上歳が離れている。
父は単身都会で仕事をしているから、実家では母と幼い妹と3人暮らし。
わがままは何一つ言わず、農作業をする母を手伝い、兄として妹の面倒を見る姿は、村の住民にとって羨望の的となった。

そんなレイに、魔術の才能が見つかったのは彼が12歳の頃。
母アシリが、3人目の子を胎内に宿していると発覚した数日後のことだった。

彼の住む村から政府の定期視察隊が去ってわずか1日、村に1人の老人が訪れていた。
警戒する村人に対しシーベルと名乗ったその老人は、一直線にレイの家へと向かい、門戸を叩いた。
「ここにレイ・チャベルという子どもが居るだろう?」
見知らぬ老人から息子の名前を聞き、狼狽えるアシリ。
「彼には魔術の才があるから私の弟子にしたい」と聞かされたところで、村の護衛を呼んだ。
しかし、その護衛もアシリの味方をすることは無く。
「残念ですが、そのじいさんはホンモノの魔導士ですよ。」とだけ明かして帰ってしまった。


シーベルに手を引かれ、馬車に乗るレイ。
単身赴任中の夫と数回の手紙を交わしたアシリが、働き盛りの息子を手放す判断をしたのは、シーベル来訪からちょうど一月を数えた日だった。

「僕、絶対に強くなるから。」
別れの涙を流す母と別れの意味を知らぬ妹に抱き付き、交わした誓い。
レイがその言葉通りの結果を示し、世界に名を轟かせたのは、言うまでもない。


導士シーベルには、約50人の門下生が居た。
彼らは全てシーベル自身にスカウトされた選りすぐりの魔法エリートたちで、世界大会に進出する20代後半の青年から、スカウトされたばかりで魔法の基礎すら出来ていない幼児まで、幅広い層の人材がシーベルの道場に通う。
もちろん、それぞれ進度の違う子どもたちをシーベルが全員指導するという訳ではなく、魔法の基礎を学ぶコース、下級魔法を練習するコース、上級魔法を練習するコースの3つに分けられ、それぞれ道場の卒業生が講師となって指導している。
レイも、最初は基礎コースに入れられたのだが、この環境は彼にとって羞恥心をくすぐられるものだった。
“明らかに年下の子どもたちしかいない”のである。

12歳で入門したレイに対し、基礎コースに所属する子どもたちの平均年齢は5歳。
一番幼い子がレイより数週間前に入門しておりそれが3歳半。
この年齢差が生じたのはレイが育った環境が辺境の村であり、シーベルに見つかるまで時間を要したのが主な原因だったのだが、12歳のレイにとって、自分の半分以下しか生きていない幼児と同等の扱いを受け、それらを「先輩」として扱わなければならないというのはかなりの苦痛だったのだろう。
レイは2ヶ月後に行われた人生初の昇級試験において早速天才の片鱗を見せ、2階級特進となって下級魔法コースへの転向と魔法学校への入学を許可された。


晴れて2階級特進を果たしたレイだったが、彼の羞恥体験はもう少し続く。
下級魔法コースの道場は、魔法の強さや技術で全てが決定する環境であったため、才能を開花させたレイが同級生に追いつくことは造作もないことだったのだが、魔法学校は違う。
読み、書き、計算といった学力も、評価に関わるようになっていたのだ。

当然、辺境の田舎で育ったレイにそのような能力があらかじめ備わっているハズも無く。
しっかり授業を受けなければならなかったレイは以前のように特進ができず、それどころか後から魔法学校に入学した子どもたちに抜かされるという経験もして、級位制の最高位である1級を取得し卒業するまでに4年を要すこととなった。


また、同級生たちに大幅な遅れを取ってしまったレイだったが、魔法学校を卒業してしまえばそこからはうなぎ上りである。
卒業から半年、両手で数えられるほどの上級魔法しか覚えていないうちから地方大会を優勝し、初段の段取りを受けると、年末には世界大会への出場権も獲得。あっという間に4段へと歩を進めた。

ちなみに、家族が約5年越しとなるレイの活躍を知るのは、この翌年、最年少での世界大会挑戦者として特集された時である。


レイは、道場の生徒やシーベル導士との稽古を重ね、着実に成長していった。
世界大会は初挑戦から2回奮わない成績であったが、敗退ステージを伸ばし、3年目からは魔法以外の体技にも力を入れ、初の50位圏内を獲得。
そこからは世界の強豪と打ち合うため、道場に通う回数も減っていった。
そして、22歳になる年、世界チャンピオンの称号をその手中に収めた。
シーベル導士に手を引かれ、道場に入門してからわずか10年足らず。
最年少での世界大会優勝は大きく報道され、世界各地にその名を轟かせた。

そして先日、対策を練った相手に敗れ惜しくも2連覇とはならなかったものの、見事に5年連続の世界大会5連続TOP50入りを達成。
晴れて魔導士10段の称号を手にしたのである。

レイ・チャベル。今ではこの名前を知らない者は居ない。
現役最強魔導士の呼び声は高く、シーベルの道場や魔法学校以外にも彼の魔法教育を求める者たちが多く存在している。
ここ数年で得たファイトマネーとこれからの様々な収入源を考えれば、これからは順風満帆な生活が待っている。

彼を含めた世界中の誰もが、そう思っていた。
とある事件が起こる、その日までは……





「レイ・チャベル“ちゃん”、世界最強の名をほしいままにするあなたに、“こんな願い”があったなんて、知らなかったなぁ。天才の考えることって、やっぱり変なんだねぇ。」

とある日の夜。修行で疲れていたレイの元に突如として現れたその“魔族”は、そう言ってレイの瞳を見つめた。
「マズい」と思っても、レイが動くことはもう叶わない。
魔族との和平条約から実に150年以上が経過し、交流も盛んになっていたから、レイを含めた人類のほとんどが平和ボケをしていたのだが、魔族の中には未だ人類を糧に生きる者も少数ながら存在する。

その“少数”のうち大半を占める者こそ、今レイの目の前に居る“サキュバス”という種族というわけだ。
ヒトの精気を糧として生きる彼女らは、現在でも人類に対して悪戯を働くことが知られていたから要警戒とされているのだが、レイはこの日、度重なる修行の疲れによっていつの間にか警戒を解いてしまっていた。

それだけならまだ襲撃される心配も少ないと言えたのだが、このサキュバス、ポーラはレイにとって初対面ながら天敵と言って差し支えない能力を持っていたのだ。
それは、異常なまでの魔力察知能力と、読心術。
魔力察知、それは上級の魔導士であれば誰もが使える魔法で、いわゆる“魔力”というものが溜まっている場所や強さを調べることができるというものなのだが、ポーラはこの能力が異常に発達していた。
察知範囲は常人平均の5倍はあるであろう2km。制度もかなり正確で、“どれだけの魔力を持った者が”、“どれくらいの距離に居るか”を誤差1%ほどで言い当てることが可能という一種のチート能力を備えていると言って差し支えない。

“世界最強”と名高いレイの魔力が常人並みであるハズもなく、レイが彼女に捕らえられる未来はいつか来ていたことだろう。


そして、もう一つのチート能力が、読心術。
名前の通り、相手の心を読むことができるというもので、レイの心の中はこの能力によって透かされていた。
ポーラが「変」だと言ったレイの“願い”、それは……


「もう一度、羞恥心を味わいたい」という、被虐願望だった。



「面白いじゃん。その願い。ワタシがそれ、叶えてあげるよ。」
ポーラはそう言って、動けないレイの頭に手を乗せる。
「まずは、うんとヨワくしちゃおうね。」
僅かに逡巡し、思い立ったように言葉を繋いでいくポーラ。
「レイちゃんって、魔導士10段なんだよね。でもこれからは、10“段”じゃなくて10“級”に逆戻りだよ。23歳のオトナなのに10級なんて、恥ずかしいよね。だって、今だとどんな人でも初級魔法は使えるんだもん。でも安心して?わたしは優しいから、レイちゃんが恥ずかしくないように、10級でも恥ずかしくないカラダに変えてあげるから。」
それは、レイへの死刑宣告だった。
為されるがまま、ポーラに押しつぶされていくレイ。
凛々しい青年は、一瞬にしてあどけない幼児の姿へと変貌した。
「レイちゃんは、ママのお乳を離れてまだ少ししか経ってない赤ちゃんになっちゃった。ぷにぷになおててとあんよがかわいいでちゅね~!」
一瞬で変わり果てた自分の姿に、レイは泣きたくなったが、体を動かすことを制限されている今は、泣くことすらできない。
必死に嘆く心の声は、全てポーラの嗜虐心を増長させるものになっていた。
「魔法の才能も、今全部吸い取っちゃった。そんなんじゃもうシーベルおじさんの道場には通えないから、これからは他の赤ちゃんとなかよく“魔法幼稚園”に行っておべんきょうしてね。才能がこれっぽっちも無いから、ほかの子よりもたくさんの時間おべんきょうしないといけなくて、あとから入ってきた後輩にどんどん抜かされちゃうだろうけど。」

この時点で、レイは心の中ですら言葉にならない叫びを上げていた。
「レイちゃんは23歳だから、今幼稚園に行くとほかの子とは20歳違うんだけど、またオトナになる時には、どれくらい離れた子と一緒なんだろうね。
あ、ここで言う“オトナ”っていうのは、もちろん3級になれた時だよ。3級に上がった時に骨格を成長させる魔法を教えてもらえるから、どれだけ辛くてもそこまでは頑張らないとね。」
“何もできない”幼児への転落と、成長遅延。密かに“羞恥心”を望んでいたレイだったが、流石にここまでの仕打ちは望んでいなかった。
だがそんなレイの思いとは裏腹に、ポーラはレイに最後の言葉を告げた。
「シーベルおじさんの道場に通えなくなっちゃったから、ここに居る必要もないよね。優しいわたしが、レイちゃんの大好きなママの元へ返してあげる。大きくなったら、また遊びに来てね。」
刹那、レイの体はポーラの元から姿を消した。





「レイ起きて!幼稚園に行く準備するよ!」
辺境の村、そのとある民家では、毎日このような声が聞かれる。
レイと呼ばれた幼児は、起こされると決まって号泣するため、それをなだめる声も毎日のお決まりになっている。
号泣するレイの気を引くのが、リリ。先日10歳の誕生日を迎え、今度は魔導士3級の試験を控える少女である。
そして、泣き喚くレイを手際よく着替えさせるのが、ミリ。魔導士1級、12歳の少女だ。
母のアシリは朝食を作っているため、普段は姉妹がレイのお世話をしている。
この姿だけ見ると、ミリ、リリ、レイの3姉弟に見えるが、実際のところは違う。

実は、レイの方が姉妹よりかなり年上の23歳であるのだが、数か月前、謎の病気によって彼は幼児となってしまった。これまで、数多くの医者が彼の病因を突き止めようと診察に訪れたのだが、未だこの病気を解明できた医者は居ない。
レイ自身も、日が経つにつれ自身が大人として活動していたことを忘れてきており、「現役最強」とまで言われたその魔法の一端すら見られないことから、一時は別人説まで浮き上がっていた。
しかし、調査によってそれは否定され、「現役最強と呼ばれたレイ・チャベルが正体不明の病気によって幼児化した」というニュースが世界中を駆け巡ることになった。
現在は、出身の村にある実家にて、妹たちに世話をされ、最下級生として泣きながら幼稚園に通う日々を送っている。

そんなレイの今後の動向について、我々はしばらく追っていくことにした。
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