リハビリショート「グラッツェ伊藤」

餅助

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グラッツェ伊藤

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 真っ白に輝く太陽が、群青色のペンキをぶちまけたような空に燦々と輝いている。
 私は車から降りてすぐ、整理された石畳の上
小走りに、木陰へ向かった。
 日傘、日焼け止めを忘れたためだ。
 あれだけ行く前に確認したのに、ポッカリと抜けた。
「おーい、荷物忘れてる!」
「あなたの親族のでしょ!あなたが持ってきてください」
 後ろを向けば車から降りたばかりの夫の姿があった。木陰から駐車場までは25mといったところだ。ジワジワと耳に響く蝉の声に負けないように私は声をあげた。
そんな私に追いつこうと彼も、布製のリュックを背負って私の元へ駆けてきた。
「ふー、あついあつい。ありがとう」
「出た、今度は何?」
「木陰に先に移動して、僕を急かしたんだろ? 熱中症は怖いからって。だからのありがとう」
「グラッツェ伊藤さんはすごいねぇ」
「んーん。僕が言いたいから言っただけさ。」
グラッツェ伊藤。
 これは私と彼が結ばれる前、会社の同期の飲み会で命名されたものだ。
 彼はことある事に「感謝」する。
 仕事はもちろん私生活でも。なにか理由をつけては何度も何度も、笑顔でそう言うのだ。
 その理由が知りたくて私は彼に追求し続けた。
 結婚した理由が探究心だったのかと言われると思い切って首を触れない。
 だって気になってしまった。
 彼は何故か、その質問をすると、「ごめん」と言う。
 最初はこれ以上聞いてはいけないのかなとも思った。だが何故か、彼は何処と無く悲しそうな眼差しではあるものの薄ら笑を浮かべていた。
 その表情を、私は直感的に美しいと感じたのだ。
なぜそんな顔をするのか、なぜその時だけ「ごめん」だの、「うーん」だの、黙りを決め込んでしまうのか。
 私は知りたかった。
 その後なんだかんだ付き合って結婚したワケだ。
 不自然だと?
 勿論不自然ではあるが、私たちなりの自然な成り行きだった。
 同僚から男女間になるのは割と早かったし......。
 手が早かったのは驚いたが、素直に私の興味を好意として受け取ってくれていたことが嬉しかった。
 惚気と過去語りはさておき。
 今日は結婚後初、彼の実家にやってきた。
 都会の喧騒を抜け、この片田舎まで車を走らせて。
 彼の実家にまず挨拶を軽く入れ、その足で現在、お寺にお墓参りというわけだ。
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