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85、失ったもの
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オクルス、ヴァラン、エストレージャがいる部屋で、シレノルと対面することとなった。部屋に入ってきたシレノルが、オクルスを視界に入れた瞬間口を開いた。
「オクルス様、申し訳ありません」
シレノルに頭を下げられ、オクルスは首を傾げた。
ヴァランとシレノルの感動の親子再会を見られるかと思ったのに。なぜ、オクルスの方ばかりをみているのか。
「……ええっと」
オクルスは助けを求めたくてエストレージャのほうを向く。彼は諦めろ、と口を動かした。助け船を出す気はないらしい。オクルスはエストレージャを軽く睨んでから、シレノルへと向き直る。
「……シレノル殿下。何の謝罪ですか?」
「うちの国の貴族が、ヴァランのことを攫おうとして、この塔を襲撃したようなので」
「ああ、なるほど」
目的はヴァランを誘拐し、シレノルを脅すための手段とするためだったのか。それが1番あり得そうだと思っていた。
ネクサス王国内で力を持ち始めたであろうシレノル。その1番の弱点であった女性はいない。それなら、誰を狙うか。息子の情報が流れたとしたら、それを狙うのが合理的だろう。
その狙いが大魔法使いの塔にいたとしても躊躇なく行ったことは不可解ではあるが。
「想定の範囲内なので、わざわざ殿下がいらっしゃらなくても問題なかったのですが」
「そういうわけにはいかないです」
すぐに否定をされ、オクルスは僅かに笑みを浮かべた。想像以上に義理堅い人だったようだ。彼に裏切られた可能性を疑ったのが申し訳ない。
シレノルを見ていると、彼が気まずげに目を伏せた。
「それに……」
「……?」
言いにくそうにしているシレノルを見て、オクルスはぱちりと瞬きをした。しばらくは俯いていたシレノルだったが、覚悟をしたように顔を上げる。
「今、魔法が使えないでしょう?」
「え……、あ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。シレノルの言葉を理解して、すぐに自分の魔法を確認しようとした。
確かに。シレノルの言う通り。魔法を使おうとしても、何も起こらないのだ。心の中に、ぽっかり穴が空いたような感覚で、オクルスは黙り込んだ。
襲撃者が来た時、魔法が使えなかった。しかし、それは一時的な話だと思っていたのだ。今も使えない。そして、それに気づかないほど気を抜いていた自分にも愕然とした。
あの襲撃以外では何も起こらないかのように。完全に油断していたのだ。
言葉を失ったオクルスを見たシレノルが申し訳なさそうにしながらも、オクルスから目を逸らさなかった。
「うちの国で、魔法を無効化にする薬が開発されたようで。それがナイフに塗ってあったようです。申し訳ありません」
「ああ、なるほど」
原因が分かっているのだから、焦る必要はないだろう。そう自分に言い聞かせようとしたが、喪失感に少しだけ呼吸がしにくくなった気がする。
「その効果は、いつくらいに消えるのですか?」
「現在、調査中です」
つまり、どれくらいの期間かも分からない。もしかしたら、一生。そう考えると、背筋が凍る感覚がした。
大魔法使いである自分から、魔法をなくせば何が残るのか。そもそも、大魔法使いでいられるのか。
じわじわと不安が心を侵食していく。それを振り払うように、オクルスは笑みを浮かべた。
「分かりました。確認ができたら教えてください」
「それはもちろんです」
シレノルからの連絡を待つか、あるいは独自の調査をするしかない。エストレージャの方をちらりと見ると、すぐにオクルスの視線を認識したエストレージャがこちらを向いて頷いた。何らかの対応に動いているということだろう。少しだけ心が落ち着いた。
シレノルに視線を戻してから、ふと思い出す。折角、ヴァランとの初対面なのに、まだ会話をしていない。オクルスは隣に座るヴァランをちらりと見てから、シレノルに提案した。
「それより、ヴァランとお話をなさったらいかがですか?」
「ありがとうございます」
シレノルが少し頬を緩めたのを見て、やはり彼はそれも目的としてここまで来たことを把握した。
2人の対面を邪魔してはいけないだろう。オクルスはヴァランの表情を見ようとしたが、彼は俯いていた。
「ヴァラン」
「……」
ヴァランはシレノルに近づこうとしなかった。むしろ、シレノルとは距離をとるようにオクルスの近くによってきて、服の裾を握った。
「ヴァラン?」
オクルスがヴァランの顔を覗き込もうとしたところで、彼が顔を上げた。その表情には、複雑そうなものだった。
「本当に、僕の父親なんですか?」
その言葉に、オクルスは目を見張る。シレノルを疑うような言葉。数年前から事実を知っているオクルスと違い、ヴァランは数日前に知ったばかりだ。しかもオクルスの手記を通して。それなら、まだのみ込めない気持ちは分かる。
それでも、シレノルを傷つけるようなことを言えば、のちにヴァランが自身の発言に苦しめられてしまう。
「ヴァラン。君はそのうちシレノル殿下の所に行くんだから、そんなこと……」
言っては駄目だ、と咎めようとした。しかし、それを制すようにヴァランが睨みつけてきた。
「オクルス様。ずっと、ここにいても良いって言ったじゃないですか!?」
その仄暗さを感じる目に、オクルスは息を呑んだ。いつもオクルスへにこにこと柔らかい笑みを浮かべているヴァランだからこそ、彼の感情の消えた表情に身動きがとれなくなる。
それでも、オクルスは言葉を選びながら口を開く。
「いや、駄目って言っているんじゃなくて……」
「絶対に嫌です。あなたから離れません」
オクルスの言葉を最後まで聞こうとせずにヴァランが部屋から出て行ってしまい、呆然とそれを見送った。ヴァランは話すらする気はないようだ。彼を傷つけてしまったのだろうか。
オクルスが固まっていると、シレノルが立ち上がった。
「私が話をしてきます」
「……シレノル殿下」
シレノルも傷ついていないだろうか。彼の表情を確認するが、そこには穏やかな笑みが浮かんでいるだけだった。
「大丈夫です」
そう言ってヴァランの後を追っていったシレノルを、オクルスは黙って見送った。
「オクルス様、申し訳ありません」
シレノルに頭を下げられ、オクルスは首を傾げた。
ヴァランとシレノルの感動の親子再会を見られるかと思ったのに。なぜ、オクルスの方ばかりをみているのか。
「……ええっと」
オクルスは助けを求めたくてエストレージャのほうを向く。彼は諦めろ、と口を動かした。助け船を出す気はないらしい。オクルスはエストレージャを軽く睨んでから、シレノルへと向き直る。
「……シレノル殿下。何の謝罪ですか?」
「うちの国の貴族が、ヴァランのことを攫おうとして、この塔を襲撃したようなので」
「ああ、なるほど」
目的はヴァランを誘拐し、シレノルを脅すための手段とするためだったのか。それが1番あり得そうだと思っていた。
ネクサス王国内で力を持ち始めたであろうシレノル。その1番の弱点であった女性はいない。それなら、誰を狙うか。息子の情報が流れたとしたら、それを狙うのが合理的だろう。
その狙いが大魔法使いの塔にいたとしても躊躇なく行ったことは不可解ではあるが。
「想定の範囲内なので、わざわざ殿下がいらっしゃらなくても問題なかったのですが」
「そういうわけにはいかないです」
すぐに否定をされ、オクルスは僅かに笑みを浮かべた。想像以上に義理堅い人だったようだ。彼に裏切られた可能性を疑ったのが申し訳ない。
シレノルを見ていると、彼が気まずげに目を伏せた。
「それに……」
「……?」
言いにくそうにしているシレノルを見て、オクルスはぱちりと瞬きをした。しばらくは俯いていたシレノルだったが、覚悟をしたように顔を上げる。
「今、魔法が使えないでしょう?」
「え……、あ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。シレノルの言葉を理解して、すぐに自分の魔法を確認しようとした。
確かに。シレノルの言う通り。魔法を使おうとしても、何も起こらないのだ。心の中に、ぽっかり穴が空いたような感覚で、オクルスは黙り込んだ。
襲撃者が来た時、魔法が使えなかった。しかし、それは一時的な話だと思っていたのだ。今も使えない。そして、それに気づかないほど気を抜いていた自分にも愕然とした。
あの襲撃以外では何も起こらないかのように。完全に油断していたのだ。
言葉を失ったオクルスを見たシレノルが申し訳なさそうにしながらも、オクルスから目を逸らさなかった。
「うちの国で、魔法を無効化にする薬が開発されたようで。それがナイフに塗ってあったようです。申し訳ありません」
「ああ、なるほど」
原因が分かっているのだから、焦る必要はないだろう。そう自分に言い聞かせようとしたが、喪失感に少しだけ呼吸がしにくくなった気がする。
「その効果は、いつくらいに消えるのですか?」
「現在、調査中です」
つまり、どれくらいの期間かも分からない。もしかしたら、一生。そう考えると、背筋が凍る感覚がした。
大魔法使いである自分から、魔法をなくせば何が残るのか。そもそも、大魔法使いでいられるのか。
じわじわと不安が心を侵食していく。それを振り払うように、オクルスは笑みを浮かべた。
「分かりました。確認ができたら教えてください」
「それはもちろんです」
シレノルからの連絡を待つか、あるいは独自の調査をするしかない。エストレージャの方をちらりと見ると、すぐにオクルスの視線を認識したエストレージャがこちらを向いて頷いた。何らかの対応に動いているということだろう。少しだけ心が落ち着いた。
シレノルに視線を戻してから、ふと思い出す。折角、ヴァランとの初対面なのに、まだ会話をしていない。オクルスは隣に座るヴァランをちらりと見てから、シレノルに提案した。
「それより、ヴァランとお話をなさったらいかがですか?」
「ありがとうございます」
シレノルが少し頬を緩めたのを見て、やはり彼はそれも目的としてここまで来たことを把握した。
2人の対面を邪魔してはいけないだろう。オクルスはヴァランの表情を見ようとしたが、彼は俯いていた。
「ヴァラン」
「……」
ヴァランはシレノルに近づこうとしなかった。むしろ、シレノルとは距離をとるようにオクルスの近くによってきて、服の裾を握った。
「ヴァラン?」
オクルスがヴァランの顔を覗き込もうとしたところで、彼が顔を上げた。その表情には、複雑そうなものだった。
「本当に、僕の父親なんですか?」
その言葉に、オクルスは目を見張る。シレノルを疑うような言葉。数年前から事実を知っているオクルスと違い、ヴァランは数日前に知ったばかりだ。しかもオクルスの手記を通して。それなら、まだのみ込めない気持ちは分かる。
それでも、シレノルを傷つけるようなことを言えば、のちにヴァランが自身の発言に苦しめられてしまう。
「ヴァラン。君はそのうちシレノル殿下の所に行くんだから、そんなこと……」
言っては駄目だ、と咎めようとした。しかし、それを制すようにヴァランが睨みつけてきた。
「オクルス様。ずっと、ここにいても良いって言ったじゃないですか!?」
その仄暗さを感じる目に、オクルスは息を呑んだ。いつもオクルスへにこにこと柔らかい笑みを浮かべているヴァランだからこそ、彼の感情の消えた表情に身動きがとれなくなる。
それでも、オクルスは言葉を選びながら口を開く。
「いや、駄目って言っているんじゃなくて……」
「絶対に嫌です。あなたから離れません」
オクルスの言葉を最後まで聞こうとせずにヴァランが部屋から出て行ってしまい、呆然とそれを見送った。ヴァランは話すらする気はないようだ。彼を傷つけてしまったのだろうか。
オクルスが固まっていると、シレノルが立ち上がった。
「私が話をしてきます」
「……シレノル殿下」
シレノルも傷ついていないだろうか。彼の表情を確認するが、そこには穏やかな笑みが浮かんでいるだけだった。
「大丈夫です」
そう言ってヴァランの後を追っていったシレノルを、オクルスは黙って見送った。
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