1 / 1
愛しのヤンキー君
しおりを挟む
人と目が合うと、微笑んでしまう。
もはや、クセなんだ。
誰に対しても、そう。
先生だったり、クラスメイトだったり……ヤバそうなヤツにもそんなんだから、いつもだいたい、からまれる。
まぁ痩せてるし、弱そうだから、だいたい相手にされない。
「何、見てんだよ」で、終わってくれる。
ただ、僕の隣の席のヤツは、違った。
金髪で、背が高くて。
ゴツめのピアスをつけてて。
一言も話さないから、声すら知らない。
目付きも鋭いから、誰も話したがらない。
教室に入っても、ポケットに手を突っ込んで、机に足を乗せて授業を聞いてるか、机に突っ伏しって寝てるか。
たまに、どっかでサボってるか。
学校に出てくる分、まだいいのかもしれない。
その日、窓から差し込む日差しがとても眩しくて、そいつが寝てる横のカーテンを閉めた。
そいつがビクッとして、目を覚ます。
あちゃー、目が合ってしまった……。
思わず、微笑んでしまう。
すると、そいつが僕の手首を掴んで言ったんだ。
「何?俺に気があんの?」
……新しいパターンで、一瞬、思考停止がした。
いやいや、クセなんだってば。
「え?」
「ニコニコ笑って。俺に気があんのかって聞いてんの」
「いや、別に。全然ないけど?」
そいつは僕の手を離すと、鋭い目で一暼して、また寝てしまった。
「何?……健成、氷室にからまれたの?」
河村が眉をひそめて、聞いくる。
「からまれた、って言うかなんて言うか。初めて声聞いて、ビックリした」
新しいパターンのからみ方にもビックリしたけど、低く響く声に、僕はことさらビックリしてしまった。
低いけど響きが優しくて、あんな声してんだ……。
だから、僕はちょっとコイツに、クラスに馴染めないヤンキーに興味が湧いてしまった。
✴︎
俺の隣の席ヤツは、だいたい甘いものの話をしている。
別に聞きたくて、聞いてるわけじゃない。
よくとおる声が、勝手に耳に入ってくるんだ。
どこどこのタピオカがおいしかったとか。
かき氷には、練乳とフルーツがたくさんのったヤツが一番だとか。
ナタデココはイカの食感がするとか。
女子か、おまえは。
見た目も、華奢で弱っちそうで、ニコニコ笑う顔がなんかかわいい……気がする。
あの時、俺に向かって、ニコニコ笑うから、さ。
だから、ヤツの細い手首を掴んで、「何?俺に気があんの?」なんて変なことを言ってしまった。
絶対、変わったヤンキーだ、って思われたぞ。
何やってんだ、俺は……。
後悔して、嫌になって。
そのあとは、ひたすら寝たフリをしてしまった。
寝たフリをして、一日ただ学校にいて、なんとなく終わって。
いつものとおり帰ってると、隣の席のヤツが、他校の生徒にからまれていた。
……カツアゲか?弱っちそうだもんな。
そいつは、ちょっと困った顔をして、胸の前で傘をぎゅっと握りしめている。
どこまで、女子なんだ……。
ヤバそうだったら、助けてやろうかなって思ってた時、1人がそいつに襲いかかった。
……しまった!出遅れたっ!!
次の瞬間、崩れたのは他校の生徒の方だった。
そいつの持ってた傘が、きれいに相手の腹に入って、そのまま弧を描いて振り切る。
別な生徒もそいつに殴りかかったけど、傘で手首を叩き落とされて、うめき声を上げていた。
……なんだよ、めっちゃ強いじゃん。
隣の席のヤツは、何事もなかったかのように、カバンを拾って帰ろうとそいつが背を向けた途端、腹に傘を食らってた奴が、殴りかかろうとして上体を起こしたて………つい、体が勝手に動いて、俺はとっさに蹴りをかましてしまった。
✴︎
ビックリした。
僕の後ろにいた人が、隣の席の金髪に蹴っ飛ばされて吹っ飛んでる。
あ、僕。隙を見せてしまって殴られるとこだったんだ。
思わず「ごめん、ありがとう」と、つぶやいてしまった。
「……ってか、強ぇじゃん」
「え?」
「弱っちそうなのに……手際良くって、ビックリした」
「あぁ、でも、傘がなかったら全然ダメだったよ。助けてくれて、ありがとう。……あっ!そうだ。今から時間ある?」
「は?」
「ちょっと、付き合ってよ。助けてくれたお礼におごるよ」
……十中八九、絶対付き合わないって思ってたんだ。
人とつるまない、って感じだったし。
だけど、隣の席の金髪は照れた感じで「いいよ」って返事をした。
見た目はヤンキーだけど、なんかしゃべりやすいし、照れた感じが、やたらかわいい。
「あのさ、名前で呼んでいい?氷室、下の名前何?僕のことは、健成でいいから」
僕がそう言うと、金髪で照れ屋のヤンキーは、顔を真っ赤して「氷室……真矢」って言って視線をそらしたんだ。
〝真矢〟かぁ……。
僕は、心を少し開いてくれた真矢に、妙に嬉しくなってしまった。
「ここのチーズハットグ、おいしいでしょ?」
「……うん。てか、意外」
「どうして?」
「いつも甘いものの話しか、聞こえてこないから。こんなんも食べんだな、って思って」
「今から、体を動かさないといけないから。ちょっと腹ごしらえだよ」
「……えっ?」
「……真矢さ、僕がこんなナリしてるからって、なんか変な想像してるでしょ?」
また、真矢の顔が真っ赤になってる。
いちいち反応して、おもしろい。
だから、ついつい「この後、まだ時間ある?」って聞いてしまった。
まだまだ一緒にいたかったし、何より真矢と話をして、声を聞きたかった。
「……あぁ、だいたい、暇だし」
「じゃあ、ついてくる?意外と面白いかもよ?」
真矢は、チーズハットグを口いっぱいに頬張りながら、視線をそらしてうなずいた。
✴︎
まさか、剣道してるなんて思わなかった。
しかも、警察署の道場で。
ゴツくてシブい大人に混ざって、金髪の俺が警察署の道場の隅でちょこんと正座してるなんて、滑稽すぎるだろ。
しかも職業柄なのか、俺に興味があるのか。
やたら「健成の友達?どこの学校?」なんて話かけてくる。
……….補導か職質をされてるみたいだ。
健成に対して、ちょっとでも変な想像をした自分が、非常に恥ずかしい。
「学校に剣道部がないからさ、ここで練習させてもらってるんだよね。
ここの人達は、だいたい自分より段位が上だし、いい練習になるんだよ。
僕にしては、意外でしょ?」
剣道着に着替えた健成が言って。
確かに、意外だった。
華奢でいつもニコニコ笑ってて、女子みたいにかわいい顔したヤツが、キリッとした真剣な表情で竹刀をふる。
面をつけてからの健成は、さらにすごかった。
気合いの入った声とともに、自分より大きくて体格のいい相手に向かって、休む暇もなく全力で追い込みをかける。
その真っ直ぐな姿に見入ってしまって、思わず手に力が入った。
「健成、すごいだろ?」
目つきが鋭い、強そうな大人が話しかけてきた。
「……はい。華奢でヒョロくて、明らかに俺より弱そうなのに。
自分より強そうな相手に、ガンガン向かっていって。
健成の真っ直ぐな目と一緒で真っ直ぐ相手に挑んでて、なんかすげぇなぁって」
「なんだ、おまえ。
チャラチャラした格好してるワリに、ちゃんといい目もってんだな。
健成が連れてきただけあるよ」
〝一番苦手な分野の大人〟に褒められて、俺はなんだか嬉しくなってしまった。
健成に「何?俺に気があんの?」って、言った自分が恥ずかしくなったけど。
違った一面の健成を発見して、あの時とは別の意味でドキドキして………。
なんていうか、ビックリ箱みたいな健成の存在が、だんだん、俺の中で大きくなっていったんだ。
✴︎
真矢と仲良くなって。
話をしたり、行動を共にするようになって、色んな人に色んな事を言われるようになった。
先生からは、「おまえ、なんか脅されてんのか!?」なんて心配されたり。
〝氷室が、健成を舎弟にしてる〟とか。
〝氷室が健成を無理矢理襲って、離れないように監視している〟とか。
〝健成の家が実はソッチ系の家で、氷室が健成を守るために付き添っているソッチ系の人〟とかいう誰が言ったか分からない妄想には、さすがに笑ってしまった。
みんな、想像力豊かだ。
「俺は、全然面白くない。だいたい俺が悪いみたいになってるし」
真矢は、不機嫌な顔をして言った。
「そのうち、みんな飽きてくるって」
「まぁ、俺は健成が好きでいてくれれば、それでいいんだけどね」
なんだ、いわゆるツンデレってヤツで。
2人でいる時は、人懐っこい笑顔で色んな話をするし、性根が素直だから愛情表現もストレートだ。
たまに、こっちが恥ずかしくなるくらいに………真っ正直だ。
真矢が剣道についてきたり、一緒に過ごす時間が多くなっていくうちに、真矢から告白された。
いきなりで………かなり………びっくりしたけど。
真矢といると楽しかったし、僕しか知らない一面もあって。
僕の中でも、真矢が大きな存在となっていたから、ついオッケーしてしまった。
〝健成は、弱そうに見えるし、誰にでもニコニコして危なっかしいから。傘を持ってない時は、俺が健成を守る〟なんて。
傘を持ってない時って……。
今思い出しても、笑いそうになる告白だ。
要は、ウソがつけない性格なんだろうな。
そんな真矢を、僕は、さらに好きになってしまったんだ。
✴︎
「今度、星竜旗の個人戦にでるんだよ」
「じゃ、応援行こうかな?」
「本当に?嬉しいなぁ。今まで大会出ても、ずっと1人だったからさ。たまに先生がくるくらいで」
俺の何気ない一言に、健成は、本当に嬉しそうな顔をした……のに。
そんな矢先、健成が左手を怪我をした。
以前、健成にからんでた他校の生徒が、俺にからんできて、殴られそうになった俺を、健成は咄嗟に庇ったから。
「ぶつけただけだから、そんなに痛くないし。大丈夫」って、健成は笑って言ってたけど。
健成の左手は、かなり腫れていた……。
〝健成は、弱そうに見えるし、誰にでもニコニコして危なっかしいから。傘を持ってない時は、俺が健成を守る〟なんて、言っておきながら。
全然、守れなかった自分自身がイヤになる。
大会は、明日だってのに……。
「ガチガチにテーピングしてるし、腫れもだいぶひいてるし。真矢が気にすることじゃないよ」
「……ごめんな」
「応援にきといて、言う言葉じゃないんだけど?」
健成は、笑いながら言った。
「……頑張って。声出して応援するから」
「うん。じゃあ、行ってくる」
健成は、小さな両頬を両手でパチンと叩いて気合いを入れる。
そして、俺に向かって手を振りながら、会場に入っていった。
こんな〝いかにも〟な大会に、金髪の俺は完全に浮いてしまっていたけど、健成に届くように精一杯声を出す。
健成は、1回戦から順当に勝ち進んで、とうとう決勝戦にまで駒を進めた。
「あと、1勝」
「……うん。気合い入れないと」
心なしか、健成が疲れているようだったけど、でも、すぐ笑顔になる。
心配………かけないようにしてるんだ、健成は。
「真矢の声、すごい届いてる。ありがとう!力になるよ。じゃ、行ってくる」
決勝の相手は、健成よりひとまわり大きい。
鍔迫り合いをしていても、華奢な健成が後ろに退がるくらいパワーもある。
その瞬間、相手が健成に足を掛けて倒した。
倒れたところを打ち込まれて、竹刀で防戦する健成。
怪我をしている左手で竹刀を握っていたからか、竹刀を手から離してしまう。
審判が〝分かれ〟の指示を出した。
「足払いが決まっちゃったなぁ。凄い勢いで倒れたから、目ぇ回してなきゃいいけど」
「アレって、反則じゃないんですか?!」
俺は、隣で解説していたおじさんに、我を忘れて食いついてしまった。
おじさんは、俺を見て目を丸くしていたけど、親切に教えてくれる。
「足払いは、反則じゃないよ。むしろ、竹刀を離しちゃった方が反則とられちゃうよ」
「……えぇ?そうなんですか」
健成、大丈夫か………?
心配で、いてもたってもいられなくなって、胸が苦しくなる……。
健成は、ゆっくり立ち上がって再び構えたんだ。
結局、健成は負けてしまった。
有効打突が左手の小手に二本決まって。
健成は「足払いされて防戦した時から、左手の感覚がなかったんだよなぁ」と、苦笑いしながら言った。
✴︎
結局、僕の左手の骨にヒビが入っていた。
すると、真矢が人の目もはばからず、僕に手を貸したりするから。
僕が大爆笑した〝健成の家が実はソッチ系の家で、氷室が健成を守るために付き添っているソッチ系の人〟説が再浮上してきた。
まぁ、面白いからいいんだけど。
金髪でゴツめのピアスは相変わらずだけど、以前と比べたらかなり真面目になった真矢に、先生から「おまえ、すごいな……氷室をどう手なづけたんだよ」って感謝されるし。
変な諸説は相変わらず流れてたけど。
クラスのみんなも、だんだん真矢に話かけるようになった。
「今の健成はかなり弱っちいから、俺が、責任を持って健成の代わりをする」
「……右手使えるけど?」
「……剣道の練習は、行かないんだろ?」
「素振りとか足捌きとか。形稽古もできるから、行くよ?」
「もう!〝あれできない。これやって〟とか。ちょっとは、俺を頼れってば!」
真矢は、真っ赤な顔をしてそっぽを向いた。
また、やたらかわいい顔して。
ヤンキーのくせに。
「真矢、ありがとう」
僕はそう言って、真矢に軽くキスをした。
真矢が、目をまんまるにして僕を見る。
「……反則だ」
低い声をより低くして、真矢が呟いた。
「何?」
「………最初のキスは、俺からだって決めてたのに」
「え?」
「何すんだよ!健成!」
「そんな内に秘めた思いなんか知らないよ?!だったら、ちゃんと言ってよ!」
「健成のバカっ!!」
真矢はそう言って、僕に強く唇を重ねてきた。
………びっくりした。
けど、そんな真矢がかわいくって、愛おしくって、僕は身を委ねた。
おもしろいなぁ、愛しのヤンキー君。
もはや、クセなんだ。
誰に対しても、そう。
先生だったり、クラスメイトだったり……ヤバそうなヤツにもそんなんだから、いつもだいたい、からまれる。
まぁ痩せてるし、弱そうだから、だいたい相手にされない。
「何、見てんだよ」で、終わってくれる。
ただ、僕の隣の席のヤツは、違った。
金髪で、背が高くて。
ゴツめのピアスをつけてて。
一言も話さないから、声すら知らない。
目付きも鋭いから、誰も話したがらない。
教室に入っても、ポケットに手を突っ込んで、机に足を乗せて授業を聞いてるか、机に突っ伏しって寝てるか。
たまに、どっかでサボってるか。
学校に出てくる分、まだいいのかもしれない。
その日、窓から差し込む日差しがとても眩しくて、そいつが寝てる横のカーテンを閉めた。
そいつがビクッとして、目を覚ます。
あちゃー、目が合ってしまった……。
思わず、微笑んでしまう。
すると、そいつが僕の手首を掴んで言ったんだ。
「何?俺に気があんの?」
……新しいパターンで、一瞬、思考停止がした。
いやいや、クセなんだってば。
「え?」
「ニコニコ笑って。俺に気があんのかって聞いてんの」
「いや、別に。全然ないけど?」
そいつは僕の手を離すと、鋭い目で一暼して、また寝てしまった。
「何?……健成、氷室にからまれたの?」
河村が眉をひそめて、聞いくる。
「からまれた、って言うかなんて言うか。初めて声聞いて、ビックリした」
新しいパターンのからみ方にもビックリしたけど、低く響く声に、僕はことさらビックリしてしまった。
低いけど響きが優しくて、あんな声してんだ……。
だから、僕はちょっとコイツに、クラスに馴染めないヤンキーに興味が湧いてしまった。
✴︎
俺の隣の席ヤツは、だいたい甘いものの話をしている。
別に聞きたくて、聞いてるわけじゃない。
よくとおる声が、勝手に耳に入ってくるんだ。
どこどこのタピオカがおいしかったとか。
かき氷には、練乳とフルーツがたくさんのったヤツが一番だとか。
ナタデココはイカの食感がするとか。
女子か、おまえは。
見た目も、華奢で弱っちそうで、ニコニコ笑う顔がなんかかわいい……気がする。
あの時、俺に向かって、ニコニコ笑うから、さ。
だから、ヤツの細い手首を掴んで、「何?俺に気があんの?」なんて変なことを言ってしまった。
絶対、変わったヤンキーだ、って思われたぞ。
何やってんだ、俺は……。
後悔して、嫌になって。
そのあとは、ひたすら寝たフリをしてしまった。
寝たフリをして、一日ただ学校にいて、なんとなく終わって。
いつものとおり帰ってると、隣の席のヤツが、他校の生徒にからまれていた。
……カツアゲか?弱っちそうだもんな。
そいつは、ちょっと困った顔をして、胸の前で傘をぎゅっと握りしめている。
どこまで、女子なんだ……。
ヤバそうだったら、助けてやろうかなって思ってた時、1人がそいつに襲いかかった。
……しまった!出遅れたっ!!
次の瞬間、崩れたのは他校の生徒の方だった。
そいつの持ってた傘が、きれいに相手の腹に入って、そのまま弧を描いて振り切る。
別な生徒もそいつに殴りかかったけど、傘で手首を叩き落とされて、うめき声を上げていた。
……なんだよ、めっちゃ強いじゃん。
隣の席のヤツは、何事もなかったかのように、カバンを拾って帰ろうとそいつが背を向けた途端、腹に傘を食らってた奴が、殴りかかろうとして上体を起こしたて………つい、体が勝手に動いて、俺はとっさに蹴りをかましてしまった。
✴︎
ビックリした。
僕の後ろにいた人が、隣の席の金髪に蹴っ飛ばされて吹っ飛んでる。
あ、僕。隙を見せてしまって殴られるとこだったんだ。
思わず「ごめん、ありがとう」と、つぶやいてしまった。
「……ってか、強ぇじゃん」
「え?」
「弱っちそうなのに……手際良くって、ビックリした」
「あぁ、でも、傘がなかったら全然ダメだったよ。助けてくれて、ありがとう。……あっ!そうだ。今から時間ある?」
「は?」
「ちょっと、付き合ってよ。助けてくれたお礼におごるよ」
……十中八九、絶対付き合わないって思ってたんだ。
人とつるまない、って感じだったし。
だけど、隣の席の金髪は照れた感じで「いいよ」って返事をした。
見た目はヤンキーだけど、なんかしゃべりやすいし、照れた感じが、やたらかわいい。
「あのさ、名前で呼んでいい?氷室、下の名前何?僕のことは、健成でいいから」
僕がそう言うと、金髪で照れ屋のヤンキーは、顔を真っ赤して「氷室……真矢」って言って視線をそらしたんだ。
〝真矢〟かぁ……。
僕は、心を少し開いてくれた真矢に、妙に嬉しくなってしまった。
「ここのチーズハットグ、おいしいでしょ?」
「……うん。てか、意外」
「どうして?」
「いつも甘いものの話しか、聞こえてこないから。こんなんも食べんだな、って思って」
「今から、体を動かさないといけないから。ちょっと腹ごしらえだよ」
「……えっ?」
「……真矢さ、僕がこんなナリしてるからって、なんか変な想像してるでしょ?」
また、真矢の顔が真っ赤になってる。
いちいち反応して、おもしろい。
だから、ついつい「この後、まだ時間ある?」って聞いてしまった。
まだまだ一緒にいたかったし、何より真矢と話をして、声を聞きたかった。
「……あぁ、だいたい、暇だし」
「じゃあ、ついてくる?意外と面白いかもよ?」
真矢は、チーズハットグを口いっぱいに頬張りながら、視線をそらしてうなずいた。
✴︎
まさか、剣道してるなんて思わなかった。
しかも、警察署の道場で。
ゴツくてシブい大人に混ざって、金髪の俺が警察署の道場の隅でちょこんと正座してるなんて、滑稽すぎるだろ。
しかも職業柄なのか、俺に興味があるのか。
やたら「健成の友達?どこの学校?」なんて話かけてくる。
……….補導か職質をされてるみたいだ。
健成に対して、ちょっとでも変な想像をした自分が、非常に恥ずかしい。
「学校に剣道部がないからさ、ここで練習させてもらってるんだよね。
ここの人達は、だいたい自分より段位が上だし、いい練習になるんだよ。
僕にしては、意外でしょ?」
剣道着に着替えた健成が言って。
確かに、意外だった。
華奢でいつもニコニコ笑ってて、女子みたいにかわいい顔したヤツが、キリッとした真剣な表情で竹刀をふる。
面をつけてからの健成は、さらにすごかった。
気合いの入った声とともに、自分より大きくて体格のいい相手に向かって、休む暇もなく全力で追い込みをかける。
その真っ直ぐな姿に見入ってしまって、思わず手に力が入った。
「健成、すごいだろ?」
目つきが鋭い、強そうな大人が話しかけてきた。
「……はい。華奢でヒョロくて、明らかに俺より弱そうなのに。
自分より強そうな相手に、ガンガン向かっていって。
健成の真っ直ぐな目と一緒で真っ直ぐ相手に挑んでて、なんかすげぇなぁって」
「なんだ、おまえ。
チャラチャラした格好してるワリに、ちゃんといい目もってんだな。
健成が連れてきただけあるよ」
〝一番苦手な分野の大人〟に褒められて、俺はなんだか嬉しくなってしまった。
健成に「何?俺に気があんの?」って、言った自分が恥ずかしくなったけど。
違った一面の健成を発見して、あの時とは別の意味でドキドキして………。
なんていうか、ビックリ箱みたいな健成の存在が、だんだん、俺の中で大きくなっていったんだ。
✴︎
真矢と仲良くなって。
話をしたり、行動を共にするようになって、色んな人に色んな事を言われるようになった。
先生からは、「おまえ、なんか脅されてんのか!?」なんて心配されたり。
〝氷室が、健成を舎弟にしてる〟とか。
〝氷室が健成を無理矢理襲って、離れないように監視している〟とか。
〝健成の家が実はソッチ系の家で、氷室が健成を守るために付き添っているソッチ系の人〟とかいう誰が言ったか分からない妄想には、さすがに笑ってしまった。
みんな、想像力豊かだ。
「俺は、全然面白くない。だいたい俺が悪いみたいになってるし」
真矢は、不機嫌な顔をして言った。
「そのうち、みんな飽きてくるって」
「まぁ、俺は健成が好きでいてくれれば、それでいいんだけどね」
なんだ、いわゆるツンデレってヤツで。
2人でいる時は、人懐っこい笑顔で色んな話をするし、性根が素直だから愛情表現もストレートだ。
たまに、こっちが恥ずかしくなるくらいに………真っ正直だ。
真矢が剣道についてきたり、一緒に過ごす時間が多くなっていくうちに、真矢から告白された。
いきなりで………かなり………びっくりしたけど。
真矢といると楽しかったし、僕しか知らない一面もあって。
僕の中でも、真矢が大きな存在となっていたから、ついオッケーしてしまった。
〝健成は、弱そうに見えるし、誰にでもニコニコして危なっかしいから。傘を持ってない時は、俺が健成を守る〟なんて。
傘を持ってない時って……。
今思い出しても、笑いそうになる告白だ。
要は、ウソがつけない性格なんだろうな。
そんな真矢を、僕は、さらに好きになってしまったんだ。
✴︎
「今度、星竜旗の個人戦にでるんだよ」
「じゃ、応援行こうかな?」
「本当に?嬉しいなぁ。今まで大会出ても、ずっと1人だったからさ。たまに先生がくるくらいで」
俺の何気ない一言に、健成は、本当に嬉しそうな顔をした……のに。
そんな矢先、健成が左手を怪我をした。
以前、健成にからんでた他校の生徒が、俺にからんできて、殴られそうになった俺を、健成は咄嗟に庇ったから。
「ぶつけただけだから、そんなに痛くないし。大丈夫」って、健成は笑って言ってたけど。
健成の左手は、かなり腫れていた……。
〝健成は、弱そうに見えるし、誰にでもニコニコして危なっかしいから。傘を持ってない時は、俺が健成を守る〟なんて、言っておきながら。
全然、守れなかった自分自身がイヤになる。
大会は、明日だってのに……。
「ガチガチにテーピングしてるし、腫れもだいぶひいてるし。真矢が気にすることじゃないよ」
「……ごめんな」
「応援にきといて、言う言葉じゃないんだけど?」
健成は、笑いながら言った。
「……頑張って。声出して応援するから」
「うん。じゃあ、行ってくる」
健成は、小さな両頬を両手でパチンと叩いて気合いを入れる。
そして、俺に向かって手を振りながら、会場に入っていった。
こんな〝いかにも〟な大会に、金髪の俺は完全に浮いてしまっていたけど、健成に届くように精一杯声を出す。
健成は、1回戦から順当に勝ち進んで、とうとう決勝戦にまで駒を進めた。
「あと、1勝」
「……うん。気合い入れないと」
心なしか、健成が疲れているようだったけど、でも、すぐ笑顔になる。
心配………かけないようにしてるんだ、健成は。
「真矢の声、すごい届いてる。ありがとう!力になるよ。じゃ、行ってくる」
決勝の相手は、健成よりひとまわり大きい。
鍔迫り合いをしていても、華奢な健成が後ろに退がるくらいパワーもある。
その瞬間、相手が健成に足を掛けて倒した。
倒れたところを打ち込まれて、竹刀で防戦する健成。
怪我をしている左手で竹刀を握っていたからか、竹刀を手から離してしまう。
審判が〝分かれ〟の指示を出した。
「足払いが決まっちゃったなぁ。凄い勢いで倒れたから、目ぇ回してなきゃいいけど」
「アレって、反則じゃないんですか?!」
俺は、隣で解説していたおじさんに、我を忘れて食いついてしまった。
おじさんは、俺を見て目を丸くしていたけど、親切に教えてくれる。
「足払いは、反則じゃないよ。むしろ、竹刀を離しちゃった方が反則とられちゃうよ」
「……えぇ?そうなんですか」
健成、大丈夫か………?
心配で、いてもたってもいられなくなって、胸が苦しくなる……。
健成は、ゆっくり立ち上がって再び構えたんだ。
結局、健成は負けてしまった。
有効打突が左手の小手に二本決まって。
健成は「足払いされて防戦した時から、左手の感覚がなかったんだよなぁ」と、苦笑いしながら言った。
✴︎
結局、僕の左手の骨にヒビが入っていた。
すると、真矢が人の目もはばからず、僕に手を貸したりするから。
僕が大爆笑した〝健成の家が実はソッチ系の家で、氷室が健成を守るために付き添っているソッチ系の人〟説が再浮上してきた。
まぁ、面白いからいいんだけど。
金髪でゴツめのピアスは相変わらずだけど、以前と比べたらかなり真面目になった真矢に、先生から「おまえ、すごいな……氷室をどう手なづけたんだよ」って感謝されるし。
変な諸説は相変わらず流れてたけど。
クラスのみんなも、だんだん真矢に話かけるようになった。
「今の健成はかなり弱っちいから、俺が、責任を持って健成の代わりをする」
「……右手使えるけど?」
「……剣道の練習は、行かないんだろ?」
「素振りとか足捌きとか。形稽古もできるから、行くよ?」
「もう!〝あれできない。これやって〟とか。ちょっとは、俺を頼れってば!」
真矢は、真っ赤な顔をしてそっぽを向いた。
また、やたらかわいい顔して。
ヤンキーのくせに。
「真矢、ありがとう」
僕はそう言って、真矢に軽くキスをした。
真矢が、目をまんまるにして僕を見る。
「……反則だ」
低い声をより低くして、真矢が呟いた。
「何?」
「………最初のキスは、俺からだって決めてたのに」
「え?」
「何すんだよ!健成!」
「そんな内に秘めた思いなんか知らないよ?!だったら、ちゃんと言ってよ!」
「健成のバカっ!!」
真矢はそう言って、僕に強く唇を重ねてきた。
………びっくりした。
けど、そんな真矢がかわいくって、愛おしくって、僕は身を委ねた。
おもしろいなぁ、愛しのヤンキー君。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる