12番目のApril

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12番目のApril

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12人兄弟って、どんな大家族だよ?!って思うでしょ?

でも、だいたい、その兄弟はみんな、ちゃんと血は繋がってない。

異母兄弟って、ヤツ?

父親はアルファで、なんでも持ってて、金持ちで、さらに人柄もいいんだけど、下半身がユルくて節操無くって。

アルファの女性からオメガの男性まで、幅広く関係をもっては、孕ませて。
それを繰り返していたら、子どもが12人になった。

そう、それだけの話。

そして、父親の血を色濃く受け継いで生まれた子どもの1番から11番までのは、順当にアルファなんだけど、12番目の子どもだけは、何故かオメガに生まれてしまった。

その12番目の憐れな子どもが、そう、僕なんだ。

加えて、僕の生みの親は使用人のオメガで、僕を産んですぐ亡くなってしまったから………。
同じ兄弟と言えど、最初から持って生まれた運と境遇が違いすぎて、僕の立場は生まれた順番も最下位だし、この家のカーストでも最下位なんだ。

だから、と言ってはなんだけど。
オメガだから、と言ってもなんなんだけど。

僕の仕事は、兄弟達の相手をすること………。

それが僕の仕事で。

この家で生きていくためには、この家から出されないためには。

兄弟達相手に脚を開いて、気持ちよくさせる。

こうするしか、こうやって生きていくしかない。

だってさ、ここから出されたら………。
外に出されたら、僕は余計、生きてはいけないんだ。

「吏流様、今日は鴎雅様と天馬様のお約束が入っております」

こんな僕にもちゃっかり執事なんていて、今日はどの兄弟の相手をするかをちゃんと割り振ってくれる。
なんか、変なんだけどさ。
この執事がいてくれるから、ダブルブッキングとかそうそう無いし。
なにより、この執事はこんな僕にもすごく優しい。

「わかりました。小山内さん、いつもありがとうございます」

僕に「小山内さん」と言われた執事は、目を細めてにっこり笑うと僕の首にセーフカラーを優しく着けてくれた。

「小山内さん、僕、匂う?」
「さぁ、私はベータですので……わかりかねます」
「そっか。抑制剤効いてたらいいけど。では、行ってまいります」

僕は小山内さんにお礼を言うと、部屋を出て、長い廊下の一番奥にある部屋に歩き出した。

接待部屋………通称〝ヤリ部屋〟。

僕と僕の11人の兄弟が、肌を重ねてむつみあう部屋。

ただ、それだけの。
僕に与えられた唯一の仕事の、唯一の部屋。

僕はドアの前で、息を大きく吸って、息を吐くと同時にその重たいドアを開けた。






~August & September~

7番目の兄の鴎雅と8番目の兄の天馬は双子だ。
しかも双子なのに、生まれた日が違う。
鴎雅は、8月31日生まれで。
天馬は、9月1日生まれで。

出生時の時間差で、この2人には双子なのに奇跡が起きたんだ。

2人とも、本当によく似てる。
よく似てるし、かなりのイケメンで。
僕はこの2人に、同時に抱かれるんだ。

「……はぁ、あぁ……あ……」
「吏流……今日もグショグショじゃん………やらしい、オメガだな」

僕の大きく開いた脚を手で支えて、リズムよく僕の中に、アルファ特有の熱くて大きなのを突っ込んでいるのは、天馬。
「胸、ずっとコリコリじゃん………誰にいじられたら、こんなになるんだよ」

僕の上半身を支えながら、胸を弄って深いキスをしてくるのが、鴎雅。

「ん……んんっ………」
「やべっ………っつ!!………はぁ、イっちゃったよ」
「じゃ、交替してよ。天馬」

僕の奥までトロッとした天馬の熱いものあたって、そして、それが中からトクトクと溢れ出した。
何度、幾度となく経験しても、この感覚は少し苦手だから、たまらず体がビクついてしまう。
その余韻に浸ることなく、今度は鴎雅が僕の中にリズムよく突っ込んだ。

「トロトロなのに………めちゃ締まりがいいじゃん、吏流………やっぱ、おまえとヤルと、他の子じゃ物足りないんだよなぁ………」
「ぁあっ………や、やぁ………」
「本当、それな。誰に仕込まれたんだよ?慈安兄さんか?吏流」

2人に何回ってイカされて堕ちそうな僕の口の前に、天馬のがあって。
天馬を見上げると、顎を動かして天馬は無言で僕に命令する。
僕はそれをひと舐めすると口に含んで、喉の奥までそれを入れ込んだ。

………ヤバイ。
イカされてすぎて…………。
もう、あんまり持たないかも。

でも、この2人は僕のことをいつも「最高」って言ってくれるから………もうちょっと、あともうちょっとだけ、頑張んなきゃ。
鴎雅と天馬は、若いし、体力もあって。
そんな2人に体育会系並みに攻められると、僕はあっという間にオメガの本能丸出しで、グズグズになって………。

「………っあ!!俺、イクわ!!……」
「俺も!!吏流!口に出すぞ!!」
「……んっ…………ん、」

天馬の中からあったかいものが勢いよく流れでて、僕の体の中に落ちて、鴎雅の中から熱いものが、僕の中を奥まで満たして溢れ出る。

僕の体は、中も外も、白い液体に塗れて………。

体が燃えそうに熱くて、体のウズウズが頭をだんだん支配していくから。
僕を見下ろす2人の顔がだんだんボヤけていく。

「今日もよかったよ、吏流」
「また、よろしくね。吏流」

2人は口々に言って、僕の頰にキスをした。
そのキスが、今まで僕を休むいとまもなく攻め続けていた人達じゃないみたいで。
僕は思わず「どういたしまして、兄さま方」って、いつも言ってしまう。

そして、その瞬間に………すべてが終わった。

そう思ったら、僕の体から力が抜けて………視界が真っ暗になったんだ。


兄達とシた後は、いつも決まって不思議な夢を見る。

僕は空の高いところにいて、小さくなった地上を見下ろす。
僕はこの家から出たことがないのに、その景色がすごくリアルで………不思議と怖くはない。

足を動かしたら、飛べる………かな?

そう思って足を動かしたら、体がスッと地上に向かって落ちていって………。

怖いっ!!助けてっ!!

って思った瞬間、目が覚める。

「………っ!!」

空気を掴もうと、手を動かした。

バシャッ!!

温かい水が跳ねて、僕の顔に飛沫がかかる。

………あ、あれ?お風呂??
………いつの間に…。

「お目覚めになりましたか?吏流様」

湯船に浸かる僕の目の前には、小山内さんがふかふかなバスタオルを持って、にっこり笑って立っていた。

「お時間になってもお帰りなりませんでしたので、様子を伺いに部屋に行きました。吏流様雅気を失われておいででしたので、差し出がましかったのですが、部屋からお連れしました」

あ、そうだった。

2人があまりにも激しくて、僕は目の前が真っ暗になったんだった。

「ありがとうございます。小山内さん」
「だいぶお疲れのようでしたので、外と中の洗浄もいたしました」
「………あっ、…ありがとうございます。そんなことまで、本当に申し訳ありません」

落ちてたとは言え、小山内さんに恥ずかしいことをさせてしまって、僕は顔が一気に熱くなる。

湯船にすっぽり浸かって、そのまま、小山内さんの前から消えてしまいたい………。

「吏流様」
「はい!」 

恥ずかしさと気まずさから、僕は動揺して大きく短い返事をしてしまった。

「あまりご無理はされませんよう。私は、吏流様のお身体が心配です」
「心配……してくださって、ありがとうございます。この家の中で、こんな僕のことを心配してくるのは、小山内さんだけです」

僕の心は、この時、急に緩んでしまったのかもしれない。

日頃、誰にも言わなかった………。

誰にも気付かれないようにしていた僕の本音をつい、口に出してしまったんだ。

「僕は僕の未来が見えないんです。このまま年をとったらどうなるんだろう、とか。病気になってしまったらどうなるんだろう、とか。僕はいつも夢を見て………空の高いところから、見たこともない景色を見下ろしていて、そして、落ちる………落ちる瞬間が………夢だと分かっていても本当に怖くて………」
「吏流様」
「………ごめんなさい。余計なことをしゃべり過ぎてしまいました」

なんで、なんで僕は、小山内さんを困らせるようなことをしゃべってしまったんだろう。

こんなこと言ったら、小山内さんが兄達の割り振りを躊躇してしまうのに………。

「小山内さん、今の、忘れてください。今の僕は、いつもの僕じゃないんです」
「さぁ、なんのことでしょうか、吏流様。そろそろお上がりくださいませ。風邪を召されてしまいます」

小山内さんはにっこり笑った顔を崩さず、僕にそのバスタオルを差し出した。

………小山内さんは、さすがだな。

一瞬で、僕の中から吐露した本音をなかったことにしてくれた。

「ありがとうございます。小山内さん」 

僕は湯船から上がるとそのふかふかなバスタオルで体を包んだ。

小山内さんも。
このバスタオルも。

僕の小さな幸せで………。

僕はこの一瞬が欲しくて、欲しくて、たまらなくて。

また、兄達と肌を重ねるんだ。







~May & November~

湯船に浸かり、少し落ち着いて、部屋に帰る途中の廊下で9番目の兄、溟とばったり出くわした。

僕は、この人が少し苦手だったりする。
いつも凍てつくような鋭い視線で僕を見て、そして、僕と肌を重ねない唯一の人。

この人のお母さまはアルファだし、僕とは対極にいる人だから、僕のことを根本的に嫌っているのかもしれない。

そういう態度をとられると、僕だってさすがに寂しいし悲しいから………。
いつも、軽く会釈だけしてやり過ごすんだ。
いつものように、溟と目を合わせないように会釈をした時………。

「……昼間っから、お盛んなことだな」

と、深く響く声で溟に話かけられた。

「……………はい」
「オメガの武器を最大限に利用して、ここから追い出されないように、せいぜい頑張るんだな」
「……………はい」

急に溟に声をかけられて、言われたその辛辣な言葉に僕は、単調な言葉しか返すことしかできなかった。
まぁ、溟の言うことは、そのものズバリあってる。
ここにしがみついてるのも事実だし、だから、否定のしようもない。

「おまえ、ちょっと来い!」

突然、溟は僕の腕を強く掴んで、溟の自室に僕を連れ込んだ。

………自意識過剰かもしれないけど。

溟のことは元々苦手だし、こんな密室に連れ込まれたら何をされるか………。

でも、溟は兄だし………。

僕は掴まれた手を振り解くこともせず、ただ、溟の行動に大人しく従っていた。

「おまえ………趣味とか、ないのか?」
「趣味?」

溟の質問に僕は、固まってしまった。

趣味……。

趣味なんて、言われても……。

毎日、小山内さんとしゃべって、いずれかの兄達とヤって、疲れて深く眠って、あの夢を見て。

趣味なんて、趣味なんて……皆無だ。

「………ありません。趣味とか」

僕のつまらない答えに、溟はため息をついた。

「好きなものとかは?それくらいあるだろ」
「好きなものも……特には…………あっ!!」
「なんだよ」
「空を……空を見上げるのは、好きです。昼でも夜でも」
「どうして?」
「どうしてって……昼の空は………青くて吸い込まれそうで。夜の空は、月とか星とかたくさん光ってて賑やか………だから」
「………ふーん」

自分から質問をふったくせに……。

素っ気ない返事をした溟に、僕は少しムッとした。

「これ、おまえにやるよ」

そう言った溟は、僕に白っぽいボールのようなものを投げてよこす。
キャッチしたそれは、ゴツゴツしていて、固くて……。

表面がキラキラ光っていて………。

キレイ……。

でも、何?これ?

「………あの、これ」
「月球儀」
「ゲッキュウギ?」
「月の地球儀だよ」
「月の………?」
「やるよ、それ」

口ではそう言っているけど、溟の目は凍てつくように僕を見ていて………。

僕は、少し混乱してしまった。

「ど、して?僕に?」
「ヤルことだけが、全てじゃない」
「………え?」
「ヤルこと以外にも何か見つけろ。じゃなきゃ、吏流、おまえ………壊れるぞ」

………え?
壊れる?僕が………?

何もかもに驚愕して、身も心も停止して。
僕は、ただただ、溟から目が離せないでいたんだ。
溟の凍てつくような視線が、ふっと、柔らかくなったと思った瞬間、僕は溟に強く抱きしめてられた。

「………溟、兄さま?」
「オメガが、ヤルことが、おまえの全てじゃない。自分を見失うな、吏流」

〝自分を見失うな〟

強く、低く。

僕の胸に響くその声にのった言葉は、僕に言ってくれているのか、溟自身に言い聞かせているのか。
溟からもらった月球儀が、手で温めてられて、その手は汗ばんでしまって。
それまで溟のことが苦手だったのに、僕の空っぽな心を気付かせてくれた溟と急に距離が縮まってような気がして………。
僕の手の中の月球儀と溟の存在は、僕の中の小さな幸せになったんだ。





「吏流、何、考えてる?」

気もそぞろなのが、3番目の兄の乃武に気付かれてしまった。
そんな僕に気を引くように、僕の胸の小さな膨らみを舐めて歯をたてる。

「っん……!…乃武兄さま………」

乃武は、僕と境遇が少し似ている。
父親とオメガの女性の間に生まれたのが乃武で、乃武は奇跡的にアルファで生まれた。

僕と紙一重なんだ、この人は。

だから、いつも。

乃武は僕のことを優しくいたわるように、シてくれるから。
乃武と肌を重ねると、僕はいつもとろけるように感じて、体の奥から震えるような快感に襲われる。

「……あぁ……ん………あ」
「吏流、今日はすごく、中が熱いよ……とても、キツくて……気持ちイイ」
「はぁ、あ……兄さまも……」

乃武は僕の体を後ろから抱き上げて、僕の奥深くを貫くように突き上げた。

「なんか、いい事あったの?」
「……うん………んぁ……あった……よ」
「妬けちゃうな、ボクより好きになっちゃった?それ?」

僕の体に回した腕に力を入れて、乃武はさらに僕の奥深くのかき乱す。
乃武のせいで、僕の中はさらにグチャグチャ音を立てて乃武のソレを締め付けるんだ。

「ちが……兄さま、は……特別………」
「本当?」
「特、別………兄さまは、ハァ………あ」

特別………。

そう、乃武は僕と似ていて、特別な存在で。

僕に優しくて、僕を小山内さんの次くらいに、よく分かってくれていて。
大好きで、特別なんだけど。

昨日の溟の存在と、溟からもらった月球儀が。
僕の中ですごく大きくなっていって……。

僕の未来に、少しだけ、光が射した気がしたんだ。

ここから、もし、出ることがあったら……。

やりたい事を、見つけた。

この生活を、もし、変えることができたら……。

なってみたい自分を、見つけた。

だから、嬉しくて。
心が震えて、たまらない。

「んっ……っぁあ……あっ」

こうして足を広げて、喘いでいても。

未来に想いを馳せて、夢を見ることができる僕が信じられないくらい楽しくて………。

気もそぞろになってしまう。





「吏流様は最近、それがお気に入りのようですね」

窓の近くに寝っ転がって、僕は月球儀を青い空に重ねて眺めていた。
太陽の光で、月球儀の表面がキラキラ輝いて。

真昼の月みたいに、キレイで。

僕はそれに飽きることなく、ずっと見ていたんだ。

「はい。未来が……」
「未来?」
「こうしていると、未来が見えそうなんですよ。小山内さん」
「………吏流様」

日頃、優しくて表情を変えない小山内さんが、少し困ったように笑った。

「ここから出られないことも、出ることができないこともわかってます。分かってるんですよ、小山内さん。でも、こうしてると夢と希望が湧いてきて、ちょっと前の僕とは全然違う希望がするんです」
「………吏流様、そろそろお時間です。ご準備を」

僕は体を丸めて、起き上がり小法師のように反動をつけて起き上がった。

そして、月球儀を小さなクッションの上に置く。

小山内さんは、僕の首に特殊な形のセーフカラーを着けた。

………あ、これ。

「………真智、兄さま?」
「左様でございます」

小山内さんは、僕の頰にそっと触れて続けた。

「何かございましたら、すぐ私をお呼びくださいませ」
「………無理、だよ。そんなの………時間になって僕が出てこなかったら、僕を迎えにきてくれませんか?小山内さん」

僕の体も、声も。

小さく、小さく………震える。

「大丈夫ですか?吏流様。今からでも、お辞めになりますか?」
「大丈夫です……大丈夫。うん、大丈夫!!僕は今までの僕と違う。だから、心配しないでください」

僕は小山内さんに笑いかけると、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をして、ドアを開けた。







~ March & October ~

5番目の兄である真智と、僕はあまりシたくない。

この人は………とことん、ハードだから。

天性の、ものなんだろうな。
ハードすぎるこの人のせいで、泣いてもなお耐えきれず、僕はなんども意識を失っている。

「あっ……くるし……兄さ………ま……」

特殊なセーフカラーには鎖が取り付けらるようになっていて、セーフカラーからのびた鎖の先には太腿を締め付けているベルトとつながっている。
両方の手には手枷がつけられて、それが足首につけられた足枷に短い鎖で繋がれているから、何もしなくても勝手に足が開くんだ。
さらには目隠しまでされて、僕は真智の表情はおろか、その行動すら把握することができず。

僕は……恥ずかしくて。

怖くて……仕方がない。

だけど体はなぜか、深いところで反応する。

顔が火照る、体が疼く。

呼吸が荒くなって、だんだん、後ろが濡れてくる……。

「吏流、香り、すごいな。ヒートがきたみたいになってるぞ?」

聴覚だけが頼りの僕の耳元で真智が囁いた。

「吏流、今日は我慢してもらうからな?」

そう真智の声が聞こえると、僕の先の方に何かを固く結んだ。

「いっ……とって……」
「好きなんだろ、こういうの。ほら、おまえの中からどんどん溢れてくる。本能的に虐げられるのが好きなんだろ?なぁ、オメガはさっ!!」
「……あぁっ!!……あ!ぁ!!……やぁ!!」

真智が鋭く奥を突き上げる。

たまらず、僕は声を上げてしまったけど、真智のその感じがいつもと違って、僕は、混乱したんだ。

「真智っ!?兄……さまっ!!何?……何?」
「バレた?オメガのくせに鋭いな。特注のペニスサックだよ。奥まで届いて気持ちいいだろ?」
「やっ!!……やだぁっ!!ぁあっ!!……とってっ!!……やぁ!!」

かなり奥まで、刺すように貫かれて。

痛いのに、感じて。

また、意識を失いそうで。

僕は叫びながら、体を反らして真智から逃れようとした。

「何?……気に入った?……じゃあ、もっとシてやるよ」
「っ!!やぁっ!!!……やめっ!!!……あぁーっ!!」

何に入っている真智のソレが急に震え出して、そして速度を上げて、さらに、僕の中をかき乱す。

真智は……僕に対して、優しさのかけらもない。

乃武みたいに、僕を愛しいと言ってくれない。

溟みたいな、優しさなんてない。

僕は、真智の、単なるオモチャに過ぎないんだ。

誰か……助けて………。
助けて……。

でも、僕は、助けを呼べない。
呼んじゃ、いけないんだ。

「おっと……意識をトバすなよ?またまだ、これからなんだからな?」

そう言って真智は僕の胸をギュッと噛んだ。

「あぁっ!!」
「本当は……本当はその細い首根っこを噛んで。俺だけが好きなようにできる、俺専用にしたいくらいなんだけどな。これで、我慢してやるよ。吏流」

真智は、いつも、僕を独占したがる。
こんなに従順で、なんでもするオメガは僕以外いないんだろうな。

でも……僕は、好きじゃない。

こんなの………好きじゃないんだ………。

少し見えた未来も、少し湧いた希望も。

だんだん、なりを潜めて。

見えなくなって……。

その恥ずかしさ、苦しさとは裏腹に、火照ってグズグズになる体が、真智を欲しがるから……。

本当に、イヤでイヤで。

なんで、僕はオメガなんだろう……。

なんで、僕はこんなことしてるんだろう……。

こんなことをするために、僕は生まれてきた……のかな。

今ほど、僕は。

僕が生まれてきた意味を、疑問に思ったことはない。





チャリ……。

鎖が擦れる音がして、僕は目が覚めた。

「気がついた?吏流」
「邑久斗……兄さま……?」

僕の目の前には小山内さんじゃなくて、6番目の兄である邑久斗がいた。

また……僕は、途中でとんじゃったんだ。

いつにも増して、僕は真智に必要以上に攻められたのに、固く結ばれたソレのせいでイカしてもらえなくて……。

キツかったな……。

「こんなことするの、真智だろ?」

邑久斗は僕の手や足に巻かれたベルトや鎖を、そっと外す。
体がやっと自由になって、僕は心底ホッとした。

「ありがとうございます、邑久斗兄さま」

邑久斗は僕に優しく微笑むと、そっと唇を重ねる。
今は…今は、もう、そんな気にならない。

ならないから、やめて……。

「綺麗な吏流もいいんだけど、こうして誰かに汚された吏流もかなりそそるな……」
「や……だ………兄さま……やめ……て」

覆い被さる邑久斗を押し返す力は、もう、僕には残っていなくて。
結局、邑久斗にされるがまま、僕は立て続けに兄に犯される。

「……ぁ……ぁあ、や…らぁ……」
「嫌?嫌じゃないんでしょ?吏流の体、すごく熱いよ?」

イヤなんだよ……。

もう、ムリなのに……。

体はそう言わない。

また熱くなって、グズグズいって、邑久斗を受け入れる。

………これが、オメガなんだ。

アルファを誘って、惑わせて。

アルファを受け入れて、番になるまでオメガはその欲求を際限なく求める。

………体が、言うことをきかないんだ。

いつもは良識ある邑久斗が、僕の誘惑に負けて。

激しく、強く、僕の中をかき乱す。

「んぁ……だ……め……やぁ、やぁぁっ!!」
「泣いていいよ。叫んでもいいよ。……余計、興奮する………」

泣いて……。
叫んで……。

頭は拒否してるのに、その頭をパンクさせられるくらいに快感が襲って……。

また、だ。

また僕は、オメガの本性丸出しで、快楽に溺れるんだ。




「吏流様!!吏流様!!」

小山内さんの声で、僕は暗闇から一気に引きずり出された気がした。

……このまま、このままで、よかったのに。

目を開けたくなかった。
感覚も何もない、そこに身を置いていたかった。

「私が少し遅れてしまって……邑久斗様が……」

小山内さんは、すごく心配そうな顔をして、視線を僕に合わせる。
僕の体はキレイになっていて、アザができて傷ついた体はふかふかのバスタオルに包まれていて。
小山内さんの腕の中におさまっていた。

「小山内……さんが、気にする……ことじゃ……ありません」
「吏流様」
「………夢や希望は、僕を強くした気がしたんです。でも……それだけじゃ、無理でした」

そこまで言うと、僕の目から無意識に涙が出てきて、そして止まらなくなってきた。

「立場以上の夢を見ても、相応以上の希望を持っても、辛いことや苦しいことは、ちっとも減らない………。それは僕がオメガだから?僕が弱いから、なんでしょうか?」
「吏流様、今日はもう休まれてください」
「あのまま、もう、2度と目を開けたくありませんでした………。目を開けたら、また、エンドレスで続く毎日を………僕は続けていく自身がなくなってしまったんです………」

小山内さんは、僕を抱えている腕にギュッと力を込めた。
僕はそんな小山内さんにしがみついて、ひたすら泣いていた。

〝自分を見失うな〟

溟の力強い言葉は、僕の胸にしっかり残っていて、気持ちを奮い立たせてくれていたんだけど、今日の僕はもう、限界で……。

見失うなって、オメガの本性にのまれて。

自分が最低な人間に思えてならなかったんだ。







~January , June & July~


朝起きたら、いつにもまして体が重かった。

そして、体の奥底にたまった熱が湧き上がるように体の隅々まで熱くする。

そして………。

何も、してないのに………。

何も、考えてないのに………。

後ろが、グズグズあふれるように濡れてくる。

「……っあ………」

出てくる声も、熱を含んだ吐息しか出てこない。

とうとう、発情期が………。
本格的な発情期がきてしまった………。

真智に酷くされて、邑久斗にさらに犯されて。

もう、シたくないって思ったのに………思ってるのに。

………体が、誰かを欲してる。

〝早くきて!早くシて!そして、早く楽にして!〟って。

「小……山内……さん……助けて……。小山内…さん」

ようやく絞り出した声で、僕は小山内さんを呼んだ。

クスリ、飲まなきゃ………早く、発情期を止めなきゃ………。 

「小山内さん……どこ?……小山内……さん」


ーガチャ。


小山内さん!!


どうにも言うことを聞かない体をようやく起こして、僕はドアの方を見た。

「凄い、香りだな。吏流」
「………慈安、兄……さま」

僕の部屋に入ってドアをそっと閉めたのは、1番上の兄の慈安だった。

「小山内……さんは?……クスリ………クスリを」
「そのままでいい」

慈安は僕にゆっくり近づいて、サイドテーブルの上にあったセーフカラーを僕に付ける。

「兄……さま……?」
「発情期って本当、ヤバイな。今すぐぶち込みたい……」

僕の肩を両手で掴むと、僕をベッドに引き戻すように押し倒して、間髪入れずに慈安は僕の中にねじ込んで突き上げた。
いつもは………。
いつもの慈安は1番上の兄らしく紳士的で僕に優しくて………こんな風に乱暴にシたりしない。

今の慈安は、目が鋭く血走ってて、アルファの本能を爆発させたかのように、僕を力でねじ伏せて僕の中をかき乱す。

イヤな、ハズなんだ。

こんな風にされるのが、僕は1番イヤなのに。

慈安のソレが今までにないくらい気持ちよくて、中が奥まで溶けてしまいそうなくらい熱くて……。

慈安が、もっと、欲しくなる。

これが、発情期なんだ……。
兄弟の中で1番、理性の塊みたいな慈安を崩壊させてしまうくらいの……。

これが、オメガの発情期。

「あ…ぁ、兄……さま……もっ…と」
「吏流……!!」

自分からアルファの体を求めるなんて初めてで。
慈安はそれに答えるように、僕を激しく揺さぶって………僕の香りや熱に引き寄せられた慈安は、セーフカラーに守られた僕の首筋を何度か噛み付こうとしていた。

慈安とたくさんシて………。

いっぱいイかされて。

僕の中を満たすように、慈安のをたくさん出されたのに………。

僕の体の熱は引かなくて………。

足りない、まだ、全然足りない。

もっと……もっと……欲しい。

慈安が部屋から出て行った後、僕は体の疼きにひたすら耐えいた。

誰か……誰でもいいから……僕を抱いて欲しい。

「うぁ、すげぇ匂い……」
『吏流がヒートって、慈安兄さんの言ったとおりだ』

声のする方を見ると、ドアを開けて開口一番に小さく呟いた、4番目の巡と10番の兄、朱里がいた。
この2人の兄は慈安の実弟で、多分、僕が発情期っていうのを慈安から聞いたんだろう。
2人を見て、僕は急激に呼吸が荒くなって、体が疼いて……もう、どうしようもならなくなる。

「苦しいの?吏流」
『俺たちが、欲しい?』

巡の言葉に素直に頷いた。

朱里は僕を後ろから抱き上げて、僕の腕を強く掴み、熱くなった樹来のをグズグズになった僕の中に入れ込んだ。

「んっ……はぁ、あ」
「吏流の中、凄い」
『俺のも入りそう?』

僕の正面に座した巡が、僕の火照った頬に手を触れて言った。
『いつもと表情まで違う。〝シてほしい。壊れるまで、抱いてほしい〟って顔してる。違うか?吏流』
「シて…………兄…さま達、シて……」

下から突き上げられて上下に揺れながら、僕は本能のままに答える。

それが、発情期に支配されている……。
今の僕の1番の本音だった。

巡はにっこり笑うと、僕を少し持ち上げて、既に朱里のが入っている僕の中にねじ込む。

「あぁ、あっ……あぁーっ!!」

その衝撃と快楽に、体が思わず反り返る。

今までにない感覚………。

真智でさえ、そんなことは僕にできなかった。

双子の鴎雅や天馬だって……。

発情期の僕はとにかく。

僕の中に入れて、僕の中をかき乱してくれたら……アルファでもベータでもよかった。

そうしていれば、楽だったし、気持ちよかったし。

僕自身が発情した僕自身の体を、止めることができなかったんだ。

「………噛みてぇ」
『俺もだ……』

僕自身にも止められないくらい暴走した発情期のオメガの僕は、2人のアルファを惑わし、その蜜の中に落とす。

1番下の弟で、1番下にいるオメガの僕が。

一気に1番上まで登りつめて、アルファである兄達を支配している感覚に襲われるんだ。

………きもちぃ…………。
きもちいい、のに。

オメガの本能のまま、アルファを中に誘い入れているのに………足りない。

………何かが………何かが、足りない。

2本も入って、僕のを満たしているのに………。

まだ、まだ……まだ、何かが、足りない。

その時、うっすら開いたドアの向こう側から、こっちを覗いている人と目があった。

この、鋭い……真っ直ぐな視線。


溟………!!


その瞳に、その眼差しに、僕は心を射抜かれてしまった。

溟が………足りないんだ。 

オメガの体はグズグズして快楽に溺れているのに、僕の心は溟を欲してやまない。

溟に、入れてほしい………。
溟に、噛んでほしい………。

でも………溟は、こんな僕が嫌いなはずだ。

発情期に乗じて、誰でもいいから手当たり次第に足を開く僕なんて。
オメガの本能に負けて、ヤルことしか考えられない僕なんて。
同時に2人のを咥えこんで、なおも足りないと、貪欲に欲する僕なんて。

…………こんな最低な僕が、好きなはず……ないよ。

溟の視線をそらすことができずに、僕の頬に涙がつたう。
溟は、僕にちゃんと気付かせようとしてくれたのに。

僕は快楽に負けてしまって………。

溟が、好きなのに。

溟はそこにいるのに。

すごく遠い存在に感じで、涙が止まらなくなってしまった。

『吏流……泣くほど、いい?』
「じゃあ、もっとしてあげる」
『俺たちも……ヤバイな』
「あぁ………ヤバイ、マジで」

朱里が急に体勢をかえて、僕の体をベッドに貼り付けてたから、僕は溟を見ることができなくなった。

涙がさらに、とまらない。

溟………行かないで………。

そこにいて…………溟………。




「………小山内……さん」
「吏流様、もう、大丈夫です。安心してください」

2人に攻められてもなお、発情がおさまらない僕に、ようやく帰ってきた小山内さんが、緊急抑制剤を打った。
体の熱が急激に冷めて、息も深く吸えるようになって………でも、本能のままに3人アルファを求めた僕の体はボロボロで、体を起こすこともままならない。

「旦那様に呼ばれて、私が目を離した隙に………こんなことに………本当に申し訳ありません」

小山内さんの、悲しそうな顔。

また、僕は、小山内さんにこんな顔をさせてしまった。

「発情期……こんなに………なっちゃうんですね。自分……でも、びっくり……しました」
「吏流様………」

小山内さんの顔がみるみる泣きそうな顔になって、次に僕が瞬きした時には、小山内さんは泣きながら僕の手を強く握っていた。

「泣かないで……小山内さん。……僕は、小山内さんのおかげで……今日、救われたんです」

小山内さんが目を真っ赤にして、驚いた顔で僕を見る。

「セーフカラー。着けてくれたのは慈安兄さまだったけど………外せるのは小山内さんだけだから。
誰に噛まれたり……或いは、みんなに噛まれたりしていたら…………僕は、本当に壊れていたかもしれません」
「………吏流様」
「いつも、僕を、守ってくれてありがとうございます。小山内さん」

小山内さんは、僕の手に頰をくっつけて、声を押し殺して泣き出した。

いつも優しくて、僕を守ってくれる小山内さん……。
そんな小山内さんにでさえ、僕は発情中に感じたあの気持ちを打ち明けることができないでいた。

溟が、好き、なんです……僕、って。








~February , December & ………~


「吏流、この間ヒートになったんだって?」
「………はい。恵風兄さま」
「ボクも見てみたかったな、吏流のヒート」
「………いいこと、なんて……何もなかったです」

2番目の兄の恵風は、僕の胸の小さな膨らみを優しく舐めた。

恵風は、病気であまり動けない。
だけど、僕は恵風と肌を重ねることが、好きだったりする。
だって、恵風はキスがうまい。
とろけるような、力が抜けるキスをしてくれる。
そして、僕が恵風のを口に咥えたり、恵風の上にのって腰を動かすと、すごく気持ち良さそうな顔をするんだ。
他の兄達は、僕に欲情の塊をぶつけてきて、オメガの僕を支配するかのようにシてくるけど。

恵風は………穏やかに、ソレを心のそこから楽しんで、嬉しそうに顔を緩ませてくれるから。

ゆっくり、時間をかけて。

お互いを徐々に気持ちよくして。

恵風とのこの時間は、オメガとかそう言うのを、つい忘れてしまう。

「やっぱり、自我を忘れた?」
「……と、いうより………シたくて、シたくて………仕方がなった………感じです」
「ボクも、吏流のヒートに当てられたら、吏流をもっと気持ちよくさせてあげらるのかな……」

その恵風の声音がすごく寂しそうに聞こえて、僕は恵風の頰を両手で覆うと、深いキスをした。

「僕は恵風兄さまと、肌を重ねるのが好きなんです。兄さまに触れてもらうと、いつも深いところから感じて………すぐ、溶けてしまいそうになります」
「吏流………」

恵風が僕の腰を掴んで下にグッと押さえるから、思わず体を反らしてしまう。

「吏流……大好きだよ」
「……兄…さま」
「吏流とボクは似ている。ボクはアルファだけどここから動けずに、きっと一生番も見つけられない。吏流はオメガで、兄弟達の相手をして。ボクと一緒でここから動けずに、誰の番にもなれない」

僕はゆっくり腰を動かした。

僕の中にある恵風のが、だんだん大きくなって。

奥に届いて、中を満たして……。

僕の胸の動きを早くさせる。

「吏流……ボクを置いていっては、ダメだよ?……君だけは、君だけは………ボクのそばにいて」
「はぁ……あ、に…いさま」

〝そばにいて〟って言う恵風の言葉に、胸がきゅんとして、泣きそうになって………。

それなのに、僕は「はい。おそばにいます」って返事ができなかった。

恵風が好き………なんだけど。

溟が………もっと好きで。

きっと、溟は僕のことが嫌いだから、物理的には恵風にずっと寄り添えることができると思うけど、気持ちは………。

心までは恵風に寄り添える自信がなくて。

それが本当に、申し訳なく感じて……僕は恵風をぎゅっと抱きしめて、寄り強く腰を動かした。

「吏流……気持ちいいよ………」

僕の動きに呼応するように、恵風の腕が僕の体を強く動かないように抱きしめるから………僕は、余計、胸が苦しくなる。







「撰様が、こちらをお召しになるようにと」

すぐ上の11番目の兄の撰は、少し変わった性癖をしている。
年は僕とあまり変わらない。
変わらないから、何でも言えるのかその性癖を僕にぶつけてくるんだ。

………まぁ、真智とするより、全然いい。

意外と楽しいし………。

兄達と義務的に肌を重ねる僕だけど、同じ義務的な中でも、あっさりしていてフランクな撰に対して、特に気を使うこともない。
ここのところ、発情期とか溟のこととかで少し参っていた僕にとって、シンプルに楽しくシてくれる撰は、友達みたいな感じになれるんだ。

……しかし、今日のはまた、すごいな………。

戸惑いを隠すこともなく、僕は撰が用意してくれた服に袖を通した。

「吏流、かわいいーっ!!やっぱ、似合うと思ったんだよね!!」
「………こういうのは、彼女とかにお願いしてみたらどうですか?」
「そんなイジワル言わないでよ。知ってるでしょ?オレら兄弟は親父が選んだ相手と結婚するまで、セフレはおろか彼女すら、挙げ句の果てには女友達だって作れないだぜ?自分は節操ないクセにさぁ」
「だからって……….これ、女性がつけるんでしょ?」

撰が用意してくれたのは、女性モノのヒラヒラした下着で。
着け方もよく分からなくて、小山内さんと四苦八苦してようやくそれなりに着られて………。

これであってるのかすらも分からない。

四苦八苦していたら、焦って、汗がでて。
色々嫌だったこととか忘れられて………気分が少し軽くなったんだ。

「………あの、ありがとうございます。撰兄さま」
「どうした?急に」
「僕が発情して乱れたこと、知ってるんでしょう?………正直、気が滅入ってたから………だいぶ気が楽になりました。ありがとうございます」

撰は僕を軽々と抱き上げると、にっこり笑って言った。
「エッチくらい、楽しくシようぜ?な、吏流」
「………はい。撰兄さま」

発情してからというもの、以前に比べてすぐ濡れやすくなって、香りもキツくなったように感じる。
発情、しやすくなってるみたいだ。
だから、ちょっと舐められただけでもイきそうになるし、中に入れられたら体が熱くなってしまう。
このオメガの性質さえなければ、もっと、もっと、何も考えることもなく、心の底から楽しくなれるんじゃないか、って思ってしまった。

「……ぁあっ、やぁ………」
「ヤバッ………めっちゃ、そそる………」

今まで色んな格好……例えばナースとかチャイナ服とか………。

してきたけど、今日は1番撰の琴線に触れたみたいで。

いつもより息づかいが荒いし、激しく僕を突き上げくる。

「吏流………あんまり、気にするなよ……」
「……はぁ…い……に、さま」
「………っ!!……出すぞ!」

中に熱いものが広がって溢れて、ふと、気付いた。

僕、今、女の子の下着を着けてて。

男なのに、オメガなのに………。

何、してんのかな、僕は。

よくよく考えると滑稽で、楽しくて、思わず笑ってしまったんだ。

「兄さま、ありがとう。本当に楽しい」
「よかった……やっと、吏流が笑った」

撰はそう言って優しく笑うと、僕を抱き上げて、また深いキスをした。






「吏流様、お着替えはこちらに」
「小山内さん、ありがとう」
「では、ごゆっくり」

小山内さんがお風呂場のカーテンをゆっくり閉めて言った。
ふーっと。
僕は湯船に深く浸かる。

至福のひととき、だなぁ。
ずっとこうしてたいなぁ………。

あまりにも気持ちよくて、たまに湯船でウトウトする時もあるけど………今、は。

今は………なんか………違う。

さっきまで、なんともなかったのに。

気が抜けたからなのか、恵風と撰に優しくされたからなのか………。

体が、中から、火照ってくる感じがした。 

「……っあ、や……小…山内……さ」

この熱を含んだ吐息混じりの声……。

………また…?

……発情期が?………。

まだ、前の発情期から1週間も経ってない……のに……?
なんで………?

やっと、落ち着いてきたのに。

苦しい……体が疼いて………苦しい………。

どうして?
どうして、僕ばっかり………こんな目にあうんだ?

「………〰︎〰︎〰︎っ!」

たまらず、涙が溢れだす。

オメガだから兄達とこんなことをずっとして。
たまに小さな幸せを感じたり、優しくされたり、癒されたりしたら、それ以上に苦痛がまってて。

オメガに………振り回されて………。

本当の僕なんて、昔から、見失っていた気がする。

「……小山…内さん……助けて……クスリ……」

そう呟いたその時、カーテンが勢いよく開いた。

「……吏流!!」

この、声………!!

「溟っ!!」

体の中きら湧き上がる熱のせいでボヤけるボヤけるの視界に、溟の心配そうなか顔がはっきり映る。

「ヒートか?!」

湯船に浸っている僕の体をそっと抱き上げで、溟が言った。

「溟……僕のこと……キライ?」

苦しくて、切羽詰まって。

僕は胸の内にしまい込んでいた、本心を吐露してしまった。

「溟………僕は、どうしようもない………最低なオメガなんだ………。どんなに激しく発情しても、どんなに激しく抱いてもらっても………何かが足りなくて………発情の熱が冷めなくて」
「吏流…!!…落ち着けっ!!」
「……溟が……好きなんだ」

僕を抱き上げている、溟の顔が、その瞬間固まった。

「僕をキライでも、いい………1度だけ、1度だけでいいから………僕を抱いて……お願い……。お願い!!溟!!」

僕は溟にしがみつくように腕を回して、その唇にキスをする。
浅く重ねた唇から、互いの熱い吐息が漏れて、舌先を軽くあわせると、深く絡め合わす。
そのまま溟は、僕を湯船から抱き上げると、濡れた僕をバスルームの隅にあるソファーに寝かせた。

「…溟……お願い……」
「……拒否れるはずがない。かといってヒートに当てられるわけじゃない。こんなに………こんなに大切に思ってきた人を嫌いになるはずもない。吏流。俺はずっと、おまえとこうしたかったんだ………。好きだっ!!吏流っ!!」

………今………なんて……?

………好き、って……言った……?

ボロボロ涙をら流しながら呆然とする僕に、溟は服を脱いでゆっくり肌を重ねる。

肌を肌が触れ合うのって………。

こんなに気持ちがいいんだ………。

また、中がより一層熱くなって、そして、目一杯濡れてくる。

触れられただけで………イっちゃいそう。

「溟……すき………すきぃ……」
「俺もだ、吏流」

その言葉が合図のように。

溟は僕の中に深く入れ込んで、1番感じるところを擦りながら、奥深く築き上げてた。

……体がしなる……。

もっと、溟が欲しくて……。

腰が揺れる、浮き上がる。

セーフカラーもつけてない、から。

溟がその気なら、噛んでほしい。

多分、僕は、今この瞬間のために、今まで生きてきたんだ。

「吏流……すごい、いい香りだ……」
「溟……噛んで………」
「吏流………後悔、しない……か?」
「……もちろん………僕は、ずっと……この時を、待ってたから……」


溟は僕を優しく抱き上げると、僕のうなじに唇を近づけた。


ガリッー。


「あっ!あぁっ!!」

溟の歯が皮膚に食い込んで、その衝撃で体が仰け反る。

………痛いけど、気持ちよくて……。

すごく、幸せで。

僕の中が熱が全身に吹き出す感じがした。








僕の中に誰がどれだけ入れようとも。

僕の肌に誰が何度も愛撫しようとも。

溟のそれには勝てなくて。

恵風より優しく、撰より楽しい。

そして、真智より………体が、ゾクゾクする。

初めて溟と肌を重ねたはずなのに、体は溟に隅々までピッタリで。

どうしようもなく気持ちいい。
夢見心地って言うのかな。
それしか、考えられないくらい………きもちいい。

これが本当の発情………。

番になった、最愛のアルファ………。

こんなに、狂おしいほどに。

足が開いて、腰が揺れて………。

淫らな音がするくらい………中が、濡れる。

ずっと、こうしていたい………。

「あ…ん……めい……んぁあ………」
「吏流………」

多分、この時。

僕の意識は、朦朧としていたに違いない。

溟の声が近くに聞こえているのに、頭の中でこだまするように響いて。
溟の滑らかな肌に触れているのに、ふわふわ体が浮いてるような感じがして。
僕の中に溟の熱いのがそそがれるたびに、この上なく幸せになって、溟を求める。

また、僕の中に熱く満たしていく溟のに、幸せを感じて………。

僕は、ズブズブに溟に溺れる。






「………ん…」
「目が覚めたか?」

気が付いたら、僕は溟の部屋にいた。

……目を開けた瞬間。

僕は、夢の続きにいるんじゃないかって、錯覚した。

この間、溟の部屋に入った時は全然きずかなかったから、こんなにワクワクする部屋だったなんて………。

僕はベッドの上から溟の部屋をグルッと見渡した。

窓辺には天体望遠鏡。

暗い部屋には壁一面、天井いっぱいに星が映し出されている。

「わぁ……きれい………星に……手が届きそうだ」

僕は思わず、天井の星に手を伸ばした。

僕の伸ばした手に、溟は大きいけど、繊細なその手を重ねる。

「気に入った?」
「部屋の中で、こんな魔法みたいなことができるの?」
「空を見上げるのが、好きだって言っただろ?」

そんなこと、覚えていたんだ………。

「………てっきり、溟に嫌われてるかと思ってた、僕」
「どうして?」
「1度も僕とシてくれなかったし、いつも僕を睨んでたし………きっと、オメガが嫌いなんだろうって。きっと、兄達に節操なく足を開いてる僕のことを軽蔑してるんだろうって」

溟は重ねた僕の手を握って、僕と天井の間に覆い被さるようになって、僕を見つめた。

部屋を照らす星空の明かりしかない部屋の中でも、溟の瞳が………。

やっぱり、鋭いけど……。

潤んで揺れているのがはっきり見える。

「………怖かったんだ」

小さく震える声で、溟が呟く。

「………こわい……?」
「吏流のことが好きなのに、吏流を俺に振り向かせたかったのに。他の兄弟みたいに、吏流を抱くのが怖かった。抱いて、嫌われたら……?体がだけの存在になってしまったら………?そう考えただけでも怖かった。本当は、優しくしたいのに。睨んで、遠ざけて。いっそ、吏流を嫌いになってしまいたかった。でも、吏流の恥ずかしそうな笑顔とか、全てがそうさせてくれなくて………。早くどうにかしなきゃいけないって時に………君の、君のヒートに出くわした」

………ズキッと、した。

僕の発情した姿は、ダイレクトに溟を傷つけていたんだ。

「ショックだった………巡と朱里に抱かれて………きっと吏流は、満たされてるんだって……俺は必要ないんだって思い込もうとした時。俺と目があった吏流が泣き出したから………。本当に、本当に悲しそうに、泣き出したから………。巡と朱里を引き剥がして吏流を助けたかったのに、足がすくんで、頭が真っ白になって………君を助けることすらできなかった………最低な、人間なんだ、俺は」

違う、違うよ。溟……。

僕を見下ろす溟の目から一粒の雫が溢れだして、僕の頰に着地する。

泣いてしまった溟は、何1つ悪くないのに、こんな最低な僕を心から思って、そして泣いて。

僕は溟の首に腕を回して、その体を引き寄せるように抱きしめた。

「さっき、吏流が………ヒートでキツいのに、ハッキリした眼差しで『好き』って言ってくれたから………本当なんだって………吏流は本当に俺が好きなんだって………俺は、俺は本当に嬉しかったんだよ、吏流」
「………溟」

誰かを好きになるって。

誰かを愛することって。

こんなに、心が締め付けられて苦しいのに。 

こんなに、心が高鳴って興奮するんだろうか。


僕と溟はどちらからともなく、唇を重ねる。

それはだんだん激しくなって、舌を絡ませて。

互いの体が熱くなると同時に、本能で体を求め合って、また、溟と僕は1つになった。

「はぁ…あ、熱………い」

僕の中は溟でいっぱいでもちろん熱いんだけど、噛まれた〝番の証〟が、燃えるように熱くなって………。

また僕は、発情したみたいに頭からつま先まで、溟にとろとろに抱かれるんだ。

「めい……溟っ………」

快楽に引きずり込まれる一歩手前。
僕は、溟に言った。

「僕を………離さない………で」






抑制剤を使わなくても、あのキツい発情がスッとなくなって……僕は、〝番〟になったことを改めて実感した。
僕は溟が気持ち良さそうに寝ている、満点の星空の照らされた幻想的な部屋を、そっと後にする。

小山内…さん、心配してる……よな。

首の後ろの、溟に噛まれたところにそっと手を添えて、僕の部屋のドアを開けた。

「吏流様」

その落ち着いた声に、僕はヒヤッとした。

「小山内さん」

そして、僕はその人の顔を見ることができなかった。
だって、この人は………小山内さんは。
僕を……毎日のように兄達に寝敷かれる僕を、全力で守ってくれていたのに………僕は、自らの意思で、小山内さんを裏切ってしまったんだ。

「溟様に、だいたいのことは伺いました」

小山内さんのその声は、抑揚もなく、落ち着き払っていて、僕は余計に小山内さんを見ることができないでいた。

「小山内さん、ごめんなさい」
「吏流様」
「僕は、小山内さんを裏切ってしまいました。裏切って、溟と番になったんです。僕は………もう、他の兄さま方と肌を重ねることができなくなってしまいました」
「………吏流様」
「……僕は、もう。ここにはいられません。………僕は、もう、ここでは用済みなんです」

溟と番になって幸せなのに。

僕は突きつけらた現実を目の当たりにして、涙が止まらなくなってしまった。

番になったオメガは、ここでは必要ない。

溟と番になったことが、知れ渡ったら溟に迷惑がかかる。
腹は違えど、僕らは兄弟だから、決して許されないことだ。
それがバレたら小山内さんにも、 迷惑を………。
僕がオメガって言うだけで、誰も幸せになんてなれない。 

………周りを、不幸にしてしまう。

僕が自分の意思を貫いたら、みんなの幸せが崩壊する。

「僕は……小山内さんに出会えてよかったです。いつも優しくて、守ってくれて………。今まで、ありがとうございました。僕は、ここから出て行こうと思います」

泣いてはいるけど………涙を止めることはできなかったけど。
僕は、精一杯の笑顔で小山内さんに言ったんだ。


「そんな勝手な事を………言われては、困りますね。吏流様」


そう言った小山内さんの目が、今までみたことがないほど冷たくて………。

ゾッとした。

小山内さんは僕の手首を乱暴に掴むとベッド押し倒して、そのまま手錠で僕の手首をベッドに縛り付ける。

「小山内さんっ!!」
「私に、従順なままでいれば、よかったのに……」

こんな………こんな。

冷たい小山内さん、初めて見た。

いつも優しくて、穏やかで。

僕を守ってくれる、小山内さんのあまりの変わり様に、僕の体は冷たくなって震えだす。

小山内さんは、ベッドから動けない僕にゆっくり馬乗りになって、僕の首筋に刻まれている〝番の証〟を指でなぞった。

「忌々しい……!!」
「小山内……さん!……どうして……?」
「……父親、そっくりだよ。おまえのそういうとこ」

………おとうさん…?

小山内さんから発せられた意外な言葉に、僕の頭と体は完全にショートしてしまった。

動かない僕の体を、小山内さんは冷たい光を宿した目のまま……。

愛撫する、犯してくる。

番になったせい、かな。

あれだけアルファの体を欲してるかのように溢れてきていた僕の中は、驚くほど濡れなくて………。

小山内さんのが中で擦れて………。

痛い、全然………気持ちよくない。

「やぁ!いたいっ!!やめてっ!!小山内さんっ!!」
「………やめないよ、吏流。私で喘いで、イキまくって。私を求めるまで………何故私が、おまえの執事をしていたと思う?………教えてやるよ、全部」






ーーー

私ははじめ、このお屋敷で使用人として働いていた。
そして、ここで生まれて初めてオメガに出会った。

「小山内さん、はじめまして。卯月といいます。よろしく」

そのオメガは、すごくいい香りがして………。

キレイで眩しい笑顔を私に向けて、澄んだ声で言ったんだ。

卯月。

このお屋敷に生まれた、オメガのご子息。

卯月には兄・皐月がいた。

皐月はこの家を継ぐために、外から連れて来られたアルファで、皐月と卯月は、血は繋がってないんだけど、いつも一緒にいるくらい仲良しで………。

私は、すごく、2人がうらやましかったんだ。

皐月は人柄はいいんだけど、アルファのくせに断りきれない性格なのか、いつも下半身がユルくて節操が無く。
まだ若いのに既に10人の子どもがいた。
卯月がヒートになったら、この人は断りきれずに肌を重ねるんじゃないかって………。
卯月を、とられてしまうんじゃないかって、ずっと、ずっと、私は考えていたんだ。

ある日ー。

私は、金槌で頭を下げて殴られたようなショックを受けた。
卯月が皐月の友人と………。
そのアルファと肌を重ねて、番になったところを見てしまったんだ。

幸せそうに笑う、卯月。

私に見せたことのない笑顔を、そのアルファに向けて………その瞬間、私の〝何か〟が壊れたんだ。

「小山内さんっ!!やめてっ!!」

アルファが帰って、番になりたての卯月を……犯す。

そう。

まさしく、今の吏流にそうしているみたいに。

アルファじゃない自分が恨めしくて、アルファしか求めない卯月が許せなくて。

泣きわめく卯月をひたすら犯して、犯し続けて………とうとう、私は卯月を壊してしまったんだ。

その負い目から、私は自ら卯月のお世話をかってでた。
卯月の近くにいて嬉しいのに………。 

あのキレイで眩しい笑顔は、もう2度と見れなくて。
あの澄んだ声を、2度と聞けなくて。

そうしているうちに卯月のお腹が、はち切れんばかりに大きくなっていた。

壊れた卯月は妊娠したことも気付かず、大きくなるお腹を気にかける様子もなく、ただ、ただ、時を満たして…………吏流を産んだ。

そして、そのまま、卯月は2度と目を開けることはなかった。 

………卯月が、ダメなら。

卯月にそっくりな、この吏流を………私の、理想に育てたい。

そんな欲求が、私を埋め尽くして支配して。
吏流を、私だけの卯月にしようと決めたんだ。

吏流に使用人の子と嘘をつき、オメガの性質だから、とアルファと肌を重ねる事を強要する。

吏流と皐月の接触をさせずに、皐月には、〝皐月の兄弟の中から、吏流の番を探すため〟と嘘をついて、吏流に無理矢理、兄弟達の相手をさせた。

………アルファは、怖い、イヤな存在であることを、吏流に植え付けさせるため。

自分にはユルいくせに、子ども達には厳しい皐月の兄弟達は、性のはけ口として喜んで吏流を抱いた。

中でも、真智はすごくいい仕事をしてくれた。

真智とヤった後、身も心もボロボロになった吏流は、いつも私を頼って、私に甘えて………。

卯月にそうしてもらっているみたいで、私は、すごく幸せだったんだ。

そんな時、溟という邪魔ものが入る。
吏流を抱かない、唯一のアルファ。

溟は、卯月と番になったあのアルファにしたように、吏流に夢や希望を見せたから………。
私は、また、私の大事なモノがとられそうになると、私の心の中が恐怖でいっぱいになってしまった。
だから、真智にいつも以上に激しくするように言ったのも私だし、真智にボロボロにされた後に邑久斗をけしかけたのも私だ。

吏流がヒートになった時もそう。

慈安にスるように言ったのも、「ヒートの吏流は淫乱だから2人でするのもいいかも」と巡と朱里にアドバイスしたのも………私なんだ。

吏流の逃げ道を絶って、頼れるのは私だけにして………。

番のいないオメガの吏流は、一生、私のモノになるはずだったのに………。

ーーー




「なるはずだったのにっ!!」 

僕を無理矢理、犯す小山内さんの顔は、すごく怖い顔をしているのに………。

冷たい目をしているのに………。

僕には、寂しそうに、哀しそうに見えて………仕方がなかったんだ。

だって、小山内さんは………。

僕に、嘘をついて。
僕を、たくさん傷つけたのに。

小山内さんを責められなくて。
小山内さんを憎むことができなくて。

僕より恵まれたベータなのに、オメガの僕よりかわいそうに思えてしまったんだ。

「勝手に、勝手に………番になんかなりやがって!!」
「お…さない……さ………」
「うるさいっ!!静かにしろっ!!」

僕は思いっきり首を横に振って、言ったんだ。

「僕は……父さんじゃ………卯月じゃない。吏流……なんだよ、小山内さん。僕は……吏流……卯月のかわりには………なれない、んだよ」


小山内さんの攻めは、キツい。

もともと僕がアルファの体に慣れすぎて、ベータである小山内さんのに感じないってのもあるけど、それでも、休むことなく執拗に僕の中にねじ込んだものを突き上げてくるから………意識が、とんじゃいそうになる。

卯月が、壊れた理由が、よくわかった。

信じていた人が、怖い顔をして無理矢理に自分を支配しようとする。

そんな気なんて、さらさらないのに。

こういうことをしたら、気持ちが小山内さんに傾くなんて。
そんなことなんて、絶対、ならないのに。

だから、だから。

やめてほしい。

でも、やめてくれない。

番になって幸せの絶頂だった卯月は、小山内さんによってもたらされる、絶望と恐怖に負けてしまったんだ。

………僕は…?

………僕は、まだ。

まだ、大丈夫………。

今まで、たいがいのことはされてきた。

このまま、意識がとんじゃっても、自分で………吏流でいられる。

それに、まだ。

心に、溟が残ってる。

体が、溟を覚えてる。

大丈夫………僕は、大丈夫。

「ほら、よがれよ。いつもやってんだろ?あんあんよがって、腰振ってんだろ?」
「………で、きない………よ……おさない、さん……やめて………」
「……っんだと?!こいつっ!!」
「っ!!……」
「………っクソッ!!」

小山内さんの攻めがより一層キツくなって、それでも、僕は…………。

まだ…………だいじょうぶ。


ドンドンー。


廊下側から部屋のドアを叩く音で、僕のぼんやりしていた頭はハッキリして、一気にクリアになった。
小山内さんが険しい顔で、ドアの方を見る。

『吏流!!いるんだろ?!吏流!!』

この声……溟!!

叫んで、溟の名前を呼んで、溟の顔が見たかったのに。
小山内さんがそれより早く、僕の口を塞いだ。

『吏流!!』
「……溟様、ただ今吏流様はお休みになっていらっしゃいます。お静かにしてくださいますよう………」
『嘘を……嘘をつくな、小山内!!』
「何を、何を根拠にそのようなことを」
『番だからわかるんだ!!今、吏流は苦しんでる!!悲しんでる!!だから、今すぐここを開けろ小山内っ!!』

体の……頭から、つま先に向かって、鋭い衝撃が走った。

番、だから?

番は、僕のことがわかるの?

………溟は、僕の………キツいこととか、ツラいこととか………わかるの………?

………なら。

僕は、溟の、溟の声に。

絶対に応えなきゃいけないんだ!!

僕は首を思いっきり振って、小山内さんの手を振りほどいた。

「溟!!助けてっ!!溟っ!!溟っ!!」

僕も、こんな大きな声がでるんだって、初めて知った。
それくらい大きな声で。
僕は溟の声に応えたかったんだ。

「吏流!!………おまえっ!!」

興奮して紅潮した顔を強張らせて、小山内さんは僕の頰を張る。

「溟っ!!僕はここだよ!!溟!!助けてっ!!」

全身全霊をかけて、と言っても過言じゃないくらい………僕は叫んだ………。

溟に、届くように。

だって僕はもう、普通のオメガじゃない。

兄さま達に足を開いて、その運命をただ受け入れる、そんなオメガじゃない。

番になった、オメガなんだ。

だから、もう………。

僕は、弱くない!!

「溟っ!!」


バァン!!ー。


鍵がかかっていた僕の部屋のドアが、派手な音を立てて開く。
僕に馬乗りになった小山内さんが、僕の頰を張った反対側を張ろうとしていた時で。
ドアを蹴破って入ってきた溟に、小山内さんはひどく狼狽した。

「小山内っ!!てめぇっ!!」

アルファってさ………いつもシてるとき、神秘的な、狼みたいだって思ってた。

激しくて、鋭い、そして、その包容力。

今の溟は、そう、狼そのものって感じで。

鋭く突き刺すような視線と、気迫。

それとは相反するような、僕を包み込むように溟から発せられるあたたかい、空気。

そう、番になったアルファとオメガしかわからない世界観。

あの、たまに見る……高いところから下を見下ろした、あの感覚に似ているんだ。

突き抜けるような、高揚感と恐怖感。

………小山内さんには、わからない。

小山内さんが、卯月に嫉妬したはずだ。

だって、小山内さんは………僕と溟の間に流れてるこの空気がわからないんだもん。

きっと、卯月と名も知れぬ僕の父さんであろうアルファの間に流れてる空気を、感じることすらできなかったんだ。
小山内さんは、僕から離れると自分の衣服を正して、そっと部屋を出て行く。

「小山内。置いてくものがあるだろう」
「…………」

ちらっと、僕と溟を一瞥すると、小山内さんは手錠の鍵をそっとテーブルの上に置いた。

「親父に………全部、話した。身の振り方を考えろよ、小山内」

ゾッとする………。

溟の言葉に、僕は思わず声を出してしまったんだ。

「小山内さんっ!!」

振り返る小山内さん、と、目があう僕……。

その時、僕の顔を見た小山内さんの顔が泣きそうに崩れたんだ。

僕の向こう側の誰かを見ているみたいな………。

そんな表情で………。

多分、僕の向こう側に卯月を見てたんだ。

「小山内さん……あの………ありがとう」
「何……を………」

小山内さんは、目を見開いて僕を見る。
なんか、その目が。
僕越しに見ていた、卯月じゃなくて。
初めて僕を〝吏流〟として見てくれた気がした。

「あの……いつも、そばにいてくれて………ありがとう」
「………吏流」
「小山内さんがそばにいてくれたから、僕は………寂しくありませんでした」
「…………そんな、嘘を」
「嘘じゃないんです。僕はオメガで、小山内さんがいなかったら、きっと11人の兄さま達と、あんな風に親しくなれなかった………と、いうか、兄さま達のことを深く知ることができなかったはずなんです。………溟とも、そう。小山内さんがいなかったら、僕は溟とも番になれなかったと思います」
「………………」
「綺麗事じゃない………違うんです。決して、綺麗事じゃないんです。………卯月じゃない、ニセモノの僕だけど、信じてください。小山内さん」

この時、男の人が泣くのを初めてみた。
僕は、しょっちゅう泣くけど。
小山内さんみたいな男の人が、感情を抑えきれずに泣くのを、初めて見たんだ。
小山内さんの中に巣作っていた、わだかまりや、確執や、卯月のことが。

その涙と一緒に………。

すべて、流れ落ちていったような気がしたんだ。







僕は空の高いところにいて、小さくなった地上を見下ろす。
その景色はすごくリアルで………。

不思議と怖くはない。

足を動かしたら、飛べる………かな?

そう思って足を動かしたら、体がスッと地上に向かって落ちていって………。

………気持ちいい……!!

兄達とシた後、決まって見ていた不思議な夢が、現実になった。

夢の中は、怖かったんだけど………。

落ちる速度と、体にぶつかる開放感の方が大きくて………。

すごく、気持ちいい。

初めて、知った………!
スカイダイビングって、言うんだって!!

もちろん、1人では飛べないから、僕の後ろには、ピッタリとインストラクターがひっついてる。

一緒に飛んでいる溟と目があって、思わず笑顔になって。
そして、僕たちの体は一直線に地上に落ちていく。



溟と番になって、僕は初めて家の外に出た。

溟曰く〝新婚旅行〟って、言うらしい。

「吏流が抱いた夢や希望とか、あと、したいこととか全部しよう」って、溟が言ってくれたから。
本当に僕は、今、この瞬間が嬉しくて仕方がない。

「まさか、吏流がスカイダイビングをするとは思わなかったよ」
「本当に?」
「結構、大胆だったんだな。吏流は」
「今まで………兄さま達の相手しかすることがなかったからかな………今は、溟がそばにいてくれるし。初めて……初めてね、自由になれたような気がする」

溟は、静かに笑って僕の頭に軽く手を置いた。

「じゃ、次のしたいことをしに行こうか。吏流」
「はい!溟」

僕の夢は、まず、空から落ちることをして見たかった。
夢で見ることを、本当にやってみたかっんだ。
そして、昼の空と夜の空を近くで見ることで。
スカイダイビングをする前に、僕と溟は、すごく高いタワーに登って青空を近くで見た。

そして、今から。
夜の空に近いところに行く。

溟がハンドルを握った車は、山道を颯爽と駆け抜けて山の中の宿泊施設に着いた。
グランピング、って言うみたい。

「外で……寝るの?」
「あぁ、あのテントでね。あのキャンプファイヤーで焼きマシュマロもできるんだ。あと……」
「あと?」
「持ってきたんだ、コレ」

溟がそう言って車の中から、天体望遠鏡を取り出す。 

「吏流、月球儀は持ってきた?」
「はい!…………溟………あの、さ」

僕は溟の手をそっと握って、そして、その手に力を込めた。

「どうした?吏流?」
「いっぺんに、願いが叶い過ぎて…………びっくりしちゃって………」
「今まで自分を押し殺して、色んなことを我慢してきたんだ。我慢しなくていい我慢まで。だから、何も不安がることはない。これが普通なんだよ、吏流」

そう言って、溟は握っている僕の手をひきよせて僕をぎゅっと抱きしめる。

「溟………ありがとう」

…………そっか。

溟の言うとおり………。

僕はもう、何も、痛さとか苦しさに悩まなくていいんだ。

…………そっか、そうなんだ。



あの日。

小山内さんが、僕の前で初めて泣いた日。
あの日から、僕の人生は大きく変わった。

父親……だと思っていた皐月から、すべての兄弟達に〝溟と吏流が番になった〟って伝えられて、僕たちは晴れて公認の番として認められた。

小山内さんがずっと隠していた僕の〝本当〟も 同時に知れ渡ることとなって、アルファな兄達がオメガの弟である僕に、一斉に謝るという事態が発生して………。

僕はしばらく、居心地が悪かったんだ。

特に、真智はさ。
1人ぶっ飛んだ性癖をしていたせいか、頭を床に擦り付けるくらい謝って、反省して。

しばらくは、僕に痛々しいくらい気を使っていた。

真智が……悪いんじゃないんだけど………。

みんな知らなかったことで。

みんな、悪くないんだよな………本当に。

………小山内、さんは。

小山内さんは、実はまだ家にいる。
僕の執事じゃなくて、皐月のフットマンとして。

小山内さんだって………。
小山内さんだって、本当に悪いわけじゃないって、僕は思ったんだ。
卯月に心を奪われて、卯月のことが好きすぎて、卯月が忘れられなかった。

ただ、それだけ。

自分の気持ちに正直すぎたんだよ、小山内さんは。

だから、僕は溟と皐月に必死に小山内さんをクビにしないでって、お願いしたんだ。

だって、僕は、今まで小山内さんにたくさん助けられたから………。
今、僕が小山内さんを助ける番なんだって、そう、思ったんだ。
たまに皐月のために仕事を一所懸命している小山内さんを見かけるけど、前みたいに………。

僕と小山内さんの関係は、前みたいな特別な関係には、もう戻らないんだ、絶対に。



「あ!あれっ!氷の海が見えたっ!!」
「じゃあ、その近くにプラトンってクレーターが見えないか?吏流」
「………ちょっと、まって………あ、あった!!見つけたよ!!溟!!あった!!」

時間を忘れるって、こういうことを言うんだなぁ。

溟と2人で月球儀を見ながら、天体望遠鏡で月の観測をして、ブランケットの上に寝転がって、星空を見ながら焼きマシュマロを食べる。

あの時、溟の部屋で見た壁一面の星空みたいに、すぐ、この手に本物の星が届きそうなくらい、夜空が近くて………。

僕はいつまででも、眺めていたかった。

何から何まで、全部初めてで。

そう、僕は。

ここから動きたくなかったんだ。

だって、こんなに居心地がいいのに。

キャンプファイヤーの温もりが近いからか、体が熱くて、すごくいい気分になってくる。

「吏流、そろそろ冷えてきたから、テントの中に入ろうか」
「………そう?……僕、熱いけどなぁ」

溟は寝転がっている僕を見下ろすと、呆れたような顔をした。

「吏流、おまえヒートみたいになってるよ?」
「………本当に?」

そう言われてみれば、体の外側が熱いんじゃなくて、体の内側から熱くなっている気がするし、呼吸も荒い。

「俺が、我慢できなくなるな。………吏流」

ブランケットの上で動きたくない僕を、溟は優しく抱えてテントの中のベッドに運ぶ。

「……ねぇ、僕も………我慢できない。………おさまってたのに、な………また発情、しちゃった……かな……?」

溟の目は、相変わらず、鋭い。

でも、この目は。

自分の感情………を、極限にまで抑えてるときのクセで………。

この目をする時はたいてい、溟の心の中は情熱であふれている証拠だ………。

溟は、ゆっくり僕の服を脱がして、深くキスをする。

「…………んっ…」

キスだけで………体のほんの一部が溟に触れただけで、体の中からゾクゾクして、僕は身も心も溟を求めているんだ。

「吏流……俺、激しくなる…かも」
「シて、激しく…………ねぇ、溟?」
「何?吏流」

溟は僕の胸の小さな膨らみを舌で愛撫しながら、答えた。

「僕はオメガで………溟はアルファでしょ?」
「そうだね」
「僕もいつかは………卯月みたいに子供を産むときがくる。…………この、僕が今感じてる………最高の幸せを………その子にあげることができるかな?」

溟は僕を抱き上げて、すでにグズグズに濡れあふれた僕の中に奥深く入れ込んだ。
「ん……溟…………ふかぁ…い………」
「吏流………幸せは分けるもんじゃない。幸せは作って、増やすもんなんじゃないかな」
「………溟」
「だから、俺たちの子どもは、アルファもベータも………オメガも関係なく、絶対に幸せにあふれているはずだ。そう、思わないか?」
「溟………そうだね、溟………。そのとおりだよ、溟」

僕は溟にしがみついて………泣いてしまった。

溟と番になってよかった。

本当に………よかった。

僕は12番目にオメガとして生まれて、そう育ってきた。
幸せを感じることなんて、一生無いって思ってた。

だけど、今………。

すごく幸せで………本当に幸せで。

卯月に僕を生んでくれて、僕に命をくれて、ありがとうって、言いたくなったんだ。

僕も、いつかは、僕の子どもに〝ありがとう〟って言ってもらえるように………。

なりたい。
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