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3章 辺境の地ライムライトへ

6、ケイはチョコレートをもらう

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前のページに戻るのがめんどい人用の登場人物表
(/の先はレオンハルトの呼び方)

◯レオンハルト・ドレイク
 辺境ライムライトのギルマス 竜人/俺
◯ケイ
 元暗殺者の少年/レオンハルトさん
◯ロイ
 リーダー弓士/ギルマス
◯ヘルマン
 ~っす! 弓士/レオンさんっす!
◯ヒューイ
 兄 前髪ぱっつん帽子 銃士/レオンさん
◯マグナス
 弟 凶悪顔 盾役/…………ボソッ…………
◯ユキト
 拙者 風属性の魔法剣士/レオンハルト殿
◯ゴルド・ジュスト
 双子兄。メレキオールのギルマス 右眼に片眼鏡/レオンハルトさま
◯シルバ・ジュスト
 双子弟。メレキオールのギルマス 左眼に片眼鏡/レオンハルトさま

 ※文中に残虐な表現が含まれます。
…………………………………………………………………………

「一緒に住むなんて話は聞いてないけど!?」
「あれーー? 言ってなかったっけか?」

 首を捻ったレオンハルトは届けられた特大の樽ジョッキに入ったエールをごっきゅごっきゅと音を立てて飲み干した。

 レオンハルトと一緒に住む……。想像しただけで肌が粟立った。怖いわけではなく、一緒に住んだが最後、なし崩し的に手を出されて番われそうだからだ。

 レオンハルトはすでに次のジョッキを手に持っている。僕の顔ほどもある特大樽ジョッキがテーブルにずらりと並ぶ様は壮観だ。

 口の端についた泡を服の袖でざっとぬぐったレオンハルトは笑みを消して口を開いた。

「暗殺者ギルドの本拠地は潰したが、その場にいなくって捕まってねえ残党もいる。ギルド壊滅の原因の一端がお前にもあると思ってる奴もいるだろう。俺がしでかしたことだし、俺ァお前の保護者でもあるからお前を守る義務がある。一緒に住んでたほうが守りやすいだろ」

「「わたくしたちもそうしたほうが良いと思いますよ」」

 ワイングラス片手にメレキオールのギルマス二人が唱和した。

「「暗殺の依頼主がつい先日亡くなられたそうですから」」

 コップを思わず取り落としそうになった。

 死んだ? 依頼主が?

 僕は暗殺の依頼主を知らない。僕のような下っ端は実行部隊で、詳しい依頼内容は何も知らされない。上から命令を受けてただ実行するだけだ。

 依頼主は確か首領は断れない筋からと言い、ゴルドさんとシルバさんは高貴な身分の人だと言っていた。ということはどこかの貴族だろうか。

 ギルドがレオンハルトによって潰されたこのタイミングで依頼主が亡くなったということは、少なくとも病気や怪我が原因ではないだろう。

 つまりは依頼内容に不満を持った誰かに殺された、という訳だ。
 そしてその誰かとは、一人しかいない。

「その……、ゴルドさんとシルバさんは依頼主のことを知ってるんですか?」

 僕が二人に聞くと、少しだけ難しそうな顔をして眉根を寄せた。

「ええ、王都のギルドから連絡がありましたから……。でも……」
「わたくしたちの口から名前はちょっと……」

 二人がせっかく言葉を濁したのに、レオンハルトは世間話でもするように依頼主を暴露した。

「この国の第五王子だってさ。イグなんちゃらってなっがい名前のヤツ」
「はぁ……、レオンハルトさま。王子殿下の名前くらい覚えて下さいよ」
「王族は人数が多いからいちいち覚えちゃいらんねぇよ」
「レオンハルトさま、イグネイシャス・モンタギュー・レ・エクラン第五王子殿下ですよ。イグネイシャス王子殿下の資金源を軒並み潰しておいて、まさか名前も覚えていないのですか?」

 ゴルドさんが右眼の片眼鏡を、シルバさんが左眼の片眼鏡を同時に押し上げて、同時にため息をついた。

「はぇ? 王子の資金源って何のことだ?」

 ぽかんとして何を言われたか分かっていないようなレオンハルトの態度に二人は顔を見合わせて説明をし始めた。

「大きな所ですと王都の老舗のコダック商会とメレキオールの裏カジノでしょうか……。それにほら、娼館『天国への扉』もそうだったらしいですよ……」

 資金源を潰されレオンハルトを恨んでいたイグネイシャス王子が暗殺者ギルドに依頼をした。しかしレオンハルトは王子の資金源を潰したことに全く気付いていなかったようだ。何だか王子が可哀想になってきた。メレキオールの街に入ったとき、レオンハルトが言っていた王子が死んだというのはこのイグネイシャス王子のことだったらしい。

 ヘルマンさんおすすめの淡雪姫苺のジュースをストローで一口飲む。酒のように水で傘増しはしていないのか姫苺の味がしっかりと感じられて美味しい。机の上にグラスを置いて、指でグラスについた水滴をなぞる。グラスに映る自分の顔がふるりと震え、僕が一番印象に残っている、ある一人の男の顔が浮かんだ。

 初めて言葉を交わしたあの人は、外見が三十代後半くらいで、足がすっきりと見える先細りの黒いテーパードパンツにネイビーのシャツ、その上にロング丈の黒いコートを羽織っていた。庶民にありがちなブラウンの髪と瞳なのに、その整った目鼻立ちと疲れたような削げた頬がどこか危うい色気と野性味を感じさせる男だった。

『K、今日からぼくが君の指導を受け持つことになった。ぼくが君を立派な暗殺者ニンギョウに育ててやる。ぼくには絶対服従で。反抗したり逃走したら殺すから』

 しかし口を開くと、外見の割には小生意気な少年のような言葉遣いだった。でも不思議と調和が取れている。いつもの『変身メタモルフォーゼ』ではない、もしかしたらこれがこの人の本当の顔だったのかもしれない。

 この日から僕は、彼に毎日のように訓練でボロボロにされ、時には生と死の境を彷徨った。

『暗殺に失敗した場合は速やかに死ね。まあでもKが失敗するような相手はそうそういないと思うけどね』

 何度もくどいほど失敗は死だと言われていたのに、僕は命令を守れなかった。

 王子を殺したのは『エース』だろう。

 そもそも優秀な護衛が幾人も付いている王族を殺すことなど、Aならともかく若輩者の僕には不可能だということは分かり切っていた。暗殺者ギルドがレオンハルトに潰された遠因は、無茶な依頼を強要した依頼主にあるとAは考えたのだろう。

「『深海』の凄腕の暗殺者が逃走したとの連絡はフィラかシルフィからお聞きになりましたか?」
「レオンハルトさまを狙っているということも」
「レオンハルトさまでしたら誰が相手でも負けることはないでしょうが」
「「どうぞお気を付け下さい」」

 さすが双子。相変わらず言うことが全く同じだ。

 ただでさえ敏捷性を上げる身体強化の特異能力を持っているのに、さらにその速さを二倍にする神具『疾風雷神ライトニングスピード』を持つA。至高の速さを持つ人殺しに特化した凄腕の暗殺者と魔王討伐の英雄の竜人。二人の戦いを見てみたいような気もするが、どのみちろくなことにはならないだろう。

 そしてAが追っているのは直接的に暗殺者ギルドを壊滅したレオンハルトだけじゃない。暗殺に失敗したのになお、のうのうと生き残っている僕もだ。

「……………………ぅ。」

 考え込んでいると斜め前からすっと綺麗な包装紙で包まれた小さくて丸いものが差し出された。マグナスさんだ。大熊ビッグベアーのような大きな手に蓋が開いた宝石箱のような箱を持っている。手が大きいので箱がすごく小さく見える。仕切り用トレーが一つ空いているのでその箱から出されたものだろう。

 横のヒューイさんを見ると頷いたので、手のひらで受け取って包装紙を開けた。とたん甘い香りと少しだけつんとするお酒の匂いがした。

「チョコレートボンボンです。マグナスがどうぞって」
「もらっていいの?」
「……………………ん。」

 異世界とは違い、この世界にカカオは自生していない。ある落ち人がどうしてもチョコレートを食べたいからとこの世界の植物を探した結果、レガッタという木の実がカカオと同じものであると分かったため、レガッタを栽培して加工し、最近ようやく金持ちの庶民の口にも入るようになった高級品だ。甘くて美味しいと噂には聞いていたが初めて見た。

 冒険者は儲かると聞いてはいたが、まさかこんなお高い甘味を気前よく分けてくれるとは……。そんなにも僕の様子がおかしく見えたのか。

 一口大のチョコレートを口に入れて歯で噛むと、中から濃厚な酒の味がじゅわっと口内に広がった。

「わ、甘くて美味しい! ありがとうございます」

 口をモゴモゴさせてお礼を言ったらマグナスさんの顔がぐしゃっと凶悪に歪んだ。この顔は笑顔なんだけど、たまたまその顔を見てしまったらしい隣のテーブルの女冒険者が、ひ、っとしゃっくりのような声を上げて顔を真っ青にした。マグナスさんは無茶苦茶良い人なんだけど、顔で誤解されるタイプだ。

 ガタガタと席を立って店を出て行く隣のテーブルの冒険者パーティーを眉を顰めて見ていたヒューイさんがジョッキの中身を一気に呷った。酔いが回っているのか、席を立った冒険者パーティーに腹を立てているのか、目が据わっている。

 空気を変えるようにロイさんがウイスキーの入ったグラスを目の高さまで掲げた。氷同士がぶつかり、からんと音が鳴る。

「そういやギルマス、今回王都で暴れたんだってなあ」
ってなんだよロイ。それじゃいつも俺が問題を起こしてるみたいじゃねぇかぁ」
「オレ知ってるっす! 王都の暗殺者ギルドを短期間で二つも潰したっていうじゃないっすか! 『大地』はともかく『深海』って腕がいい暗殺者がめっちゃいるって聞くっすよ。それを壊滅させるなんてレオンさんすげえっす!」

 ヘルマンさんはキラキラとした尊敬の眼差しをレオンハルトに向けた。魔王討伐から長い時は過ぎたけれど、まだこの世界にはヘルマンさんのとうにレオンハルトをこの国を救った英雄の一人として崇め、心酔している人が多い。

「噂を聞くところに依れば『深海』には神具持ちの凄まじき腕を持つ高名な手練が居ったとのこと。それに近頃は氷属性のわらしも名を上げていたと聞く」
「そんなすげえ奴らが所属してるギルドをあっという間に潰すなんてやっぱレオンさんはすげえっす! リスペクトするっす!」
「おいおい、俺をリスペクトするって言ってたのはどこのどいつだよ」

 ロイさんがヘルマンさんのおでこを指で弾いて突っ込んだ。

「うへえ、ひどいっす! ロイさんが叩いたっす! これ以上頭悪くなったらどうしてくれるっすか!」
「其れ以上ヘルマン殿の頭が悪しくなることはござらぬ。ご安心召されよ」
「ユキトさんが何気にひどいっす!」

 ユキトさんがニコニコ笑顔でヘルマンさんの髪を手で混ぜてぐちゃぐちゃにした。ヘルマンさんは調子のいいところはあるが、素直で飾り気がなく、明るくて無邪気な所が年上のメンバーにとっては可愛く見えるのだろう。

「レオンハルトさん。さっきから気になっていたのですが、ケイくんが暗殺者ギルド壊滅の一端とはどういう事ですか?」

 じゃれ合う二人を横目にヒューイさんがまだ火のついていない煙草を指がわりにして僕を指し示した。

「さっきから話題に出てる氷属性の暗殺者ってコイツのことだよ。で、コイツが俺を殺しに来たから返り討ちにして、そん時につがいだって気付いたからギルドぶっ飛ばしてコイツを攫って来た」

 レオンハルトがさらりと言うと、同じテーブルに着いていた全員の視線が僕に集中した。この人達はレオンハルトがギルドマスターを務めるライムライトを拠点とする冒険者パーティーだ。これから先、成人するまでレオンハルトの傍にいないといけない僕とは接点が増えてくるだろう。どうせいつかは元暗殺者ということが知られる。それは早い方がいい。でも。

 人殺しを生業とする暗殺者は嫌われ者だ。デュラハンの冒険者ギルドでシルフィオーネさんとその周りの精霊たちが僕を警戒したように、僕が一般人なら絶対にお近づきになりたくない、傍にいてほしくない職業の人間だ。

「元」とは言え暗殺者だったことに変わりはない。暗殺者だと周りに知られれば怖がられて嫌われる。『天上の射手』のメンバーも、僕が暗殺者だと分かった以上、距離を取ってくるに違いない。

 そう思ったのに。

「略奪愛っすかーー!!??」

 少し的外れなヘルマンさんの能天気な一言でその場の空気が一気に弛緩した。

「差し向けられた暗殺者がつがいだなんて、もしかしてレオンさんの幸運ラック値ってMAXですか!?」
「……………………。」
「ヘルマン、ヒューイ、左様に興奮するでない。レオンハルト殿のなんと羨ましきことよ。拙者もはよう意中の女子おなごと……」
「氷属性って珍しいなぁ。お! ちょうどいい。ウイスキーロックで飲むのにもうちょい氷が欲しかったんだよ。おい、ケイ。ちょっとこのグラスに氷出してくれや」

 ロイさんに期待の籠もった目でぐいぐいとグラスを押し付けられ、仕方なく氷魔法で氷を出すと、ロイさんが魔法の短縮詠唱に目を見張った。

「おお、凄え! いっぱしの魔術師でも詠唱破棄できるヤツはそうそういないんだぜ」

 嬉しそうに氷が入ったグラスにウイスキーを注いでマドラーでかき混ぜたロイさんは、鼻で香りを楽しんでから美味しそうに少量ずつ口に含んだ。

「うん、美味い」

 とても幸せそうな笑顔だった。

 人を傷つけるためだけに使ってきた氷魔法。でもこの日、僕は初めて人殺し以外の用途で氷魔法を使った。お酒に入れる氷を作っただけのほんの些細な魔法だけど、それが誰かの役に立ったという経験は初めてだった。何だか胸の奥に温かい小さな火が灯ったそんな気持ち。これが『嬉しい』という感情なのかもしれない。

「みんなは……なんでそんなにも普通なの? 元暗殺者だよ? 僕が怖くないの?」

 上を向いてしまうと目から水が出てしまいそうだったから、下を向いて唇を噛み締めた。

「んーー、だって俺らも同じようなもんだし」

 ロイさんがグラスをテーブルに置いた小さな音が、僕の耳にいやに大きく響いた。

「ケイはさ、暗殺者って職業をしてたってだけで、普段から人を殺して回ってる訳じゃねえだろ。それとも何か? 暗殺者だからって俺らを殺すか?」
「依頼じゃないならそんなことしない」

 小さく首を振った。目が合った人全員を殺すなんて、それは暗殺者ではなくただの殺戮者だ。

「俺ら冒険者だって人殺しさ。盗賊の討伐や護衛任務は冒険者の仕事の一つだ。今度俺らが山賊の討伐に行くのは知ってるだろ? 全員を討伐、つまり皆殺しにしろって言われてる。奴らを一度でも取り逃がせば別の場所で同じことを繰り返して人間を襲う。そうならないように確実に仕留める。今までだって討伐や護衛任務で襲って来た盗賊を返り討ちにして射殺すことなんざ日常茶飯事だった」
「傭兵も金で雇われて利害関係のない戦争に首を突っ込んでいるではないですか。わたしたち冒険者や傭兵も仕事で人を殺します。どうです? やっていることは暗殺者と同じでしょう? わたしが怖いと思うのは、意味もなくただ好きで人殺しをしている奴ですよ」

 ヒューイさんの言葉に倣うようにうんうんと頷いたマグナスさんが、チョコレートの入った箱からまた一つ中身を取り出してずいっと僕に差し出してきた。

「……………………ん。」
「もっと食べていいよ、だそうです」
「……えっ、あ、ありがとうございます」

 ぱっと俯いていた顔を上げると、ひょいっと口の中にチョコレートを押し込まれた。甘い味が口の中に広がる。

「あーー!! ケイに『あ~ん』していいのは俺だけだぞ! 俺だってまだ不意打ちで一回しかしたことねぇのにっ!!」

 レオンハルトが悔しげに叫んだ。
 チョコレートを今度は噛まないように、口の中で溶かすように舐める。

「ちょっとしか一緒にいないっすけどケイくんがとってもいい子だって分かるっすよ! 挨拶もできるしお礼もちゃんと言える子に悪い子はいないっす!」

 ヘルマンさんが自信を持って言い切り、僕の頭を撫でた。それを見たレオンハルトがムッとした顔で頭にあった手をパシリと叩き落とした。

 甘いものを食べると幸せな気持ちになるということが初めて分かった気がした。
…………………………………………………………………………

【間話】
(side.アレックス 広がった世界)

「お前ら、エサの時間だ」

 その声でぼくたちの一日が始まる。

 ぼくたちは実験途中の魔力増幅剤を注射されたあと、狭い牢へと閉じ込められた。そこに黒いローブを纏った魔術師がほんの少しだけ食料を入れる。

 最初こそみんなで分け合って食べたが、それだと腹に入る量が少なすぎる。食べ盛りの多くの子供達と少ない食料。何が起きるのか自明の理だった。牢の中で少ない食料を奪い合う子供同士の殺し合いが始まった。

 性差も体格の差も関係なかった。弱いものは死に、強いものが生き残る世界。どんなに身体が大きく頑強な相手でも、殺さないと自分が逆に殺される。

 その狭い牢の中だけが幼かったぼくの世界の全てだった。自分の名が『アレックス』であることも忘れてかけていた。

 身体が小さくて力の弱いぼくが生き残るために最初に身に付けたのは『速さ』だった。食料を牢に入れられた瞬間、一番早く食料を手に入れて腹に詰め込んでしまえばいい。

 ーー誰よりも早く。速く。

 誰かに傷つけられないように極限まで気配を消して周りに埋没するように。

 ーー気配を完全に遮断。

 そしてこの小さな身体では強い者に襲われればひとたまりもない。身体を鍛えるまでの間、自分を守れるように。それなら牢の中で一番屈強な肉体を持つ男の姿と強さを擬態すればいい。

 ーー外見も強さも、そいつの存在そのものになるように。

 こうして手に入れたのが速さスピードに特化した身体強化と完全な気配遮断と変身メタモルフォーゼの能力だ。

 能力が発現してからは殆どの時間を別人の姿で過ごした。『本当の自分アレックス』を忘れそうになるほどの長い長い時間。

 でもある日突然、牢の前に戦斧バトルアックスを持ったオーガのような大男が立った。男の身体からはむせ返るほどの嗅ぎ慣れた血の匂いがした。

「行くところがないなら俺についてくるか? 俺が少し鍛えりゃ、おめえの能力ならあっという間に暗殺者のトップになれるだろうよ」

 そう言われて反射的に手を取った。

 牢の中でも牢の外でもやることは変わらないヒトゴロシ

 でも、少しだけ世界が広がった気がした。
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