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3部
3-4
※途中から視点が変わります
◇◇◇◇***◇◇◇◇***◇◇◇◇***◇◇◇◇
そこからは怒涛の2週間でございました。
キャメロンさんがご実家の商会を呼んで、靴や宝飾の類を決めて、頭の中で埃をかぶって忘れかけてたダンスを復習。連日のダンス練習で筋肉痛が治る暇がございません。マーサによって全身ゴリゴリに磨かれて物理的に一皮、二皮剥けた気がいたします。
夜会当日、送り出された私はマーサの渾身の力によって絞められたコルセットと緊張があいまって虫の息でございます。
夜会が行われるのは王城ですが、騎士棟へ出入りする時とは違い正面からお邪魔いたします。荘厳な城の構えと色とりどり煌びやかな貴族たちの雰囲気に固まり「…息子よ。帰ってロバートに絵本を読んで一緒に寝むりたい」と言ってみましたが、当然却下されてしまいました。
よくよく考えたら私デビュタントボールにも参加していないので、公の社交場に出るのは初めてなのでは…?
(断罪劇の夜会は公の社交場参加に入りますでしょうか?)
旦那様、草葉の陰で微笑んでいないでお助けください…!
◇◇◇◇***◇◇◇◇***◇◇◇◇***◇◇◇◇
国王主催の夜会は留学する第一王子アルファードの壮行も兼ねていた。故に、日頃表に出ることはない第一王子妃キャンベラも王族席に座っていた。白地に薄い桃色で小花を散らした刺繍が施されたプリンセスラインのドレス。ピンクの髪はハーフアップにして金の髪飾りで留めている。胸下に光る金のネックレスには大きなアクアマリンが嵌め込まれている。既婚者とは思えぬ少女のような風貌とキョロキョロと辺りを見回す落ち着きのない子供のような振る舞いを注意する者はいない。
「オリオン、こっちよ!私の後ろに来て」
壁際で会場警備をするオリオン・レイスを見つけ、第一王子妃が大きな声で呼ぶ。
歓談していた会場内の貴族達がヒソヒソとオリオンと第一王子妃を盗み見ているが、オリオンはその場から動かない。キャンベラは言うことを聞かないオリオンを連れてくるように侍従に命じるも、隣に座るアルファードがそれを止めた。
「会場警備は近衞の隊長と私が決めている。勝手な真似をするな」
隣を見ることもなく告げるアルファードの態度に、不満を隠さず頬を膨らませたキャンベラが露骨に睨みつける。
会場へとやってきた貴族達は爵位の高い者から国王夫妻と第一王子夫妻に挨拶をしてゆく。一言、二言言葉をかわすのだが、キャンベラは学園時代の取り巻きが挨拶に来るたび立ち上がって手を握り甘えた声で挨拶していた。隣にいる妻や婚約者の存在は全て無視して。
「全然会いに来てくれないんだもの、寂しかったわ。是非王子宮に遊びに来てね」
彼らはやんわりと曖昧な返事で返し、キャンベラの手から逃れ下がって行く。
アルファードは何の感情も伺えぬ笑顔で全てを流していた。
が、不意にアルファードが息を飲み、一点を見つめて柔らかな笑みを見せた。
視線の先には美しく洗練された所作で国王夫妻と挨拶を交わすシセーラ・フロスト公爵令嬢の姿があった。
以前より大人びて艶を帯びた姿に、金糸の刺繍が施された夜空のような色のドレスがよく似合っていた。編みこまれた白金の髪には所々真珠の飾りがあしらわれている。父親のエスコートで前へと進み、挨拶を交わすと琥珀の瞳にアルファードの姿がうつる。
それだけでアルファードは泣きたいような気持ちになった。
「シセーラ、ひさ「お久しぶりね、シセーラ。あなたまだ婚約者も見つからないの?」
アルファードの声を遮りキャンベラが前に出る。礼儀を弁えない態度にも表情を変えることなく、シセーラは優雅に礼をして挨拶を返した。
「お久しぶりでございます、アルファード殿下、キャンベラ妃殿下」
「ごめんなさいねぇ、アルファードさまがわたしを選んじゃったから。領地に引きこもってしまっていたのでしょ?可哀想に。今度お茶会に呼んであげるわね~」
「お心遣い痛み入ります。しかし、娘には縁談の申し込みが幾つか来ておりまして、なかには国を越えたものもあり選ぶのに時間がかかってしまっているだけですので、ご心配には及びません。では失礼を」
フロスト公爵は笑顔であるが、終始目が笑っておらず殺気さえ放っていた。
しかしアルファードの内心を動揺させたのは殺気ではなく、シセーラに来ているという縁談話だった。王族として動揺を表に出すことはなく、笑顔を保っていたが、ついシセーラを見る瞳に縋るような揺らぎが出てしまっていた。
キャンベラはそれを見逃さない
「よかったわね、アルファードさま!外国なら彼女が婚約破棄された傷物の令嬢だなんて知らないでしょうから、貰い手もあるのでしょう」
挨拶を終えて背を向けたフロスト公爵父娘に聞こえるような声で言い、アルファードの腕に絡みついてしなだれ掛かる。隙をついて絡みつかれたアルファードは腕を解こうと動くが、余計に引き寄せ豊満な胸を押し付けてくる。甘ったるい香水の香りに眉を顰めた時、会場が俄かに騒ついた。
「あれは…」
「まさか…」
「だが、エスコートなさっているのはボルト男爵だ」
「なら、彼女が?」
「私も本人を見るのは初めてですわ」
「…前ボルト男爵夫人?」
「セレナーデ・バーンハイム子爵令嬢」
騒めく貴族たちの視線が会場の入り口へと注がれていた。
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