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世の中は、世知辛い。
毎日同じ時間に起床して、爽やかな朝を迎えたにも関わらず、毎日同じ時間の電車でいつも必ず痴漢に遭遇する。
最近じゃ、こっそり痴女なんかにも出会す。
その一連の行為のおかげで、途中具合が絶不調となり途中の駅で降りるか、無事目的地に着いたとしてもトイレに駆け込み速攻でリバースするか。
爽やかな朝から、最悪な朝へと変化する。
やっとの思いで大学について、スーパーな宇宙人が如く、体からやる気を放出させるんだけど、それも3分ともたない。
世の中は、世知辛いし。
物好きが多いもんだな。
進学のために上京して、早1ヶ月。
僕は都会の独特な雰囲気に飲まれて、自分を見失っていた。
田舎じゃ、こんなことなかったのになぁ。
普通に友達もいて、地味に彼女なんていた時期もあってさ。
なのに、なんで?
男にモテるとか、意味分かんないんだけど。
ゴツい字のラブレターなんか日常茶飯事でもらうし、学内外でナンパなんか当たり前。
この間なんか、ようやく打ち解けた都会の大学生に誘われて合コンに行ったら、見事にヤローだらけだった。
だから最近、過剰なまでに異常に、身の危険を感じてしまうんだ、きっと。
こんな異常事態が朝から晩まで続いて、日が沈む夕暮れ時、僕はようやく落ち着つける。
都心にしては緑が多くて静かな、そんな所に僕は住んでいて、その近くに夜遅くまで開いている喫茶店がある。
僕はその喫茶店で、僕に身に降りかかった1日の穢れを清めるんだ。
「こんばんは」
「いらっしゃい、佐々木くん。今日はナポリタンでいい?」
「はい。ありがとうございます」
「ゆっくりしてってね」
「助かります、マスター」
喫茶「彼女の家」。
大都会のど真ん中に、えらい名前の喫茶店があるなって一番最初に思った。
その年季の入ったお洒落なドアを開けたら、「おかえりなさいませ!ご主人さまぁ!」なんてかわいい子が言ってくれるんじゃないかと、邪な思考を巡らせたのが二番目で。
勇気を出してその重たいドアを開けて、僕の勝手に膨らんだ想像が「いらっしゃい」と言ったマスターの一言で砕かれたのが三番目。
結果として、普通の喫茶店だったわけだけど。
店のどこか懐かしい雰囲気とマスターの飾らない人柄に、僕はその日からその喫茶店に通うようなってしまったんだ。
僕はいつも恥のテーブル席に座る。
この日も僕は、いつものようにその席に座ると授業の課題を鞄から取り出して、テーブルの上に広げた。
耳に優しい、ジャズの有線放送。
少しカタカタする、年季の入った猫足のテーブル。
暖かなダウンライトが僕を照らして………今日の一日の穢れが、浄化されていく。
「君、受難の相がでてるよ」
思わず、体が大きくビクついた。
こんなとこに知り合いなんかいないのに……誰だ?!
「はい?」
「特に夜道は気をつけてね」
初めて見るってくらい、キレイな男の人が僕の前に立っていた。
スラっとしていて、顔が小さくて、涼しげな奥二重の目尻を下げて優しく笑う。
髪は肩くらいあって、それを無造作に束ねているのに、全く野暮ったくなくて。
つい、言ってることは三流占師みたいなことを言っているのに、その人から目が離せなくなった。
「泉、邪魔だよ」
「あ、ごめん。叔父さん。今日は厨房入らなくていい?」
「今日はいいよ。ゆっくりしていきな」
「泉」と呼ばれたその人は、僕に軽く会釈するとカウンター席に向かって歩いていく。
「あれ?佐々木くん、泉を見るの初めて?」
声を発することを忘れた僕は、返事のかわりに首を縦に大きく振った。
「俺の甥っ子なんだ。学生でたまに店を手伝ってくれるんだよ」
「………へぇ、そうなんですね」
「まぁ、泉はちょっと変わってるから。気にしないでね」
「変わってる?」
「そのうち分かるよ」
含みを持たせたマスターの言動がやたら気になるし、泉の神秘的な佇まいに気もそぞろになるし。
僕は変に緊張した状態で、ナポリタンを頬張ったんだ。
甘いバターの香りと、ケチャップのすっぱい味が。
忘れていた感情を呼び起こすようで、余計に顔が熱くなるのを感じた。
喫茶「彼女の家」から、僕の家は歩いて3分もかからない。
お腹も心も満たされて、ついでに新鮮な出会いに少し興奮して。
冷たい夜風に当たりながら、家路に着いていると、マンションの入り口まであと数メートル、そんなところで僕の視界は一気に真っ暗になった。
口を塞がれ、抱きつかれた瞬間、路地裏に押し込まれて外壁に叩きつけられる。
頭も背中も痛いのに、僕は震えあがって抵抗すらできなかった。
街灯にキラッと反射したナイフの刃先が、僕の目の前にあったから。
強盗かな……。
死ぬのかな………僕。
「騒ぐな、言うとおりにしろ」
帽子を目深に被りマスクをした男が、くぐもった声で僕に言って、その声は僕にダイレクトに届いて、頭にこだますると一気に思考を殺していく。
男は小刻みに震える僕の両手を、僕のズボンからから抜き取ったベルトで後ろ手に縛った。
そして、ハンカチを丸めると僕の口の中に押し込んで、持っていたナイフで僕のシャツのボタンを一気に切り取る。
「ん、んーっ!!」
男はマスクをずらして僕の胸に口をつけた。
そのゾワゾワする気持ちの悪さと、いつそのナイフが僕に突き刺さるか。
そんなカオスな僕の脳内は、体を大きく震わせた。
身をよじって、足をバタつかせる。
やだ……やめて………やだっ!!
やめろ!!変態っ!!
「おまえ!!暴れるなっ!!」
「んっ!!んーっ!!」
バシッという音とともに、体に重たい痛みが広がる。
左頬に一発、腹に一発。
目の前の変態が、僕に拳をいれた。
たいして鍛えてもいない僕の体は、一気に力が抜けて膝から崩れるように路地裏に倒れ込んでしまった。
ヤバいなぁ。
………明後日くらいには………僕は小さな記事として新聞の飾るんだろうか。
可もなく不可もなく。
それなりに平凡に生きていた僕の人生は、最大のクライマックスを迎えて、こうして終了するんだ。
ぼんやりしていく意識の中で、遠くで何かがぶつかる鈍い音が聞こえる。
………さよなら。お父さん、お母さん、そしてハチ。
先に旅立つ不幸をお許しください。
「…………?」
………ここは、あの世か?
それにしては、どこにでもあるマンションのシンプルな白い天井が、僕の視界に広がる。
死後の世界ってのも、意外と普通なんだな。
「あ、気がついた?」
あの世の人ってキレイだなぁ。
「彼女の家」でみた泉って人にそっくりだ………っ?!
いや……違うだろ………??
たまらず、飛び起きる。
「……って!!」
「無理しないで。ゆっくり寝てていいから」
「あ、あの………僕」
「君が店を出て行った後、外にいた男が君の後をつけていくのが見えたんだよ。受難の相が出てただろ?君。本当、間に合ってよかったよ」
「生きてます、か?僕」
泉は楽しそうに笑った。
そして、僕の頬にそっと手を添える。
ひんやりとした、手。
僕の熱い頬と、泉の冷たい手の、その温度差が一瞬にして等しくなる。
「生きてるよ、大丈夫」
「………ありがとう、ございます」
都会に出てきて、初めて優しくされた気がした。
世の中、世知辛いって思ってて。
毎日、イヤな目には合うし。
多分、僕は………色々すり減っていたんだと思う。
勝手に、涙が流れ落ちた。
両親に心配をかけたくなかったし、落ち込んだ時に飼い猫のハチをモフモフしたくてもできないし。
毎日、イヤな目にあうから友達すらできないし。
バイトだって………。
大学生になったらしたいことなんて山ほどあったのに………。
「そんな顔しないで、我慢が効かなくなっちゃうよ」
「え?」
「佐々木当麻くん、君、あげまん体質なんだよ」
………?
………あげまん体質???
何?それ?
「田舎じゃ欲深い人は少なかったかもしれないけど、都会じゃ顕著だね。みんな君を欲しがってるんだよ、当麻くん」
「………分かんな……言ってるの…分かんない」
「座敷童子みたいなもんかな?当麻くんは無自覚だけど。君は、君と交わった人を幸せにするんだよ。現に叔父さんトコも、君が通い出して繁盛しているしね」
………あまりのことに、言葉がでない。
そんなこと知らない!
僕はそんなのじゃない!!
僕に触れている泉の手を振り払おうとした瞬間、そのキレイな手は僕の体を引っ張って、その胸の中に収めてしまった。
………逃げなきゃ。
この手をどけなきゃ………。
でも、僕の体は言うことを聞かないんだ。
泉の体から伝わる鼓動が心地いい、冷たい手とは裏腹な体の温度が気持ちいい。
………抵抗が、できないんだ。
「な………離…………」
「何で俺がこんなに当麻くんのことに詳しいか、不思議でしょ?俺はね、当麻くんとはまた違う体質なんだ。例えて言うなら………。当麻くん、君が花の蜜なら、俺は蜜蜂かな?離れられないんだよ、俺たちは」
その泉の言葉が、頭の中でグラングランに反響して、体がより熱くなるのを感じた。
「ね?当麻くんも感じるでしょ?」
そう言って、泉はにっこり笑うと僕にキスをしたんだ。
「……んっ、ん」
舌が絡む度にクチュっと小さな音がして、泉の手が僕の後ろを弄ぶ。
「すごいね、やっぱり当麻くんはあげまんだ。何もしてないのにこんなに濡れてきてるよ」
「んぁ、や……や、ぁあ」
「さっき、アイツに縛られた手。すごく赤くなってるね。………当麻くん、ハードなのも好き?」
「やっ……やめ……ぁあ」
僕は男で、泉も男で。
男同士なんて、すっごくあり得ないのに。
………キスで溶かされ、指で蕩けされ。
あり得ないのに、めちゃくちゃ気持ちいい……!!
「当麻くん……!俺………もう、無理だよ」
泉のその声が、僕の頭に届くけ届かないか。
僕はベッドにクルッと反転させられて、四つん這いになった。
間髪入れず、じわっ、と。
僕の後ろに、熱くて大きなのがゆっくり挿入ってくる。
「あっ、あぁっ…やぁ、やぁぁ」
「ヤバい。当麻くんの中、想像以上だ」
それは、僕も同じで。
男同士にもかかわらず、男同士のセックスがこんなに気持ちいいもんだとは思わなくて。
僕は体を捩って、僕から泉にキスをしたんだ。
自分の子孫を残すため、誘う花のように。
僕は、泉を誘い込む。
毎日同じ時間に起床して、爽やかな朝を迎えたにも関わらず、毎日同じ時間の電車でいつも必ず痴漢に遭遇する。
最近じゃ、こっそり痴女なんかにも出会す。
その一連の行為のおかげで、途中具合が絶不調となり途中の駅で降りるか、無事目的地に着いたとしてもトイレに駆け込み速攻でリバースするか。
爽やかな朝から、最悪な朝へと変化する。
やっとの思いで大学について、スーパーな宇宙人が如く、体からやる気を放出させるんだけど、それも3分ともたない。
世の中は、世知辛いし。
物好きが多いもんだな。
進学のために上京して、早1ヶ月。
僕は都会の独特な雰囲気に飲まれて、自分を見失っていた。
田舎じゃ、こんなことなかったのになぁ。
普通に友達もいて、地味に彼女なんていた時期もあってさ。
なのに、なんで?
男にモテるとか、意味分かんないんだけど。
ゴツい字のラブレターなんか日常茶飯事でもらうし、学内外でナンパなんか当たり前。
この間なんか、ようやく打ち解けた都会の大学生に誘われて合コンに行ったら、見事にヤローだらけだった。
だから最近、過剰なまでに異常に、身の危険を感じてしまうんだ、きっと。
こんな異常事態が朝から晩まで続いて、日が沈む夕暮れ時、僕はようやく落ち着つける。
都心にしては緑が多くて静かな、そんな所に僕は住んでいて、その近くに夜遅くまで開いている喫茶店がある。
僕はその喫茶店で、僕に身に降りかかった1日の穢れを清めるんだ。
「こんばんは」
「いらっしゃい、佐々木くん。今日はナポリタンでいい?」
「はい。ありがとうございます」
「ゆっくりしてってね」
「助かります、マスター」
喫茶「彼女の家」。
大都会のど真ん中に、えらい名前の喫茶店があるなって一番最初に思った。
その年季の入ったお洒落なドアを開けたら、「おかえりなさいませ!ご主人さまぁ!」なんてかわいい子が言ってくれるんじゃないかと、邪な思考を巡らせたのが二番目で。
勇気を出してその重たいドアを開けて、僕の勝手に膨らんだ想像が「いらっしゃい」と言ったマスターの一言で砕かれたのが三番目。
結果として、普通の喫茶店だったわけだけど。
店のどこか懐かしい雰囲気とマスターの飾らない人柄に、僕はその日からその喫茶店に通うようなってしまったんだ。
僕はいつも恥のテーブル席に座る。
この日も僕は、いつものようにその席に座ると授業の課題を鞄から取り出して、テーブルの上に広げた。
耳に優しい、ジャズの有線放送。
少しカタカタする、年季の入った猫足のテーブル。
暖かなダウンライトが僕を照らして………今日の一日の穢れが、浄化されていく。
「君、受難の相がでてるよ」
思わず、体が大きくビクついた。
こんなとこに知り合いなんかいないのに……誰だ?!
「はい?」
「特に夜道は気をつけてね」
初めて見るってくらい、キレイな男の人が僕の前に立っていた。
スラっとしていて、顔が小さくて、涼しげな奥二重の目尻を下げて優しく笑う。
髪は肩くらいあって、それを無造作に束ねているのに、全く野暮ったくなくて。
つい、言ってることは三流占師みたいなことを言っているのに、その人から目が離せなくなった。
「泉、邪魔だよ」
「あ、ごめん。叔父さん。今日は厨房入らなくていい?」
「今日はいいよ。ゆっくりしていきな」
「泉」と呼ばれたその人は、僕に軽く会釈するとカウンター席に向かって歩いていく。
「あれ?佐々木くん、泉を見るの初めて?」
声を発することを忘れた僕は、返事のかわりに首を縦に大きく振った。
「俺の甥っ子なんだ。学生でたまに店を手伝ってくれるんだよ」
「………へぇ、そうなんですね」
「まぁ、泉はちょっと変わってるから。気にしないでね」
「変わってる?」
「そのうち分かるよ」
含みを持たせたマスターの言動がやたら気になるし、泉の神秘的な佇まいに気もそぞろになるし。
僕は変に緊張した状態で、ナポリタンを頬張ったんだ。
甘いバターの香りと、ケチャップのすっぱい味が。
忘れていた感情を呼び起こすようで、余計に顔が熱くなるのを感じた。
喫茶「彼女の家」から、僕の家は歩いて3分もかからない。
お腹も心も満たされて、ついでに新鮮な出会いに少し興奮して。
冷たい夜風に当たりながら、家路に着いていると、マンションの入り口まであと数メートル、そんなところで僕の視界は一気に真っ暗になった。
口を塞がれ、抱きつかれた瞬間、路地裏に押し込まれて外壁に叩きつけられる。
頭も背中も痛いのに、僕は震えあがって抵抗すらできなかった。
街灯にキラッと反射したナイフの刃先が、僕の目の前にあったから。
強盗かな……。
死ぬのかな………僕。
「騒ぐな、言うとおりにしろ」
帽子を目深に被りマスクをした男が、くぐもった声で僕に言って、その声は僕にダイレクトに届いて、頭にこだますると一気に思考を殺していく。
男は小刻みに震える僕の両手を、僕のズボンからから抜き取ったベルトで後ろ手に縛った。
そして、ハンカチを丸めると僕の口の中に押し込んで、持っていたナイフで僕のシャツのボタンを一気に切り取る。
「ん、んーっ!!」
男はマスクをずらして僕の胸に口をつけた。
そのゾワゾワする気持ちの悪さと、いつそのナイフが僕に突き刺さるか。
そんなカオスな僕の脳内は、体を大きく震わせた。
身をよじって、足をバタつかせる。
やだ……やめて………やだっ!!
やめろ!!変態っ!!
「おまえ!!暴れるなっ!!」
「んっ!!んーっ!!」
バシッという音とともに、体に重たい痛みが広がる。
左頬に一発、腹に一発。
目の前の変態が、僕に拳をいれた。
たいして鍛えてもいない僕の体は、一気に力が抜けて膝から崩れるように路地裏に倒れ込んでしまった。
ヤバいなぁ。
………明後日くらいには………僕は小さな記事として新聞の飾るんだろうか。
可もなく不可もなく。
それなりに平凡に生きていた僕の人生は、最大のクライマックスを迎えて、こうして終了するんだ。
ぼんやりしていく意識の中で、遠くで何かがぶつかる鈍い音が聞こえる。
………さよなら。お父さん、お母さん、そしてハチ。
先に旅立つ不幸をお許しください。
「…………?」
………ここは、あの世か?
それにしては、どこにでもあるマンションのシンプルな白い天井が、僕の視界に広がる。
死後の世界ってのも、意外と普通なんだな。
「あ、気がついた?」
あの世の人ってキレイだなぁ。
「彼女の家」でみた泉って人にそっくりだ………っ?!
いや……違うだろ………??
たまらず、飛び起きる。
「……って!!」
「無理しないで。ゆっくり寝てていいから」
「あ、あの………僕」
「君が店を出て行った後、外にいた男が君の後をつけていくのが見えたんだよ。受難の相が出てただろ?君。本当、間に合ってよかったよ」
「生きてます、か?僕」
泉は楽しそうに笑った。
そして、僕の頬にそっと手を添える。
ひんやりとした、手。
僕の熱い頬と、泉の冷たい手の、その温度差が一瞬にして等しくなる。
「生きてるよ、大丈夫」
「………ありがとう、ございます」
都会に出てきて、初めて優しくされた気がした。
世の中、世知辛いって思ってて。
毎日、イヤな目には合うし。
多分、僕は………色々すり減っていたんだと思う。
勝手に、涙が流れ落ちた。
両親に心配をかけたくなかったし、落ち込んだ時に飼い猫のハチをモフモフしたくてもできないし。
毎日、イヤな目にあうから友達すらできないし。
バイトだって………。
大学生になったらしたいことなんて山ほどあったのに………。
「そんな顔しないで、我慢が効かなくなっちゃうよ」
「え?」
「佐々木当麻くん、君、あげまん体質なんだよ」
………?
………あげまん体質???
何?それ?
「田舎じゃ欲深い人は少なかったかもしれないけど、都会じゃ顕著だね。みんな君を欲しがってるんだよ、当麻くん」
「………分かんな……言ってるの…分かんない」
「座敷童子みたいなもんかな?当麻くんは無自覚だけど。君は、君と交わった人を幸せにするんだよ。現に叔父さんトコも、君が通い出して繁盛しているしね」
………あまりのことに、言葉がでない。
そんなこと知らない!
僕はそんなのじゃない!!
僕に触れている泉の手を振り払おうとした瞬間、そのキレイな手は僕の体を引っ張って、その胸の中に収めてしまった。
………逃げなきゃ。
この手をどけなきゃ………。
でも、僕の体は言うことを聞かないんだ。
泉の体から伝わる鼓動が心地いい、冷たい手とは裏腹な体の温度が気持ちいい。
………抵抗が、できないんだ。
「な………離…………」
「何で俺がこんなに当麻くんのことに詳しいか、不思議でしょ?俺はね、当麻くんとはまた違う体質なんだ。例えて言うなら………。当麻くん、君が花の蜜なら、俺は蜜蜂かな?離れられないんだよ、俺たちは」
その泉の言葉が、頭の中でグラングランに反響して、体がより熱くなるのを感じた。
「ね?当麻くんも感じるでしょ?」
そう言って、泉はにっこり笑うと僕にキスをしたんだ。
「……んっ、ん」
舌が絡む度にクチュっと小さな音がして、泉の手が僕の後ろを弄ぶ。
「すごいね、やっぱり当麻くんはあげまんだ。何もしてないのにこんなに濡れてきてるよ」
「んぁ、や……や、ぁあ」
「さっき、アイツに縛られた手。すごく赤くなってるね。………当麻くん、ハードなのも好き?」
「やっ……やめ……ぁあ」
僕は男で、泉も男で。
男同士なんて、すっごくあり得ないのに。
………キスで溶かされ、指で蕩けされ。
あり得ないのに、めちゃくちゃ気持ちいい……!!
「当麻くん……!俺………もう、無理だよ」
泉のその声が、僕の頭に届くけ届かないか。
僕はベッドにクルッと反転させられて、四つん這いになった。
間髪入れず、じわっ、と。
僕の後ろに、熱くて大きなのがゆっくり挿入ってくる。
「あっ、あぁっ…やぁ、やぁぁ」
「ヤバい。当麻くんの中、想像以上だ」
それは、僕も同じで。
男同士にもかかわらず、男同士のセックスがこんなに気持ちいいもんだとは思わなくて。
僕は体を捩って、僕から泉にキスをしたんだ。
自分の子孫を残すため、誘う花のように。
僕は、泉を誘い込む。
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