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雨が、降っていたのか。
アスファルトの路面が、外灯の光を反射して。
反射していない部分の闇をより一層深くする。
ピシャッと跳ねる水が、激しく僕にはねかえった。
息が白くもやになり。
暗い夜道に、うっすらと浮かび上がる。
アスファルトの暗い部分に足を踏み込むたびに、その中に引き摺り込まれるような感じがした。
カマエル……!
カマエルは、どこだ!!
「サタナキア! カマエルはどこだ!」
『……』
「ハッキリ言え!!」
『……北』
「北ぁ?! どっちの北だよ!!」
『……こ、こう……えん』
「はぁ?!」
『公園っつってんだろ!!』
「サタナキア、何急にキレてんだよ!!」
『うっせぇな! 何急にキャラ変してんだよ!! 渚!!』
『おまえこそ、うっせぇよ!!』
走りまくって。
バイト先のコンビニにほど近い公園にたどり着いた。
その一角に、外灯の以上に輝く一団がいた。
まぁ……なんだ。
白い服を着て発光しているみたいになってるだけなんだけど。
にわかに信じがたい天使という先入観からか、カマエルとそれを取り巻く数人が、凄く眩しくみえた。
『渚』
「シッ!」
『……』
「何か言ってる……」
公園の植木に沿って、大の男が身を屈めながら。その眩い一団に近づく。
おそらく、側から見たら100%怪しげなのは、僕の方で。
ビビってすっかり大人しくなったサタナキアが、体の中から段々と冷たくなるのがわかった。
「……つも、懲りないな」
カマエルの発した声が、楽しそうに弾んで響いた。
「よっぽどカマエル様のことが、好きなんだぜ?」
「すげぇよな、悪魔のくせに」
「あぁ、悪魔のくせによがるんだ。かわいい声をあげてな」
眩しい一団の笑い声が、夜の公園に広がる。
……内容からして、サタナキアのことを馬鹿にしているのは。
非リアの僕には、痛いほど伝わった。
「で、いつまた封印するんだ?」
「あぁ、もうちょっと遊んだらな」
「意地が悪ぃな、カマエル様は」
「そんなことはない。悪魔に比べたら優しいもんだろ」
「しかし、まぁ……気づかないもんかね、サタナキアも」
「……気付くワケない。俺があれだけ激しく抱いてやってるんだ。抗えるワケないしな。全ては、仕組まれてるんだって……馬鹿だから気付くワケないだろ?」
そう言って、また。
一団が声を大きくして笑う。
天使なんだろ?! アイツら!!
天使のくせに、リア充極まりないのに!!
なんでこんなに根性がひんまがってるんだ!!
熱くなる僕の頭とは裏腹に。
サタナキアのいる体の中がまたスッーーっと、寒くなった。
「……サタナキア?」
『……知ってた』
「え?!」
『そんなことくらい……知ってたよ』
柄にもなく声を震わせて言うサタナキアに、僕は声をかけることすら出来なくて。
冷たくなった体の中から、再び声が聞こえるのをただ待つしかなかったんだ。
『……でも。それでもオレは……。アイツが好きだったんだ。カマエルと一緒にいたかったんだ』
「サタナキア……」
『一緒にいるだけでよかった。それが偽りでも、オレを陥れる罠だとしても。好きな人の側にいたかったんだんだ……』
ドクンー、と。
繋がっていた心臓が二つに分かれるような衝撃がして、僕は雨が降った後の濡れた地面に倒れ込むように手をついた。
その目線の先に、見慣れた足が映し出された。
サタナキアが、僕の中から出てる……!!
なんで?!
足から上へと視線を向け、僕はサタナキアの表情をみたかったのに。
暗くてよく見えなくて、僕はその足に手を伸ばした。
「サタナキア……?」
『……体、返してやるよ。渚』
「は?」
『おまえは、オレみたいなるなよ』
「……な、何いって?! サタナキア?!」
『ここで仕返ししねぇと、悪魔じゃねぇからな!』
「お、おい! おまえ!! 死ぬつもりか、サタナキア!!」
『バーカ、死ぬワケないだろ。……ま、地獄の底には落とされるだろうけどな』
「え?!」く
『……ありがとな、渚』
「サタナキア……」
『さよなら、だ』
そう言って、サタナキアは眩い一団の方に走って行った。
瞬間、雷のような光が空へ向かって無数に伸び、ミサイルでも落ちたんじゃないかってくらいの爆発音があたりに響いた。
その衝撃で、僕は体ごと吹っ飛ばされたらみたいになって。
そこからの記憶がない。
唯一わかることは……サタナキアが、僕の中と僕の前からいなくなったってことだけだった。
気がついたら、公園には誰もいなくて。
大きな鳥のような天使の翼と、コウモリのような悪魔の翼が。
外灯に照らされて、公園の地面に焼きつくように残っていて。
サタナキアが、カマエルを道連れにしたんだって。
さっき言ったとおり、二人で地獄の底に行ったんだって……直感した。
僕とサタナキアの繋がっていた何かも、消えちゃったんだって。
「角倉くん」
「はい、店長」
「ロールケーキの発注数が……」
「それ、店長が頼んでましたよね?」
「え、でも……」
「僕最近、バイト中ICレコーダーで会話録ってるんです。よく間違うんで」
「……」
「なんから、聞きます?」
「いや、なんでもない。……大丈夫だよ、角倉くん」
そう言った店長は、顔を引きつらせてバックヤードに戻って言った。
いつまでも前の僕だとは思わないでほしい。
僕は、変わった。
サタナキアと出会って、サタナキアと別れて。
僕は、変わったんだ。
他人に流されないし、服のセンスも良くなったし、脱非リアをして。
……なんとなく、胸を張って生きていけるようになったんだ。
なんか、変われるきっかけを。
悪魔によって与えられるなんて、思いもよらなかったけど。
……まぁ、人に言っても信じてもらえないけど。
でも……。
「渚」
コンビニの入り口から声がして。
僕はその声に振り返る。
「晶」
あのカマエルの依代になっていたイケメンが、にっこり笑って僕の名前を呼んだ。
僕はその声に返事をする。
そう……こいつだけは、信じてくれて。
僕の身に起こったことを共有してくれて。
……僕は、なんとなく。
こいつとかどこかが繋がってるんだって、思ったんだ。
アスファルトの路面が、外灯の光を反射して。
反射していない部分の闇をより一層深くする。
ピシャッと跳ねる水が、激しく僕にはねかえった。
息が白くもやになり。
暗い夜道に、うっすらと浮かび上がる。
アスファルトの暗い部分に足を踏み込むたびに、その中に引き摺り込まれるような感じがした。
カマエル……!
カマエルは、どこだ!!
「サタナキア! カマエルはどこだ!」
『……』
「ハッキリ言え!!」
『……北』
「北ぁ?! どっちの北だよ!!」
『……こ、こう……えん』
「はぁ?!」
『公園っつってんだろ!!』
「サタナキア、何急にキレてんだよ!!」
『うっせぇな! 何急にキャラ変してんだよ!! 渚!!』
『おまえこそ、うっせぇよ!!』
走りまくって。
バイト先のコンビニにほど近い公園にたどり着いた。
その一角に、外灯の以上に輝く一団がいた。
まぁ……なんだ。
白い服を着て発光しているみたいになってるだけなんだけど。
にわかに信じがたい天使という先入観からか、カマエルとそれを取り巻く数人が、凄く眩しくみえた。
『渚』
「シッ!」
『……』
「何か言ってる……」
公園の植木に沿って、大の男が身を屈めながら。その眩い一団に近づく。
おそらく、側から見たら100%怪しげなのは、僕の方で。
ビビってすっかり大人しくなったサタナキアが、体の中から段々と冷たくなるのがわかった。
「……つも、懲りないな」
カマエルの発した声が、楽しそうに弾んで響いた。
「よっぽどカマエル様のことが、好きなんだぜ?」
「すげぇよな、悪魔のくせに」
「あぁ、悪魔のくせによがるんだ。かわいい声をあげてな」
眩しい一団の笑い声が、夜の公園に広がる。
……内容からして、サタナキアのことを馬鹿にしているのは。
非リアの僕には、痛いほど伝わった。
「で、いつまた封印するんだ?」
「あぁ、もうちょっと遊んだらな」
「意地が悪ぃな、カマエル様は」
「そんなことはない。悪魔に比べたら優しいもんだろ」
「しかし、まぁ……気づかないもんかね、サタナキアも」
「……気付くワケない。俺があれだけ激しく抱いてやってるんだ。抗えるワケないしな。全ては、仕組まれてるんだって……馬鹿だから気付くワケないだろ?」
そう言って、また。
一団が声を大きくして笑う。
天使なんだろ?! アイツら!!
天使のくせに、リア充極まりないのに!!
なんでこんなに根性がひんまがってるんだ!!
熱くなる僕の頭とは裏腹に。
サタナキアのいる体の中がまたスッーーっと、寒くなった。
「……サタナキア?」
『……知ってた』
「え?!」
『そんなことくらい……知ってたよ』
柄にもなく声を震わせて言うサタナキアに、僕は声をかけることすら出来なくて。
冷たくなった体の中から、再び声が聞こえるのをただ待つしかなかったんだ。
『……でも。それでもオレは……。アイツが好きだったんだ。カマエルと一緒にいたかったんだ』
「サタナキア……」
『一緒にいるだけでよかった。それが偽りでも、オレを陥れる罠だとしても。好きな人の側にいたかったんだんだ……』
ドクンー、と。
繋がっていた心臓が二つに分かれるような衝撃がして、僕は雨が降った後の濡れた地面に倒れ込むように手をついた。
その目線の先に、見慣れた足が映し出された。
サタナキアが、僕の中から出てる……!!
なんで?!
足から上へと視線を向け、僕はサタナキアの表情をみたかったのに。
暗くてよく見えなくて、僕はその足に手を伸ばした。
「サタナキア……?」
『……体、返してやるよ。渚』
「は?」
『おまえは、オレみたいなるなよ』
「……な、何いって?! サタナキア?!」
『ここで仕返ししねぇと、悪魔じゃねぇからな!』
「お、おい! おまえ!! 死ぬつもりか、サタナキア!!」
『バーカ、死ぬワケないだろ。……ま、地獄の底には落とされるだろうけどな』
「え?!」く
『……ありがとな、渚』
「サタナキア……」
『さよなら、だ』
そう言って、サタナキアは眩い一団の方に走って行った。
瞬間、雷のような光が空へ向かって無数に伸び、ミサイルでも落ちたんじゃないかってくらいの爆発音があたりに響いた。
その衝撃で、僕は体ごと吹っ飛ばされたらみたいになって。
そこからの記憶がない。
唯一わかることは……サタナキアが、僕の中と僕の前からいなくなったってことだけだった。
気がついたら、公園には誰もいなくて。
大きな鳥のような天使の翼と、コウモリのような悪魔の翼が。
外灯に照らされて、公園の地面に焼きつくように残っていて。
サタナキアが、カマエルを道連れにしたんだって。
さっき言ったとおり、二人で地獄の底に行ったんだって……直感した。
僕とサタナキアの繋がっていた何かも、消えちゃったんだって。
「角倉くん」
「はい、店長」
「ロールケーキの発注数が……」
「それ、店長が頼んでましたよね?」
「え、でも……」
「僕最近、バイト中ICレコーダーで会話録ってるんです。よく間違うんで」
「……」
「なんから、聞きます?」
「いや、なんでもない。……大丈夫だよ、角倉くん」
そう言った店長は、顔を引きつらせてバックヤードに戻って言った。
いつまでも前の僕だとは思わないでほしい。
僕は、変わった。
サタナキアと出会って、サタナキアと別れて。
僕は、変わったんだ。
他人に流されないし、服のセンスも良くなったし、脱非リアをして。
……なんとなく、胸を張って生きていけるようになったんだ。
なんか、変われるきっかけを。
悪魔によって与えられるなんて、思いもよらなかったけど。
……まぁ、人に言っても信じてもらえないけど。
でも……。
「渚」
コンビニの入り口から声がして。
僕はその声に振り返る。
「晶」
あのカマエルの依代になっていたイケメンが、にっこり笑って僕の名前を呼んだ。
僕はその声に返事をする。
そう……こいつだけは、信じてくれて。
僕の身に起こったことを共有してくれて。
……僕は、なんとなく。
こいつとかどこかが繋がってるんだって、思ったんだ。
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