孤独者の残光 ~預かった子どもを闇堕ちさせないため、嫌われることにした~

華霧むま

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66、襲撃

 扉を開けてやってきたのは、顔を隠した人間だった。この場に来たのは3人。

 何かを考える猶予もない。

 オクルスは何も言わないまま、風魔法をぶつけた。部屋の中を風が巻き上げるが、部屋の中の物が動くことはない。固有魔法で静止させているから。

 会話をする価値もないだろうから、さっさと攻撃するに限る。相手の方も、交渉などする気はないのだろう。魔法をこちらに向けてくる。

 しかし、純粋に魔法で戦ったところで、オクルスに勝てるはずはないのだ。オクルスが一歩も動かないまま、敵は後退した。ついでのように投げてきたナイフはたたき落とした。

「……」

 簡単に制圧できた。そのことが、余計にオクルスの警戒心を高める。

 この程度で、なぜオクルスの塔に襲撃に来ようと思ったのだろうか。一応は大魔法使いだ。

 これだけとは思えない。オクルスは周囲に警戒を広めた。闇の中でも、オクルスが明かりをつけていることで煌々としている部屋の中。そこへ意識を集中させていた、はずだった。

 しかし、風が空を切る音がした。

「……は?」

 人がいるとは気がついていなかった方向からのナイフ。避けようとしたが失敗をし、左肩へと刺さった。

「……え」

 痛いなどと感じている余裕はなかった。心に焦りが住み着いているからか、あまり感覚がしない。

 何が起こったのか。それはそんなに難しいことではない。オクルスの固有魔法を避けるための手段を身に着けたのだろう。

「あー、なるほど」

 オクルスの魔法さえ効かなくすれば。オクルスは無力で簡単に消せると思っているのだろう。

「……舐めているんだろうね」

 『大魔法使い』という存在。魔法に秀でた人間だ。他の能力をみる人は少ない。

 オクルスの情報は、どこまで流れているのだろか。当たり前のことだが、情報は、知っている人がいなければ知られ得ない。

 つまり。オクルスの悪評ばかりが蔓延る貴族の世界で、オクルスの情報を集めたとして。果たしてどれほどの情報が集まるのだろう。

 オクルスは隠してあった剣を魔法で引っ張りだし、手に取った。ずしりと重く感じる。しかし、その感覚を馴染ませている暇などない。すぐに剣を鞘から抜いた。

 複数の敵を見据えながら、浅く息を吸う。オクルスの力で、どれくらい耐えられるだろうか。

 唯一の優位な点。それは、相手がオクルスの実力を知らないことだ。

 学園時代から人目があるところではほとんど使っておらず、知っている人は練習相手にしていたエストレージャくらいだ。

 最初に剣に触れた実家でも見た人はいるだろうが、実兄がばらまいた「魔法以外は無能」という噂のおかげで、それほど注目していた人はいないだろう。

 まさかこんなところであの兄が役に立つとは。勝手に口角が上がる。

 心の中では現実逃避をしていたが、敵を意識した瞬間、余計な思考は消え去った。オクルスは剣を振り抜いた。

 ◆

「……っはあ」

 目の前に倒れている男たちを見ながら息を吐く。

 どれくらいの時間が経っただろうか。気がつけば、血の海になっていた。剣先からも赤がしたたり落ちた。この血と異臭にまみれた地獄絵図をヴァランに見せてしまうのは不味い。掃除をしないと、とぼんやり考える。

 久しぶりに握った剣は、期待通りには振るえなかったが、それでも敵を倒すには十分だった。自分は意外と強かったらしい、と他人事のように考える。

 どさり、と音がした。なんの音だろう。そう思うが、自身の背に触れる冷たい床で理解した。

 自分が倒れた音か。

 そこでようやく自身が深手を負ったことに気がつく。それを認識した途端、急に痛みを感じ始めた。

 自身の身体に視線を向ける。血が止まっていない。特に酷いのは肩だろうか。それとも脇腹だろうか。痛い部分が多くて分からないが、そのあたりが特に燃えるように痛い。

 自身の視界が揺れる。世界から色が消えたかのように暗く感じる。

 自分は、死ぬのだと理解した。

 掃除を、しないと。そう思うのに、身体の自由が奪われたように、手の動かし方も分からない。

「大魔法使い様!」
「……ヴァラン?」

 部屋から出てきたら駄目だと言ったのに。それでも、いつかは出てきていただろうから、仕方がない。それがたまたま今だっただけだ。

 ヴァランがオクルスの手に触れている気がする。その温かい感覚を手放したくないが、きっとすぐに手放すことになる。

「ねえ、ヴァラン」

 ヴァランの前で死ぬという自体は避けたかったが仕方がない。オクルスがヴァランの名を呼んだことで、彼が顔を近づけた。

「……私のことは、忘れて」

 どうか、幸せに。その言葉は、オクルスの口からこぼれなかった。
 
 それで良い。そんなことを言えば、負担になってしまう。この子がオクルスを忘れて幸福に生きられたらそれでいいのだ。間違っても、オクルスのことを引きずってはならない。

 ヴァランの手の温かさを感じながら、オクルスは目を閉じた。
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