君は蜜、あなたは蜂。〜都会に来たら、あげまん体質と言われて困ってます。〜

文字の大きさ
9 / 9

#9

しおりを挟む
「……っあぁ……や……やめ………やぁ」


かろうじて、口は、思考は、反発してる。


でも、体は………僕の体は。


その意に反して、泉に触れられることを欲していた。


藤の花がひらひら舞い落ちて、僕の肌に触れるたび、服は一枚また一枚と肌から離れていく。


藤の花の下。


僕は泉に、溶かされるように抱かれているんだ。


………信じられない。


こんなの、嫌なはずなのに。

こんなの、有り得ないのに。

泉の両親の目の前で。

泉の親戚が見守る中。

……湧の、強い視線を肌で感じて。


意に反して、体は火照って、足が開く。


たくさんの人の前で、たくさんの蜜を蓄えた僕の中に泉の太いのが、ゆっくり満たすように入ってきた。


「あ“っ、あぁっ……っ、やぁっ」


たまらず声が、吐息と共にでて。

体が弓形にしなって、頭のてっぺんから爪先まで泉に支配された気がした。


『これで、安泰だ』とか『よかったわねぇ』という声が微かに聴こえて………。
恥ずかしさとか、恐怖とか、充足感とか。
すべてをひっくるめて………体の奥から、ゾワッとした。
下から貫かれて視界が揺れる中、泉が僕の頬に手を添えてにっこり笑う。
いつもの穏やかな泉の笑顔に、僕はグラッと頭が歪んだ。

「……当麻くん。ずっと、そばにいて………。愛してる」
「僕も……僕も、愛して……る。………だから、僕を………僕の中に………出して」

僕はボヤける視界を懸命に抑えて………そして、丹田に力を込めた。


「泉……!!………出せっ!!」





肌にかかる冷たい空気で、目が覚めた。



さっきまでドンチャン騒ぎをしていた藤の花の下には、誰一人いなくて。

目に映るのは。素肌に鮮やかな藤色の布。

その肌触りの良い滑らかな布に包まれた僕の体を、誰かが支えている。

この肌に触れる感触や体温は………紛れもない、僕がよく知っている感覚だ。

「………泉?」
「気がついた?……俺の嫁さん」


嫁……?


嫁……!?


嫁ーっ!?!?


いつの間に、そんな既成事実のような状態になったんだよ?!


「………どう、いう……?」
「俺の、正体だよ。これが」

藤の花が、風に煽られてザワザワと音を立てると、僕と泉に吹雪くように舞い散った。


………きれい。

………夢のようで、でも、肌に触れる泉の感触は現実で。


僕は見上げて、泉の瞳を覗き込んだ。


「藤の守り人………。女王蜂である一族のこの藤を守る、働き蜂だよ」

その言った泉の瞳は、さっき幻想のように見えたヴァイオレットの色をしていて………。
怖いわけじゃない、のに。
胸がギュッとなって、思わずハッと息をのんだ。











黒田家は、代々この藤の木を守る家系だ。

藤の木は黒田家の繁栄を支える、いわば〝御神木〟で。
この木が枯れずに、毎年美しい花をつけるたび、黒田家の繁栄は続く。

現に、黒田家の家系は、何気に錚々たる人物が多い。
政治家、弁護士は当たり前。
日本に初めて油絵技法を伝えた人だとか、変わったところでは、携帯型消臭スプレーを世界で初めて開発した人まで。
多種多様だけど。

歴史を動かし、作ってきた黒田家の面々は、この藤の木がもらたす〝力〟によるもので。

黒田家は、この藤の木を必死で守ってきたんだ。


ただし、この藤の木。


〝御神木〟というより〝妖木〟の要素が強い。


普通に肥料をあげて水をやるだけでは、その力を得ることができない。
その力を宿すため………幸福を泉のように湧き上がらせる、〝蜜〟が必要なんだ。

だから、この藤の木は。
黒田家に産まれた子、全員を依代として〝蜜〟を探す。

その〝蜜〟となる存在が、僕のような〟あげまん体質〟の人になるというわけだ。
その依代は、黒田家に子どもが産まれるとその役目が親から子に移動する。

泉と湧の母親はその本懐を無事に遂げて、その力を2人の子に引き継いだ。

だから2人は、「彼女の家」のマスターがウンザリしてしまうくらいの〝神力〟………いや、〝妖力〟を産まれた時からその体に宿して生きて、湧と泉は、産まれた時からその身に〝あげまん〟を見つけることを宿命づけられていたんだ。

そして泉は、僕を見つけた。

黒田家の繁栄を、藤の木の長寿を約束する〝あげまん〟の僕を。


………ん?


でも、ちょっと、まてよ?


「泉……僕、男だけど?」
「うん。知ってる」
「子ども、産めないけど?」

泉は笑って「大丈夫だよ」と、僕のおでこにキスをしながら言った。

「当麻くんが産めなくても、他の親族が生む。そしてその子が、新しい働き蜂になるんだ。あと………」
「あと、何?」
「この藤の木は何だって叶える。その気になれば何だってできるんだよ。………例えば、当麻くんが俺の子を孕って産み育てることもね」


そんな………夢見たいな、こと。


現実では、あり得ないことを………さも、叶えられる体で泉が言うから………。


僕は妙に納得してしまったんだ。


………そして。
泉の正体が分かった今、僕はどうしても泉に聞きたいことがあった。


………泉を試すようで。

その言葉を発するのに、僕は少し躊躇ってしまったけど、聞かずにはいられなかったんだ。

だって、いつも言われてたんだよ?おばあちゃんに。
「正直モンじゃなかと、いかんよぉ」って。


「もし僕が、あげまん体質じゃなかったら………泉は、僕を愛していた?」


真っ直ぐ、泉の瞳を見て。

泉の深層心理を探るように、その瞳の奥から視線を外さないように………泉を見つめた。

「何いってんの?当麻くん」
「え?」
「俺は当麻くんが何者でもいいんだよ。
あげまん体質は悪魔で付属品。
もし、当麻くんがあげまんじゃなかったら、僕は働き蜂として役目を果たすことができない。
………役目を果たせなくて、この藤の木が枯れてしまうようなことがあったとしても………俺は、当麻くんを好きになってたよ」
「泉……」
「一目惚れだったんだよ。叔父さんの店で、初めて会ったあの時に……。当麻くんが、好きなんだよ」

泉は僕の体に腕を回すと、まるで宝物を手に入れたかのような仕草で僕を抱きしめた。

「当麻くん………愛してる。ずっと、ずっと………俺のそばに、いて」


………その、言葉で………充分で。


泉の、その体温や肌質に、安心して………。


僕は、もう、迷わないと思った。


「………ありがとう、泉……。僕も、愛してる………泉」


………おばあちゃん、おばぁ。

僕な、僕………すげぇ、好いとう人がいるんちゃけぇ。
多分な、多分やけど………僕、そん人ば〝お嫁さん〟になるかもれんけど、なぁ。
ひょっとしたら、子ぉば、産むことになるかもしれんちゃけぇ。

でもなぁ、僕。

今、すげぇ嬉しかとよ?

好いとう人がそばにいるって………なんで、こんなに………心の底からあったかいんやろって。













「かしこまりました!マスター、鶏飯セット1つとブレンドホットです」

一番落ち着く「彼女の家」で、僕は今日もバイトに勤しむ。
大学だって、楽しくて仕方ない。

そして……。

「当麻くん。ナポリタンと苺パフェ、あがったよ」

美味しそうに皿に盛られた料理をカウンターに置いて、厨房から顔を覗かせた泉と目が合った。
あの不思議な、夢のような一夜から何日か経ち。
僕は以前の普通の暮らしに戻って、何の変哲もない生活を送っていた。

あの日。
青姦よろしく、泉とヤッたあの日。

言い伝えによれば、黒田家の藤の木のたもとで、黒田の〝蜂〟と幸運の〝蜜〟が交われば、黒田家の繁栄は未来永劫続くと約束されていたようで。

結局は、僕が子どもを産むことにはならずにすんだけど………その後が、やたらめったら恥ずかしかった。

「いやぁ。当麻くんは、かわいくて大人しそうなのに、淫乱なんだねぇ!隠れ淫乱ってヤツか?!あははっ!!」

と、泉のお父さんに豪快に言われて。

………顔から火が出るんじゃないかってくらい、僕は………穴があったら入りたかったよ、マジで?


その言葉がよっぽどドツボにハマったのか。

泉と肌を重ねるたび、泉は僕に囁くように言うんだ、「隠れ、淫乱?」って。


でも……それは、少し。


自覚アリ、だったりする。


今も、こうして。
バイトの真っ最中だってのに。


泉の笑顔を見るたびに、脳をグラつかせる声を聞く度に。
僕の体は蜂の針に刺されたように刺激され、体が疼いて………泉を欲して止まなくなるんだ。

「………当麻、くん…。顔……顔………」

マスターが目を一文字にして僕に言った。

ハッとして、戸棚のガラスに写った顔を見ると、ヤバいくらい蕩けた顔をしている僕がいて。


………かなり、僕は重症だということに気付かされた。


………だって、しょうがない。


僕は蜜、泉は蜂だもの。


離れなられない、蜜と蜂なんだから。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...