13 / 146
序章3 新たなる恋? 川岸で、脱がされて……!
第2話 白い裸身の女
しおりを挟むEXPERとは、EXTRAPOWER、つまり超常能力の実行者をさす造語である。超常能力者の中でもプロとして活動している者をさし、隼人や香代も奈美坂精神病院を“卒業"したあとは、EXPERになる予定だった。隼人は超常能力を持つであろうこの女が、自分を追ってきたのではないかと考えた。
「あんた、見たところ若いようじゃが、貴重な青春を、つまらん仕事で無駄にせんようにな」
一郎の言葉に、女が笑って返す。
「8月いっぱいは夏休みですから。明るいキャンパスライフは、来月以降の楽しみにとってあります」
強い風に、女の黒髪が逆立つように揺れた。隼人よりも短いショートヘアだ。
「あ、そうだ……」
ふと、思い出したかのように彼女はいったん、戸を閉める。
「もうひとつ聞きたいことがあるんです。実は、“研修施設"から、ひとり子供が逃げ出したらしいんですけど、その件はご存知じゃありません?」
隼人の背中が汗を吹く。それは間違いなく自分のことだった。一郎が答える。
「そっちのほうも知らんのう」
女は乱れた髪を手でなおした。染髪していないその黒髪は綺麗なものである。こんなときに隼人はふと、香代のことを思い出してしまった。
「そうですか……」
女が、ため息をつく。
「わたしも詳しいことは聞いてないんですけど、かわいい顔をした男の子だそうです。“追っ手"が数名、出ているみたいですけど、らしい子を見かけたら、御連絡ください。」
ポケットから取り出したメモ帳に電話番号を書き、それを破ると、女は一郎に手渡した。
「もし、逃げ出したその子を捕まえたら、どうする気かね?」
「偏見がおありみたいですけど、野蛮な真似はしません。ただでさえ人手不足の今、“人材"は貴重なんです」
女は一礼すると、戸を開け、暴風雨の中に消えた。傘をさせるような状況ではない。彼女は、濡れながら帰って行った。
「おじいちゃん、今の人……」
啓子が心配そうに一郎を見た。
「たまには、若い女の客があってもよかろう。口ぶりから察するに、大学生らしいぞ」
啓子にそう言ったあと、一郎は、ちらと隼人のほうを見た。
「隼人君も、そう思うじゃろ?」
訊かれた隼人のほうは“ヤバい"というのが本音である。あの女EXPERが彼を追って来た、というわけではなさそうだが、それでも、関わりあいにはなりたくないというのが隼人の心境であり、できることなら、このまま首払村から出て行ってほしかった。そうならなければ、隼人のほうが出ていかねばならなくなるかもしれない。
「なにしに来たの? あの人」
おそるおそるした隼人の質問に、一郎が答えた。
「“探しもの"じゃよ……」
8月9日。
昨日とは、うってかわって晴天になった。地面が吸い込んだ水分を、輝く太陽がさんざんに蒸発させ、足下から発生した不快な湿気が空気中に充満している。その上で、頭のてっぺんが直射日光で焼けそうに熱いのだから、たまったものではない。
「暑いなぁ……」
上下二段の暑さにさらされながら、隼人は一人で首払村の道を歩いていた。
今日、啓子が通う小学校は夏休みの登校日だ。一郎も用事で出かけているため、隼人は留守番であった。昨日来た女がまた来るのではないか。そう考えた隼人は、一郎が帰る時間まで外で時間をつぶすことにしたのである。居留守を使うことも考えたが、女が持つ超常能力の性質によっては、バレてしまうことも考えられる。もし、索敵系の超常能力の使い手だとしたら、ごまかしはきかない。
先日、一郎と訪れた川は、昨日までの大雨で水量が増しているように見える。滝が落ちる様は相変わらず見事なもので、辺鄙な集落にも、風流のひとつくらいはあるものだと見る者に教えてくれる。
ここでしばらく時間をつぶそうと考えた隼人は川岸に降りた。大きな音を鳴らす滝がもたらすマイナスイオンにでも癒やされようか。と思ったとき、少年はそこに、女神のような裸身を見た。
黒髪のショートヘアの下にある白い体が、周囲の水に反射する陽の光をさらに反射し、眩しく輝く。豊かな乳房を持ち、しなやかにくびれたウエストを支える尻も見事なもので、それらはまるで、絵画に見る裸婦が持つような絶妙の丸みを帯びていた。思わず魅入ってしまった。
「誰ッ!?」
隼人の気配に気づいた女が、大きな胸を隠す。股間は水の中なので見えない。
「あら?あなたは、たしか……」
裸で水浴びをしている女は昨日、一郎邸を訪れた女EXPERだった。
「首払一郎さんの家にいた女の子ね。びっくりしたわ」
どうやら、隼人のことを女の子と思っているらしい。隼人にとっては、ある意味好都合である。相手が無害だと知ると、女は胸を隠していた手を下ろした。いくら小学生とはいえ、隼人も目のやり場に困ってしまった。
「まァ、びっくりしたのはそっちよね。一昨日、谷山で“あいつ"をとっ捕まえたあと、すぐこっちに来て、シャワーにもありつけなかったものだから」
先日、鹿児島市の産業道路を逃走していたP型の超常能力者と対峙していたのは、この女である。口ぶりから察するに、“戦闘"には勝ったようだ。
女がこっちに歩いてきた。したたり落ちる水滴が、その白く豊満な体から離れることを拒んでいるように見えてしまう。
「おまわりさんには、ナイショよ。公然ワイセツで捕まっちゃうから」
うん。と頷くと、女の下腹部が目に入ってしまうので、隼人は「はい」と返事した。
「私、河野和美っていうの。よろしくね」
置いてあったスポーツバッグからバスタオルを取り出し、和美は名のった。彼女のいやらしい体は、ほんの些細な仕草でも、ぷるんと揺れる。
「よかったら、あなたも水浴びしない?気持ちいいわよぉ」
和美の裸にみとれてしまっていた隼人は、ふと正気を取り戻した。これ以上いっしょにいたら、なにかと都合が悪くなる。
「い……い、い、いいえ結構です。し……しっつれいします!」
隼人は後ろを向き、全力でその場から逃げ出した。 あぜんとした和美がつぶやく。
「?おかしな子ねぇ……」
走り去る隼人の後ろ姿をみつめながら、細い二重まぶたをさらに細めた。
「それにしても、綺麗な子……」
首払村の道路は意外と広い。舗装もされており、昨日までの雨でぬかるんでいるということもない。そこを隼人は走った。汗をかきながら、全力で。
「もう!なんなんだよぉ」
走りながらも、隼人の頭に先ほど見た和美の豊満な裸が思い出される。そんなに美人ではないのに、なんであんなに魅力的なのだろう。
特に胸が良かった。あの大きさとハリはちょっと触ってみたくなる。尻とか腰つきのよさを語るには、隼人はまだ若すぎる。
「うおーッ!」
青春の雄叫びをあげた。少年はこうして、一歩一歩、大人の男に近づいてゆくのである。
0
あなたにおすすめの小説
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる